アルバムレビュー:A Beginner’s Mind by Sufjan Stevens & Angelo De Augustine

※本記事は生成AIを活用して作成されています。

発売日:2021年9月24日

ジャンル:インディー・フォーク、チェンバー・フォーク、アコースティック・ポップ、シンガーソングライター、ドリーム・フォーク

概要

Sufjan StevensとAngelo De AugustineによるA Beginner’s Mindは、2021年にAsthmatic Kittyから発表されたコラボレーション・アルバムである。Sufjan Stevensは、2000年代以降のアメリカン・インディー・フォークを代表する作家の一人であり、Michigan、Illinois、Carrie & Lowell、The Age of Adzなどを通じて、個人的記憶、宗教的想像力、アメリカの地理、家族、死、電子音響、室内楽的アレンジを結びつけてきた。一方、Angelo De Augustineは、繊細なファルセット、親密なアコースティック・ギター、夢の中のようなメロディを特徴とするシンガーソングライターであり、SufjanのレーベルであるAsthmatic Kitty周辺の美学とも深く響き合う存在である。

本作の出発点は非常にユニークである。2人はニューヨーク州北部の山小屋で共同生活を送りながら、毎晩映画を観て、その翌朝に曲を書くという方法でアルバムを制作した。楽曲はそれぞれ特定の映画から着想を得ているが、サウンドトラック的な再現ではなく、映画をきっかけにして生まれた個人的・宗教的・寓話的な歌として成立している。つまり本作は、映画についてのアルバムであると同時に、映画を見ることによって呼び起こされる感情、記憶、信仰、恐怖、愛、喪失についてのアルバムである。

タイトルのA Beginner’s Mindは、禅の思想における「初心」、すなわち先入観を持たず、物事を初めて見るように受け取る心を指している。これはアルバムの制作方法にも深く関係している。SufjanとAngeloは、映画を批評家的に分析するのではなく、子どものように、あるいは信仰者のように、そこから感情やイメージを受け取る。そして、その受け取ったものを小さなアコースティック・ソングへ変換する。映画という巨大な視覚メディアを、非常に親密で静かな歌へ縮小している点が本作の大きな魅力である。

音楽的には、A Beginner’s Mindは非常に柔らかく、透明で、耳元に近いアルバムである。Sufjanの過去作に見られる大編成のブラスやストリングス、電子音の複雑な構築はここでは大きく後退し、アコースティック・ギター、軽い鍵盤、控えめなパーカッション、繊細なハーモニーが中心となる。2人の声は非常によく溶け合っており、どちらが主役というより、ひとつの二重化された声のように響く。Sufjanの儚く少し聖歌的な声と、Angeloの夢見るような高音が重なることで、アルバム全体に柔らかな浮遊感が生まれている。

ただし、本作は単に美しいフォーク・アルバムではない。着想源となった映画には、ホラー、犯罪映画、戦争映画、心理劇、ファンタジー、社会派作品などが含まれており、その背後には暴力、死、罪、復讐、孤独、怪物性、救済の不可能性が潜んでいる。音楽は穏やかだが、歌詞の奥には暗い物語がある。これはSufjan Stevensの作品に一貫する特徴でもある。彼はしばしば、柔らかい旋律の中に、死、喪失、罪、宗教的な不安を忍ばせる。本作でも、その方法がAngelo De Augustineとの対話の中で静かに展開されている。

映画から着想を得たアルバムでありながら、本作は映画マニア向けの引用集ではない。むしろ、映画という他者の物語を通じて、自分自身の内側を見る作品である。たとえば「Reach Out」はWim Wendersの『ベルリン・天使の詩』に触発されながら、天使的な観察者と人間的な接触の願いを歌う。「Back to Oz」は『オズにかえりたい』から着想し、故郷、幻想、帰還不能性を扱う。「Cimmerian Shade」は『羊たちの沈黙』を背景にしながら、怪物と被害者、見る者と見られる者の関係を反転させる。映画はあくまで入口であり、曲はそこから独自の精神的な空間へ進んでいく。

A Beginner’s Mindは、Sufjan Stevensのディスコグラフィの中では比較的小品的な位置にある。Illinoisのような巨大な構想や、Carrie & Lowellのような極私的な悲嘆の深度、The Ascensionのような電子音響による現代的な不安はない。しかし本作には、共同制作ならではの軽やかさと、閉じた部屋で2人が同じ映画を見て、翌朝に歌を交換するような親密さがある。大きな宣言ではなく、小さな祈りの連なりとして成立しているアルバムである。

