発売日: 2014年9月9日
ジャンル: ポップロック、オルタナティブロック、アメリカーナ
概要
『All Together Now』は、Better Than Ezraが2014年に発表した7作目のスタジオ・アルバムであり、キャリア20年以上のベテランバンドが、“再び時代とシンクロする”ことを試みた、ポップで洗練された復帰作である。
前作『Paper Empire』から5年ぶりとなるこのアルバムは、前向きで明るいトーンを押し出したコンテンポラリーなポップロック路線が特徴。
プロデュースはTaylor SwiftやP!nk、Fun.などを手掛けたTony Hofferが担当し、洗練されたプロダクションとともに、これまで以上に“ラジオ向け”な音作りがなされている。
タイトル『All Together Now』には、“今こそ一緒に声を合わせよう”というメッセージが込められており、ポスト・リーマン/SNS時代の人々の孤独と、そこからの回復の糸口を模索するような人間味ある作品となっている。
全曲レビュー
1. Crazy Lucky
本作を象徴するようなポジティブなポップロックナンバー。
「君に出会えたのはクレイジーなくらいラッキーだった」というストレートなフレーズが印象的。
軽快なリズムとコーラスが耳に残る。
2. Gonna Get Better
希望と再起を歌うミディアムバラード。
「すべてはきっと良くなる」というメッセージを、シンプルなギターとパーカッションで支える。
落ち着いたが力強い、人生賛歌のような楽曲。
3. Undeniable
タイトなギターとベースが主導するアップテンポ曲。
「否定できない」魅力や感情を歌い、モダンなロックフィールと共鳴。
ヴァースとサビのコントラストが鮮やか。
4. Insane
タイトル通り、ややテンション高めでアグレッシブな楽曲。
ダンサブルなグルーヴとエフェクトを効かせたボーカルが新鮮。
Better Than Ezraらしからぬ“遊び心”を見せる一曲。
5. Sunflowers
アメリカーナ風の穏やかなポップソング。
“ひまわり”は希望や光の象徴として登場し、心を照らすような温かみを持つ。
スライドギターが美しく響く。
6. The Great Unknown
不確かな未来への旅立ちをテーマにしたミディアムナンバー。
「わからないことがあるからこそ、生きていける」という、哲学的なメッセージを含む歌詞が印象的。
7. Before You
過去の自分と現在の自己成長を対比した楽曲。
「君に出会う前の僕は…」というフレーズが、愛の変化力をストレートに表現している。
8. Dollar Sign
経済と価値観の揺れを描いた、やや風刺的なトラック。
「ドルマークの向こうにあるものは何か?」という問いが、軽快なメロディに乗って投げかけられる。
9. I Fly Away
スローでスピリチュアルな雰囲気を持つナンバー。
“飛び立つ”という言葉は自由や死のメタファーとしても読め、深い余韻を残す。
ストリングスの重ね方が繊細。
10. Sh*t Show
ユーモアと怒りが交錯するラストトラック。
現代社会の混乱や不条理を“Sh*t Show”と表現し、皮肉とロック魂で一蹴する。
コーラスのキャッチーさと歌詞の毒が絶妙なバランス。

総評
『All Together Now』は、Better Than Ezraが“いまの時代にふたたび自分たちの声を響かせる”ことを強く意識して作られたアルバムであり、同時に“キャリアバンドのポップロック解釈”としても完成度の高い作品である。
かつてのローファイ志向や内省的な叙情性よりも、明るさ、軽やかさ、聴きやすさを重視したプロダクションが特徴で、Spotifyやラジオで流しても違和感のない仕上がり。
その一方で、「Gonna Get Better」や「I Fly Away」のような深い楽曲も含まれており、ベテランならではの幅広さも示している。
Better Than Ezraの持つ“寄り添う力”はそのままに、より開かれたサウンドへと進化した一枚といえるだろう。
おすすめアルバム
- Train / Save Me, San Francisco
同じくキャリア中盤にポップ回帰を遂げたバンドによる、明快で感情的な作品。 - OneRepublic / Native
ロックとエレクトロを融合しながら、感情に訴えるポップセンスを見せる。 - Gavin DeGraw / Sweeter
ソウルフルでラジオフレンドリーなポップロック。 -
Matt Nathanson / Modern Love
内面性とポップのバランスが優れたシンガーソングライター作品。 -
Augustana / Life Imitating Life
心の揺れと前向きさを穏やかに表現したアメリカーナ・ポップの秀作。
歌詞の深読みと文化的背景
『All Together Now』は、2010年代前半における社会の分断、情報過多、個人の孤立といった時代背景を踏まえつつ、それらを否定せずに“じゃあどうすればいい?”という再提案を含んだアルバムである。
“Crazy Lucky”のような無邪気さと、“Dollar Sign”や“Sh*t Show”のような諦念の表現が同居する本作は、楽観と悲観のあわいに生きる現代人そのものを映し出している。
タイトルの『All Together Now』が示すように、“いまこそ、バラバラなままでいいから、いっしょになろう”というメッセージが、このアルバムの根底には流れているのだ。
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