ANTI by Rihanna

※本記事は生成AIを活用して作成されています。

発売日:2016年1月28日

ジャンル:R&B、オルタナティヴR&B、ポップ、ダンスホール、ソウル、トラップ、ドリームポップ

概要

Rihannaの8作目となるスタジオ・アルバム『ANTI』は、彼女のキャリアにおいて決定的な転換点となった作品である。2005年のデビュー以降、Rihannaは「Pon de Replay」「Umbrella」「Don’t Stop the Music」「Rude Boy」「Only Girl (In the World)」「We Found Love」「Diamonds」など、時代ごとのポップ・チャートを象徴する巨大なヒットを連発してきた。2000年代後半から2010年代前半にかけて、彼女はシングル単位で世界的なポップ・スター像を更新し続けた存在だった。

しかし『ANTI』は、そうした「ヒット・シングルの連続体」としてのRihanna像から明確に距離を取ったアルバムである。タイトルの「ANTI」が示す通り、本作は既存のポップ・スターの期待、レコード会社的な成功方程式、ラジオ向けの即効性、そしてRihanna自身に貼りついたイメージに対する反応として作られている。ここでのRihannaは、曲ごとに巨大なサビを用意するポップ・ディーヴァではなく、空間、声、ムード、沈黙、揺らぎを操るアルバム・アーティストとして登場する。

本作の音楽性は非常に幅広い。トラップ以降の低音感、オルタナティヴR&Bの曖昧なコード感、ダンスホールやカリビアン・ミュージックの身体性、ソウル・バラードの情感、サイケデリック・ロックのカバー、ドゥーワップやゴスペル的な歌唱、さらにはミニマルな電子音響が混在している。しかし、それらは派手なジャンル折衷としてではなく、Rihannaの声と態度を中心に、非常に一貫した温度でまとめられている。『ANTI』は多彩でありながら、全体としては暗く、湿度があり、内省的で、夜の部屋の中で鳴るような親密さを持つ。

本作の特徴は、Rihannaのヴォーカル表現が過去作以上に前面へ出ている点である。彼女は伝統的な意味での技巧派シンガーとして語られることは多くないが、『ANTI』では声の質感、言葉の切り方、息の置き方、感情の抑え方によって、強い個性を示している。叫び上げるのではなく、低くつぶやく。感情を説明するのではなく、態度として示す。Rihannaの声は、ここでは楽曲の中心であると同時に、作品全体の空気そのものになっている。

歌詞のテーマも、従来のポップ的な恋愛表現からさらに踏み込んでいる。愛、欲望、依存、孤独、身体性、名声、自己防衛、過去への怒り、自由への渇望が、直接的かつ曖昧に描かれる。『ANTI』におけるRihannaは、愛されることを求めるだけの人物ではない。相手を欲し、拒み、試し、突き放し、時に自分自身の脆さを見せる。そこには、ポップ・スターとしての強さだけでなく、一人の女性としての複雑な主体性がある。

音楽史的に見ると、『ANTI』は2010年代中盤のメインストリーム・ポップが、アルバム単位でよりムード重視、R&B寄り、実験的な方向へ向かっていた時代を象徴する作品でもある。Beyoncé、Frank Ocean、The WeekndSolange、SZAなどが、R&Bをより個人的でアート性の高い表現へ拡張していく中で、Rihannaもまた『ANTI』によって、自身を単なるヒットメーカーから、明確な美学を持つアーティストへと位置づけ直した。

日本のリスナーにとって『ANTI』は、初めて聴くと過去のRihannaの代表曲に比べて地味に感じられるかもしれない。派手なEDMポップや即効性のあるサビは少なく、曲の多くは煙のように漂い、低い温度で進む。しかし、聴き込むほどに、声のニュアンス、ビートの余白、アルバム全体の統一感が浮かび上がる。本作は、Rihannaが「ヒット曲を歌うスター」から「自分の音楽空間を支配する表現者」へ変化した、2010年代ポップの重要作である。

