アルバムレビュー：American Football (2019) by American Football

発売日: 2019年3月22日
ジャンル: エモ、ポストロック、マスロック

成熟したエモの到達点——American Footballが辿り着いた静かなる情熱
全曲レビュー
総評
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成熟したエモの到達点——American Footballが辿り着いた静かなる情熱

1999年のデビュー作American Football（通称「LP1」）がエモ史における伝説的アルバムとなり、2016年の再結成作American Football (LP2)でバンドは再びその存在を確立。そして2019年にリリースされた本作American Football (LP3)は、バンドの成熟と新たな音楽的探求が見られる、彼らのキャリアにおける最も洗練された作品となった。

本作では、ポストロック的な広がりのあるアレンジが強調され、エモの持つ内省的な感情をより深く、静かに表現している。また、ゲストボーカルにHayley Williams（Paramore）、Elizabeth Powell（Land of Talk）、Rachel Goswell（Slowdive）といった、ジャンルを超えたアーティストを迎え、これまでのAmerican Footballとは異なる、新たなサウンドスケープを作り出している。

時間とともに変化する感情、成長と喪失、過去と現在の交差点——本作は、単なるエモのアルバムではなく、人生そのものを映し出すような作品である。

全曲レビュー

1. Silhouettes

アルバムの幕開けを飾る、8分を超える大作。ポストロック的な広がりのあるギターアルペジオと、空間的なリバーブを活かしたプロダクションが印象的。マリンバのようなパーカッションが加わり、従来のAmerican Footballのサウンドとは異なる、新たなスタイルを感じさせる。

2. Every Wave to Ever Rise (feat. Elizabeth Powell)

Land of TalkのElizabeth Powellを迎えた美しいデュエット。カナダのフランス語圏出身の彼女が歌うフランス語の歌詞が楽曲に幻想的な雰囲気を与えている。水の流れのように揺れるギターリフが印象的で、エモというよりもポストロックに近いアプローチが取られている。

3. Uncomfortably Numb (feat. Hayley Williams)

本作のハイライトのひとつ。ParamoreのHayley Williamsとのデュエットが実現した、メロウで切ない楽曲。タイトルはPink Floydの「Comfortably Numb」へのオマージュを感じさせるが、その意味は正反対で、「歳を重ねるにつれて感情が麻痺していくこと」を描いている。Hayleyの柔らかくも力強いボーカルが、楽曲に繊細な感情の奥行きを加えている。

4. Heir Apparent

静かなギターアルペジオと、徐々に高まるダイナミズムが特徴的な楽曲。Mike Kinsellaの控えめなボーカルが、楽器の流れるような美しさを際立たせている。

5. Doom in Full Bloom

アルバムの中で最もポストロック色が強い楽曲。ゆったりとしたテンポの中で、繊細なギターのレイヤーが重なり合い、映画のサウンドトラックのような壮大な雰囲気を生み出している。

6. I Can’t Feel You (feat. Rachel Goswell)

SlowdiveのRachel Goswellをゲストに迎えたシューゲイザー的な楽曲。彼女の儚げなボーカルが、曲全体にドリーミーな雰囲気を加えており、American Footballが新たな音楽的領域へ踏み込んでいることを示している。

7. Mine to Miss

繊細なギターリフと、内省的な歌詞が印象的な楽曲。タイトルの「Mine to Miss（自分が逃したもの）」というフレーズは、過去の選択や人生の決断に対する後悔を示唆している。

8. Life Support

アルバムを締めくくる、美しくも切ない楽曲。アコースティックなギターの音色と、Mike Kinsellaの静かなボーカルが、まるで人生の終わりを見つめるような感傷的なムードを作り出している。

総評

American Football (2019)は、彼らのキャリアの中で最も洗練され、静かに心に響く作品となった。

1999年のデビュー作（LP1）が「青春の儚さと喪失感」を描き、2016年の再結成作（LP2）が「大人になった喪失感」を表現していたのに対し、本作（LP3）は「成熟の中で見出す美しさと、新たな可能性」をテーマとしている。

特に、ゲストボーカルとのコラボレーションがアルバムに新たな奥行きを加えており、バンドの音楽性がエモの枠を超えて進化していることを感じさせる。ポストロック的なアプローチ、シューゲイザー的な音響処理、そしてMike Kinsellaのシンプルながらも深みのある歌詞が、「静かなる情熱」を表現している。

もはや本作は、単なるエモ・アルバムではなく、時間とともに変化する人生の感情を音楽に落とし込んだ、ジャンルを超えた普遍的な作品である。

American Footballは、エモの象徴として語られ続けるバンドだが、今や彼らの音楽はエモという枠に収まらず、より広い視野を持ったアーティストへと進化している。本作は、その証明となる一枚であり、過去のリスナーだけでなく、新たな世代の音楽ファンにも響く作品となっている。