
1. 歌詞の概要
Butterflyは、シカゴのインディーロック・バンドTwin Peaksが2016年に発表した楽曲である。
アルバムDown in Heavenに収録され、同作の先行曲としても公開された。
Twin Peaksは、2010年代のアメリカン・インディーロックの中でも、ガレージロックの荒さとクラシックロックへの愛情を同時に持ったバンドである。
初期には若さの勢い、ざらついたギター、酔っぱらったようなコーラス、ローファイな熱が前面に出ていた。
しかしDown in Heavenでは、少し空気が変わる。
荒々しさは残っている。
だが、曲作りはより丸みを帯び、フォーク、ソウル、70年代ロック、Velvet UndergroundやThe Rolling Stonesのような古いロックの匂いが濃くなる。
青春の爆発だけでなく、ふとした寂しさや、時間が過ぎることへの気配も入ってくる。
Butterflyは、その移行期を象徴するような曲である。
タイトルのButterflyは、蝶を意味する。
しかし歌詞の中で歌われるbutterfly feelingは、ただの美しい気分ではない。
ふわっと舞い上がるような高揚感であり、同時にすぐ消えてしまいそうな儚さでもある。
誰かを友達として持つこと。
その存在が心を軽くすること。
でも、どこかでまた孤独になる予感があること。
この曲の冒頭には、その二つの感情が同時にある。
相手がいてうれしい。
でも、そのうれしさは永遠ではない。
一緒にいる時間は、すぐに過ぎてしまう。
少しすれば、自分はまた去っていく。
あるいは相手が去る。
結局、人はまたひとりになる。
Butterflyの歌詞は、表面的には軽く、陽気に聞こえる。
しかし、その底にはかなりはっきりした時間の意識がある。
in a little while、少しすれば、という言葉が繰り返される。
このフレーズは曲の核心だ。
少しすれば、いなくなる。
少しすれば、終わる。
少しすれば、両親も去る。
少しすれば、今の気分も変わる。
だから、今は笑おう。
今は一緒にいよう。
今は踊ろう。
この態度は、軽薄に見えるかもしれない。
しかし実は、かなり切実である。
人生は短い。
関係も移ろう。
家族も恋人も友人も、いつかいなくなる。
それでも、今ここにいるなら、笑えばいい。
手を取ればいい。
音楽をかければいい。
Butterflyは、そういう曲なのだ。
サウンドは明るく、跳ねている。
ギターはざらつきながらも開放的で、コーラスにはクラシックロック的な親しみがある。
歌の中に出てくるThe Zombiesへの言及も象徴的で、60年代ポップ/サイケの記憶が曲全体に影を落としている。
しかし、その懐かしさは単なる引用ではない。
古いレコードが流れ、誰かが立ち上がって踊る。
その瞬間だけ、時間が少し柔らかくなる。
Butterflyは、その瞬間を歌っている。
明るい曲である。
だが、明るさの中に死や別れの気配がある。
だからこそ、ただのガレージロックでは終わらない。
蝶のような気分は、美しい。
でも、蝶はずっと同じ場所にはいない。
その軽さと儚さが、この曲の魅力である。
2. 歌詞のバックグラウンド
Butterflyが収録されたDown in Heavenは、Twin Peaksの3作目のアルバムである。
2016年5月13日にGrand Juryからリリースされた。
同作は、2014年のWild Onionに続くアルバムであり、バンドが若いガレージロックの勢いから、より温かく、広がりのあるソングライティングへ向かっていく時期の作品として位置づけられる。
Pitchforkのレビューでも、Down in Heavenは初期の奔放でエネルギッシュなガレージロックから、よりリラックスした内省的なサウンドへ移った作品として紹介されている。
Butterflyはアルバムの4曲目に置かれている。
Apple Musicのトラックリストでも、Walk To the One You Love、Wanted You、My Boysに続く4曲目として確認できる。
この並びはかなり自然だ。
アルバム序盤は、恋愛、友情、若さ、旅、揺れる関係性を扱う曲が続く。
Butterflyはその中で、少しテンポを上げ、人生の儚さを笑い飛ばすような役割を果たしている。
PitchforkはButterflyについて、Velvet UndergroundのLoaded期を思わせる曲として触れている。
特にLou Reed的なストリート感や、Who Loves the Sunを思わせるようなba ba ba系のコーラスに言及している。
つまり、Butterflyは単に現代のインディーロックではなく、70年代初頭のルーズで陽気なロックの記憶を強く持っている曲なのだ。
