アルバムレビュー：Ascension by A Flock of Seagulls

発売日: 2018年
ジャンル: シンフォニック・ニューウェーブ、シンセポップ、クラシカル・ポップ

概要
全曲レビュー（代表曲ピックアップ）
総評
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概要

『Ascension』は、A Flock of Seagullsが2018年にリリースしたコンセプト・アルバムであり、彼らの代表曲をフル・オーケストラとの共演で再構築した異色かつ壮麗な作品である。

1980年代に一世を風靡したニューウェーブ・バンドが、約30年ぶりにオリジナル・ラインナップで再集結し、アメリカのバッファロー・フィルハーモニック・オーケストラとのコラボレーションを果たした本作は、過去の栄光に対する単なるノスタルジーではなく、音楽的再定義と精神的成熟の証として高く評価されている。

タイトルの「Ascension（昇華）」が示すとおり、本作はA Flock of Seagullsの楽曲に新たな空間的・感情的スケールを与えており、彼らの音楽がいかにタイムレスな美しさと構築性を持っていたかを改めて照らし出している。

シンセと弦楽、エレクトロとクラシックの融合によって、かつて“未来”だった音楽は“永遠”へと昇華したのだ。

全曲レビュー（代表曲ピックアップ）

1. I Ran (So Far Away) [Orchestral Version]

バンド最大のヒット曲が、壮麗なストリングスとともに再誕。
イントロのギターに重なるホーンやティンパニが、スペース・ポップの世界観をよりドラマティックに引き上げている。
サビの爆発力は、まさに“映画音楽”レベルのエモーション。

2. Space Age Love Song [Orchestral Version]

原曲の浮遊感が、オーケストラによってさらに拡張された名演。
サビにかけての盛り上がりは、まるで空中を滑空するような解放感をもたらす。
内面的なロマンスが空間的な叙情詩へと昇華されている。

3. Wishing (If I Had a Photograph of You) [Orchestral Version]

この曲の儚さと哀愁は、ストリングスによってさらに深みを増している。
クラシカルなアレンジが、恋の不在というテーマを普遍的な“喪失”の物語へと引き上げている点が秀逸。

4. The More You Live, The More You Love [Orchestral Version]

哲学的なテーマを持つこの楽曲も、オーケストラによって静かな高揚感を得ている。
弦楽の重厚さが歌詞の示唆を拡張し、“生きることと愛することの重さ”をより強く体感させる構成となっている。

5. Telecommunication [Orchestral Version]

原曲のハイテンションなエレクトロ・ナンバーが、クラシック的スケールで再解釈。
打楽器と管楽器が複雑に絡み合うことで、まるで“情報が交錯する都市の交響詩”のような趣に仕上がっている。

6. Modern Love Is Automatic [Orchestral Version]

この曲の持つメカニカルなリズムが、ストリングスとパーカッションにより“機械仕掛けのバレエ”のように変貌。
ニューウェーブのクールネスとクラシックのリズム感が交差するスリリングな仕上がり。

総評

『Ascension』は、A Flock of Seagullsの音楽が時代の流行ではなく“構築美と情緒”に裏打ちされた芸術性を持っていたことを証明するアルバムである。

シンセポップやニューウェーブというジャンルが、クラシック音楽との邂逅によって時間とジャンルの境界を越える瞬間がここにはある。
それは、リスナーにとっても“聴く”という行為を超え、“感じる”“没入する”体験へと変容させる力を持っている。

また、オリジナル・ラインナップの再集結という点でも、本作は単なる回顧ではなく“未来への再出発”であり、過去の自己を美しく再解釈しなおすことで、バンドは自身の音楽を次なる世代へと手渡すことに成功した。

“かつて未来だった音楽が、今ふたたび輝きを取り戻す”
それが『Ascension』という作品が提示する、静かな奇跡である。