アルバムレビュー:It by Pulp

※本記事は生成AIを活用して作成されています。

発売日:1983年4月18日

ジャンル:インディーポップ、フォークポップ、ポストパンク、アートポップ、ニューウェイヴ、初期オルタナティヴ・ロック

概要

Pulpのデビュー・アルバム『It』は、後にブリットポップ期を代表するバンドのひとつとなるPulpの出発点であり、同時に彼らのよく知られたイメージとは大きく異なる、非常に繊細で内向的な作品である。1990年代のPulpといえば、『His ’n’ Hers』(1994年)、『Different Class』(1995年)、『This Is Hardcore』(1998年)に見られるように、階級意識、性的欲望、日常の滑稽さ、社会観察、皮肉、グラマラスな退廃を巧みに歌うバンドとして知られている。しかし1983年の『It』におけるPulpは、まだその完成形には遠い。ここにあるのは、若いJarvis Cockerの不安定でロマンティックな感受性、フォークポップ寄りの柔らかなアレンジ、そして地方都市の若者が抱く漠然とした憧れや孤独である。

Pulpは1978年にシェフィールドで結成された。シェフィールドは、The Human League、Cabaret Voltaire、ABCなどを生んだ都市であり、1970年代末から1980年代初頭にかけて、ポストパンク、シンセポップ、実験音楽の重要な拠点でもあった。しかし『It』のPulpは、同時代のシェフィールドのエレクトロニックな先鋭性とはやや異なる方向を向いている。シンセや鋭いビートよりも、アコースティック・ギター、控えめなリズム、淡いメロディが中心であり、全体にはフォーク、インディーポップ、ニューウェイヴ以前の素朴なソングライティングが漂っている。

このアルバムは、Pulpの歴史の中ではしばしば「初期の未成熟な作品」として扱われる。確かに、後年のPulpに特徴的な鋭い観察眼、猥雑なユーモア、社会的な毒、ディスコ的なグルーヴ、ドラマティックなアレンジはまだほとんど見られない。Jarvis Cockerの声も、後年のような語り部的な存在感や、聴き手の耳元に忍び込むような演劇性には到達していない。だが、それは本作が価値を持たないということではない。むしろ『It』は、後のPulpがなぜあのようなバンドになったのかを考えるうえで、非常に重要な原点である。

タイトルの『It』は、非常に短く、曖昧な言葉である。「それ」とは何か。愛なのか、人生なのか、欲望なのか、夢なのか、音楽なのか。この曖昧さは、アルバム全体の空気とよく合っている。本作には、明確な社会的メッセージや大きな物語はない。代わりに、まだ形になりきらない感情が漂っている。恋に対する憧れ、世界へ出ていきたい気持ち、しかし何を求めているのか分からない状態。『It』というタイトルは、その名づけられない何かを指しているように聞こえる。

音楽的には、Simon & GarfunkelLeonard Cohen、初期Orange Juice、Young Marble Giants、The Smiths以前の英国インディー的な感覚、さらにポストパンク以後の内向的なDIY精神が混ざり合っている。だが、Pulpはこの時点ではまだ明確なスタイルを確立していない。曲ごとにフォーク、ニューウェイヴ、ギターポップ、少し演劇的なポップが揺れ動き、全体には粗さと不安定さが残る。その不安定さこそが、本作の魅力でもある。

歌詞の面では、後年のJarvis Cockerほどの具体的な人物描写や社会風刺はないが、すでに重要な要素は存在している。それは、普通の生活の中にある不満や、どこかへ行きたいという欲望である。後年のPulpでは、郊外、団地、ベッドルーム、ナイトクラブ、学校、職場などの具体的な場所が、欲望と階級の舞台になる。『It』では、そうした舞台はまだぼんやりしているが、現実の生活から少し離れたいという気配はすでにある。港、灯台、列車、船、青い少女、人生を探すこと。こうしたイメージは、若いJarvisがまだ自分の言語を探していることを示している。