全曲レビュー

1. Reach Out

「Reach Out」は、アルバムの冒頭にふさわしい、柔らかく開かれた楽曲である。着想源はWim Wendersの映画『ベルリン・天使の詩』とされ、天使が人間世界を見つめ、人間の感覚や愛に触れたいと願う物語と重なる。タイトルの「Reach Out」は、手を伸ばすこと、誰かに触れようとすること、孤独から外へ向かうことを意味する。

音楽的には、軽やかなアコースティック・ギターと2人の繊細なハーモニーが中心である。曲は大きく盛り上がらず、淡い光のように進む。SufjanとAngeloの声は非常に近く、まるで同じ夢を見ている2人が静かに歌っているように響く。冒頭曲として、アルバム全体の親密な空気を自然に作り出している。

歌詞のテーマは、他者との接触への願いである。天使のように世界を眺めるだけではなく、実際に触れ、痛みを感じ、愛を受け取ること。これは宗教的な超越から人間的な有限性へ降りる動きでもある。Sufjanの作品では、神聖なものと人間的なものがしばしば交差するが、この曲ではその交差が非常に優しく描かれている。

「Reach Out」は、本作のタイトルである「初心」とも関係する。世界を初めて見るように、誰かへ手を伸ばす。知識や防衛をいったん手放し、他者に触れようとする。その姿勢がアルバムの出発点になっている。

2. Lady Macbeth in Chains

「Lady Macbeth in Chains」は、タイトル通りシェイクスピア的な罪、権力、狂気、拘束のイメージを呼び起こす楽曲である。着想源にはJohn Cassavetesの映画A Woman Under the Influenceが関係しており、家庭、女性の精神的な孤立、社会が女性に押しつける役割が背景に感じられる。

音楽的には、穏やかで美しいメロディを持ちながら、歌詞の奥には強い不安がある。2人の声は優しく重なるが、その優しさが逆に、閉じ込められた人物の悲しみを際立たせる。音数は控えめで、曲全体に室内的な圧迫感がある。

歌詞のテーマは、罪と拘束である。Lady Macbethは、野心と罪悪感に引き裂かれる人物として文学史上に残っているが、ここでは鎖につながれた存在として描かれる。彼女は加害者であると同時に、社会や家庭、精神の檻に閉じ込められた存在でもある。SufjanとAngeloは、映画や文学の女性像を、単純に象徴として扱うのではなく、その痛みを静かに歌へ移している。

この曲は、本作の美しさと不穏さのバランスをよく示している。声は柔らかいが、そこに描かれる人物は自由ではない。優しいフォーク・ソングの形式が、精神的な拘束をより痛切に感じさせる。

3. Back to Oz

「Back to Oz」は、Walter Murchの映画『オズにかえりたい』から着想を得た楽曲であり、本作の中でも特に印象的なメロディを持つ曲である。タイトルは「オズへ戻る」という意味だが、ここでの帰還は単純なファンタジーへの逃避ではない。むしろ、かつての夢の場所へ戻ろうとしても、そこはすでに不気味で、壊れ、以前と同じではないという感覚がある。

音楽的には、軽快で親しみやすいリズムを持ち、アルバムの中では比較的ポップな曲である。メロディは明るいが、どこか影がある。SufjanとAngeloのハーモニーは透明で、童話的なイメージを引き立てる。しかし、その童話は安全なものではなく、少し歪んでいる。

歌詞のテーマは、帰還不能性である。オズは夢の国であり、子どもの想像力の象徴でもある。しかし、成長した後に夢の場所へ戻ると、そこには失われた無垢、過去の影、現実の傷が見えてしまう。これはSufjanの作品にしばしば現れる、幼少期と喪失のテーマとも深く関係する。

「Back to Oz」は、本作の中で映画的なファンタジーを最も分かりやすく歌に変換した曲である。夢の国への憧れと、その夢がすでに壊れているという認識が同時に存在する。美しく、少し怖いポップ・フォークである。

4. The Pillar of Souls

「The Pillar of Souls」は、Clive Barkerの映画『ヘルレイザー3』に着想を得た楽曲であり、本作の中でも特に宗教的・怪奇的なイメージが強い。タイトルは「魂の柱」を意味し、苦痛、救済、呪い、集合的な死者の記憶を連想させる。

