発売日: 1972年7月
ジャンル: プログレッシブロック、アートロック、ハードロック
集結する音の意思——“Hold Your Head Up”が鳴り響く、Argentの決定的瞬間
『All Together Now』は、1972年にリリースされた英国のロックバンドArgentによる3作目のスタジオ・アルバムであり、商業的成功と芸術的洗練が交差したバンドのブレイクスルー作である。
中核を成すのは、シングルヒットとなった「Hold Your Head Up」。
この一曲に象徴されるように、本作はクラシカルな構築性とソウルフルなエネルギー、そしてプログレ的な長尺構成が見事に融合している。
アルバムタイトル「All Together Now」は、単なる集合の意味ではなく、個々の音楽的バックグラウンドが“今ここで”結晶することを示している。
ロッド・アージェントの荘厳なキーボード、ラス・バラードのダイナミックなギターとメロディ、そしてリズムセクションの一体感。
彼らがこの作品で到達したのは、英国ロックの豊穣な伝統を受け継ぎつつ、国際的な成功へと向かう“自信と成熟”の音である。
全曲レビュー
1. Hold Your Head Up
Argent最大のヒット曲にして、クラシックロック史に残る名バラード。
勇気と誇りを讃える歌詞と、荘厳なハモンドオルガンのソロが象徴的で、ロッド・アージェントの表現力がピークに達している。
ラジオ版と異なり、アルバム版では7分を超えるインストパートの濃密さが聴きどころ。
2. Keep on Rollin’
グルーヴィーでストレートなロックナンバー。
ラス・バラードのボーカルが前面に出ており、アメリカン・ロック的な力強さと英国らしい節回しが絶妙に交差する。
3. Tragedy
哀愁を帯びたミディアムテンポの楽曲。
メロディの抒情性と、サビでの爆発的展開が印象的で、AOR的な感覚も垣間見える。
4. I Am the Dance of Ages
幻想的な詩世界とプログレ的構成が際立つ大作。
時代を超えた「踊り」の象徴を通して、時間と歴史への瞑想的な視線を音楽化したような曲で、哲学的かつサイケデリック。
5. Be My Lover, Be My Friend
シンプルなロックンロール調の楽曲。
タイトル通り、恋人であり友である関係性の柔らかさと葛藤を描いたナンバーで、アルバム中の一服の清涼剤的存在。
6. He’s a Dynamo
スピーディーなリズムに乗せたファンキーなロック。
バンドの演奏力が前面に出ており、ヴァースとコーラスの切り替えがシャープでライヴ映えしそうな楽曲。
7. Pure Love(組曲)
本作のもう一つの目玉、約13分に及ぶ組曲形式のプログレ・バラード。
「Fantasy」「Prelude」「Pure Love」「Finale」の4パートに分かれたこの楽曲は、ロッド・アージェントのクラシック的素養と宗教的な崇高さが融合した、Argent最大のスケール感を誇る作品。
静けさと高揚、祈りと混沌の交錯が、アルバムを荘厳に締めくくる。
総評
『All Together Now』は、Argentというバンドが“単なるZombies後継”ではなく、独自の音楽的完成域に達したことを明確に示したアルバムである。
ポップ/ロック/クラシック/プログレの境界線を自在に往来しながらも、決して技巧に走りすぎず、常に“感情”が中心にある。
「Hold Your Head Up」の成功はその象徴であり、それを支える他の楽曲群も一切の捨て曲がない完成度を誇っている。
同時期のYesやELPほどのアヴァンギャルドさはないが、その分、耳馴染みの良さと思想性のバランスに優れた、隠れた名盤としての輝きを今なお放ち続けている。
Argent入門にも、プログレファンの間の箸休めにもふさわしい、しなやかで知的なロックの一枚。
おすすめアルバム
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Uriah Heep『Demons and Wizards』
叙情とハードさを併せ持つ英国ロックの定番。 -
Procol Harum『Shine On Brightly』
クラシカルな構成と幻想性の融合。アージェントと精神性が近い。 -
Todd Rundgren『Something/Anything?』
メロディと構築美の融合がArgentのポップ面と共鳴する。 -
Chicago『Chicago II』
ジャズロック的アプローチと組曲形式のプログレ構成。 -
Barclay James Harvest『Once Again』
叙情的かつ格調高いサウンドスケープがArgentに近しい。
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