Atwood Magazineはこの曲を、ギターリフとキャッチーなコーラスの間に実存的な危機を挟み込む曲として紹介している。
また、Down in HeavenでTwin Peaksがガレージロックの枠を越え、よりクラシックな影響を持つ洗練されたサウンドへ発展したことにも触れている。
この指摘は非常に重要である。
Butterflyは、サウンドだけを聴けば軽快だ。
しかし、歌詞はかなり死生観に近い場所にある。
少しすれば自分はいなくなる。
両親もいなくなる。
時間は過ぎていく。
だから笑おう。
だから今をやろう。
この感覚は、若者らしい享楽でありながら、同時にかなり大人びた諦めでもある。
Pitchforkのニュース記事では、Clay Frankelがこの曲について、SXSWで演奏を重ねていた過酷な時期に書かれた曲で、興奮とネガティブな感情が混ざったものだと語ったことが紹介されている。
また、そのテーマを、みんな死ぬのだから今やろう、というような感覚として説明している。
この背景を知ると、Butterflyの軽さはより切実に響く。
ツアー、疲労、若さ、欲望、死への意識。
それらが、わざと明るいロックンロールに包まれている。
これはTwin Peaksらしいやり方である。
彼らは深刻なことを、深刻な顔だけで歌わない。
酒場のロックンロールのように鳴らしながら、その中に孤独や終わりの感覚を入れる。
Butterflyは、そんなバンドの魅力がよく出た曲である。
3. 歌詞の抜粋と和訳
歌詞の権利に配慮し、ここでは短いフレーズのみを引用する。
butterfly feeling
和訳:
蝶のような気分
このフレーズは、曲の中心にある感覚をよく表している。
蝶は軽い。
美しい。
ひらひらと舞う。
しかし、つかまえようとすると逃げてしまう。
そして、その命は儚い。
butterfly feelingとは、胸がふわっとするような気分である。
友情や恋、音楽、酒場の夜、誰かと笑い合う瞬間。
そういうものが人を少しだけ空中へ持ち上げる。
しかし、その気分は長くは続かない。
この曲では、その儚さまで含めてbutterfly feelingなのだ。
もうひとつ、短いフレーズを挙げる。
in a little while
和訳:
もう少しすれば
この言葉は、Butterflyの時間感覚を決定づけている。
もう少しすれば、何かが変わる。
もう少しすれば、人は去る。
もう少しすれば、今の時間は終わる。
このフレーズには、軽さと不安が同時にある。
少しすれば終わるなら、今を楽しもう。
しかし、少しすれば終わるという事実は、やはり寂しい。
Butterflyは、この二つの感情を分けない。
だから、曲は明るいのに少し切ない。
引用元・権利表記:歌詞はClay Frankel作詞作曲によるTwin Peaksの楽曲Butterflyからの短い引用。歌詞の権利は各権利者に帰属する。
4. 歌詞の考察
Butterflyの歌詞は、若いロックンロールの軽さの中に、かなり明確な無常観を持っている。
誰かを友達として持つことは、蝶のような気分だ。
それは楽しい。
うれしい。
心が少し浮く。
しかし、語り手はすぐに、また孤独になるだろうという予感を口にする。
ここがこの曲の入口である。
喜びが始まった瞬間に、もう孤独の影が差している。
この感覚は、とてもリアルだ。
楽しい時間の最中に、ふと終わりを考えてしまうことがある。
友人と笑っているのに、帰り道の寂しさが頭をよぎる。
恋人といるのに、いつか別れる可能性を想像してしまう。
音楽が鳴っているのに、曲が終わる瞬間が近づいていることを知っている。
Butterflyは、その楽しい時間の中の小さな終わりを歌っている。
しかし、曲は暗くならない。
むしろ、その終わりを知っているからこそ、今笑おうとする。
ここに、曲の核心がある。
死ぬこと、去ること、孤独になること。
それらは避けられない。
だから悲しむ、だけではない。
だから今、笑う。
だから今、踊る。
だから今、誰かといる。
この態度は、若さの享楽としても聴ける。
しかし、ただの軽さではない。
若さには、しばしば終わりへの直感がある。
永遠ではないと分かっているから、夜が明けるまで遊ぶ。
すぐに壊れるかもしれないから、強く抱きしめる。
未来が不確かだから、今の快楽に賭ける。
Butterflyは、その感覚をよく捉えている。
歌詞に出てくるThe Zombiesへの言及も重要である。
The Zombiesは60年代英国ポップ/サイケの代表的なバンドであり、Time of the Seasonのように、時代の空気と官能性をまとった曲で知られる。
Butterflyの中でThe Zombiesが鳴り、それに合わせて誰かが踊るという描写は、過去のポップミュージックが現在の身体を動かす瞬間を示している。
古い曲が流れる。
誰かが立ち上がる。
理由は要らない。
その感じが身体に来る。