全曲レビュー

1. Consideration feat. SZA

オープニング曲「Consideration」は、SZAを迎えた楽曲であり、『ANTI』の宣言として非常に重要である。冒頭から、Rihannaは従来のポップ・スターとしての期待に対して距離を置くように歌う。曲調はミニマルで、低くうねるベース、抑えたビート、空間のあるプロダクションが中心になっている。派手な導入ではなく、むしろ聴き手を暗い部屋の中へ引き込むような始まり方である。

歌詞では、自分の自由、自分の時間、自分の表現を求める姿勢が明確に示される。タイトルの「Consideration」は「配慮」や「考慮」を意味するが、ここでは他者から一方的に求められる期待に対して、自分自身の意志を尊重してほしいというニュアンスを持つ。これはRihanna自身のキャリアにも重なる。長年にわたりポップ市場の要求に応え続けてきた彼女が、ここで自分の作品を自分のものとして提示している。

SZAの参加も象徴的である。SZAは後にオルタナティヴR&Bを代表する存在となるが、この曲では彼女の柔らかく揺れる声が、Rihannaのクールな歌唱と対照を作る。二人の声は完全に溶け合うというより、互いの距離を保ちながら並び立つ。その緊張感が、アルバムの始まりにふさわしい。

「Consideration」は、従来のRihannaのアルバムであればリード・シングル的な派手さを持たない。しかし『ANTI』においては、それこそが重要である。この曲は「これまでとは違う作品が始まる」ということを、音楽的にも歌詞的にもはっきり示している。

2. James Joint

「James Joint」は、1分程度の短い楽曲でありながら、『ANTI』のムードを凝縮した小品である。煙のように漂うエレクトリック・ピアノ、ゆるやかなコード、Rihannaのリラックスした歌唱が、アルバムに親密で少し酩酊した雰囲気を与える。タイトルの「Joint」は、名前や場所を連想させると同時に、ドラッグ・カルチャーやくつろぎの空間も思わせる。

この曲の魅力は、完成されたポップ・ソングというより、感情の断片のように存在している点にある。歌詞は短く、恋愛や身体的な親密さを軽やかに示す。ここでのRihannaは、説明的に何かを語るのではなく、ある瞬間の空気を切り取っている。『ANTI』にはこのような断片性が多く、アルバム全体をより自然で私的なものにしている。

音楽的には、ネオソウルやジャズ寄りのR&Bの影響が感じられる。ビートで強く押すのではなく、コードの響きと声の質感で聴かせるタイプの曲である。Rihannaの声は非常に近く、まるで隣で歌っているような距離感がある。

「James Joint」は短いが、アルバムの重要な役割を担う。ポップ・スターの大きな舞台ではなく、個人の部屋、深夜、煙、会話の間にある音楽。『ANTI』が目指す親密な音像を、非常にコンパクトに提示している。

3. Kiss It Better

「Kiss It Better」は、本作の中でも最もメロディアスで、ロック・バラード的な広がりを持つ楽曲である。80年代的なギターの質感、艶のあるシンセ、ゆったりしたビートが組み合わされ、官能的でドラマティックな空気を作る。Rihannaのヴォーカルはここで非常にしなやかで、愛と欲望、怒りと未練の間を行き来する。

歌詞では、壊れかけた関係を修復したいという願望が、身体的なイメージを通じて表現される。「Kiss it better」という言葉は、傷ついた場所にキスをして癒やすという子どもじみた優しさを持ちながら、同時に非常に官能的な意味を帯びる。Rihannaはその二重性を巧みに使い、恋愛における痛みと快楽の近さを描いている。

音楽的には、ギターの存在感が非常に大きい。Rihannaの過去のヒット曲では、ビートやシンセが主役になることが多かったが、この曲ではロック的なギター・ラインが楽曲の感情を牽引する。だが、それはハードロック的な攻撃性ではなく、夜の湿度を持つ官能的なギターである。

「Kiss It Better」は、『ANTI』の中でも比較的ポップな魅力が強い曲だが、単純なラブソングではない。関係を修復したい気持ちと、相手を責めたい気持ちが同時にある。Rihannaの歌唱は、その矛盾を非常に自然に表現している。

