アルバムレビュー：Bad Reputation by Joan Jett & The Blackhearts

発売日: 1980年（1981年再発）
ジャンル: ハードロック、パンクロック、グラムロック

概要
全曲レビュー
総評
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概要

『Bad Reputation』は、Joan JettがThe Runaways解散後、ソロとして1980年に自主リリースしたデビュー・アルバムであり、その後The Blackheartsの名を冠して1981年に再発された、女性ロックアイコンの誕生を告げる決定的作品である。

その名の通り「悪名高き reputations（評判）」を逆手に取ったこのアルバムは、女性がロックすることへの偏見と闘いながら、反骨精神と純粋なロックンロールへの愛情を突き通した作品である。

収録曲の多くは3分前後のシンプルなロックンロールで構成されており、パンクのエネルギーとグラムの華やかさが交錯。

Ramones的なミニマルな勢い、T. Rexのようなフックの効いたキャッチーさ、そしてJett自身のハスキーで荒々しい歌声が、まさに“女性版Iggy Pop”のような存在感を放つ。

後の『I Love Rock ’n’ Roll』（1981年）の大ヒットの前夜に位置づけられる本作は、Joan Jettという人物の原型＝ギターをかき鳴らし、世間に中指を立てるロックンローラーとしての輪郭を明確に描いた、パンク時代のロックンロール教科書とも言える。

全曲レビュー

1. Bad Reputation

アルバムの冒頭を飾るタイトル曲にして、Jettの代名詞とも言えるアンセム。

「他人が何と言おうと、私は私の道を行く」と歌い上げるこの曲は、女性がロックをやることに対する偏見や社会的圧力への宣戦布告である。

ギターリフはシンプルながらも非常にキャッチーで、パンクの疾走感と70年代ロックの強靭さが融合。

この一曲で彼女の美学がすべて語られていると言っても過言ではない。

2. Make Believe

歯切れの良いリフと、キャッチーなコーラスが魅力のポップ・パンク的楽曲。

タイトルの“作りごと”は恋愛の幻想と欺瞞を象徴し、女性視点からの冷静な距離感と苛立ちが表現されている。

3コード主体のサウンドが、痛快さをより際立たせる。

3. You Don’t Know What You’ve Got

ブルース色の強いナンバーで、失ってから気づく愛をテーマにした哀愁漂う楽曲。

Jettのハスキーな声が、ストレートな歌詞にリアリティを与えており、彼女のロックンロールが決して攻撃性だけでなく感情の振れ幅を内包していることを示す佳曲。

4. You Don’t Own Me

Lesley Goreの名曲のパンク・ロックカバー。

“私はあなたの所有物ではない”という強烈なフレーズが、Jettのアイデンティティと完璧に融合。

原曲のメロドラマティックな要素を大胆に削ぎ落とし、自己主張とフェミニズムの真髄をハードなサウンドで再定義している。

5. Too Bad on Your Birthday

パワーポップ的な軽やかさが魅力の一曲。

誕生日に別れを告げるというユーモアと皮肉に満ちたストーリーが、ロックンロールにおける“強い女性像”の新しいスタイルを提案している。

リズムの跳ね方が軽快で、ライブ向きのエネルギーを放つ。

6. Do You Wanna Touch Me (Oh Yeah)

元々はGary Glitterによるグラムロック・クラシックのカバー。

Jettのバージョンでは、性的挑発と自己決定の力学がリズムと声に乗って炸裂する。

セクシャルな表現を自らの武器として使いこなすスタイルは、当時としては非常に挑戦的で、現在でもジェンダー表現の文脈で語られることが多い。

7. Let Me Go

突き放すような歌詞とスラッシュ気味のギターリフが特徴のロック・ナンバー。

「行かせてくれ」と歌いながらも、**自分の自由を取り戻すための攻撃的でクールな“別れの美学”**が貫かれている。

短く鋭い構成も相まって、アルバム中でも非常に生々しい一曲。

8. Doing Alright with the Boys

元はGary Glitterの曲だが、Jettが歌うことで意味合いが大きく転化。

「男たちと一緒にいるのも悪くない」という一見無邪気なフレーズが、女性の主体性とユーモアを併せ持つ強烈なアイロニーに変わっている。

グラムの香りを残しつつ、Jettならではの反抗のスパイスが効いたカバー。

9. Shout

Isley Brothersの名曲をカバーしながら、ロックの“源泉”としてのブラック・ミュージックへの敬意も滲ませる楽曲。

ここでは原曲のソウルフルなテンションを、ラフでガレージ的な勢いに置き換えたアプローチが光る。

Jettのルーツ愛と演奏の楽しさが伝わるナンバー。

10. Jezebel

アグレッシブなギターとともに展開する、ダークなテーマの楽曲。

“Jezebel”という聖書由来の女性像を題材に、悪女や誘惑といったステレオタイプへのアンチテーゼをロックで撃ち抜く。

ヘヴィなリフが印象的で、後のグランジ的アプローチの先駆けとも思える一曲。

11. Don’t Abuse Me

Jett自身の強い感情が込められた、暴力的な関係性からの脱却をテーマにしたパンク・バラード。

「私を傷つけるな」という叫びは、感情の抑圧や女性の被害経験に対するロックからのカウンターとして受け取ることもできる。

その歌声には痛みと怒り、そして希望が宿る。

12. Wooly Bully

Sam the Sham & the Pharaohsのガレージ・ロックを、粗削りに、そして陽気にカバーしたクロージング・トラック。

“バッドガール”なJettが、ここでは遊び心と純粋なロックンロールの楽しさを全開にして終幕を迎える。

総評

『Bad Reputation』は、Joan Jettがただの“元Runawaysのギタリスト”ではなく、独立したロックンロールの代弁者として生まれ変わった瞬間を記録するアルバムである。

DIY精神に満ちたプロダクション、ジャンルの垣根を越えた選曲、そして何より彼女の“歌う姿勢”が、当時の音楽シーンに与えた影響は計り知れない。

社会的な反発に対する自己肯定、女性の声の取り戻し、ポップとパンクの橋渡し──これらすべてを3分以内の痛快なロックンロールに凝縮するという方法論が、今日のロックにおける多様性と自由の先駆けとなった。

“悪評”ではなく、“真の評判”を自分の手で打ち立てたJoan Jett。

このアルバムは、その第一声であり、今なお鳴り止まないロックの声明文である。