この音楽と身体の結びつきが、Butterflyにはある。
Twin Peaks自身も、古いロックの影響を隠さないバンドである。
彼らの音には、Rolling Stones、The Kinks、Velvet Underground、T. Rex、Big Star、The Zombiesといった過去のロックの残響がある。
しかし、彼らはそれを博物館的に扱うのではなく、自分たちの若い身体で鳴らし直す。
Butterflyは、その姿勢がよく出ている。
サウンドは古めかしい。
でも、懐古ではない。
むしろ、今この瞬間の焦りや欲望が入っている。
PitchforkがLoaded期のVelvet Undergroundを思わせると評したのも分かる。
Loadedの曲には、都会的な軽さと、どこか諦めたような明るさがある。
Butterflyにも同じような質感がある。
明るい。
でも、明るさが無邪気ではない。
軽い。
でも、軽さの裏に寂しさがある。
また、曲のコーラスは非常にキャッチーだ。
ba ba ba的な響きもあり、意味より先に声として身体へ入ってくる。
この無意味に近い音の気持ちよさが、歌詞の死生観を重くしすぎない。
言葉では、もうすぐ終わると言っている。
音では、笑っている。
このズレがButterflyの魅力だ。
人は、本当に不安なときほど明るく振る舞うことがある。
終わりを知っているからこそ、ふざける。
寂しいからこそ、大きな声で歌う。
Butterflyは、その人間らしい矛盾を鳴らしている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
- Walk To the One You Love by Twin Peaks
Down in Heavenの冒頭曲。Butterflyと同じアルバムの入口として、Twin Peaksがガレージロックの勢いから、より温かいソングライティングへ向かっていることが分かる曲である。軽快なリズムと少し切ないメロディがあり、アルバム全体の空気をよく示している。
- Wanted You by Twin Peaks
Down in Heaven収録曲で、Butterflyよりもロマンティックで柔らかい。欲しかった相手に届かないというシンプルな感情が、ゆるいロックンロールの中で歌われる。Twin Peaksの人懐っこいメロディと、少し寂しい歌詞の組み合わせが好きな人に合う。
- Making Breakfast by Twin Peaks
2014年のWild Onionに収録された代表曲。Butterflyよりもガレージロックの荒さが残っており、若さの勢いとメロディの強さが前面に出ている。Down in Heaven以前のTwin Peaksのエネルギーを知るには重要な曲である。
- Who Loves the Sun by The Velvet Underground
PitchforkがButterflyのコーラス感と関連づけた、Loaded期Velvet Undergroundの名曲。明るいメロディの裏に、愛と虚しさが同居している。Butterflyのような、陽気に聞こえるのにどこか諦めた空気を持つロックが好きなら必ず響くだろう。
- Time of the Season by The Zombies
Butterflyの歌詞内でも言及されるThe Zombiesを聴くなら、この曲は外せない。サイケポップの官能性、余白のあるリズム、少し怪しい空気があり、Twin Peaksが参照する古いポップの魅力を感じられる。世代を越えて身体を動かす曲として、Butterflyと美しくつながる。
6. 蝶のような高揚と、もうすぐ終わる時間のロックンロール
Butterflyの特筆すべき点は、明るいロックンロールの形を使いながら、時間の短さと孤独の戻りを歌っているところである。
この曲は、悲しい曲のようには聞こえない。
むしろ、かなり楽しい。
ギターは跳ね、コーラスは軽く、演奏には酒場のような陽気さがある。
しかし、歌詞を追うと、かなりはっきりと終わりの感覚がある。
もう少しすれば、僕はいなくなる。
もう少しすれば、父も母もいなくなる。
だから、笑ってくれ。
だから、今ここに来てくれ。
これは、人生の短さを陽気に受け止めようとする歌である。
暗く受け止めることもできたはずだ。
アコースティックバラードにして、静かに死や孤独を歌うこともできた。
しかしTwin Peaksは、それをロックンロールにする。
ここが素晴らしい。
ロックンロールは、死を忘れるための音楽でもある。
だが同時に、死を知っているからこそ鳴る音楽でもある。
今しかない。
夜は終わる。
若さは過ぎる。
友人は離れる。
両親もいつかいなくなる。
だから、今鳴っているギターに合わせて踊る。
Butterflyには、その切実な現在形がある。