4. Work feat. Drake

「Work」は、Drakeを迎えた楽曲であり、『ANTI』の中で最も大きな商業的成功を収めた曲である。ダンスホールを基盤にしたリズム、ミニマルなプロダクション、反復されるフックが特徴で、Rihannaのカリブ海的なルーツがメインストリーム・ポップの中で自然に表れている。非常にシンプルに聴こえるが、実際には声、リズム、余白の使い方が巧みな楽曲である。

歌詞では、恋愛関係における努力、疲労、すれ違い、身体的な関係が断片的に描かれる。「work」という言葉は、仕事、努力、関係を維持するための苦労、身体の動きなど複数の意味を持つ。Rihannaの発音は言葉を明確に区切るというより、リズムの中に溶かし込むようであり、それが曲全体の中毒性を高めている。

Drakeの参加は、2010年代中盤のポップ/R&B/ダンスホールの融合を象徴している。彼のパートはRihannaの声を補完しながら、関係の中の男性側の曖昧さを加える。ただし、曲の中心はあくまでRihannaである。彼女の声のリズム感と態度が、この曲を支配している。

「Work」は、一見すると軽いダンス・トラックだが、アルバム全体の中では重要な役割を持つ。『ANTI』の内省的な空気の中に、身体性とカリブ海的なグルーヴを持ち込むことで、作品に広がりを与えている。

5. Desperado

「Desperado」は、荒野や逃亡者を思わせるタイトルを持つ、暗く重い楽曲である。低音の効いたビート、乾いた空気感、Rihannaの抑えたヴォーカルが、孤独で映画的な世界を作る。タイトルはアメリカ西部劇的なイメージを持つが、ここでは現代的な孤立や逃避の比喩として機能している。

歌詞では、誰かと一緒に逃げること、あるいは孤独同士が結びつくことが描かれる。恋愛というより、共犯関係に近い感覚がある。互いに傷を持ち、社会から少し外れた場所にいる二人が、完全な救いではなく、一時的な逃避を共有する。そのムードが楽曲全体を支配している。

音楽的には、トラップ以降の重いビートと、R&Bのメロディが融合している。派手な展開は少なく、曲は一定の暗いテンションを保ったまま進む。Rihannaの声は冷静で、感情を過剰に出さない。その抑制が、逆に孤独を強く感じさせる。

「Desperado」は、『ANTI』の中でも特にムード重視の曲であり、Rihannaがポップの明るいイメージから離れ、暗い物語性を扱う表現者であることを示している。ここでの彼女はスターというより、夜の逃亡者のような存在である。

6. Woo

「Woo」は、Travis Scott的な空気を感じさせるざらついたプロダクションと、Rihannaの退廃的なヴォーカルが特徴の楽曲である。曲は不安定で、歪んだ音像と反復的なフレーズが、関係の不健全さや感情の混乱を表現している。『ANTI』の中でも特に実験的で、聴きやすさよりも質感を重視した曲である。

歌詞では、相手への執着、感情の揺れ、身体的な引力、そして自分でも整理できない関係性が描かれる。タイトルの「Woo」は、相手を口説く、惹きつけるという意味を連想させるが、ここでは甘い誘惑というより、疲れた引力のように響く。近づきたいのか、突き放したいのかがはっきりしない。

音楽的には、ビートの荒れた質感が重要である。音は滑らかではなく、歪みや隙間が目立つ。Rihannaの声も完全に前へ出るのではなく、音の中に沈むように配置される。これにより、曲全体が酩酊したような不安定さを持つ。

「Woo」は、従来のポップ・アルバムならシングル向きとは言いにくい楽曲である。しかし『ANTI』においては、こうした曲が作品の深みを作っている。Rihannaが自分の音楽をチャートの形式だけに従わせないことを示す、重要な実験的トラックである。

7. Needed Me

「Needed Me」は、『ANTI』の中でも特にRihannaのクールな主体性が際立つ楽曲である。ミニマルなビート、冷たいシンセ、低く抑えられたヴォーカルが、相手を突き放すような感情を作る。ここでのRihannaは、傷ついた側でありながら、同時に相手の幻想を冷静に切り捨てる存在でもある。

