Cheap Thrills by Sia(2016)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

Cheap Thrills」は、2016年にリリースされたSiaのアルバム『This Is Acting』からのシングルで、Siaにとってアメリカのビルボード・ホット100チャートで初の1位を獲得した記念すべき楽曲です。ショーン・ポールとのリミックスバージョンが特にヒットし、全世界で多くのファンを魅了しました。

この楽曲は、タイトルの通り「安上がりなスリル」、すなわち高級な贅沢や物質的な価値ではなく、ダンスや音楽といった身近な喜びによって満たされる楽しさをテーマにしています。歌詞では、給料日前の週末、お金はなくても気分を上げて夜を楽しむことができるというポジティブなメッセージが込められており、経済的な格差が広がる現代において多くの人々の共感を呼びました。

パーティーソングのような明るいテンションと、Sia特有のソウルフルなボーカルが融合したことで、ポップソングとしての強いエネルギーと同時に、自由であることの喜びや自己肯定感の重要性を訴えかける内容となっています。

2. 歌詞のバックグラウンド

Cheap Thrills」はもともとリアーナのために書かれた楽曲で、Siaがリアーナのスタイルを想定して制作したものでした。しかし最終的にリアーナ側がこの楽曲を採用しなかったため、Sia自身が歌うことになり、その結果として大きな成功を収めることとなります。この背景から、アルバム『This Is Acting』には、他のアーティストのために書かれたが採用されなかった楽曲が多く収録されており、タイトル通り「演じること(Acting)」がコンセプトになっています。

楽曲の制作にはグレッグ・カースティンが関わっており、彼はAdeleの「Hello」なども手がけた実力派プロデューサーです。サウンド面ではレゲエやダンスホールの要素が取り入れられ、特にショーン・ポールとのリミックスによってその色合いがさらに強調されました。Siaの楽曲の中でも比較的軽快でダンサブルな一曲であり、世界中のクラブやパーティーで流されるアンセムとしての地位を確立しました。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下は印象的な歌詞の一部を抜粋し、日本語訳を添えたものです。

Come on, come on, turn the radio on
さあ、さあ、ラジオをつけて

It’s Friday night and I won’t be long
金曜の夜、すぐに出かける準備をするわ

Gotta do my hair, I put my make-up on
髪をセットして、メイクをして

It’s Friday night and I won’t be long
金曜の夜、出かける準備はすぐ終わる

‘Til I hit the dance floor, hit the dance floor
ダンスフロアに飛び込んで

I got all I need
必要なものはもう全部そろってる

No, I ain’t got cash, I ain’t got cash
お金なんてないけど、そんなの関係ない

But I got you, baby
でもあなたがいるから大丈夫

Baby I don’t need dollar bills to have fun tonight
今夜楽しむのにドル札なんていらないわ

I love cheap thrills
安上がりなスリルが大好き

歌詞全文はこちらの公式サイトにて参照できます:Genius Lyrics – Cheap Thrills

4. 歌詞の考察

「Cheap Thrills」は、その軽快なサウンドとは裏腹に、非常に明確なメッセージを持つ楽曲です。歌詞全体を通して一貫しているのは、「お金がなくても楽しめる」「誰かと一緒にいることで幸せになれる」という自己肯定的な価値観です。経済的に豊かであることが幸せの基準になりがちな現代において、この歌はその価値観を逆手に取り、日常の中にある小さな幸せを称賛しています。

「ドル札なんていらない」「安上がりなスリルが好き」というフレーズには、消費社会へのささやかな反抗と、ミニマリズム的な自由の感覚が含まれており、リスナーに「幸せは自分の感じ方次第で生まれるものだ」と訴えかけています。また、Siaのパワフルなボーカルとショーン・ポールのラガ・トーンが絶妙に交差し、「楽しむこと」は誰にでも開かれているというグローバルな視点を強調しています。

この楽曲は女性の自己表現や自立の象徴としても読み解くことができます。歌詞の中では男性に頼る描写はなく、自らラジオをつけ、髪を整え、外に出ていく女性の姿が描かれており、これは自己決定と能動性のメタファーでもあります。つまり「Cheap Thrills」は、ただのパーティーソングではなく、「生きることを楽しむ力は誰にもある」という、力強いメッセージを内包しているのです。

引用した歌詞の出典は以下の通りです:
© Genius Lyrics

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Rockabye by Clean Bandit ft. Sean Paul & Anne-Marie
    経済的に困難な状況でシングルマザーが子どもを育てる姿を描いた楽曲で、メッセージ性とダンスビートの融合が「Cheap Thrills」と共鳴。

  • Lean On by Major Lazer & DJ Snake ft.
    軽やかで異国情緒のあるビートと、孤独の中でも支え合う関係性をテーマにしたリリックが特徴的。クラブシーンとの相性も抜群。
  • Can’t Stop the Feeling! by Justin Timberlake
    ポジティブでエネルギッシュなメロディと、踊ることそのものの楽しさを讃える内容で、「Cheap Thrills」と同様に生活の中の喜びを描いている。

  • 24K Magic by Bruno Mars
    ラグジュアリーな世界観でありながら、ユーモアとノリの良さで”楽しさ”を最大化する一曲。サウンドの魅力も類似している。

6. 消費社会へのポップな抵抗としての意義

「Cheap Thrills」は一見すると商業的なポップソングのようでありながら、その実、消費社会に対する批評的な視線を孕んだ作品でもあります。Siaは音楽業界における「顔を見せること」や「セレブとしての振る舞い」といった表面的な要素に疑問を投げかけ、あえて自らの姿を隠すという方法で注目を集めてきました。

この楽曲ではその姿勢が音楽的にも現れており、豪華さやラグジュアリーを否定することで、本質的な“楽しさ”や“自由”を浮かび上がらせています。彼女の「顔を見せない」アプローチと、ショーン・ポールというダンスホール界の大御所とのコラボレーションは、異なる文化や価値観の融合という意味でも象徴的であり、「Cheap Thrills」はただのヒット曲を超えて、ポップ・ミュージックの可能性を広げた一曲といえるでしょう。

Siaはこの曲で、豪華さを追い求めるのではなく、日常の中にある「踊ること」「笑うこと」「一緒にいること」といった根源的な喜びを称え、それを世界中の人々と分かち合える祝祭へと昇華させました。まさに“安くて最高のスリル”を届ける、時代を象徴するアンセムです。

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