この現在形は、Down in Heavenというアルバム全体とも響き合っている。
アルバムは、初期の荒れたガレージ感から少し離れ、より温かく、時にレイドバックした音を持っている。
若いバンドが少しだけ大人になり、ただ騒ぐだけではなく、騒いだ後の寂しさにも目を向け始めたような作品だ。
Butterflyは、その成長の途中にある曲である。
まだ騒げる。
まだ笑える。
まだギターは鳴る。
でも、心のどこかで、すべてが少しずつ過ぎていくことを知っている。
この知っている感じが、曲に奥行きを与えている。
また、Butterflyの魅力は、過去のロックへの愛情を自然に取り込んでいるところにもある。
The Zombies。
Velvet Underground。
Lou Reed。
Loaded。
そうした名前が思い浮かぶ音ではある。
だが、Twin Peaksはそれをコピーとしてではなく、自分たちの生活の中の音として鳴らしている。
古いレコードが、若いバンドの現在の感情を運ぶ。
これこそロックの継承の美しさだ。
The Zombiesが歌い出す。
父親のような人物が踊る。
そして今、Twin Peaksがその記憶を別の曲として鳴らす。
音楽はそうやって時間を超える。
Butterflyは、時間が過ぎることを歌いながら、音楽が時間をつなぐことも示している。
曲の中の人々は去る。
でも、曲は残る。
The Zombiesの曲が残ったように、Twin PeaksのButterflyもまた、誰かの夜に残る。
この感覚は、非常にロマンティックである。
蝶のような気分はすぐに消える。
しかし、その気分を歌にすれば、何度も呼び戻せる。
ポップソングの魔法はそこにある。
もう一度再生すれば、あの軽さが戻る。
もう一度コーラスが来れば、少し笑える。
もう一度ギターが鳴れば、孤独は完全には消えなくても、少しだけ遠のく。
Butterflyは、そういう小さな救いを持った曲だ。
もちろん、この曲は大げさな名曲然とした曲ではない。
構えずに鳴る。
ふざけたように始まり、少し酔ったように転がり、気づけば心に残っている。
それもまたTwin Peaksらしい。
彼らの音楽は、完璧に磨かれたロックではない。
少しルーズで、少し汚れていて、でも人懐っこい。
友人の家のリビングや、狭いライブハウスや、夜の帰り道に似合う。
Butterflyもそうだ。
広いスタジアムより、誰かの部屋で鳴っているほうが似合う。
でも、その部屋の中で、人生のかなり大きなことをこっそり歌っている。
孤独になること。
去っていくこと。
親がいなくなること。
今笑うこと。
今踊ること。
こうして書くと重い。
だが、曲はそれを重く聞かせない。
そこに、Butterflyの強さがある。
本当に大切なことを、軽いギターで言ってしまう。
それがロックンロールの優しさなのかもしれない。
参照元
- ButterflyはTwin Peaksの2016年のアルバムDown in Heavenに収録された楽曲で、Apple Musicでは同作の4曲目として確認できる。
Down In Heaven – Apple Music
- Down in Heavenは2016年5月13日にGrand JuryからリリースされたTwin Peaksのアルバムである。
Pitchfork – Twin Peaks share Butterfly
- Pitchforkのレビューでは、Down in Heavenが初期の奔放なガレージロックから、よりリラックスした内省的なサウンドへ移った作品として紹介されている。
Pitchfork – Down in Heaven review
- PitchforkはButterflyについて、Loaded期のVelvet Undergroundを思わせる曲として言及している。
Pitchfork – Down in Heaven review
- Atwood MagazineはButterflyを、ギターリフとキャッチーなコーラスの間に実存的な危機を挟み込む曲として紹介している。
Atwood Magazine – Twin Peaks Dance Through Doom with Butterfly
- Pitchforkのニュース記事では、Clay FrankelがButterflyについて、SXSWでの過酷な連続演奏時期に書かれた曲で、興奮とネガティブな感情が混ざったものだと語ったことが紹介されている。
Pitchfork – Twin Peaks share Butterfly
- 歌詞の短い引用は、Butterflyの歌詞確認用資料を参照した。
Dork – Butterfly Lyrics

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