歌詞では、相手が自分を必要としていたこと、しかし自分はその関係に同じだけの意味を置いていなかったことが歌われる。これは従来のラブソングの構図を反転させている。女性が愛を求めて傷つくのではなく、相手の感情や期待を見抜き、それに縛られない立場を取る。Rihannaのイメージにおける強さが、非常に鮮明に出た曲である。

音楽的には、余白が重要である。音数は少なく、ビートは重いが派手ではない。Rihannaの声は冷たく、無駄な感情表現を避けている。そのため、言葉の一つひとつが鋭く響く。怒りを叫ばずに、冷静に相手を切る。この態度が曲の魅力である。

「Needed Me」は、2010年代のR&Bにおける女性主体の表現としても重要である。恋愛における受け身の役割を拒み、自分の欲望と距離感を自分で決める。この曲は、『ANTI』の核心にある自立したRihanna像を象徴している。

8. Yeah, I Said It

「Yeah, I Said It」は、短くミニマルなR&Bトラックであり、Rihannaの官能的な声の質感が前面に出ている。タイトルは「そう、私はそう言った」という意味を持ち、自分の欲望や言葉に対する迷いのなさを示している。非常に控えめな音像だが、態度は強い。

歌詞では、身体的な親密さ、欲望、関係の主導権が描かれる。ここでのRihannaは、遠回しな表現を避け、自分が望むものをはっきり示す。だが、それは大声で主張するのではなく、低くつぶやくように提示される。その抑えた表現が、かえって強い官能性を生む。

音楽的には、ビートもメロディも非常に少ない。ほとんど空白の中で、Rihannaの声が漂うように置かれる。『ANTI』の多くの曲に共通することだが、この作品では「歌いすぎないこと」が重要な表現になっている。余白があるからこそ、声の距離感や息づかいが強く感じられる。

「Yeah, I Said It」は、派手な楽曲ではないが、アルバムの親密な側面を支える重要な曲である。Rihannaが自分の身体性を、自分の言葉で表現する姿勢が明確に示されている。

9. Same Ol’ Mistakes

「Same Ol’ Mistakes」は、Tame Impalaの「New Person, Same Old Mistakes」をほぼ原曲に近い形でカバーした楽曲であり、『ANTI』の中でも特に異色である。サイケデリック・ロック/ドリームポップ的な音像が広がり、Rihannaはその浮遊するサウンドの中に自分の声を置く。意外な選曲でありながら、アルバムのテーマには非常によく合っている。

歌詞では、新しい自分になろうとしながら、結局は同じ過ちを繰り返してしまう人間の矛盾が描かれる。これは『ANTI』全体に通じるテーマである。自由を求め、変化しようとし、過去の自分を脱ぎ捨てようとする。しかし、欲望や癖、感情のパターンは簡単には変わらない。この曲はその矛盾を、サイケデリックな浮遊感の中で表現する。

Rihannaのカバーは、原曲の男性的な内省を、彼女自身のキャリアや恋愛観へ移し替えている。声の質感は原曲よりも艶があり、歌詞の中の迷いに別の身体性を与えている。彼女は曲を大きく作り替えるのではなく、自分の存在感によって意味を変える。

「Same Ol’ Mistakes」は、『ANTI』が単なるR&Bアルバムではなく、ジャンルを横断する作品であることを示している。Rihannaがポップ・スターとして、インディー/サイケデリックの文脈も自分のアルバムに取り込めることを証明した楽曲である。

10. Never Ending

「Never Ending」は、アコースティックな質感を持つ穏やかな楽曲であり、アルバム後半に柔らかな陰影を与える。ギターを中心にしたサウンドは、これまでの重いビートや電子的な音像から少し距離を置き、よりシンガーソングライター的な親密さを持つ。Rihannaの声もここでは繊細で、どこか懐かしさを帯びている。

歌詞では、終わったはずの感情が終わらないこと、記憶や愛が続いていく感覚が描かれる。タイトルの「Never Ending」は、永遠の愛という単純な意味ではなく、終わらせたいのに終わらない感情の持続として響く。過去は終わった出来事であっても、心の中では何度も戻ってくる。

音楽的には、メロディの素直さが印象的である。『ANTI』の中では比較的ストレートに美しい曲だが、過度に感傷的にはならない。Rihannaの歌い方が抑えられているため、曲は静かな余韻を残す。

