1. 歌詞の概要
「Bad Days」は、The Flaming Lipsが1995年にリリースしたアルバム『Clouds Taste Metallic』に収録された楽曲であり、絶望的な日々の中で、それでもなお想像力によって現実を乗り越えようとする“逃避の美学”を描いたシニカルで優しいロックバラードである。
歌詞の冒頭で描かれるのは、“最悪の日”を迎えている主人公。家は壊れ、仕事は最悪で、周囲の人間には疎まれ、恋人にも愛されていない。まさに“人生最悪の日々”=Bad Days。しかし、そんな中で彼は想像の力によって、現実を少しだけ変化させる。「自分の嫌いな人が不幸になることを夢見る」という、少し歪んだ想像力が、彼にとっては唯一の“救い”となる。
その姿は笑いを誘うようでいて、どこか切実。自己肯定すらできない状態で、それでも“頭の中では自由になれる”という小さな希望が、この曲の核を成している。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Bad Days」は、The Flaming Lipsのサウンドが最も過渡期にあった1990年代半ばの作品であり、**ノイズとポップ、シニカルさと優しさが混在する“曖昧な精神性”**をそのまま音にしたような曲である。
この曲は、1995年に公開された映画『バットマン・フォーエヴァー』のサウンドトラックにも収録されており、The Flaming Lipsが初めてメジャーな映画の一部として注目を集めた曲でもある。映画の華やかな世界とは裏腹に、この曲が放つのは**“逃避と皮肉に満ちた、リアルな内面世界”**であり、彼ららしい“非ヒロイズム”が全開である。
アルバム『Clouds Taste Metallic』自体が、前作『Transmissions from the Satellite Heart』の商業的成功のあとに制作されたものであり、「Bad Days」はその中でも最もパーソナルでユーモラス、かつリスナーに親しみやすいトラックとして親しまれている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
“You hate your boss at your job / But in your dreams you can blow his head off”
仕事が嫌い 上司が大嫌い でも夢の中では、彼の頭を吹っ飛ばせるんだ
“In your dreams you can have your car / And be a movie star / Or rock ‘n’ roll God”
夢の中では自分の車もあるし、映画スターにも、ロックの神様にもなれる
“And that’s why you don’t want to sleep tonight”
だからこそ 今夜は眠りたくないんだ
“You’re sorta stuck where you are / But in your dreams you can buy expensive cars”
現実では身動きが取れないけど 夢の中では高級車だって買える
“You have to sleep late when you can / And all your bad days will end”
できるときにはたっぷり寝ろ そしたら悪い日は全部終わるんだ
歌詞引用元:Genius – The Flaming Lips “Bad Days”
4. 歌詞の考察
「Bad Days」は、決して“ポジティブな思考”をすすめるような曲ではない。むしろその真逆で、現実がどうしようもないときには、せめて想像の中でだけでも自由になろうという極端にローファイな“希望のかたち”を描いている。自暴自棄ではなく、“皮肉と想像力のなかにあるささやかな救済”——それがこの曲の持つ魅力である。
たとえば、夢の中で“嫌いな上司を爆破する”というラインはブラックユーモアに満ちているが、そこには自分の怒りを現実にぶつけることができない者の悲しみも含まれている。そのうえで「夢を見ることでしか、耐えられない」という現実逃避は、決して弱さではなく、“生き延びるための戦略”として描かれている。
さらに最後の「You have to sleep late when you can / And all your bad days will end」というフレーズには、眠りという現実逃避への優しい肯定と、それがやがて“悪い日々の終わり”を導くというかすかな希望が込められており、この曲の最も美しい瞬間でもある。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- No Surprises by Radiohead
社会の閉塞感と夢想を、子守唄のようなサウンドで包んだ“静かな絶望”の歌。 - Mr. Blue Sky by Electric Light Orchestra
明るい音の中に悲しみと皮肉が混在する、天候と心の比喩を描いた一曲。 - Needle in the Hay by Elliott Smith
内面の痛みと感情の麻痺を、ミニマルなアコースティックサウンドで表現した名曲。 - She Don’t Use Jelly by The Flaming Lips
ユーモアと逸脱が同居する、同アルバム収録の不条理ポップ。現実逃避感は共通している。
6. “悪い日々を、想像力で乗り越える”
「Bad Days」は、“最悪の状況にいる人間が、どうにかして気を保とうとする”その姿を、ユーモアと空想によって優しく包み込む一曲である。主人公は決して強くはない。むしろ弱く、孤独で、鬱屈している。しかし、その代わりに彼には**“夢の中で世界を自由に変える力”がある**。
The Flaming Lipsはこの曲を通して、現実が地獄のような日々であっても、それを乗り越える術は“精神の柔軟性”にあるのだと教えてくれる。たとえその方法が笑ってしまうほどささやかであっても——それは立派な“生き方”なのである。
「Bad Days」は、心がすり減るような現実の中で、それでも生き延びるために空想する人間たちのためのアンセムである。あなたが今どんなにボロボロでも、夢の中ではロックスターになれる。
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