アルバムレビュー：Bagsy Me by The Wannadies

発売日: 1997年4月14日
ジャンル: パワーポップ、オルタナティヴ・ロック、インディーロック、ブリットポップ

概要
全曲レビュー
総評
おすすめアルバム
ファンや評論家の反応

概要

『Bagsy Me』は、The Wannadiesが1997年にリリースした4作目のスタジオ・アルバムであり、
前作『Be a Girl』の国際的成功（特に「You and Me Song」のヒット）を経て制作された、彼らにとって“勝負作”かつ“完成度の頂点”とも言える作品である。

アルバムタイトルの “Bagsy Me” はイギリスの子ども言葉で「僕が先！」という意味。
これはそのまま、愛も人生も主導権を握りたいという欲望や葛藤を象徴しており、
本作ではよりエネルギッシュかつセンチメンタルな楽曲が並び、
「うれしさ・さみしさ・恋しさ・痛み」など感情のグラデーションをポップな旋律で描ききった名盤となっている。

プロデュースにはNille Pernedと、バンド自身も参加。
音質は前作よりさらに洗練されており、ギターの広がり、コーラスのレイヤー、リズムの切れ味まで、90年代パワーポップの最高峰レベルの完成度を誇る。

全曲レビュー

1. Because

開幕からポップセンス全開のハイテンションナンバー。
「だって君が好きだから」というストレートな愛の宣言を、キラキラしたギターと跳ねるビートで包み込む。
ライブでも定番となった代表曲のひとつ。

2. Friends

友情と愛情の境界をテーマにした青春ポップ。
「友達でいよう」なんて言葉の中に潜む未練や未完成の感情を、疾走感とともに描いている。

3. Someone Somewhere

中速ミディアムの穏やかなロック。
“どこかの誰か”というタイトルが示すように、孤独とつながりのあいだを行き来するような叙情性にあふれている。
リフレインの重なりが美しい。

4. Don’t Like You (What the Hell Are We Supposed to Do)

パンク的な怒りと戸惑いを織り交ぜた、The Wannadiesらしい毒気あるキラーチューン。
「君が嫌い。じゃあ、どうすればいい？」という投げやりな感情が、逆に甘さを帯びる不思議な魅力を持つ。

5. Shorty

2分強の短いロックンロール。
短いからこそ勢いがあり、衝動的な愛情や苛立ちをそのままぶつけたような生々しさがある。

6. What You Want

ゆるやかな始まりから爆発的に盛り上がる構成。
“相手が望むこと”と“自分の気持ち”のズレを見つめる、切実でダイナミックなナンバー。

7. Skateboard Driving By

疾走するスケートボードと若さの比喩が重なる、青春の疾走感と取り残された側の寂しさを歌う曲。
エモーショナルなギターが光る。

8. Bagsy Me

タイトル曲にしてアルバムの核。
「僕を先に指名して！」という子どもっぽさと、「選ばれたい」という切実さが融合したパワフルかつ胸が締め付けられる名曲。
コード進行とメロディの起伏が完璧。

9. Love in June

アルバム後半の清涼剤的存在。
6月の恋を描いたこの曲は、陽だまりのようにあたたかく、過ぎ去るものへの愛おしさが漂う。

10. Combat Honey

歪んだギターとリズミカルなドラムが炸裂する、アルバム随一のロックンロール。
「戦うハニー」という言葉のとおり、恋愛と闘争のメタファーが混ざった歌詞が特徴。

11. Silent People

静かに始まり、じわじわと情熱を帯びていく構成。
“静かな人々”とは、声を上げられない思い、社会の中で消えていく感情たちの象徴。
最もシリアスで深みのあるトラック。

12. So Happy Now（再録）

デビュー作からの再演。アレンジがよりスムーズかつ華やかになり、原曲の“空元気な幸福感”がいっそう明確に伝わる仕上がり。

総評

『Bagsy Me』は、The Wannadiesがポップバンドとしての引き出しをすべて開け放ち、“感情の全振り”を行った圧巻のアルバムである。
『Be a Girl』が「恋に落ちる瞬間」のきらめきを切り取った作品だとすれば、
『Bagsy Me』は恋の後悔、怒り、執着、未練、再生——そのすべてを丸ごと描ききる感情のロードムービーである。

パワーポップ、ブリットポップ、インディーの要素をすべて消化し、
どの曲にも“選ばれたい人間の切なさ”が、疾走感と共に込められている。
時に幼く、時に痛々しく、それでも真っ直ぐに。

90年代ポップロックの密度を1枚に詰めた名盤として、もっと評価されていい作品である。