「Never Ending」は、アルバムの感情的なバランスを整える役割を持つ。強さや官能性、冷たさが続いた後に、この曲はRihannaの脆さや過去へのまなざしを浮かび上がらせる。『ANTI』が単なる強い女性像の提示ではなく、複雑な感情のアルバムであることを示す一曲である。

11. Love on the Brain

「Love on the Brain」は、本作の中でも特にクラシックなソウル・バラードの形式を持つ楽曲である。ドゥーワップや60年代ソウルを思わせるコード進行、揺れるリズム、感情的なヴォーカルが特徴で、Rihannaの歌唱力が非常に強く印象に残る。『ANTI』の中では最も伝統的な歌ものに近い曲である。

歌詞では、痛みを伴う愛への依存が描かれる。相手との関係が自分を傷つけると分かっていながら、愛から離れられない。タイトルの「Love on the Brain」は、愛が頭から離れず、理性を支配してしまう状態を示している。これはロマンティックであると同時に、非常に危うい感情である。

Rihannaのヴォーカルは、ここで大胆に感情を揺らす。低い声から高い声へ、抑制から叫びへと移行し、愛の苦しさを身体的に表現する。彼女の歌唱は完璧に滑らかではなく、少し荒れた質感を持つ。その荒さが、曲の痛みを強めている。

「Love on the Brain」は、『ANTI』の中でRihannaがソウル・シンガーとしての力を示した楽曲である。現代的なプロダクションだけでなく、古典的なソウルの感情表現にも接続できることを証明している。アルバム後半の大きな山場である。

12. Higher

「Higher」は、非常に短いながらも強烈なバラードである。酒に酔った深夜の電話のような荒れたムードを持ち、Rihannaの声はかすれ、割れ、感情がむき出しになっている。美しく整えられたバラードではなく、壊れかけた状態の感情をそのまま録音したような曲である。

歌詞では、酔い、後悔、未練、相手への連絡衝動が描かれる。夜中に感情が高まり、普段なら言わないことを言ってしまうような瞬間。Rihannaの声の荒れ方が、その状況を非常にリアルに伝える。ここでは技巧的な正確さよりも、感情の生々しさが重要である。

音楽的には、ストリングスを含むクラシックなバラード風のアレンジが使われているが、歌唱の荒さによって上品さが崩される。その崩れこそが曲の核心である。『ANTI』は全体を通じて完成度の高いアルバムだが、「Higher」ではあえて不完全な声が残されている。

この曲は、Rihannaの強さの裏にある脆さを最も直接的に示す。強がり、官能、冷たさの奥に、酔った夜に誰かへ電話したくなる人間的な弱さがある。「Higher」は短いが、非常に印象的な感情の爆発である。

13. Close to You

通常盤のラストを飾る「Close to You」は、ピアノを中心にした静かなバラードであり、『ANTI』を非常に内省的に締めくくる楽曲である。アルバム全体を通じてさまざまな態度を見せてきたRihannaが、最後にもっとも素直で静かな声に戻るような曲である。

歌詞では、相手の近くにいたいという願い、しかし完全には届かない距離が描かれる。タイトルは親密さを示すが、曲全体には切なさがある。近くにいることと、本当に理解し合うことは同じではない。Rihannaはその距離を、抑えた歌唱で表現している。

音楽的には、非常にシンプルである。大きなビートも派手なプロダクションもなく、声とピアノが中心になる。この簡素さが、アルバムの終わりに深い余韻を与える。『ANTI』は音響的に多彩な作品だが、最後には声そのものの力へ戻ってくる。

「Close to You」は、Rihannaのポップ・スターとしての華やかさではなく、一人のシンガーとしての静かな表現を示す曲である。アルバムの締めくくりとして、過剰な結論ではなく、未解決の感情を残す点が非常に効果的である。

14. Goodnight Gotham

デラックス版に収録された「Goodnight Gotham」は、短いながらも壮大な音響を持つ楽曲である。サンプリングされた声のループと広がる空間が、都市の夜景のような印象を作る。タイトルの「Gotham」は架空都市や大都市の象徴を思わせ、現実と幻想の境界にある夜のポップ・スケープを描いている。