『It』は、後年のPulpを期待して聴くと地味に感じられる作品である。だが、若いバンドが自分たちの声を探している記録として聴くと、非常に興味深い。ここには、まだパーティーの床で踊るPulpではなく、部屋の窓から遠くを眺めるPulpがいる。後にJarvis Cockerは、社会の中で欲望を観察する鋭い語り手になるが、本作ではまだ自分自身の感情の中にいる。その脆さが、『It』の本質である。

全曲レビュー

1. My Lighthouse

オープニング曲「My Lighthouse」は、『It』の静かなロマンティシズムを象徴する楽曲である。タイトルの「灯台」は、暗闇の中で道を示す存在であり、遠くから見える希望や導きの象徴である。海、夜、孤独、帰る場所、見失った方向。こうしたイメージが、この曲の中で柔らかく重なっている。

音楽的には、アコースティック・ギターを中心にした穏やかなフォークポップであり、後年のPulpに見られるディスコ的なビートやシンセの派手さはない。メロディは素朴で、演奏も控えめである。そのため、曲全体には手作りの温度がある。まだ若いバンドが、自分たちの大きな世界を小さな音で描こうとしているように聞こえる。

歌詞では、語り手にとっての誰か、あるいは何かが灯台として描かれる。それは恋人かもしれないし、理想かもしれないし、人生の中で迷ったときに見える小さな光かもしれない。後年のJarvis Cockerなら、このようなロマンティックな比喩をもっと皮肉っぽく扱ったかもしれない。しかしここでは、比喩は比較的素直に使われている。

「My Lighthouse」は、Pulpのデビュー・アルバムの始まりとして非常に興味深い。彼らは最初から皮肉な観察者だったわけではない。むしろ、若いロマンティシズムと不安を持つバンドだった。そのことを、この曲ははっきり示している。

2. Wishful Thinking

「Wishful Thinking」は、タイトル通り「願望的思考」、つまり現実を冷静に見るのではなく、そうであってほしいと願う気持ちを扱う楽曲である。このテーマは、初期Pulpに非常によく合っている。『It』全体には、現実から抜け出したいが、まだどこへ向かえばいいのか分からない若者の視線がある。

音楽的には、軽やかなギターと穏やかなリズムが中心で、メロディには少し切なさがある。曲調は大きく沈み込むわけではないが、明るいだけでもない。希望と諦めの中間にあるような感覚が漂う。Pulpの後年の楽曲にも、夢や欲望が現実とぶつかる瞬間が何度も出てくるが、この曲ではその原型が非常に素朴な形で現れている。

歌詞では、何かが変わることを願いながらも、それがただの願望かもしれないと分かっているような空気がある。若い頃には、自分の人生が突然変わるのではないか、誰かが自分を別の場所へ連れていってくれるのではないかと考えることがある。しかし、その期待はしばしば現実にはならない。「Wishful Thinking」は、その甘さと虚しさを穏やかに描いている。

この曲は、Pulpの初期作品の中でも、感情の曖昧さがよく表れている。強い主張や明確な皮肉はないが、現実と願望の間で揺れる心がある。その揺れこそが、本作の若さを形作っている。

3. Joking Aside

「Joking Aside」は、タイトルからしてPulpらしい二重性を持つ楽曲である。「冗談はさておき」という言葉には、軽さと真剣さの切り替えがある。後年のPulpは、まさにこの軽さと深刻さの境界を自在に行き来するバンドになるが、この曲ではその感覚がまだ初期の形で表れている。

音楽的には、控えめなギター・ポップであり、演奏は非常にシンプルである。派手な展開はないが、メロディには親しみやすさがあり、少し不器用な魅力がある。Jarvis Cockerの歌声は、後年のように強いキャラクターを前面に出すというより、まだ繊細で、どこか頼りない。

歌詞では、冗談や軽い態度の奥にある本音が問題になっているように聞こえる。人はしばしば、傷つくのを避けるために冗談を使う。真剣な気持ちをそのまま言うのが怖いとき、冗談めかして伝える。しかし、ある瞬間には「冗談はさておき」と言わなければならない。この曲には、その切り替えの不安がある。