音楽的には、穏やかなアコースティック・サウンドを保ちながら、メロディには少し不気味な影がある。ホラー映画を直接的に音で再現するのではなく、そこにある魂の苦しみや閉じ込められた感覚を、柔らかい歌へ変換している点が本作らしい。

歌詞のテーマは、苦痛を抱えた魂の集合として読める。ホラー映画のグロテスクなイメージは、ここでは神学的な問いへ変わる。苦しんだ魂はどこへ行くのか。人間の罪や痛みは、誰に記憶されるのか。Sufjanはこれまでも、キリスト教的な救済や罪の問題を多く扱ってきたが、この曲ではそれがホラーの図像と結びつく。

「The Pillar of Souls」は、映画のジャンル的な恐怖を、霊的な悲しみへ変える楽曲である。怖さよりも、救われない魂への哀れみが強く残る。そこに本作の独自性がある。

5. You Give Death a Bad Name

「You Give Death a Bad Name」は、タイトルからして皮肉とユーモアを含む楽曲である。着想源はGeorge A. Romeroの『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』であり、死者の復活、ゾンビ、社会的崩壊、恐怖の集団性が背景にある。しかし曲そのものは過剰に恐ろしくはなく、むしろ軽やかで、少し奇妙なポップ感覚を持つ。

音楽的には、テンポがあり、リズムも比較的明るい。フォーク・デュオ的な柔らかさを保ちながら、メロディには悪戯っぽさがある。死を扱っているにもかかわらず、曲は重く沈まない。これは、死をあえて日常的なフレーズとして扱うSufjanらしい方法である。

歌詞のテーマは、死のイメージの転倒である。死は通常、厳粛で不可逆的なものとして扱われるが、ゾンビ映画では死者が再び動き出す。その不気味さは、死が完全な終わりではなくなってしまうことにある。タイトルの「死に悪い名を与える」という言葉は、死の尊厳が壊され、滑稽で恐ろしいものへ変えられる感覚を示している。

この曲は、本作の中でホラー映画的な題材を最も軽やかに扱った楽曲である。死を恐れるだけでなく、死をめぐる文化的イメージを少し笑いながら眺める。その距離感が魅力である。

6. Beginner’s Mind

タイトル曲「Beginner’s Mind」は、アルバム全体の思想的な中心を担う楽曲である。初心とは、知識や経験によって固定された見方を一度手放し、物事を初めて見るように受け取る心である。映画を題材にしながらも、本作が単なる引用集にならない理由は、この姿勢にある。

音楽的には、非常に穏やかで、祈りのような雰囲気を持つ。アコースティック・ギターと柔らかなハーモニーが中心で、曲は静かに流れる。サウンドは簡素だが、その簡素さがタイトルの精神と合っている。大きく飾らず、初めての気持ちで歌うような曲である。

歌詞のテーマは、心を開くこと、判断を保留すること、世界を受け入れ直すことだ。経験を積むことは重要だが、経験は同時に人を鈍らせることがある。SufjanとAngeloはここで、複雑な世界を単純化するのではなく、むしろ無防備に受け取る姿勢を歌っている。

「Beginner’s Mind」は、アルバムの制作方法そのものを説明する曲でもある。毎晩映画を観て、その印象を翌朝の歌にする。批評家の知識ではなく、初心者の感受性によって作品に向き合う。その姿勢が本曲に凝縮されている。

7. Olympus

「Olympus」は、ギリシャ神話の神々が住む山を思わせるタイトルを持つ楽曲であり、超越、高み、神話、愛の理想化を連想させる。着想源には『タイタンの戦い』が関係しているが、曲は神話的な壮大さをそのまま再現するのではなく、非常に親密なフォーク・ソングとして提示される。

音楽的には、軽やかなギターと美しいハーモニーが印象的で、アルバムの中でも特に清らかな響きを持つ。メロディには上昇感があり、タイトル通り高い場所へ向かうような感覚がある。しかし、その高みは英雄的というより、夢の中で遠くを見上げるようなものだ。

歌詞のテーマは、神聖なものへの憧れと、人間的な限界である。オリンポスは神々の場所であり、人間が簡単には到達できない場所である。愛や信仰もまた、時にそのような高みとして感じられる。しかし、人間は地上にいて、傷つき、迷い、完全には神聖になれない。