歌詞はほとんど断片的で、楽曲としてはインタールードに近い。しかし、その短さの中に『ANTI』の都市的で夢幻的な側面が凝縮されている。Rihannaの声は明確な物語を語るのではなく、音の中に溶け込む。

アルバム本編後の余韻として聴くと、「Goodnight Gotham」は大きな都市の夜へ別れを告げるように響く。『ANTI』の親密さと、ポップ・スターとしての巨大なスケールが一瞬だけ交差する楽曲である。

15. Pose

「Pose」は、デラックス版の中でも最も攻撃的で、クラブ向けのエネルギーを持つ楽曲である。タイトルは「ポーズを取る」という意味であり、ファッション、自己演出、視線を浴びること、そして自分を強く見せる態度を連想させる。Rihannaのパブリック・イメージと非常に相性のよい曲である。

サウンドは硬く、ビートは強い。『ANTI』本編のムード重視の流れに比べると、より直接的で挑発的である。Rihannaのヴォーカルも攻撃的で、相手を圧倒するように響く。

歌詞では、自分を見せること、自分の存在を誇示することがテーマになっている。ここでの「pose」は空虚な見栄ではなく、自己支配のポーズでもある。見られる存在でありながら、自分がどう見られるかを自分で決める。これはRihannaのファッション・アイコンとしての側面とも重なる。

「Pose」は、アルバム本編の内省とは異なるが、Rihannaの強い態度を補完する楽曲である。『ANTI』の世界に、より外向きで挑発的なエネルギーを加えている。

16. Sex with Me

「Sex with Me」は、デラックス版の最後に置かれた楽曲であり、Rihannaの官能性と自己肯定が非常に明確に表れた曲である。タイトルは直接的だが、曲自体は下品というより、余裕と自信に満ちたR&Bトラックとして成立している。

サウンドは滑らかで、ビートはゆったりしている。Rihannaのヴォーカルはリラックスしており、相手を誘うというより、自分の魅力を当然のものとして提示する。ここには媚びる態度はなく、主導権を握る側の余裕がある。

歌詞では、身体的な関係が自分の価値や魅力の一部として語られる。Rihannaは欲望の対象になるだけではなく、その欲望のルールを自分で決める。『ANTI』全体に通じる主体性が、この曲では非常に官能的な形で表現されている。

デラックス版の締めくくりとして、「Sex with Me」は『ANTI』のもう一つの顔を示す。内省、孤独、痛みだけではなく、快楽、身体、自信もまたRihannaの表現の重要な要素である。

総評

『ANTI』は、Rihannaのキャリアにおける最重要作のひとつであり、2010年代ポップにおいても大きな意味を持つアルバムである。本作以前のRihannaは、シングル・ヒットの強さによって時代を代表するポップ・スターとなっていた。しかし『ANTI』では、彼女はその成功の形式から意図的に離れ、ムード、声、余白、ジャンル横断性を重視するアルバムを作り上げた。

本作の最大の特徴は、ポップ・アルバムでありながら、従来のポップ的な分かりやすさを必ずしも優先していない点である。大きなサビ、明快なEDMビート、ラジオ向けの即効性よりも、空気感や態度が重視されている。「Consideration」や「Woo」「Yeah, I Said It」のような曲は、従来のポップ・シングルの基準では控えめに聴こえるかもしれない。しかし、それらの曲が作る暗く湿った音響空間こそが、『ANTI』の核である。

Rihannaのヴォーカルも、本作で大きく再評価されるべき要素である。彼女は声を張り上げる技巧派としてではなく、声の質感と態度で曲を支配するシンガーである。「Needed Me」では冷たく突き放し、「Love on the Brain」ではソウルフルに揺れ、「Higher」では壊れかけた感情をむき出しにし、「Close to You」では静かな脆さを見せる。これらの表現は、Rihannaが単なるヒット曲の歌い手ではなく、曲ごとの人格を作り出せる表現者であることを示している。

