発売日: 2016年10月21日
ジャンル: エモ、ポストロック、マスロック
17年の時を超えて——American Footballが描く成熟と喪失の美学
1999年のデビューアルバムがエモの歴史における伝説的作品となったにもかかわらず、短期間で解散したAmerican Football。その後のエモ・リバイバルの波の中で再評価され、2014年の再結成を経て17年ぶりにリリースされたのが、本作American Football (2016)（通称「LP2」）である。
前作が青春の儚さや過去の恋愛への未練をテーマにしていたのに対し、本作は成熟した視点からの喪失や人生の不可逆性を描いている。サウンド面でも、エモとポストロックの融合を深化させ、より洗練されたアレンジと広がりのあるプロダクションが特徴的。
17年という時間が作り出した「あの頃の自分と現在の自分の対話」のようなアルバムであり、静かで美しく、そして切なく響く。
全曲レビュー
1. Where Are We Now?
アルバムの幕開けを飾る、静かで浮遊感のあるギターアルペジオと、Mike Kinsellaの柔らかくも疲れたような歌声が印象的な楽曲。タイトルが示すように、「現在地を見失った人生」をテーマにしており、かつての自分と今の自分を重ねるような感傷的な雰囲気が漂う。
2. My Instincts Are the Enemy
エモーショナルなギターリフと、マスロック的なリズム展開が特徴の楽曲。歌詞では「自分の本能が敵だ」と語られ、成長とともに変わる価値観や葛藤を表現している。
3. Home Is Where the Haunt Is
タイトルからも分かるように、「家＝心の拠り所でありながらも、過去の亡霊が付きまとう場所」というテーマを持つ楽曲。ギターの柔らかい響きと、幽玄なメロディが印象的。
4. Born to Lose
リズミカルなギターのループと、静かに語りかけるようなボーカルが印象的な楽曲。過去の失敗や喪失感を受け入れる成熟した視点が見える。
5. I’ve Been So Lost for So Long
アルバムの中でも特にエモーショナルな楽曲。歌詞は「長い間迷子になっていた」と歌われ、かつての自分を取り戻そうとするも、それができないもどかしさが描かれる。ギターのメロディがじわじわと心に染みる。
6. Give Me the Gun
前半の穏やかな楽曲とは対照的に、ドラムのビートが強調されたリズミカルな展開が特徴。歌詞は暗示的でありながらも、過去と現在の対話のような内容になっている。
7. I Need a Drink (or Two or Three)
アルコールを求めるというタイトルからも分かる通り、自己嫌悪や現実逃避の感情が色濃く反映された楽曲。静かに積み重なるギターとメロディが、心の奥底にある孤独を引き出す。
8. Desire Gets in the Way
比較的アップテンポなナンバーで、ギターのアルペジオが心地よい楽曲。アルバムの中では前向きな雰囲気を持ち、人生の希望や情熱がまだ消えていないことを示唆する。
9. Everyone Is Dressed Up
アルバムのラストを飾る壮大な楽曲。ストリングスが加わることで、これまでのAmerican Footballにはなかったシネマティックな広がりを見せる。タイトルの「みんな正装している」というフレーズには、成熟した大人たちの孤独や社会との距離感が暗示されているように感じられる。
総評
American Football (2016)は、1999年のデビュー作とは異なる視点から、喪失感や時間の経過、人生の変化を描いたアルバムである。
サウンド面では、1999年作の特徴であったマスロック的な変則リズムや複雑なギターアルペジオを踏襲しながらも、より洗練されたプロダクションと落ち着いたアレンジが施されており、静かに響くメロディとともに、感情の奥深くまで浸透していく。
また、歌詞のテーマもより大人の視点へとシフトしており、若い頃の激情的な恋愛や喪失ではなく、人生の中で避けられない変化や距離感が描かれている。例えば、「Where Are We Now?」や「I’ve Been So Lost for So Long」などは、かつての自分を探し続けるも、もう戻れないことを受け入れるような内容となっている。
本作は、1999年作の純粋な続編というよりも、あの時代を生きた者たちが、時を経て振り返るためのアルバムであり、まるで「大人になったエモファンのための作品」とも言える。
エモのクラシックとして崇拝されるデビュー作に比べると、即効性のある感情の爆発は控えめだが、じっくりと聴くことで、より深い味わいが生まれる作品となっている。
おすすめアルバム
- Mineral – EndSerenading (1998)
静かで感傷的なエモサウンドが、本作と共鳴する。 - The Appleseed Cast – Low Level Owl: Vol. 1 & 2 (2001)
エモとポストロックの融合を深化させた名盤。 - Explosions in the Sky – Take Care, Take Care, Take Care (2011)
静寂と激しさが交錯する、感情を揺さぶるポストロック。 - Owen – Owen (2001)
Mike Kinsellaによるソロプロジェクトで、よりフォーク寄りの繊細な楽曲が特徴。 - The World Is a Beautiful Place & I Am No Longer Afraid to Die – Harmlessness (2015)
2010年代のエモリバイバルを代表する作品で、本作と同じような叙情性を持つ。
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