発売日: 2000年2月22日
ジャンル: インディーロック、ドリームポップ、アンビエント
Yo La Tengoの10作目のアルバム「And Then Nothing Turned Itself Inside-Out」は、バンドの成熟と新たな表現への挑戦が見られる作品である。90年代のインディーロックシーンで確固たる地位を築いたYo La Tengoだが、このアルバムではノイズロックのエネルギーを抑え、穏やかで内省的な音楽性を追求している。静謐でリリカルなサウンドが全体に広がり、ドリームポップやアンビエント的な要素が強調され、深い感情の中に引き込まれるような一枚だ。
アイラ・カプラン、ジョージア・ハブレイ、ジェームズ・マクニューのトリオが紡ぐサウンドは、リスナーに親密で夢幻的な体験を提供する。愛や孤独、内面の葛藤といったテーマが淡々としたリリックに込められており、抑制の効いた演奏と穏やかなメロディがそれを支えている。タイトルにある「Inside-Out」という言葉が示すように、Yo La Tengoは音の中で内面を探求し、その静かな中にも豊かな感情を表現している。
各曲解説
1. Everyday
アルバムの幕開けを飾る「Everyday」は、ミニマルなビートと淡々としたメロディが特徴的。ジョージア・ハブレイの穏やかなボーカルが、日常の静けさや穏やかな心情を映し出し、アルバム全体のトーンを象徴している。
2. Our Way to Fall
アイラ・カプランがボーカルを務めるこの曲は、恋愛の始まりを懐かしく振り返るノスタルジックなナンバー。柔らかなギターと控えめなドラムが、過去への甘く切ない想いを包み込み、アルバムの中でも特にロマンティックな瞬間を提供する。
3. Saturday
静かに流れるメロディと反復されるリズムが、ゆったりとした土曜日の午後を感じさせる一曲。ボーカルとインストゥルメンタルが柔らかく溶け合い、聴き手を穏やかな時間へと誘うような、心地よいトラックだ。
4. Let’s Save Tony Orlando’s House
エレクトロニックなビートと軽快なギターが特徴のこの曲は、少しコミカルな雰囲気が漂う。タイトルの通り、ユーモラスな視点が感じられ、シンプルなメロディと遊び心がYo La Tengoの多様性を表している。
5. Last Days of Disco
シンプルな構成ながらも、深い情緒が漂う一曲。タイトルとは裏腹に穏やかでミニマルなビートが、終焉を迎えるディスコの静かな余韻を表現している。メランコリックなムードが心に残る。
6. The Crying of Lot G
ジョージアのボーカルが響く「The Crying of Lot G」は、静けさの中に深い感情が込められたバラード。儚げなメロディと淡々とした歌声が、切なくも美しい印象を与える。
7. You Can Have It All
ジョージアがリードするカバー曲で、オリジナルはジョージ・マックレーのディスコナンバーをアレンジしたもの。軽快でポップなリズムがアルバムに華やかさを加え、Yo La Tengoの持つ多彩な音楽性が表現されている。
8. Tears Are in Your Eyes
繊細でエモーショナルなバラードで、ジョージアのボーカルが深い感情を込めて歌い上げる。シンプルなピアノとギターが、歌詞の持つ悲しみや苦しみを優しく包み込み、リスナーに静かな感動を与える。
9. Cherry Chapstick
アルバムの中で最もエネルギッシュな一曲で、Yo La Tengoのノイズロック的な側面が炸裂する。ディストーションの効いたギターが疾走感を生み出し、アルバムの静かなムードを一瞬打ち破るような力強い楽曲だ。
10. From Black to Blue
穏やかで静かなトラックで、淡いギターとミニマルなリズムが心に沁みる。カプランのボーカルが遠くから聞こえるように響き、メランコリックな雰囲気を漂わせている。
11. Madeline
短くシンプルなインストゥルメンタルで、アルバム全体の流れの中で静かな息抜きとして機能している。ミニマルなピアノが美しく、儚げな印象を残す。
12. Tired Hippo
ゆったりとしたビートと、柔らかなギターの響きが心地よい一曲。繊細でドリーミーなサウンドが、聴く者をリラックスさせる効果を持っている。
13. Night Falls on Hoboken
アルバムのラストを飾る17分以上の壮大なトラックで、Yo La Tengoの即興的で実験的な側面が表れた一曲。ギターやドラムが徐々に重なり合い、静かに盛り上がっていく。アンビエントのようなサウンドスケープが広がり、アルバム全体をまとめ上げる美しいフィナーレだ。
アルバム総評
「And Then Nothing Turned Itself Inside-Out」は、Yo La Tengoのサウンドが洗練され、インディーロックの枠を超えて静かで親密な音世界を作り上げた傑作だ。ドリームポップやアンビエントの影響が強く、静けさと繊細さが際立つ一枚となっている。静かな夜や雨の降る日といった情景が思い浮かぶような穏やかなサウンドスケープが広がり、リスナーを深い内面の旅へと誘う。「I Can Hear the Heart Beating as One」からの進化を示すアルバムで、Yo La Tengoの真骨頂が詰まった作品として、多くのリスナーに愛され続けるだろう。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Sea Change by Beck
感情的でメランコリックなサウンドが特徴の作品で、「And Then Nothing Turned Itself Inside-Out」のように内省的な世界観が広がる。
On Fire by Galaxie 500
静寂とメロディが共存するドリームポップの名作で、Yo La Tengoの静かでメランコリックな側面が好きなリスナーに響く。
Perfect from Now On by Built to Spill
広がりのあるサウンドスケープと情緒的なメロディが特徴。アンビエントやドリームポップの影響が感じられるアルバム。
Disintegration by The Cure
ゴシックで暗いサウンドが特徴で、Yo La Tengoの持つ内向的なムードが共通。深い感情が込められた傑作。
The Soft Bulletin by The Flaming Lips
感情を豊かに表現したサイケデリックロックの名作。温かく包み込むようなサウンドが、Yo La Tengoの静かな情感と通じるものがある。
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