1. 歌詞の概要
「Can’t Get Enough」は、イギリスのロックバンド Bad Company のデビュー・シングルであり、1974年に発表されたセルフタイトル・アルバム『Bad Company』の冒頭を飾る楽曲である。
そのタイトル通り、「君のことがたまらなく好きだ」「どれだけ愛しても、満たされない」という情熱的で直線的なラブソングであり、ロックンロールの持つ“衝動”と“本能”を象徴するような一曲だ。歌詞には過剰な比喩や抽象性はなく、ただひたすらに「欲望」と「魅了」が反復される。それが逆に、この曲を不滅のクラシックに押し上げた要因である。
ギターリフは極めてシンプルかつ重厚で、ファーストノートからリスナーを圧倒するような勢いがある。そしてポール・ロジャースの艶やかで野性的なヴォーカルが、その肉体性と官能性をさらに増幅させている。
恋に落ちた瞬間の“理屈の効かない感情”を、そのまま音にしたようなこの曲は、愛と欲望の最前線を突き進むロックンロールの象徴である。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Can’t Get Enough」は、バンドのギタリストであるミック・ラルフスによって書かれた楽曲で、もともとは彼が以前在籍していたMott the Hoople時代に構想されていたものだった。
だが、この曲は当時のMott the Hoopleには合わなかったと言われており、Bad Companyが結成されたことでようやく日の目を見ることになる。ポール・ロジャースの濃密でソウルフルなヴォーカルが加わったことで、曲の持つポテンシャルが完全に開花し、BTOと並ぶ“労働者階級のハードロック”とはまた違った、エレガントでワイルドな雰囲気を持つバッド・カンパニーの看板曲として定着した。
このシングルは、アメリカではBillboard Hot 100の5位まで上昇し、彼らにとって最初で最大のヒットとなった。また、Bad Companyというバンドが持つ“無骨だが洗練されたアウトロー性”を象徴する曲として、今なお映画・テレビ・CMなどで使われる機会も多い。
3. 歌詞の抜粋と和訳
引用元:Genius Lyrics
Well, I take whatever I want
「俺は欲しいものは何でも手に入れる」
And baby, I want you
「そして今欲しいのは、君だ」
You give me something I need
「君は俺に必要なものをくれる」
Now tell me I got something for you
「俺にも、君の欲しいものをあげられるはずだ」I can’t get enough of your love
「君の愛じゃ足りない、もっと欲しいんだ」
この歌詞にあるのは、恋愛の駆け引きではなく、衝動的で圧倒的な“愛への渇望”である。
彼は相手に愛されているかどうかを確かめようとはしない。ただ、燃え盛る情熱のままに「もっと、もっと」と求め続ける。これは、ある意味で「理性を失った恋」の歌であり、だからこそロックンロールらしいのだ。
4. 歌詞の考察
「Can’t Get Enough」は、ロック史上屈指の“直球勝負の愛の歌”と言っても過言ではない。
そこにあるのは、感情の揺れや心理の葛藤ではなく、ただ「惹かれる」という一点のみ。だがその一点の純度が高いからこそ、聴き手の身体にもダイレクトに響いてくる。
この曲の中では、“理性”や“思慮”といったものは完全に排除されている。あるのは、目の前の相手への欲望と愛情だけで、それが音楽のエネルギーへと変換される。これはまさに、“愛と音楽が等価である”というロックンロールの核心を体現した作品である。
また、ギターリフが持つ“重さ”と“粘り”は、欲望の高まりとリンクしており、ポール・ロジャースの声はまるで煙草のように濃密で、夜の匂いすら漂ってくる。
この曲を聴くとき、私たちは何も考えなくていい。ただ感じて、ただ没入する。それこそが、この曲がロック・アンセムと呼ばれる所以である。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Whole Lotta Love by Led Zeppelin
性のエネルギーをストレートに音楽化した70年代ロックの金字塔。Bad Companyとはレーベル仲間でもある。 - You Really Got Me by The Kinks
シンプルな衝動とリフが印象的な、英国ロックの源流のような存在。ギターのインパクトが共鳴する。 - Love Removal Machine by The Cult
80年代以降にBad Company的なセクシーさと硬派なロックを受け継いだバンドによる爆走ロックナンバー。 - Rock and Roll Fantasy by Bad Company
同バンドの後期を代表する曲。ロックンロールがもたらす幻想と現実の交錯が美しい。
6. 欲望と愛の最前線:それがロックだ
「Can’t Get Enough」は、Bad Companyというバンドが最初に放った渾身のロック宣言であり、その後のキャリアすべてを先取りするような楽曲である。
ロックとは、どれだけ理屈を重ねても、最後には「感じるか、感じないか」に帰着する音楽だ。その原初的なパッションを、言葉ではなく音で、歌で、リフで伝えるこの一曲には、ロックンロールの真髄が詰まっている。
情熱は言葉を超える。
「Can’t Get Enough」は、愛と欲望がぶつかり合う瞬間の“火花”を、そのまま記録した楽曲なのである。そしてそれは、今この瞬間を全力で生きるすべての人のためのロックアンセムでもある。
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