1. 歌詞の概要
『Butterfly』は、アメリカ・シカゴのガレージロックバンド、Twin Peaksが2016年に発表した3作目のスタジオアルバム『Down in Heaven』に収録された楽曲であり、バンドの中でも特に内省的で感情的な一曲である。タイトルが示す「蝶(Butterfly)」という言葉は、儚くて美しいもの、軽やかでつかみどころのない存在の象徴として使われており、楽曲全体を通じて、愛や欲望、混乱した心情といった繊細なテーマが織り込まれている。
語り手は、自分の前からふわりと去っていく相手を「蝶」にたとえ、その行動に対して怒りとも悲しみともつかない複雑な感情を抱いている。歌詞にはストレートな愛の表現は少なく、むしろその逆で、「コントロールできない何か」に翻弄される不安や苛立ちが前面に出てくる。恋愛のもつれ、すれ違い、そして“自分でもどうすることもできない感情”が、Twin Peaksらしい脱力したガレージサウンドの中で、リアルに浮かび上がってくる。
2. 歌詞のバックグラウンド
『Butterfly』が収録されたアルバム『Down in Heaven』は、Twin Peaksがバンドとしてより成熟し、サウンドも一段階洗練されたフェーズに突入したことを示す作品である。以前のようなラフで荒々しいガレージロックから一歩踏み出し、アコースティックな質感やブルース的なニュアンス、ミドルテンポのミディアムロックなど、感情の幅をより丁寧に描写するアプローチが取られている。
本楽曲『Butterfly』もその流れの中に位置しており、サウンド面ではスローなテンポ、浮遊感のあるコード進行、けだるいボーカルによって“感情の整理がつかない状態”がそのまま音として表現されている。Twin Peaksはこの楽曲で、ただの若者のラブソングから脱却し、「感情の不確かさ」や「アイデンティティの揺らぎ」といったより深い心理描写へと踏み込んでいる。
3. 歌詞の抜粋と和訳
You’re a butterfly
君は蝶のようだねYou don’t wanna love me
僕を愛したくないんだろう?
冒頭から、タイトルの「蝶」が比喩として機能する。自由で美しく、でも決して手元にとどまってくれない相手への苛立ちと諦めが滲んでいる。
You just wanna touch me
君が求めてるのは、触れるだけの関係なんだろう?Then you wanna leave
そしてすぐ、どこかへ行ってしまう
一時的な関係、身体的なつながりだけを求められていると感じる語り手の虚しさが描かれる。感情ではなく欲望だけで結ばれる関係への批判と葛藤が露わだ。
I could be the one
僕がその相手になれるかもしれないのにBut I’ll never be
でも、きっとそうはならないんだろうな
相手との未来を望みながらも、絶望的な現実を受け入れ始めている様子。切実でありながら、どこか冷めた語り口が印象的。
引用元:Genius – Twin Peaks “Butterfly” Lyrics
4. 歌詞の考察
『Butterfly』の歌詞は、若者特有の“愛と欲望の境界”に対する混乱と失望を極めて誠実に描いている。語り手は相手に恋しているようでいて、それが“本物の愛”なのか、“一時的な衝動”なのか、自分でもよくわからない。もっと言えば、相手にもそれがわかっていない。そうした“不確かな関係”が、この楽曲の中でくすぶり続けている。
興味深いのは、語り手が相手を責めるようなトーンで語りながらも、最終的には「君はそういう存在なんだ」と受け入れようとする姿勢が見える点だ。蝶のように自由で気まぐれで、けれども美しい――そんな存在にどうしようもなく惹かれてしまう。それは、恋愛だけでなく、人間関係全般に通じる真理でもある。
また、この曲のタイトル「Butterfly」には、“変化”や“成長”といった象徴も重ねて読み取ることができる。蝶はもともと幼虫からさなぎを経て変化する生き物であり、それは語り手自身の内面の変化――たとえば未熟さからの脱却、理想からの目覚め――をも暗示している。Twin Peaksは、この一見ゆるく見える曲に、そんな成長と気づきのストーリーを巧妙に仕込んでいる。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “Reckless Serenade” by Arctic Monkeys
理想化された恋愛の裏にある現実への諦めを描いた、ミッドテンポのインディーロック。 - “Green Eyes” by Wavves
気まぐれな恋人に振り回される感情をパンク風に吐き出した1曲。 - “Where the Night Goes” by Josh Ritter
恋と夜のあわいに生まれる不確かさを、温かいフォークロックで表現した楽曲。 - “All I Want” by Kodaline
一方的な想いと、届かない愛に向けた誠実なバラード。
6. “つかまえられない愛”に翻弄される若者のバラード
『Butterfly』は、Twin Peaksが持つ“粗さ”と“繊細さ”の両方を活かし、恋愛の中に潜む曖昧さや虚しさを静かに描き出した珠玉の一曲である。愛されたいけれど、愛されていないかもしれない――そんな感情に多くの若者が共感するのは、それが“今ここにいる自分”の物語だからだ。
この曲の中にあるのは、劇的な別れや情熱的な告白ではなく、むしろ「わかっていても抗えない気持ち」と「その先にある静かな受容」である。Twin Peaksは、『Butterfly』というタイトルを借りて、恋というものの不確かさと、美しさと、痛みのすべてをそっと見せてくれる。
歌詞引用元:Genius – Twin Peaks “Butterfly” Lyrics
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