
1. 歌詞の概要
「Acquiesce(アクウィエス)」は、1995年にリリースされたOasisのシングル「Some Might Say」のB面に収録された楽曲でありながら、Oasisファンの間では非常に高い人気を誇る一曲である。
タイトルの「Acquiesce」とは「黙って受け入れること」「甘んじて従うこと」といった意味を持つが、歌詞の内容はむしろ“離れていてもつながっている”という、絆や信頼をテーマにしたポジティブなものとなっている。
とくに印象的なのが、「Because we need each other / We believe in one another(僕らは互いを必要としている、互いを信じている)」というサビの一節である。これは単なるラブソングではなく、バンド内の兄弟(ノエルとリアム)や仲間たちとの結びつき、そしてファンとの一体感を象徴するようなメッセージでもある。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Acquiesce」は、Oasisの初期B面曲の中でも特に人気が高く、後に1998年のB面コンピレーション・アルバム『The Masterplan』にも収録された。多くのファンや評論家から「なぜアルバム収録されなかったのか」と惜しまれるほどの完成度を誇るこの曲は、ノエル・ギャラガーが持つソングライターとしての力量と、リアム・ギャラガーのボーカルの説得力が絶妙に融合した作品である。
また、この曲はサビをノエルが歌い、ヴァースをリアムが歌うという、兄弟のツインボーカルが印象的な構成を取っている。二人の声の対比がこの楽曲に深みを与え、まさに“兄弟の歌”としての説得力を増しているのだ。
ライブでも人気が高く、ファンによるシンガロングが起きることが多い曲として知られており、Oasisのコンサートでは定番ナンバーとして愛されてきた。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下は「Acquiesce」の中でも象徴的な部分の抜粋。引用元は Genius Lyrics。
I don’t know what it is that makes me feel alive
何が俺を生かしているのか、それは分からないI don’t know how to wake the things that sleep inside
自分の中に眠っているものをどう目覚めさせるかも分からないI only wanna see the light that shines behind your eyes
ただ、君の瞳の奥で輝く光を見たいだけなんだBecause we need each other
僕らは互いに必要とし合っているWe believe in one another
互いを信じているAnd I know we’re gonna uncover
そしていつかきっと見つけ出せるだろうWhat’s sleepin’ in our soul
僕らの魂の中で眠っているものを
このサビは、Oasisの楽曲の中でも最も連帯感を感じさせるフレーズのひとつであり、バンドのスピリットを凝縮しているようでもある。
4. 歌詞の考察
「Acquiesce」という言葉の持つ“黙認”や“従順”といった意味合いに反して、この曲の根底に流れるのは、むしろ能動的な“信頼”や“希望”である。
リアムが歌うヴァースは、自己の葛藤やアイデンティティの曖昧さを描いており、自分自身を完全には理解できない苦しみが滲んでいる。しかしその不安を抱えながらも、ノエルが歌うサビでは、「僕らは互いを必要としている」という揺るぎない肯定へとつながっていく。
この構成そのものが、兄弟の関係性を象徴しているようでもある。対照的なふたりの声がひとつの曲の中で交差し、ぶつかり合いながらも共鳴し、最終的にひとつの強いメッセージを届ける——それこそがOasisの真骨頂である。
また、この曲は聴き手にとっても非常にパーソナルな共感を呼ぶ。誰しもが抱える孤独や自己への疑問、そして誰かとつながりたいという欲望。そのすべてが、この曲の中に込められているのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Live Forever by Oasis
存在することへの強烈な肯定と未来への希望を歌った初期の名曲。 - Let There Be Love by Oasis
内省と和解、愛と赦しをテーマにした兄弟共演のバラード。 - Slide Away by Oasis
喪失と再生をテーマにした情熱的なラブソング。リアムのボーカルが炸裂する一曲。 - The Importance of Being Idle by Oasis
皮肉とユーモアが交錯した、Oasis後期を象徴する知的な一曲。 - Don’t Go Away by Oasis
切実な別れの予感を描いたメロディアスなバラード。失いたくない気持ちが込められている。
6. “Oasisの心臓部”とも言うべき隠れた名曲
「Acquiesce」は、B面曲でありながら、Oasisのすべてを象徴していると言っても過言ではない。
それは、ノエルの持つ詩的で哲学的な視点と、リアムの荒削りで感情的なボーカルの融合。
それは、混乱と希望、迷いと信頼、孤独と連帯が混ざり合う現代的な人間像。
そして何より、それは“完璧ではない関係”を肯定する、Oasis的な愛のかたちである。
この曲がファンに愛され続ける理由は、単にメロディや演奏の完成度にあるのではない。
むしろ、そこに映し出される“人間そのものの姿”が、どこまでもリアルで、どこまでも美しいからなのだ。
「Acquiesce」は、Oasisがくれた最も深い“兄弟の対話”であり、心と心がぶつかりながらも響き合う瞬間を、永遠に閉じ込めたような一曲なのである。
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