発売日: 1970年11月1日
ジャンル: フォーク、ジャズ、バロック・ポップ
Bryter Layterは、ニック・ドレイクの2作目にして、彼の音楽キャリアにおける特別な存在だ。前作Five Leaves Leftで見られた孤独と内省に加え、今回はジャズやバロック・ポップの要素が組み込まれており、より華やかで都会的なサウンドに仕上がっている。ジョー・ボイドが再びプロデュースを担当し、フェアポート・コンヴェンションのメンバーや、ビーチ・ボーイズのサポートも手掛けたドラマー、エド・カーが参加するなど、豪華な布陣が集結。アレンジにはストリングスやホーンセクションが多用され、ドレイクの静かで繊細な声とギターが、多層的な音楽の中で際立っている。アルバムは全体を通して、リスナーに都会の夜明けを感じさせるようなシネマティックな雰囲気を漂わせ、聴く者をその独自の音世界へと誘う。儚くも美しい旋律が、彼の儚い人生そのものを象徴しているかのようだ。
各曲解説
1. Introduction
短いインストゥルメンタルから始まるこの曲は、アルバム全体のテーマを暗示するかのように、美しいストリングスと優雅なピアノが溶け合う。メランコリックながらも優雅な雰囲気が漂い、Bryter Layterのシネマティックな世界へとリスナーを引き込む序章となっている。
2. Hazey Jane II
アップテンポでリズミカルなこの曲は、アルバムの中でも特に軽やかでリズミカルな一曲。ブラスセクションと爽やかなギターが絡み合い、ドレイクの柔らかい歌声が心地よいコントラストを生み出している。「ヘイジー・ジェーン」と呼びかけられる相手に対する憧れと不安が交錯し、リスナーに穏やかでありながらも微妙な切なさを届ける。
3. At the Chime of a City Clock
この曲では、都会の孤独と喧騒がテーマとなっており、ドレイクの静かな歌声が深い哀愁を湛えている。ギターとピアノに加え、ホーンセクションが重なり、シティライフの持つ華やかさと孤独感が表現されている。歌詞には「街の鐘の音」として、無情に時を刻む都会のイメージが織り交ぜられている。
4. One of These Things First
軽快でリズミカルなピアノのイントロが印象的なこの曲は、ジャズ的なアプローチが色濃い。歌詞には「こうなれたかもしれない」選択肢が淡々と並べられ、ドレイクが持つ若き日の迷いや希望が表現されている。音楽の楽しさと深い意味を兼ね備え、リスナーに聴きごたえのある内容になっている。
5. Hazey Jane I
「Hazey Jane II」の対を成すこの曲は、前半の軽快さから一転して、スローで幻想的な雰囲気に包まれている。ホーンセクションが奏でる切ないメロディが、ドレイクの儚さと憂いを引き立てている。歌詞には、若者の夢と現実の間で揺れる心情が反映され、聴く者に淡い郷愁を感じさせる。
6. Bryter Layter
アルバムタイトルと同名のインストゥルメンタル曲で、アルバムの中で特にジャズ色が強い一曲。軽快なリズムと心地よいホーンセクション、さらにエレクトリックピアノが加わり、明るい雰囲気が漂っている。都会の夕暮れを思わせるような洗練されたサウンドで、リスナーの耳に優雅な彩りを添えてくれる。
7. Fly
ドレイクの繊細なギターアルペジオとメロディアスな歌声が特徴のこの曲は、彼の内面的な葛藤が色濃く表現されている。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのジョン・ケイルがヴィオラとチェレスタで参加し、夢のようなサウンドスケープを作り出している。「飛びたい」という切実な思いが、ドレイクの歌声を通して響く。
8. Poor Boy
ホーンとバックコーラスが加わり、ブルージーで軽快な雰囲気が漂う一曲。「貧しい男」としての自分の孤独や苦悩を、自嘲的なユーモアを交えて描く内容が印象的だ。ドレイクの声がどこか明るくも寂しげで、聴く者に強い印象を残す。
9. Northern Sky
このアルバムの中でも特に名高いバラードで、リリカルな歌詞と美しいメロディが印象的だ。ケイルによるピアノとオルガンの柔らかなアレンジが、ドレイクの歌声に溶け合い、希望と愛に満ちた夜空を感じさせる。この曲はドレイクの代表曲のひとつとしても知られており、聴く者の心に優しい温かさを残す。
10. Sunday
アルバムの締めくくりとなるインストゥルメンタルで、落ち着いたギターとピアノが奏でる穏やかなメロディが特徴だ。日曜の午後の静けさと穏やかさを感じさせるサウンドで、ドレイクの内面的な世界が最後まで美しく表現されている。
アルバム総評
Bryter Layterは、ニック・ドレイクの独特のメランコリックな世界観が、華やかで豊かなアレンジとともに広がりを見せた作品である。彼の憂いを帯びたボーカルと、バンドやホーンセクションの鮮やかなアンサンブルが、聴く者に多様な感情を引き起こす。都会的な洗練と孤独感が見事に調和し、夜明けや黄昏の風景が浮かび上がるようなシネマティックな体験が味わえる。ドレイクの孤高の才能が一層際立った名作として、彼の音楽遺産を後世に残している。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Pink Moon by Nick Drake
ニック・ドレイクの3作目にして最後のアルバムで、さらに内向的でミニマルなサウンドに進化した作品。儚さが一層際立ち、Bryter Layterと並ぶ傑作として愛されている。
Blue by Joni Mitchell
ジョニ・ミッチェルの内省的なアルバムで、メランコリックな歌詞と繊細なメロディが特徴。都会の孤独と切ない愛を描き、ドレイクファンにも刺さる要素が多い。
Tapestry by Carole King
1970年代の名盤で、キャロル・キングの温かみのある歌声と感情豊かな歌詞が魅力。親密なリスニング体験ができ、ドレイクのファンも楽しめるだろう。
Astral Weeks by Van Morrison
フォークとジャズが溶け合う異色作で、幻想的な音世界が広がる。心に染み入るような歌詞とサウンドが、Bryter Layterのファンに響くだろう。
Songs of Leonard Cohen by Leonard Cohen
レナード・コーエンの深い歌詞と内省的なフォークソングが詰まったデビュー作。詩的で憂いのある世界観が、ドレイクファンにぴったりだ。
コメント