アルバムレビュー：Brujo by New Riders of the Purple Sage

アルバムレビュー

2025.04.21

発売日: 1974年11月
ジャンル: カントリーロック、ウェストコーストロック、アメリカーナ

概要
全曲レビュー
総評
おすすめアルバム（5枚）
- 関連記事:

概要

『Brujo』は、New Riders of the Purple Sage（NRPS）が1974年に発表した5作目のスタジオ・アルバムであり、グループにとってひとつの転機を示す作品である。
前作『The Adventures of Panama Red』で商業的成功とカルト的人気を手にしたNRPSは、本作でより実験的かつ洗練されたアプローチを試みた。
アルバムタイトルの“Brujo”はスペイン語で“魔術師”や“呪術師”を意味し、サウンドや歌詞にもどこか幻惑的で神秘的な空気が漂っている。

また、NRPSの音楽的屋台骨だったベーシスト、デイヴ・トーフェンが脱退し、グレイトフル・デッドのフィル・レッシュが短期間参加した後、本作では元ジム・クエスキン・ジャグ・バンドのSkip Battinが正式加入。
これにより、バンドのアンサンブルにフォークやトラッド色が加わり、ややコンパクトで内省的な世界観が形成されている。

全曲レビュー

1. Old Man Noll

トラディショナルな語り口とアップテンポの演奏が心地よい、開幕にふさわしいナンバー。
田舎町の老人を題材に、過ぎ去った時代と人間模様をノスタルジックに描いている。
ケイジのスティールがやさしく響く。

2. On the Amazon

Skip Battin作によるユーモラスな楽曲。
南米アマゾンを舞台にした冒険譚だが、実際は現実逃避と妄想の入り混じった風刺ソング。
リズムが跳ねていて、アルバムの中でも異色の楽しさがある。

3. Big Wheels

アメリカの広大な道路とトラックドライバーの人生を描いたロードソング。
ミッドテンポのグルーヴと、ローリングするようなギターリフが心地よく、NRPSらしい旅の感覚を思い出させる。
ドーソンの落ち着いた語り口も魅力。

4. Singing Cowboy

自身たちを投影したかのようなセルフ・イメージの歌。
音楽と放浪、孤独とユーモアが交錯するNRPSの核を再確認できる。
マンドリンやスティールがアメリカーナ的色彩を添える。

5. Crooked Judge

法と権力に対する不信をテーマにした、パンチの効いた一曲。
ファンキーなリズムと社会風刺的なリリックが結びつき、NRPSの中でも異色の“抵抗の歌”。
バディ・ケイジのギターも強烈に響く。

6. Parson Brown

昔話風のトーンで語られるカントリー・フォーク調の小品。
“牧師ブラウン”というキャラクターを通じて、信仰と日常の滑稽さを描き出す。
アコースティック主体の温かいアレンジが魅力。

7. Ashes of Love

カントリー・スタンダードの美しいカバー。
失恋の痛みを“愛の灰”として表現するこの楽曲は、NRPSの演奏によってしっとりと再解釈されている。
バディ・ケイジの切ないヴォーカルが際立つ。

8. You Angel You

ボブ・ディランの楽曲をカバー。
比較的ストレートな愛の歌だが、NRPSはそれを素朴で力強いアレンジで仕上げており、バンドの“解釈力”の高さがうかがえる。

9. Instant Armadillo Blues

Skip Battinらしいサイケとユーモアが交錯したトラック。
“アルマジロ・ブルース”というシュールな世界観に、奇妙な歌詞と実験的なリズムが合わさり、聴く者を幻惑する。
アルバムタイトル『Brujo』の世界観に最も近い楽曲かもしれない。

10. Workingman’s Woman

労働者の男と支える女性との関係を描いた、リアルで素朴なラヴソング。
NRPSらしい生活感のある歌詞と、暖かな演奏がじんわりと染み入る。

総評

『Brujo』は、New Riders of the Purple Sageの中でもやや異色の作品といえる。
それは、これまでの陽気で放浪的なカントリーロックのスタイルに、より実験的かつ内省的な要素が加わっているためであり、新メンバーSkip Battinの個性も作品全体に新たな色を与えている。
そのぶん派手さや即効性には欠けるかもしれないが、じっくりと聴き込むほどに染みるアルバムでもある。

“魔術師”の名を冠したように、本作にはどこか不思議でスモーキーな空気が漂っており、NRPSの持つ土着性と浮遊感の両方が凝縮されている。
旅の夜、焚き火のそばで聴くような静けさと温かさ。
それが『Brujo』という作品の真価なのである。