発売日: 2005年4月12日
ジャンル: インディーロック、ポストパンクリバイバル、オルタナティブロック
アメリカのインディーロックバンドThe Nationalの3作目「Alligator」は、バンドが広く注目を集めるきっかけとなった重要な作品であり、彼らのダークでシネマティックなサウンドが確立されたアルバムでもある。フロントマンのマット・バーニンガーの低く渋いバリトンボイスと、リリックに込められた不安や孤独、葛藤が見事に融合し、インディーシーンで一気に注目を集めた。また、後のアルバムにも繋がる文学的な歌詞や深い感情表現が評価されている。
アルバム全体を通じて、都会的でメランコリックな雰囲気が漂い、ポストパンクリバイバルの影響が色濃く感じられる。メロディはどこか物悲しく、だがエネルギッシュで、バンドの緊張感あふれる演奏とシリアスな雰囲気が聴く者を引き込む。繊細で複雑な感情が詩的な歌詞に込められ、The Nationalの持つ暗く内向的な美しさが全面に表れた作品だ。
各曲解説
1. Secret Meeting
アルバムのオープニングを飾る「Secret Meeting」は、ミステリアスなイントロとバーニンガーの低音ボーカルが印象的。心の葛藤や混乱が歌詞に反映され、エモーショナルなサウンドが心に残る。浮遊感のあるギターが曲に深みを与えている。
2. Karen
バーニンガーが独特の語り口調で切なさを表現した「Karen」は、恋愛と孤独がテーマの一曲。シンプルなメロディの中で彼のバリトンボイスが際立ち、静かに進むリズムが曲の哀愁を引き立てる。
3. Lit Up
アップテンポでポップなメロディが特徴の「Lit Up」は、アルバムの中でも特にキャッチーな楽曲。リズミカルなギターとエネルギッシュなドラムが前面に出ており、繊細な歌詞とは対照的な、力強いサウンドが印象的だ。
4. Looking for Astronauts
繊細なギターリフと重厚なベースラインが特徴的な「Looking for Astronauts」は、夢を追い求める心と現実の間で揺れ動く感情が表現されている。メランコリックなサウンドが印象深い一曲で、アルバム全体のテーマと響き合う。
5. Daughters of the Soho Riots
「Daughters of the Soho Riots」は、詩的で静かなバラード。バーニンガーの低音ボーカルが語りかけるように響き、ロマンチックで哀愁漂うメロディが心に残る。夜の静けさがそのまま音に変わったような雰囲気が特徴。
6. Baby, We’ll Be Fine
切迫感あふれるリズムと不安定なメロディが特徴の「Baby, We’ll Be Fine」は、現代社会のプレッシャーや個人的な不安がテーマ。バーニンガーの苦悩に満ちたボーカルが、リアルな感情を生々しく伝える。
7. Friend of Mine
「Friend of Mine」は、軽快なリズムとシンプルなメロディで構成された曲。友情の儚さや、すれ違いの悲しさをテーマにしており、バンドのエネルギッシュなパフォーマンスが際立つ。
8. Val Jester
優しいアコースティックギターが印象的な「Val Jester」は、繊細でメランコリックなバラード。バーニンガーの柔らかな歌声と、詩的な歌詞が、リスナーに深い感動をもたらす。
9. All the Wine
「All the Wine」は、自己肯定感と自己嫌悪が入り混じる一曲で、ポジティブでありながらも複雑な感情が込められている。軽やかなメロディとシンプルなギターがリスナーに安らぎを与えつつ、皮肉を込めた歌詞が興味深い。
10. Abel
アルバムの中でも特に激しい「Abel」は、バンドのエネルギッシュな一面が炸裂するトラック。バーニンガーのボーカルが怒りや苛立ちをシャウトで表現し、力強いギターとドラムが爆発的なエネルギーを生み出している。
11. The Geese of Beverly Road
エモーショナルなギターリフと、静かに語りかけるようなバーニンガーのボーカルが印象的な一曲。都会の孤独と希望がテーマで、アルバム全体のトーンを象徴するようなメランコリックで美しい曲だ。
12. City Middle
「City Middle」は、バンドの持つメランコリックで文学的な側面が最も強く表れた一曲。静かなメロディの中にバンドの成長が感じられ、バーニンガーの深い歌詞がリスナーの心に染み渡る。
13. Mr. November
アルバムの最後を飾る「Mr. November」は、バンドのアンセム的な存在で、ライブでもファンに愛されている一曲。切迫したリズムと力強いボーカルが、希望と焦燥感を表現しており、壮大なフィナーレを迎える。
アルバム総評
「Alligator」は、The Nationalが持つメランコリックでダークな音楽性が確立された作品であり、ポストパンクリバイバルの流れの中で独自のスタイルを築いた一枚だ。都会的で孤独感の漂うサウンドと、文学的な歌詞がリスナーの感情に訴えかけ、アルバム全体がまるで一冊の詩集のように繊細で美しい。彼らの音楽に秘められた切なさや希望が共鳴し、多くのファンに愛され続ける作品となっている。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Turn on the Bright Lights by Interpol
同じポストパンクリバイバルの流れにあり、メランコリックでダークなサウンドが「Alligator」に通じる一枚。
The Antlers – Hospice
繊細な感情表現と悲しみに満ちたリリックが特徴のアルバムで、The Nationalファンにも刺さる深い作品。
Is This It by The Strokes
ニューヨークのインディーロックシーンを代表するアルバム。都会的でストイックなサウンドが共通している。
For Emma, Forever Ago by Bon Iver
メランコリックで詩的な歌詞が美しく、孤独と希望を描いたサウンドがThe Nationalファンにもおすすめ。
Boxer by The National
「Alligator」の次作で、さらに洗練されたサウンドが堪能できる。The Nationalの真骨頂を味わえる名盤。
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