
発売日: 2009年8月25日
ジャンル: オルタナティブロック、パワーポップ、ポップロック、アメリカンロック
概要
『Collective Soul』(通称 “Rabbit”)は、2009年にリリースされたバンド2枚目のセルフタイトル・アルバムであり、バンド結成20周年を目前に控えたCollective Soulが、初心と革新の双方を同時に再確認した“再定義的作品”である。
アルバムジャケットに大きく描かれたウサギのイラストにちなみ、ファンや批評家の間では「Rabbit」の通称で広く呼ばれている。
2004年の『Youth』、2007年の『Afterwords』と自主レーベルから穏やかかつ内省的な作品を発表してきた彼らだが、本作ではよりアグレッシブでダイナミックなロック性を回復しつつ、ポップなメロディ感とサウンドの洗練を両立させることに成功。
新メンバーとしてドラマーのチェンバリン兄弟(チャーリー・パーリーノ)を迎え、新たな息吹を感じさせる演奏力とアンサンブルが、長寿バンドとしての“第3フェーズ”の開幕を告げる。
全曲レビュー
1. Welcome All Again
“もう一度、すべてを歓迎する”という希望に満ちたオープニング。
ミディアムテンポでありながら、意志の強いコード進行と高揚感あるサビが印象的なロック・アンセム。
2. Fuzzy
ファンキーなギターリフと変則的なリズムが特徴の異色作。
“Fuzzy”=曖昧さの中にある心地よさ、という日常的な違和感をユーモラスに描写する。
3. Dig
イントロのアコースティックな響きから、徐々にエレクトリックな厚みが加わるドラマティックな展開。
“掘る”という行為が、記憶や感情の層を探る比喩として用いられている。
4. You
直球のラブソングながら、エモーショナルすぎない誠実なトーン。
親しみやすいメロディが、“今、この瞬間の君”をシンプルに讃える。
5. My Days
人生を振り返りながらも、前を向いている語り口が印象的。
エド・ローランドの落ち着いたボーカルが、日々の時間に寄り添うバラードとして静かに響く。
6. Understanding
ややトリッキーな構成とコード展開のロックチューン。
“理解とは何か”という根源的な問いを、抽象的な語り口で感覚的に描く。
7. Staring Down
本作随一のヒット曲であり、Collective Soulの新しい代表曲となったアップリフティング・ロック。
困難に立ち向かう視線を“Staring Down”と表現する歌詞が、リスナーの感情を高揚させる。
8. She Does
恋愛の中に潜む神秘や“説明できなさ”を、ポップな装いで軽やかに表現するスウィートな1曲。
9. Lighten Up
“気楽にいこう”というメッセージを、ユーモラスなギターリフと明るいテンポで描く。
Collective Soulにしては珍しくカジュアルなロックンロール感が魅力。
10. Love
サイケデリックでドリーミーなムードが漂うバラード。
“愛とは何か”を問うストレートなタイトルに反して、多義的で抽象的な表現が際立つ。
11. Hymn for My Father
ラストを飾るのは、父への感謝と哀悼を込めたパーソナルで美しいバラード。
ストリングスとピアノを中心としたアレンジが荘厳で、エド・ローランドの心の奥を覗かせるような終幕。
総評
『Collective Soul (“Rabbit”)』は、バンドが20年の歩みを経て、今あらためて“Collective Soulとは何か”を静かに、だが力強く語り直したセルフリブート作品である。
グランジやオルタナの時代に登場し、ポップロックに歩み寄りながらも誠実さを失わなかった彼らが、ここに来て“遊び心”と“音楽性の余裕”を手にしたことが、音の隅々から伝わってくる。
本作の特徴は、過度に尖らず、しかし丸まりすぎてもいないという絶妙なバランス感。
これはまさに“信頼できるロックバンド”としてのCollective Soulがたどり着いた、ひとつの理想的な地点なのかもしれない。
おすすめアルバム
- Goo Goo Dolls / Magnetic
熟成されたポップロックと爽やかなメッセージ性が共鳴。 - Train / California 37
大人のロックバンドとしての“遊び”と“叙情”のバランスが近似。 - Matchbox Twenty / North
長期活動バンドの“新章”としての共感点多数。 - Barenaked Ladies / Grinning Streak
ユーモアと誠実さの両立を感じさせる同系統のアプローチ。 - Vertical Horizon / Burning the Days
洗練されたミドルテンポ主体の大人のオルタナ作品。
歌詞の深読みと文化的背景
『Rabbit』という非公式な呼び名が象徴するように、本作は形式や過去のイメージから“するりと逃げ出す”ような軽快さと自由さを備えている。
リリックにおいても、深刻さや観念性は後退し、もっとパーソナルで、ささやかな生活感のある言葉が前面に出ている。
それはCollective Soulが、“語る”ロックから“歌う”ロックへと自然にシフトしていった証でもあり、日々に寄り添う音楽としての完成度を高めた作品と言える。
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