アルバムレビュー：Bridge of Sighs by Robin Trower

アルバムレビュー

2025.04.21

発売日: 1974年4月
ジャンル: ブルース・ロック、サイケデリック・ロック、ハードロック

概要
全曲レビュー
総評
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概要

『Bridge of Sighs』は、Robin Trowerが1974年に発表したセカンド・ソロ・アルバムであり、彼のキャリアの中でも最も広く評価され、商業的にも成功を収めた代表作である。
元Procol Harumのギタリストとしてクラシカルなアート・ロックを支えていた彼が、ここではブルースを核にしつつ、ジミ・ヘンドリックスの影響を大胆に昇華し、ギターそのものが“語り手”となる音世界を構築している。

本作はアメリカでも大きな反響を呼び、Billboard 200では7位を記録。
トロワーの叙情的かつ宇宙的とも言えるギターワーク、ヴォーカルを担当するジェイムズ・デューイのソウルフルな声、そしてドラマーのレジ・アイジドルのしなやかなリズムが三位一体となり、“深く、広く、長く鳴り響くロック”として完成された作品である。

全曲レビュー

1. Day of the Eagle

力強いリフとファズ・トーンで始まる、トロワーの代表的ロック・ナンバー。
「鷲の日」とは勝利や啓示を象徴するイメージであり、そのスケール感をギターのうねりが物語る。
疾走感と浮遊感が絶妙に交差する、開幕にふさわしい1曲。

2. Bridge of Sighs

本作のタイトル曲にして、トロワーの代名詞ともいえる名曲。
スローなテンポと深く歪んだギターが、まるで魂の奥底を揺らすように響く。
“ため息の橋”という詩的なタイトルが示すように、楽曲全体が苦悩、瞑想、そして超越を含む“音の精神的巡礼”となっている。

3. In This Place

静けさと切なさをたたえたバラード。
「この場所で、彼女はもういない」と語るような歌詞に、喪失と孤独が込められている。
トロワーのギターは語りすぎず、ただ“そこにある”という存在感で空間を埋める。

4. The Fool and Me

ジェイムズ・デューイとトロワーの共作による、ファンク的グルーヴを持つミディアム・ナンバー。
“愚者”という存在が鏡のように自分自身を映す――そんな二重構造的テーマを内包している。
フレーズの繰り返しとギターの呼吸が、哲学的なリズムを刻む。

5. Too Rolling Stoned

最も人気の高いアップテンポ・チューンのひとつ。
ドラッグ文化と生の加速感を批判的に描きつつ、ギターは高揚と混沌を同時に描き出す。
中盤のテンポチェンジからのソロパートは、トロワーの名演中の名演として語り継がれる。

6. About to Begin

タイトル通り、何かが始まりそうな“静けさ”を感じさせるバラード。
深い残響と単調なピアノ・コードが、まるで瞑想状態を誘うような内向性を帯びる。
ジェイムズ・デューイの繊細なヴォーカルが心の襞に触れる。

7. Lady Love

アルバム内で最もソウル／ファンク色の濃い一曲。
ヴォーカルとギターが互いに“会話”するような構成で、特にグルーヴの躍動感が心地よい。
トロワーのリズム感覚が冴えわたる、隠れた名曲。

8. Little Bit of Sympathy

アルバムの締めくくりにふさわしい、パワフルかつ感情的な楽曲。
「ほんの少しの同情を」というフレーズに込められた切実な叫びが、ギターの咆哮と共に響く。
構成・演奏・歌詞すべてが凝縮され、終章としての余韻が長く続く。

総評

『Bridge of Sighs』は、ブルース・ロックの枠を越えた、感覚と精神の探求であり、ロビン・トロワーがギターによって“感情を話す”方法を完全に獲得したアルバムである。
ジミ・ヘンドリックスの影響を隠すことなく、しかしそれを単なる模倣ではなく、“個の深化”として咀嚼し、独自のサウンド・スケープへと昇華している点で特異な輝きを放つ。

本作が評価され続ける理由は、単なるギター・アルバムに留まらず、精神性、叙情性、グルーヴ、そして楽曲構成すべてが優れているからである。
ブルースでもハードロックでもプログレでもない、“トロワーというジャンル”を確立した、決定的な傑作なのだ。