発売日: 1972年11月
ジャンル: ジャズロック、ソフトロック、ポップロック
Steely DanのデビューアルバムCan’t Buy a Thrillは、1972年にリリースされ、ロックとジャズ、ポップスを融合した独特のサウンドで瞬く間に注目を集めた。このアルバムは、Donald FagenとWalter Beckerが中心となって結成されたバンドの初期の野心を示しており、洗練されたアレンジと鋭い歌詞が特徴だ。アルバム全体を通して、都会的でスタイリッシュな雰囲気が漂い、当時のロックシーンにおいて新鮮な風を吹き込んだ。
Can’t Buy a Thrillは、Steely Danが後に追求するジャズフュージョン的な要素の原型を垣間見ることができる作品でありながら、ポップなキャッチーさも併せ持っている。ヒット曲「Do It Again」や「Reelin’ in the Years」を含むこのアルバムは、彼らの初期の代表作として多くのリスナーに愛されている。
各曲ごとの解説
1. Do It Again
アルバムのオープニングを飾るこの曲は、エキゾチックなパーカッションとサイケデリックなムードが特徴的だ。歌詞では誘惑や悪循環に囚われた人間の物語が描かれており、Donald Fagenの冷たくも魅力的なボーカルがそれを引き立てている。インストゥルメンタルブレイクでは、エレクトリックシタールのソロが独特の色彩を加えている。
2. Dirty Work
David Palmerがボーカルを担当した甘く切ないバラード。歌詞は浮気相手の視点で語られており、自己嫌悪と未練がにじみ出る。キャッチーなメロディとソフトなサウンドが相まって、ポップな魅力を放っている。
3. Kings
ギターとキーボードが織りなす華やかなアレンジが印象的なトラック。歌詞は権力者の腐敗とその影響を描写しているように解釈される。滑らかなメロディとカラフルなサウンドが聴きどころだ。
4. Midnite Cruiser
ドラムのJim Hodderがリードボーカルを担当した楽曲で、アルバムの中でもひときわ哀愁を感じさせる一曲。歌詞は過去の栄光や失われた時間へのノスタルジアを表現している。メロディアスなギターラインが特に印象的だ。
5. Only a Fool Would Say That
軽快なリズムとリラックスしたボーカルが特徴のトラック。皮肉と風刺が効いた歌詞は、時代の理想主義を皮肉っているように感じられる。ソフトロックの中にボサノヴァ的な雰囲気も漂う。
6. Reelin’ in the Years
アルバムの中でも特にエネルギッシュな楽曲で、ロックファンからも愛される一曲。エリオット・ランドールのギターソロはロック史に残る名演として評価が高い。歌詞では過去の恋愛を振り返りつつ、ほろ苦い感情が込められている。
7. Fire in the Hole
ピアノが主導するジャズ風のアレンジが目立つ楽曲。歌詞では、自由を奪われた個人の苦悩が描かれている。Donald Fagenのボーカルとピアノプレイが曲の中心を成している。
8. Brooklyn (Owes the Charmer Under Me)
David Palmerが再びリードボーカルを担当するトラック。タイトルからもわかるように、ニューヨークの街とその住人への愛憎が感じられる内容。穏やかなメロディが、物語性のある歌詞を引き立てている。
9. Change of the Guard
軽快なロックナンバーで、ポジティブで希望に満ちたメッセージを感じさせる。アルバムの中では比較的ストレートな楽曲だが、その中にも洗練されたアレンジが光る。
10. Turn That Heartbeat Over Again
アルバムの締めくくりにふさわしい曲で、ややミステリアスな雰囲気を持つ。希望と絶望が交錯するような歌詞が印象的で、コーラスワークが美しい。
フリーテーマ：都会的センスと洗練されたサウンド
Can’t Buy a Thrillは、Steely Danが持つ都会的センスと洗練された音楽性を早くも提示した作品だ。アルバム全体に漂うクールでスタイリッシュな雰囲気は、後のジャズフュージョン的アプローチへの布石となっている。また、歌詞のテーマは恋愛、欲望、権力、社会批判など多岐にわたり、リスナーに解釈の余地を残している。音楽的にはポップで親しみやすいが、アレンジや演奏には高度な技術と独創性が感じられる。
アルバム総評
Can’t Buy a Thrillは、Steely Danの原点にして完成度の高いデビュー作である。ポップでキャッチーな楽曲の中にも、彼ら特有のひねりの効いたアレンジや歌詞が散りばめられており、聴き手を飽きさせない。都会的な洗練さとロックのエネルギーが絶妙にブレンドされたこの作品は、1970年代ロックシーンにおける新しい潮流を作り出したと言えるだろう。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Aja by Steely Dan
ジャズフュージョンを全面に取り入れたアルバムで、彼らの音楽的頂点ともいえる作品。
Pretzel Logic by Steely Dan
短く洗練された楽曲群が特徴で、Can’t Buy a Thrillのリスナーにも響くはず。
Silk Degrees by Boz Scaggs
都会的な洗練とソフトロックの融合が楽しめる名作。
Rumours by Fleetwood Mac
ポップでメロディアスな楽曲と大人のテーマが共通点。
Blood on the Tracks by Bob Dylan
鋭い歌詞と多彩なアレンジが、Steely Danのファンにとっても魅力的。
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