歌詞の面では、愛と欲望の扱いが非常に重要である。『ANTI』のRihannaは、恋愛に従属しない。相手を求めるが、相手に支配されない。傷つくが、被害者の役割だけには収まらない。官能的でありながら、視線の主導権を握る。「Needed Me」「Yeah, I Said It」「Sex with Me」などでは、女性の欲望と自己決定が明確に表現されている。一方で、「Never Ending」「Higher」「Close to You」では、未練や脆さも隠さない。この複雑さが本作を単純な強さのアルバム以上のものにしている。

音楽的には、オルタナティヴR&B、ダンスホール、トラップ、ソウル、サイケデリック・ロック、アコースティック・バラードが自然に混ざり合っている。「Work」ではカリビアンなリズムがメインストリームに接続され、「Same Ol’ Mistakes」ではTame Impalaのサイケデリックな世界をRihanna自身の物語へ取り込む。「Love on the Brain」ではクラシック・ソウルへ接近し、「Desperado」では現代的な暗いR&Bの物語性を示す。この多様性は、単なるジャンルの寄せ集めではなく、Rihannaという声を中心に統一されている。

『ANTI』は、Rihannaが自分のポップ・スター像を破壊し、再構築したアルバムである。タイトル通り、それは「反」ポップというより、「既定のポップ・スター像に対する反抗」である。彼女はここで、自分の音楽が常にチャートの即効性に従う必要はないことを示した。結果として、本作はリリース当初以上に時間を経て評価を高めた作品となった。即座に分かりやすいヒット集ではなく、聴き手の中でじわじわと意味を増すアルバムだからである。

日本のリスナーには、過去のRihannaの代表曲を期待して聴くと少し戸惑うかもしれない。しかし、2010年代以降のR&Bやポップが、どのようにムード、声、身体性、自己演出を重視する方向へ変化したかを理解するうえで、『ANTI』は非常に重要である。SZA、Solange、Frank Ocean、The Weeknd、Beyoncé、FKA twigsなどの作品と並べて聴くことで、本作の時代性と独自性がより明確になる。

総じて『ANTI』は、Rihannaが商業的成功の延長線から離れ、自分自身の音楽的空間を作り上げた作品である。暗く、官能的で、強く、脆く、断片的でありながら統一感がある。ポップ・スターが自らの巨大なイメージを脱ぎ捨て、声と態度だけで新しい存在感を獲得した、2010年代を代表するアルバムである。

おすすめアルバム

1. SZA『Ctrl』

オルタナティヴR&Bにおける自己分析、恋愛の不安、身体性、女性の主体性を深く掘り下げた重要作。『ANTI』の「Consideration」でRihannaと共演したSZAが、自身の世界をさらに拡張したアルバムであり、曖昧な感情をR&Bの余白で表現する点で強く関連している。

2. Beyoncé『Lemonade』

2010年代ポップにおいて、アルバム全体を強いコンセプトと個人的テーマで構成した代表作。R&B、ロック、カントリー、ソウルを横断しながら、女性の怒り、痛み、回復、黒人文化の記憶を描く。『ANTI』と同じく、ポップ・スターがアルバム表現を大きく更新した作品である。

3. Solange『A Seat at the Table』

静謐なR&B、ソウル、ファンクを通じて、自己回復、黒人女性の経験、内面的な誇りを描いた作品。『ANTI』よりも瞑想的で社会的な文脈が強いが、音の余白や声の配置を重視する美学には共通点がある。2010年代R&Bの成熟を理解するうえで重要である。

4. Frank Ocean『Blonde』

断片的な構成、曖昧な感情、ジャンルを横断する音響、内省的な歌詞によって、2010年代のポップ/R&Bを大きく変えた作品。『ANTI』と同じく、即効性よりも余韻と空気を重視するアルバムであり、ポップの中心にありながら実験的な姿勢を持つ点で関連性が高い。

5. Tame Impala『Currents』

『ANTI』でカバーされた「New Person, Same Old Mistakes」を収録した作品。サイケデリック・ロック、シンセポップ、内省的な歌詞を融合し、変化しようとしても同じ過ちを繰り返す人間の心理を描く。Rihannaが『ANTI』で取り込んだサイケデリックな側面を理解するうえで重要な関連作である。

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