1. 歌詞の概要
『Bad Street』は、アメリカ・ニューヨークを拠点とするインディー・ポップ・バンド、Twin Sister(現:Mr Twin Sister)が2011年にリリースしたデビュー・アルバム『In Heaven』に収録された楽曲であり、彼らのサウンドを象徴する、ドリーミーで都会的な魅力が凝縮されたナンバーである。
この曲のテーマは、都市生活における個人の葛藤や、外見と内面のギャップ、社会における自分の立ち位置に対する不安や不満である。歌詞の語り手は、自分が生きる「バッド・ストリート(悪い通り)」に居場所を見出しつつも、そこから抜け出したいという思いと、どこかその混沌に惹かれているという矛盾した心情を持っている。
歌の中では、明るく浮遊感のあるメロディに反して、歌詞はどこか沈んだ感情を内包している。これは、Twin Sisterが得意とするコントラストの技法であり、煌びやかなサウンドの裏にある心の影をさりげなく描くことで、リスナーに複雑な感情を呼び起こす仕掛けとなっている。
2. 歌詞のバックグラウンド
Twin Sisterは2008年にニューヨーク州ロングアイランドで結成され、ドリームポップやシンセポップ、R&Bなどを取り込んだ独自のスタイルで注目を集めたバンドである。2014年以降は「Mr Twin Sister」と改名して活動しているが、『Bad Street』は彼らがまだTwin Sister名義で発表していた初期の代表曲のひとつである。
『In Heaven』というアルバムタイトルに象徴されるように、本作には“天上のような美しさ”と“現実的な疎外感”が共存しており、『Bad Street』はその中でも特に“都会で生きる女性の視点”に焦点を当てた楽曲である。リードボーカルのAndrea Estellaは、ファッションや演劇にも造詣が深く、その多面的な表現力が楽曲のドラマティックな世界観に大きく寄与している。
この曲の制作背景には、ロングアイランドやブルックリンのシーンで感じたストリート文化や、アートと商業の狭間で揺れるアーティストとしての実感も影響していると言われている。『Bad Street』は、そうした個人的かつ普遍的な都市生活者のモノローグを、キャッチーかつ幻想的に描いた楽曲である。
3. 歌詞の抜粋と和訳
I want it all
私は全部欲しいのI want it now
それも“今”すぐに欲しいのよ
欲望を隠さずに口にする語り手の姿勢が印象的。物質的な意味だけでなく、“認められること”や“居場所”への渇望も込められている。
I live on a bad street
私は悪い通りに住んでるのIt’s not so bad to me
でも、私にはそんなに悪い場所じゃない
自分がいる環境が他人には“バッド”に見えても、本人にとってはそこに何かしらの意味や愛着がある。都市の中で孤独を抱える若者たちに共通する感情だ。
You said I’m too young
君は私が若すぎるって言ったわねYou said I’m too dumb
バカだって言ったわね
外部からの評価に晒されながらも、それを跳ね返すような語り手の強さと皮肉が込められている。
引用元:Genius – Twin Sister “Bad Street” Lyrics
4. 歌詞の考察
『Bad Street』の魅力は、ポップな音楽に隠された“都市の孤独とアイデンティティの揺らぎ”を、あえて直接的には語らず、断片的な言葉とムードで表現している点にある。主人公は周囲の価値観に左右されることなく、自分なりのやり方でこの都市の中を生きようとしているが、その裏では「本当の意味で理解されたい」「否定されたくない」という切実な欲求が渦巻いている。
また、“バッド・ストリート”という言葉は比喩的であり、実際の地理というよりも“社会の周縁”“精神的なマージナル”を意味していると考えられる。そこに住むことを肯定する語り手の姿は、いわば現代のマイノリティの象徴であり、ありのままの自分を肯定する強さを持ちつつも、その内側には脆さや葛藤が確かに存在する。
Twin Sisterの音楽は、こうした“美しくもアンバランスな感情”を、軽やかなサウンドスケープに包み込んで届けることで、ポップミュージックに内在する表現の可能性を最大限に引き出している。『Bad Street』はその好例であり、リスナーそれぞれの“居場所”に関する問いを静かに投げかけてくる。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “Don’t Move” by Phantogram
エレクトロニックでダークなムードをまといつつ、女性のアイデンティティを主軸に据えた楽曲。 - “Only You” by Yazoo
切なさと煌びやかさが混在する80sシンセポップの名曲。孤独とロマンスの交差点。 - “Night Music” by Mr Twin Sister
同じバンドによる改名後の作品で、アーバンでスモーキーなサウンドがさらに洗練された1曲。 - “Avant Gardener” by Courtney Barnett
日常の退屈と不安をユーモラスに描いたインディーロックの秀作。
6. “街の片隅で生きる私たち”へのアンセム
『Bad Street』は、Twin Sisterの初期キャリアを決定づけた重要な楽曲であり、夢見心地なサウンドと鋭い自己認識が見事に融合したインディーポップの逸品である。大都市で暮らすことの孤独、矛盾、そして小さな誇りを、Andrea Estellaの無機質でいて柔らかい歌声が、静かに語りかける。
この楽曲が多くのリスナーに響くのは、それが単なる“おしゃれなサウンド”ではなく、都市の片隅で生きる私たちひとりひとりの“言葉にできない感情”を代弁してくれるからである。だからこそ『Bad Street』は、今日でも多くのリスナーの“心の居場所”となり続けている。
歌詞引用元:Genius – Twin Sister “Bad Street” Lyrics
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