Cigarettes & Alcohol by Oasis(1994)楽曲解説

1. 歌詞の概要

「Cigarettes & Alcohol」は、Oasisのデビュー・アルバム『Definitely Maybe』に収録された楽曲であり、彼らの反骨精神と労働者階級のリアリティをストレートに描いた代表曲のひとつである。

そのタイトル通り、この曲は“タバコと酒”という刹那的な快楽に焦点を当てているが、単なる享楽主義ではなく、背後には社会に対する怒り、若者たちの閉塞感、そして「抜け出せない現実」へのフラストレーションが滲んでいる。

歌詞の中で繰り返される「Is it worth the aggravation?(それほどの苦労に見合う価値があるのか?)」という問いは、退屈な労働、見えない希望、そして繰り返される日常の虚無に対する疑問そのものである。そしてそんな現実からの一時的な逃避として、タバコと酒が登場するのだ。

2. 歌詞のバックグラウンド

この曲は、ノエル・ギャラガーがマンチェスターで育つ中で体験した“労働者階級”のリアリズムをダイレクトに音に落とし込んだものだ。失業率の高かった1990年代初頭のイギリスでは、多くの若者たちが不安定な生活を強いられ、希望を持てない中で日々をなんとか過ごしていた。

「Cigarettes & Alcohol」は、まさにそのような時代の空気を封じ込めた楽曲である。

また、グラムロックの先駆者T・レックスの「Get It On(Bang a Gong)」のギターリフを彷彿とさせる大胆なオマージュも、この曲の魅力のひとつだ。オアシスは音楽的引用に対して積極的で、ノエル自身もこの曲における“盗用”を公言しており、それがむしろ潔くロックの精神に忠実であるとも評価されている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下は「Cigarettes & Alcohol」の代表的な一節である。引用元は Genius Lyrics。

Is it worth the aggravation
苛立ちに耐えるだけの価値があるのか?

To find yourself a job when there’s nothing worth working for?
働く価値のない世の中で、自分に合った仕事なんて見つかるのか?

It’s a crazy situation
まったく狂った状況だよな

But all I need are cigarettes and alcohol
でも俺に必要なのは、タバコと酒だけさ

You could wait for a lifetime
一生待ち続けることもできるけど

To spend your days in the sunshine
日向ぼっこだけで人生を終えるのか?

You might as well do the white line
それならいっそ、白いライン(コカイン)をキメちまえばいい

‘Cause when it comes on top…
もう限界が来たら、さ

ここで描かれているのは、未来に希望を見出せない若者の現実であり、反社会的な響きを帯びながらも、どこか純粋な叫びのようでもある。

4. 歌詞の考察

この曲の歌詞は、シニカルでありながら非常に直情的である。働く意味を問う冒頭のフレーズからは、若者が直面する社会的プレッシャーや、現実への嫌悪感がにじみ出ている。

「仕事なんて何のためにあるのか」「未来に何があるのか」——そんな問いに対して、Oasisは明確な解答を提示しない。ただ、そんな虚無のなかでも「とにかく生きてやる」という不屈の姿勢が、この楽曲には宿っている。

タバコとアルコールという象徴は、一時的な逃避や快楽であると同時に、現実と折り合いをつけながらも“自分らしくある”ための武器として機能しているようにも見える。

また、「white line(白い線)」という表現はドラッグを意味しており、自己破壊的な選択もいとわないギリギリの精神状態を表している。しかしその背後には、「そんな社会を作ってしまった大人たちへの抗議」のようなニュアンスすら感じられる。

リアム・ギャラガーの咆哮のようなボーカルも、この歌詞の破壊力を何倍にも増幅させている。彼の声には、「壊れそうな現実でも、俺は俺で生きていくんだ」という生々しい意志が宿っている。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Rock ‘n’ Roll Star by Oasis
    現実逃避ではなく、“俺はスターなんだ”という強烈な自己肯定を描いた初期の代表曲。

  • Sorted for E’s & Wizz by Pulp
    90年代UKのパーティカルチャーと虚無を描いた、ある意味で「Cigarettes & Alcohol」の鏡像。

  • I Am the Resurrection by The Stone Roses
    希望と復活をテーマにしたマッドチェスターの名曲。虚無を超えた先にある光を示す。

  • She Bangs the Drums by The Stone Roses
    暗い日常を突き抜けるような恋と音楽のきらめきを描く。Oasisの前身的な世界観。

  • Acquiesce by Oasis
    友情や絆をテーマにしながらも、爆発力あるサウンドで“生き抜く”という意思を貫いている。

6. 労働者階級の賛歌、そして怒りの詩

「Cigarettes & Alcohol」は、1990年代イギリスの若者文化を語るうえで欠かすことのできない楽曲である。

グラマラスなものではない。むしろ汚れていて、荒くて、痛みを伴っている。しかしそこには、“今を生き抜く”という凄まじい生命力が詰まっている。

この曲が今なお愛され続けている理由は、Oasisがその歌詞と音楽で、「生きることのリアル」を真正面から描ききったからにほかならない。

「労働」「快楽」「虚無」「怒り」——これらの要素をシンプルなロックンロールのフォーマットに落とし込み、メッセージとして昇華させたOasisの才能は、この曲によって確立されたとも言える。

「Cigarettes & Alcohol」は、タバコの煙と酔いのなかに希望を見つけるための、痛烈で美しいプロテストソングなのだ。

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