「Olympus」は、本作の神話的な側面を柔らかく表現した曲である。巨大な映画的スペクタクルを、小さな祈りのような歌へ変換する。本作の方法論がよく表れた一曲である。

8. Murder and Crime

「Murder and Crime」は、タイトル通り殺人と犯罪を扱う楽曲であり、Jonathan Demmeの『羊たちの沈黙』からの影響が感じられる。犯罪映画の題材は通常、緊張、恐怖、謎解きと結びつくが、この曲ではそれが静かな不安と倫理的な問いに変換されている。

音楽的には、アコースティックな優しさの中に、どこか冷たい影がある。声は近く、メロディは美しいが、タイトルが示すように歌詞の奥には暴力がある。この美しさと暴力の距離が、本作の特徴である。

歌詞のテーマは、罪と加害、そしてその観察である。殺人や犯罪は外部の怪物によって行われるものとして扱われがちだが、本作では怪物性が人間の内側にあるものとして見つめられる。Sufjanの宗教的な感覚において、罪は単なる法的問題ではなく、魂の問題でもある。

「Murder and Crime」は、穏やかな音楽が暴力的な題材を包み込むことで、かえって不気味さを強めている。映画の恐怖をそのまま再現せず、罪の余韻として聴かせる楽曲である。

9. This Is the Thing

「This Is the Thing」は、John Carpenterの映画『遊星からの物体X』に着想を得た楽曲である。原題の“The Thing”は、正体不明の怪物、他者に擬態する存在を指す。曲のタイトルは「これがそのものだ」と宣言するようでありながら、何が「それ」なのかは不明瞭である。この曖昧さが曲の核心である。

音楽的には、静かで美しいフォーク・ソングとして構成されている。SFホラーの冷たい緊張を直接的に音にするのではなく、不確かさや疑念を穏やかなメロディの中へ溶かし込んでいる。2人の声が重なることで、誰が誰なのか分からなくなるような効果もある。

歌詞のテーマは、同一性の不安である。『遊星からの物体X』の恐怖は、怪物が外から襲ってくることだけではなく、隣にいる人間がすでに別のものかもしれないという疑いにある。この曲では、その不信が恋愛や自己認識の問題にも広がる。相手は本当に相手なのか。自分は本当に自分なのか。

「This Is the Thing」は、本作の中でも映画の主題を非常に巧みに内面化した曲である。怪物は外部にいるのではなく、関係の中、自己の中、声の重なりの中に潜む。美しいが、静かに不安な楽曲である。

10. It’s Your Own Body and Mind

「It’s Your Own Body and Mind」は、身体と心の所有、自己決定、内面の責任をテーマにした楽曲である。映画的な着想を背景にしながらも、この曲は非常に直接的に、個人の身体と精神について歌っているように響く。

音楽的には、穏やかなアコースティック・サウンドで、声の重なりが柔らかい。曲は説教的ではなく、むしろ静かな助言や祈りのように進む。2人の声が相手に語りかけるように響くことで、親密な対話の感覚が生まれる。

歌詞のテーマは、自分の身体と心を取り戻すことである。身体も心も、社会や他者、恐怖、欲望によって奪われることがある。しかし、それは本来、自分自身のものだという認識が必要になる。この主題は、トラウマ、支配、回復とも関係する。

この曲は、本作の中で最も優しく、倫理的な響きを持つ楽曲の一つである。SufjanとAngeloは、苦しむ誰かに対して、答えを押しつけるのではなく、自己を取り戻すことを静かに促している。柔らかな声の中に、強いメッセージがある。

11. Lost in the World

「Lost in the World」は、世界の中で迷うこと、居場所を失うこと、存在の不安をテーマにした楽曲である。タイトルは非常に普遍的であり、本作全体に通じる感覚でもある。映画の登場人物たちも、そして歌い手たちも、世界の中で自分の位置を探している。

音楽的には、繊細なギターとハーモニーが中心で、曲は静かに流れる。派手な展開はなく、迷子になったような柔らかな浮遊感がある。SufjanとAngeloの声は、世界の中で小さく響く祈りのようである。

歌詞のテーマは、喪失と方向感覚の欠如である。世界は広すぎて、自分がどこにいるのか分からなくなることがある。これは物理的な迷子だけでなく、精神的、信仰的、感情的な迷子でもある。Sufjanの作品には、神や家族や記憶の中で迷う人物が多く登場するが、この曲もその系譜にある。

