1. 歌詞の概要
「Changes」は、自己変容、時代の移り変わり、そして若者の自己表現をめぐるテーマを描いた、David Bowieによる**「変化」への賛歌**である。
冒頭の「Still don’t know what I was waiting for(いまだに自分が何を待っていたのか分からない)」という一節には、不安定な自己意識と模索する若者像が滲む。続くフレーズで語られるのは、同じことの繰り返しに嫌気がさし、自分自身を変えようとする決意。そうしてボウイは、変化し続けること自体を“生き方”として宣言する。
「Time may change me, but I can’t trace time(時間は僕を変えるかもしれない、でも僕は時間の跡をたどれない)」という有名なラインは、時間とともに流れる個人と、社会の変化の中で生きる困惑を美しく、詩的に言い表している。
この曲はただの個人の“成長の歌”ではない。むしろ、「変化を恐れる社会」と「変わることを恐れない個人」との間に横たわる緊張を、軽快なメロディの中に鋭く潜ませた、カミングアウトのような宣言的作品なのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Changes」は、1971年のアルバム『Hunky Dory』のオープニング・トラックとして発表された。
この時期のボウイは、音楽スタイルもキャラクターも模索中であり、まだ「Ziggy Stardust」としてのブレイク前だった。だが、まさにこの「Changes」が、**“変わり続けることこそがDavid Bowieである”**という後のキャリアを象徴する最初の自己定義となった。
ピアノはリック・ウェイクマン(Yes)によって演奏され、ジャジーで軽やかなタッチが、歌詞の哲学的深みと絶妙なバランスを成している。
当初リリースされたシングルは商業的に大きな成功とはならなかったが、のちに「Bowieのテーマ曲」とも言える重要作として再評価されるようになり、現在ではボウイの代表曲の一つとして広く知られている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
引用元:Lyrics © BMG Rights Management
Still don’t know what I was waiting for
― いまだに自分が何を待っていたのか分からない
And my time was running wild
― 僕の時間は野放図に流れ続けていた
A million dead-end streets
― 何百万もの行き止まりの道を駆け抜けた
Every time I thought I’d got it made
― 成し遂げたと思ったそのたびに
It seemed the taste was not so sweet
― その味は思ったほど甘くなかった
Ch-ch-ch-ch-Changes
Turn and face the strange
― 変化、変化、変化
奇妙なものにちゃんと向き合え
Ch-ch-Changes
Don’t want to be a richer man
― 金持ちになりたいわけじゃない
Ch-ch-ch-ch-Changes
Just gonna have to be a different man
― ただ、まったく違う男になるしかないんだ
4. 歌詞の考察
「Changes」の核にあるのは、**“変わらなければ生き残れない”という現実と、“変わり続けることへの希望”**の両義性である。
ボウイは、自分の若さや未熟さに対して戸惑いを持ちながらも、過去の自分を手放し、新しい“何か”になることを選んでいる。
その「変化」とは、単にファッションや音楽スタイルの表層的な変化ではなく、自己認識の深い刷新であり、存在の再構築とも言える。
また、「Turn and face the strange(奇妙なものに向き合え)」という呼びかけには、ボウイ自身の芸術的哲学が込められている。
すなわち、“理解されなくてもいい。自分自身に誠実であれ”という、変化を恐れずに進んでいく強さだ。
さらに、「Don’t tell them to grow up and out of it(やつらに“大人になれ”なんて言うな)」という一節では、若者文化への理解を求めるだけでなく、既存の価値観に対する反抗と代弁が響いている。
この曲が時代を超えて響き続けるのは、変化にまつわる不安、興奮、葛藤が、今なお普遍的なテーマだからである。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Heroes by David Bowie
変化と希望をテーマにした別の名曲。こちらは愛と抵抗の歌としての側面が強く、情熱的。 - All the Young Dudes by Mott the Hoople(written by Bowie)
ボウイが提供した若者讃歌。時代に背を向けず、自分らしく生きることを謳う。 - Imagine by John Lennon
革新的なビジョンを掲げながらも、平穏なメロディで“変化”を語る。夢と理想を重ねる視点が共鳴する。 - Street Spirit (Fade Out) by Radiohead
絶え間ない不安と変化の中で揺れる現代人の魂を、静かに描く。変化を呑み込む静けさが美しい。
6. 「変わる」ことの強さと孤独
「Changes」は、David Bowieのキャリアにおいて単なる楽曲以上の意味を持つ。
それは**“変化し続ける男”としてのボウイ自身の予言であり、同時に告白でもある。**
この曲が書かれた1971年、ボウイはまだ世界的な成功を手にしていなかった。だが、自分の中にある“変わりたい衝動”を信じ、未知の方向へ進む覚悟を、この曲に込めた。その勇気こそが、後に彼を世界的なアーティストへと押し上げた原動力だったのだ。
「Changes」は、変化の道を選ぶすべての人の背中をそっと押す。
それは怖いことでもある。孤独にもなる。だが、“違う人間になる”ことを恐れない者にだけ見える世界がある――この曲は、そんな希望の種を心に植えつける。
そして今、どんな時代であれ、「変化」とは人生にとって不可避の波であり、それをどう向き合うかが、その人の“物語”を決めるのだ。
“Ch-ch-ch-ch-Changes”という繰り返しは、まるで自分に言い聞かせる呪文のように、今日も心に響き続けている。
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