アルバムレビュー:A Sun Came by Sufjan Stevens

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発売日: 2000年2月25日
ジャンル: フォーク、サイケデリック・ロック、ワールドミュージック、ローファイ


異文化と内面、信仰と実験の交差点——Sufjan Stevensという旅の始発駅

Sufjan Stevensのデビュー作となるA Sun Cameは、のちに『イリノイ』『ミシガン』などで知られる
彼の精緻で壮大なポップアート的世界観とは一線を画す、混沌と多様性に満ちた実験作である。

本作では、フォークを中心にしながらも、中東音楽、インド音楽、アヴァンギャルド、サイケ、ポストロックが縦横無尽に混ざり合い、
スーフィアンの「言語を越えた精神性」と「DIY的録音美学」が、すでに結実の兆しを見せている。

タイトルの“A Sun Came”は、夜明け、啓示、再生の象徴。
このアルバムは、文化や宗教を横断する“個人的かつ普遍的な祈り”の断片なのだ。


全曲レビュー:

1. We Are What You Say

ローファイなギターとシタールのような響きが混ざる異国情緒のオープニング。
声はささやきのようで、自己同一性を揺さぶる問いかけが静かに響く。

2. A Winner Needs a Wand

短いインストゥルメンタル。
ピアノとパーカッションが断片的に鳴り、どこか子どもの遊戯的。

3. Rake

アコースティックギターとオリエンタルな旋律。
リズムは不規則で、歌詞も象徴的な断片に満ちている。
“耕す者”というタイトルに、創造と破壊のイメージが重なる。

4. Siamese Twins

シタールとチャントのようなヴォーカル。
双子=同一性と分離のモチーフが、音の反復によって強調される。

5. Demetrius

古代ギリシャ的響きを持つ名前にふさわしく、
儀式音楽のような打楽器と民族楽器が絡み合う。

6. Dumb I Sound

メロディアスなギターと不安定な歌声が重なり、
自己否定と愛の間で揺れるようなエモーショナルなフォーク。

7. Wordsworth’s Ridge

詩人ワーズワースへのオマージュ。
文学的言語と音の風景が呼応する、美しいアコースティック・トラック。

8. A Loverless Bed (Without Remission)

失われた愛、孤独、宗教的救済の不在。
歌詞は少ないが、メロディとリズムが語るものは多い。

9. Godzuki

ユーモラスなインストゥルメンタル。
和音階的なメロディとチープな音色に、異文化間の遊び心を感じる。

10. Super Sexy Woman

いびつで不穏なリズムと、風刺的なリリックが特徴。
スーフィアンのポップセンスの“ひずみ”が垣間見える風変わりな小品。

11. Rice Pudding

タイトル通り甘やかで、どこか子どもっぽい。
音遊び的な短編。

12. Ya Leil

アラビア語のチャント“Ya Leil(おお、夜よ)”に基づいたトラック。
アラブ音楽の構造を取り入れた本格的なワールドミュージック曲で、
宗教と夜、夢想をめぐる祈りのような1曲。

13. One Last “Whoo-hoo!” for the Pullman

列車をテーマにしたインストゥルメンタル。
アメリカーナ的郷愁とアヴァンギャルドが溶け合う。

14. We’re Goin’ to the Country!

明るく開けたアメリカン・フォーク調。
のちの『ミシガン』を予見させる軽快なリズムとメロディ。

15. A End

タイトルに反して“An End”ではなく“A End”。
音の終わりというよりは、また別の始まりを思わせる不完全なクロージング。


総評:

A Sun Cameは、Sufjan Stevensという稀有な表現者が、
音と文化、信仰と言語、そして内面と宇宙のあいだを旅し始めた最初の足跡である。

その雑多さ、粗さ、不完全さすら、
彼の“表現があらゆる形式と文化を受け入れて進化していく”ことを予言していた。

ここにはまだ“完成されたスーフィアン像”は存在しない。
だが、その代わりに、すべての可能性が入り乱れる“音の原風景”が広がっている。


おすすめアルバム:

  • Devendra Banhart / Rejoicing in the Hands
     異文化フォークとローファイの柔らかな邂逅。
  • Neutral Milk Hotel / In the Aeroplane Over the Sea
     個人の精神世界を、ローファイと抽象で描いた名作。
  • Sufjan Stevens / Greetings from Michigan
     “A Sun Came”の実験性を叙情と構成力に転化した、50州プロジェクトの第一歩。
  • Bon Iver / For Emma, Forever Ago
     内省と空間性を持った“声と孤独”の記録。
  • Six Organs of Admittance / Compathia
     スーフィアン初期の“フォーク×スピリチュアル”に共鳴する音世界。

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