「Lost in the World」は、アルバム後半の静かな内省を担う曲である。世界の中で失われることは孤独だが、2人の声が重なることで、その孤独が完全な孤立ではなく、共有された迷いとして響く。

12. Fictional California

「Fictional California」は、架空のカリフォルニアを意味するタイトルを持つ楽曲である。カリフォルニアは、アメリカの夢、映画産業、太陽、逃避、幻想の象徴である。しかし「fictional」と付くことで、それが現実の場所ではなく、メディアや記憶や欲望によって作られた場所であることが示される。

音楽的には、軽やかで、少し陽光を感じさせるメロディを持つ。だが、その明るさには距離がある。実在のカリフォルニアというより、映画の中で見たカリフォルニア、憧れの中で作られたカリフォルニアが歌われているように響く。

歌詞のテーマは、場所の幻想である。人はしばしば、どこか別の場所へ行けば救われると考える。カリフォルニアは、そのような夢の代表的な場所である。しかし、その場所がそもそも架空のものなら、そこへ行くことはできない。救いの場所は、メディアが作った幻かもしれない。

「Fictional California」は、映画を題材にした本作らしいメタ的な曲である。映画は場所を作り、観客はその場所を夢見る。しかし、その夢が現実に触れたとき、そこにはずれが生じる。この曲は、そのずれを美しく歌っている。

13. Cimmerian Shade

「Cimmerian Shade」は、再び『羊たちの沈黙』、特にBuffalo Billのような人物像からの影響が感じられる楽曲である。タイトルの「Cimmerian」は暗闇や深い影を連想させる言葉であり、曲全体に不穏な雰囲気を与えている。

音楽的には、柔らかく美しいが、どこか冷たい。2人のハーモニーは優しいものの、歌詞の視点には危うさがある。怪物的な人物に対して、単純な断罪ではなく、奇妙な共感や対話が生まれているように響く点が特徴である。

歌詞のテーマは、怪物と孤独である。ホラーや犯罪映画では、怪物はしばしば外部化される。しかし、この曲では、その怪物的な存在にも、痛み、願望、変身への欲望があることが示唆される。もちろん暴力を肯定しているわけではない。むしろ、怪物性がどのように孤独や自己嫌悪から生まれるのかを見つめている。

「Cimmerian Shade」は、本作の中でも最も複雑な倫理的感覚を持つ曲である。美しい声で怪物に語りかけることによって、聴き手は加害者と被害者、恐怖と哀れみの境界を考えさせられる。非常に静かだが、深い不穏さを持つ楽曲である。

14. Lacrimae

アルバムを締めくくる「Lacrimae」は、ラテン語で「涙」を意味するタイトルを持つ終曲である。タイトルの響きからして、宗教音楽、古楽、祈り、哀悼の感覚が漂う。映画的な旅を経た後、アルバムは涙へ到達する。これは非常に自然な終わり方である。

音楽的には、非常に静かで、ほとんど祈りのような曲である。大きな楽器編成ではなく、声と少ない音によって余韻を作る。2人のハーモニーは最後まで繊細で、終曲にふさわしい透明感を持つ。

歌詞のテーマは、喪失と哀悼である。本作に登場した映画的なイメージ、天使、怪物、死者、犯罪、神話、幻想の場所は、最終的に涙へ収束する。涙は弱さの印ではなく、世界を初心で受け止めた結果として現れるものだ。何かを本当に見ることは、時に泣くことでもある。

「Lacrimae」は、アルバムを大きな結論で閉じるのではなく、静かな哀悼の中に置く。初心とは、無垢で明るいだけの心ではない。傷つきやすく、涙を流すことのできる心でもある。この終曲によって、A Beginner’s Mindは穏やかで深い余韻を残す。

総評

A Beginner’s Mindは、Sufjan StevensとAngelo De Augustineの声と感性が非常に自然に重なった、親密で美しいコラボレーション・アルバムである。映画から着想を得た作品でありながら、映画音楽でも、映画批評でもない。むしろ、映画を観ることで呼び起こされた感情を、アコースティックな歌として再構成した作品である。そのため、着想源を知らなくても十分に聴くことができ、知ることでさらに深く味わえる構造になっている。

