
発売日: 2008年9月2日
ジャンル: パワーポップ、ロックンロール、カバーアルバム
『B-Sides The Beatles』は、The Smithereensが2008年にリリースしたザ・ビートルズのB面曲のみを対象にしたカバーアルバムである。
前作『Meet The Smithereens!』(2007年)で『Meet The Beatles!』を忠実に再現した流れを汲み、
今作では、シングルA面の陰に隠れたB面の楽曲たちに光を当て、
「もう一つのビートルズ像」をスミザリンズ流の解釈で再提示するという試みに挑んでいる。
この企画自体が、単なる懐古やヒット曲再現ではなく、
“曲そのものの魅力”と“バンドのルーツ”を深掘りする音楽的対話として成立しており、
The Smithereensの誠実なロックンロール精神と、ビートルズへの敬愛が詰まった一枚である。
さらに本作では、ビートルズのオリジナル録音にも参加していたヴィック・スピネッツァがライナーノーツと監修を担当し、
資料的価値も高いアルバムとなった。
全曲レビュー
1. Thank You Girl
1963年のシングル「From Me to You」のB面。
スミザリンズ版は原曲の跳ねるようなビートをそのまま活かし、
ギターの音圧とヴォーカルのダイナミズムを加えることで、骨太なパワーポップへと進化させている。
2. There’s a Place
ビートルズ初期の名バラード。
“心の中にしか安らぎの場所はない”という哲学的なテーマに対し、
スミザリンズは静かなリズムと控えめなコーラスで寄り添うように演奏する。
3. I’ll Get You
「She Loves You」の裏に隠れたラヴソング。
この曲では、オリジナル以上にロック色を強め、
甘さの中に力強さを宿らせるアレンジが光る。
4. You Can’t Do That
リズム・アンド・ブルース色の強いナンバーを、ガレージ感満載に再解釈。
ディニツィオのヴォーカルが、嫉妬と不安を含んだ歌詞に説得力を与える。
5. Ask Me Why
静かで可憐な原曲を、ややテンポを抑えたビートで丁寧にカバー。
Smithereensの“演奏で語る”美学がにじみ出る繊細なトラック。
6. Cry for a Shadow
ビートルズ初期のインストゥルメンタル。
スミザリンズ版ではサーフ・ロック色を強めにし、ギター・アンサンブルで原曲のシンプルな美しさを立体化させている。
7. P.S. I Love You
デビューシングル「Love Me Do」のB面に収録された定番曲。
温もりのあるアレンジとややしゃがれたディニツィオの声が、
原曲よりも「大人のラブレター」のように響く。
8. Baby You’re a Rich Man
ビートルズ中後期のサイケデリック・ポップ。
スミザリンズはやや控えめに原曲を再現しながらも、
リズムの重厚さとコーラスの厚みで独自の解釈を加えている。
総評
『B-Sides The Beatles』は、“影に隠れた名曲たちを掘り起こす”という音楽的知性と誠実さに満ちたカバーアルバムである。
The Smithereensはここで“名曲を自分たちのものとして歌いなおす”のではなく、
**“曲が本来持っていたポテンシャルを、そのまま現代に再提示する”**という視点に立っている。
その結果、彼らのビートルズ解釈には奇をてらったものはなく、
むしろ“演奏する喜び”“ルーツを辿る敬意”“音楽で語る品格”が、アルバム全体に染み込んでいる。
パット・ディニツィオの声も円熟を迎え、青年の恋ではなく“人生のラヴソング”としてビートルズの楽曲を再生させている。
前作『Meet The Smithereens!』と合わせて聴くことで、
The Smithereensというバンドがどれほど誠実に、そして楽しげにロックと向き合ってきたかが浮かび上がってくる。
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