Andromeda by Weyes Blood(2019)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Andromeda」は、アメリカのシンガーソングライター、Weyes Blood(本名:Natalie Mering)が2019年にリリースしたアルバム『Titanic Rising』に収録された楽曲であり、宇宙の神話と恋愛の感情を交差させながら、自立と依存の間で揺れ動く女性の内面を描いた珠玉のバラードである。

曲のタイトル「Andromeda」は、ギリシャ神話に登場する王女の名前であると同時に、アンドロメダ銀河をも想起させる象徴的な言葉。この名が示すように、本作では個人的な恋愛と宇宙的なスケールの孤独や希望が重ね合わされており、Weyes Bloodの音楽の持つ“私的でありながら普遍的”という二重性が極めて鮮やかに表現されている

歌詞の語り手は、自分の心の中にある深い傷と向き合いながらも、誰かにすがることなく自分の意思で愛と未来を選び取ろうとする強さと脆さのあいだに立っている。愛することの喜びと恐れ、その相反する感情を、彼女は神話と星々を借りて詩的に歌い上げる。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Andromeda」は、Weyes Bloodの代表作『Titanic Rising』からのリードシングルとして発表され、アルバム全体のトーンを象徴する作品となった。Weyes Bloodは、1970年代のシンガーソングライター(特にKaren CarpenterやJoni Mitchell)の影響を色濃く受けながら、現代的なフィーリングとメランコリックな電子音を融合させる独自のスタイルで知られている。

本作では、Jonathan Rado(Foxygen)がプロデューサーとして参加しており、アナログ的な温かみと宇宙的な浮遊感を併せ持ったサウンドスケープが特徴となっている。

Weyes Blood自身はこの楽曲について、「自分が愛を恐れている理由を理解しようとしている曲」と語っており、それは恋愛におけるトラウマ、自己防衛、そして愛を信じることの困難さといった非常に個人的でありながら、多くの人に共通するテーマを内包している。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に、「Andromeda」の印象的なフレーズを抜粋し、日本語訳を併記する。

Andromeda’s a big, wide open galaxy
アンドロメダは大きく広がる銀河

Nothing in the way to me
私の行く手を阻むものはない

I’ve been afraid all of my life
私はずっと怖がってきたの、人生ずっと

If you think you can save me
もしあなたが私を救えると思っているなら

Don’t mean a thing
それは何の意味もないの

Because I’ve got to save myself
私自身を救うのは、私だけだから

出典:Genius – Weyes Blood “Andromeda”

4. 歌詞の考察

「Andromeda」は、愛されることへの恐れと、自立を守ろうとする意思が繊細に共存する歌である。冒頭の「Andromeda’s a big, wide open galaxy」という詩句が示す通り、語り手は壮大な宇宙の中に身を置いているが、それは決して自由や解放の象徴だけではない。むしろそこには“孤独”という代償が伴っている

「I’ve been afraid all of my life」という告白は、語り手が単なる恋愛の葛藤ではなく、自己形成の中で抱え続けてきた根深い不安やトラウマに触れていることを示している。そしてそれに続く「Don’t mean a thing / Because I’ve got to save myself」というラインでは、誰かに頼るのではなく、自分自身で乗り越えなければならないという決意が語られる。

この曲の核心は、「愛が欲しいけれど、それに依存して壊れるのが怖い」という女性の内的闘争にある。Andromedaは神話では救われを待つ存在だったが、Weyes Bloodのアンドロメダは自ら舵を取る存在として再定義されているのだ。

音楽的にも、静かなリズムと宇宙的なシンセ、エコーのかかったヴォーカルが、感情が内側に向かって沈み込んでいくような感覚を強調しており、聴き手もまたその情緒の流れに引き込まれる構造になっている。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Motion Sickness by Phoebe Bridgers
    恋愛と自己の複雑な関係をユーモアと痛みで語る名曲。

  • Cosmic Dancer by T. Rex
    宇宙と自己を重ね合わせる詩的なロック・バラード。
  • Song to the Siren by This Mortal Coil
    神秘的で儚く、愛と喪失の幻想が織りなされる美しいカバー曲。

  • Cinnamon Girl by Lana Del Rey
    不安定な愛の中にいる女性の視点から描かれた、優雅でメランコリックなポップ。

  • Into My Arms by Nick Cave & The Bad Seeds
    信仰と愛、喪失と祈りの交差点にある名バラード。

6. “アンドロメダのように、美しく、孤独で、自立する”——Weyes Bloodが描く愛と解放の星図

「Andromeda」は、Weyes Bloodというアーティストの魅力を凝縮したような楽曲であり、壮大な音の宇宙の中に、とても人間的な弱さと強さが同居している。この曲が特別なのは、ロマンティックな音楽でありながら、甘えや依存を肯定しない硬質な意志が中心にある点にある。

愛されたい。でも、それだけでは足りない。誰かに救ってもらいたい気持ちはあるけれど、最終的に自分を救えるのは自分だけ。その事実に気づいてしまったとき、人は孤独を受け入れ、それでも希望を持って前に進むしかない。それが、この曲が語る“愛と自己解放の物語”である。

「Andromeda」は、あなたが愛の中で迷い、自分自身を見失いそうになったとき、宇宙の静けさとともに、自分の心の声を取り戻すための一曲になるだろう。あなたの内なる銀河が、また回り始めるように。

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