本作の最大の魅力は、2人の声の重なりにある。Sufjan Stevensの声は、宗教的な祈りと個人的な脆さを同時に持ち、Angelo De Augustineの声は、夢の中から聞こえるような柔らかさを持つ。両者が重なることで、個人の告白というより、二重化された内面の声のような響きが生まれる。これはソロ作品では得にくい感覚であり、本作の独自性を支えている。

音楽的には、アルバムは一貫して控えめである。大きな展開や派手なアレンジは少なく、アコースティック・ギターと柔らかな鍵盤、薄いリズム、声のハーモニーが中心になる。だが、その控えめな音作りは、映画的な巨大なイメージを小さな歌へ変換するという本作の方法に合っている。ホラー映画や神話的スペクタクルですら、ここでは静かな祈りや内省になる。

歌詞面では、死、罪、怪物性、救済、幻想、帰還不能性、身体と心の所有、涙が繰り返し現れる。特に興味深いのは、恐怖や暴力を扱いながらも、アルバム全体が決して冷酷にならない点である。怪物的な人物に対しても、SufjanとAngeloはどこか哀れみを持って接近する。これは、初心というタイトルと深く関係する。先入観で断罪するのではなく、まず見ること、聴くこと、感じること。その姿勢が本作の倫理を形作っている。

一方で、本作は非常に穏やかなトーンが続くため、曲ごとの起伏は大きくない。Sufjanの壮大なアレンジや実験的な電子音響を期待する聴き手には、やや小品的に感じられる可能性がある。しかし、その小ささは意図的である。これは大きな建築物のようなアルバムではなく、14の小さな祈りや夢の断片を並べた作品である。

Sufjan Stevensのキャリアにおいて本作は、Carrie & Lowellの親密なアコースティック性と、彼の宗教的・寓話的な作詞の流れを引き継ぎながら、Angelo De Augustineとの対話によってより軽やかに開かれた作品といえる。Angeloにとっても、本作は彼の繊細な声とメロディが、より広い物語的文脈の中で響く重要な作品である。

日本のリスナーにとってA Beginner’s Mindは、静かなインディー・フォークや、映画から生まれる想像力に関心がある場合に非常に聴きやすい作品である。歌詞の背景にある映画を知らなくても、声の美しさ、メロディの儚さ、祈りのような空気は十分に伝わる。映画を知っている場合は、各曲が原作をどのように内面化しているかを読み解く楽しみもある。

総合的に見て、A Beginner’s Mindは、巨大なテーマを小さな声で歌うアルバムである。天使、怪物、殺人、神話、幻想の国、戦慄、涙。それらはすべて、静かなアコースティック・ソングへと変換される。初心とは、世界を単純に信じることではない。恐ろしいものも、美しいものも、悲しいものも、初めて見るように受け止めることだ。本作は、その姿勢を柔らかなハーモニーで描いた、繊細で深いフォーク・アルバムである。

おすすめアルバム

1. Sufjan Stevens – Carrie & Lowell(2015年)

Sufjan Stevensの代表的なアコースティック作品であり、母の死、家族の記憶、信仰、喪失を極めて親密な音で描いたアルバムである。A Beginner’s Mindの静かな音作りや、柔らかな声の奥に深い死生観を潜ませる手法を理解するうえで重要である。

2. Angelo De Augustine – Tomb(2019年)

Angelo De Augustineの繊細なソングライティングとファルセットの魅力がよく表れた作品である。夢のようなアコースティック・サウンド、儚いメロディ、個人的な喪失感が特徴で、A Beginner’s MindにおけるAngelo側の感性を理解するために有効である。

3. Sufjan Stevens – Seven Swans(2004年)

Sufjanの宗教的・フォーク的な側面が強く出た初期の重要作である。聖書的なイメージ、祈りのような歌、簡素なアレンジが特徴で、A Beginner’s Mindの神話的・信仰的な空気と深くつながる。

4. Iron & Wine – Our Endless Numbered Days(2004年)

静かなアコースティック・フォークと親密な歌声によって、日常、家族、自然、死の気配を描いた名作である。A Beginner’s Mindの穏やかな音像や、柔らかいメロディの中に暗い感情を潜ませる方法と相性がよい。

5. Elliott Smith – Either/Or(1997年)

繊細な声、アコースティック・ギター、親密な録音、内面的な孤独を結びつけたシンガーソングライター作品である。SufjanやAngeloの音楽に通じる、壊れやすい美しさと影のあるメロディを理解するうえで重要なアルバムである。

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