アルバムレビュー:Argent by Argent

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発売日: 1970年1月
ジャンル: プログレッシブロック、ハードロック、サイケデリックロック


栄光なき世代のためのバロック・ロック——The Zombiesの遺伝子はここで覚醒した

『Argent』は、1970年にリリースされた英国ロックバンドArgent(アージェント)のセルフタイトル・デビューアルバムであり、The Zombiesのキーボーディスト、ロッド・アージェントが新たに結成したバンドの出発点である。
60年代の終焉とともに、サイケデリックからプログレッシブロックへの過渡期に生まれたこの作品は、ポップとクラシカルなハーモニー、そして新たなロックの構築性が融合した“知的なハードロック”として独自の地位を築いている。

本作の最大の魅力は、ロッド・アージェントの鍵盤によるバロック的構成美と、ラス・バラードのキャッチーかつエネルギッシュな作曲能力の拮抗である。
The Zombiesの叙情性を受け継ぎながら、ここではより明確に「バンドとしてのグルーヴ感」と「演奏の厚み」が打ち出されており、70年代英国ロックの系譜の中でも重要な一枚となっている。


全曲レビュー

1. Like Honey

ファズギターが印象的な、ブルース寄りのロックナンバー。
ラス・バラードによるソウルフルなボーカルと、ドライヴ感あるアンサンブルがオープニングにふさわしい勢いをもたらしている。

2. Liar

後にThree Dog Nightによってカバーされヒットした、本作最大の名曲
シンプルなコード進行に乗せた情熱的なボーカルと、繊細なピアノが絡む。
感情の起伏とメロディの流麗さが見事に調和したロック・バラードである。

3. Beechwood Park

The Zombies時代の面影を感じさせる、メランコリックなバロック・ポップ
フォーク的なアレンジとリリカルな旋律が、アルバムに抒情的な緩急を与える。

4. Dance in the Smoke

本作の中でも最もプログレッシブな構造を持つ一曲。
幻想的なイントロ、変拍子、ジャズ的セクションの挿入など、後のArgentの方向性を予感させる冒険的な構成。

5. Lonely Hard Road

ゴスペル風のコーラスと、堅実なロックグルーヴが特徴。
旅路や孤独をテーマに、希望と決意が交差するようなエネルギーが漂う

6. Schoolgirl

タイトルのとおり若さと衝動を描いたポップロック。
軽快なテンポとハモンドオルガンの響きが、60年代の名残を思わせる。

7. Stepping Stone

哀愁のあるメロディとミドルテンポのビートが印象的な一曲。
バラード的な側面と、骨太な演奏が両立したドラマティックな楽曲である。

8. Bring You Joy

ラストを飾るのは、スピリチュアルで前向きなメッセージが込められた爽快なロックソング。
「喜びを届ける」というシンプルで温かいテーマが、アルバムの締めくくりにふさわしい光を灯している。


総評

『Argent』は、The Zombiesの洗練された美学と、70年代の新しいロックの衝動が交差した奇跡的なデビュー作である。
この時期の英国ロックは、ブルースロックやプログレッシブへの分岐点にあったが、Argentはその狭間で高度な演奏力と情緒豊かなメロディを両立させた数少ないバンドであった。

後の『Hold Your Head Up』に代表されるような大仰なアリーナサウンド以前に、ここには等身大の若き音楽家たちによる、野心とロマンに満ちた純粋な表現がある。
ハードロック、アートロック、バロックポップのいずれにも接続しうる本作は、ジャンルを横断するロックファンにとっての“開かれた窓”となるだろう。


おすすめアルバム

  • The ZombiesOdessey and Oracle
     前身バンドのラスト作にして、ロッド・アージェントの源流がすべて詰まった傑作。
  • Procol Harum『A Salty Dog
     クラシカルで叙情的な英国バロックロックの代表作。
  • Family『Music in a Doll’s House』
     サイケとプログレの端境期に生まれた実験的名盤。
  • Traffic『John Barleycorn Must Die
     ジャズ、フォーク、ロックの融合と成熟したアレンジがArgentと共鳴する。
  • Barclay James Harvest『Barclay James Harvest』
     叙情と構築美を兼ね備えた初期ブリティッシュ・ロックの隠れた逸品。

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