発売日: 2013年8月12日
ジャンル: ポストパンク・リバイバル、ニューウェーブ、オルタナティヴ・ロック
概要
『Big TV』は、White Liesによる3作目のスタジオ・アルバムであり、
デビュー作『To Lose My Life…』の陰鬱なロマンと、セカンド『Ritual』の緻密な構成性を経たうえで、
“感情”と“構築美”のバランスがもっとも整った、完成度の高いポストパンク・ポップ作として位置付けられている。
本作のテーマは明確に都市と疎外、未来と個人のアイデンティティ。
タイトルの「Big TV(巨大なテレビ)」は、象徴的なメタファーとして、
過剰に可視化され、均質化された社会における人間の居場所のなさや、感情のフレーム化を表している。
プロデュースはエド・ブラー(Suede、The Vaccines)が担当し、
ギターとシンセのバランスはより洗練され、1980年代的な美意識と現代的なメロディ志向が絶妙に交差している。
結果として『Big TV』は、White Liesのキャリアにおける“最も聴きやすく、それでいて最も考えさせる”アルバムとなった。
全曲レビュー
1. Big TV
タイトル曲にして、アルバムの核心。
“彼女は都会に出て、大きなテレビの前で夢を見ている”という歌詞から始まる、近未来的ディストピア・ラブソング。
都会的なビートとサビの高揚感が、テーマと見事に調和する。
2. There Goes Our Love Again
最もキャッチーでポップな1曲。
“愛は繰り返す”という現代的なシニシズムと哀しみを、ダンサブルなリズムと共に届けるアンセム。
White Lies史上もっとも“踊れる”ナンバーかもしれない。
3. Space I
30秒ほどのインストゥルメンタル。
ギターのフィードバックと宇宙的なSEが、次曲への導入として機能。
音と音の“間”に意味を込める、美しく短いインタールード。
4. First Time Caller
疎外感と関係の新鮮さがテーマの、メランコリックなエレクトロ・ポップ。
“はじめて電話する人のように、君と話すのが怖い”という比喩が、現代的コミュニケーションの不安定さを映し出す。
5. Mother Tongue
母語(=本音)で話せなくなった恋人たちを描く、感情的にも構成的にも秀逸な楽曲。
語られぬ言葉の重さと、語れなかった後悔が、歌詞とサウンドに染み出す。
6. Getting Even
**復讐ではなく、自己肯定としての“バランス回復”**をテーマにした静かな決意の歌。
低く抑えたトーンとサビのスケール感のコントラストが効いている。
7. Change
シンセのループが印象的なバラード。
“変化は避けられない”というあきらめと受容が、まるで風景のように広がる名曲。
ギターのディレイが、まるで時の流れを音にしたかのよう。
8. Be Your Man
恋人に求められる“理想の男”像と、自身の実像との乖離をテーマにしたナンバー。
脆さと誠実さがにじむボーカルが、楽曲に人間味を与えている。
9. Space II
再びの短いインスト。
無音に近い静寂が、次の楽曲の劇的な導入を準備する“間”として機能する。
都市と都市の狭間、恋と別れの狭間のような“空間”。
10. Tricky to Love
不器用な愛し方を、非情にも分析的に描いた自己批評ソング。
テンポは軽快だが、歌詞には深い自己嫌悪とユーモアがある。
人間関係の難しさをテーマにした、普遍性の高い楽曲。
11. Heaven Wait
本作で最も叙情的でドラマティックなバラード。
“天国はきっと待ってくれる”という希望と信仰の表現が、美しいストリングスとともに描かれる。
終盤の盛り上がりは圧巻。
12. Goldmine
アルバムのラストを飾る静謐なエンディング。
“君は金鉱だった”という比喩に、過去の愛を悔やまずに肯定する成熟した視点がある。
語りかけるようなボーカルと、フェードアウトの美しさが余韻を残す。
総評
『Big TV』は、White Liesが都市的な冷たさと人間的な情感を、シンセとギターの両輪で見事に描き切った傑作である。
“ビッグTV”という比喩のもとに、情報過多の世界で感情をどう保ち、他者とどう関わるかという現代的なテーマが通底しており、
全体を通して一貫した物語性と美学が感じられる。
音楽的には、過去2作に比べてよりメロディアスかつ洗練されたポップ志向を強めており、
それでもバンドの本質であるロマンティックな暗さ、哲学的な視座は失われていない。
その意味で『Big TV』は、“聴きやすさ”と“深読み可能性”の奇跡的な均衡点にある、バンド史上もっとも成熟した作品といえる。
おすすめアルバム
- M83『Hurry Up, We’re Dreaming』
80s風の夢想的シンセ・ポップと感情の交錯が似ている。 - Hurts『Happiness』
耽美とメランコリー、シンセのバランス感が共鳴。 - Suede『Bloodsports』
都会的ロックの洗練とストーリーテリングの融合。 - Future Islands『Singles』
エモーショナルなボーカルと冷たいシンセの共演。 -
Chvrches『The Bones of What You Believe』
シンセポップの透明感と現代的テーマの融合。
ファンや評論家の反応
『Big TV』は、UKを中心に好意的に受け止められ、
“White Liesの最も完成された作品”として一定の評価を確立。
批評家からは「音楽的に一歩成熟し、テーマもより深くなった」との評価が多数寄せられた。
ファンからは、「There Goes Our Love Again」や「Big TV」などのライヴ定番曲を生んだこともあり、
ポストパンク・リバイバルの中でももっとも叙情的な1枚として支持され続けている。
『Big TV』は、感情をうまく伝えられない世界で、それでも誰かを想う人々のためのサウンドトラックである。
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