後年のJarvis Cockerは、ユーモアの裏に社会的な痛みや性的な気まずさを隠す語り手として成熟する。「Joking Aside」は、その初期段階として聴くことができる。まだ洗練されていないが、冗談と本音の関係に対する関心はすでに存在している。

4. Boats and Trains

「Boats and Trains」は、タイトルが示す通り、移動のイメージを持つ楽曲である。船と列車は、どこか遠くへ行くための乗り物であり、同時に別れや逃避、出発の象徴でもある。『It』の中で、この曲は若いPulpが持っていた「ここではないどこか」への憧れをよく表している。

音楽的には、穏やかなギターと淡いメロディが中心で、曲全体には漂うような感覚がある。船は水の上を進み、列車は線路の上を進む。どちらも自分の意志だけではなく、決められた流れに乗る乗り物である。この曲の音楽にも、強い意志で進むというより、何かに運ばれていくような印象がある。

歌詞では、移動が単なる交通手段ではなく、人生の比喩として機能している。どこかへ行きたい。しかし、行った先に何があるのかは分からない。若い頃の逃避願望には、具体的な目的地がないことが多い。ただ今いる場所から離れたい。その感覚が、この曲にはある。

「Boats and Trains」は、Pulpの後年の作品における都市や地方、移動、階級、逃避のテーマを予感させる楽曲である。ただし、ここではまだ社会的な具体性は薄く、より詩的で淡い。だからこそ、初期Pulpならではの儚さがある。

5. Blue Girls

「Blue Girls」は、『It』の中でも特に印象的なタイトルを持つ楽曲である。「青い少女たち」という言葉には、憂鬱、若さ、冷たさ、幻想、そして少し距離のある美しさが含まれている。青はPulpの後年の猥雑な色彩とは異なり、ここでは内向的で冷たい感情を示しているように響く。

音楽的には、やや陰影のあるメロディと、控えめなアレンジが特徴である。曲にはフォークポップ的な繊細さがあり、声と楽器の距離も近い。後年のPulpのように人物を皮肉っぽく描写するというより、ここでは人物像がぼんやりとした幻想として浮かんでいる。

歌詞では、少女たち、あるいは若い女性たちが、現実の人物というより象徴的な存在として描かれているように感じられる。彼女たちは憧れの対象であり、同時に手の届かない存在でもある。Jarvis Cockerの後年の歌詞では、女性はしばしば欲望や社会的な関係性の中で非常に具体的に描かれるが、この曲ではまだ輪郭が淡い。

「Blue Girls」は、初期Pulpのロマンティックで少し文学的な側面を示す曲である。具体的な社会観察よりも、色彩と気分が重視されている。その点で、後のPulpとは違う魅力を持っている。

6. Love Love

「Love Love」は、タイトルからして非常に直接的なラブソングである。Pulpの後年の作品では、愛はしばしば欲望、階級、欺瞞、身体性、失望と結びついて複雑に描かれる。しかし『It』の時点では、愛はまだより素朴で、ロマンティックな対象として歌われている。

音楽的には、軽やかなポップソングであり、メロディには明るさがある。アルバム全体の中でも比較的親しみやすい曲で、若いバンドらしいシンプルさが前面に出ている。歌詞のテーマも明快で、後年のPulpのような鋭いひねりは少ない。

ただし、この曲を単なる未熟なラブソングとして片づけるのは早い。ここには、Jarvis Cockerが後に何度も取り組むことになる「愛という言葉の曖昧さ」がすでにある。タイトルで“Love”が繰り返されることで、言葉は強調される一方で、少し空虚にも聞こえる。愛とは何か。言葉としては簡単に言えるが、それが本当に何を意味するのかは分からない。

「Love Love」は、初期Pulpの純粋さと不器用さを象徴する曲である。後年の彼らなら、ここに皮肉や倒錯を加えたかもしれない。しかし本作では、その未加工の感情がそのまま残っている。

7. In Many Ways

「In Many Ways」は、タイトルの通り「多くの意味で」「さまざまな形で」という曖昧な言い回しを持つ楽曲である。この曖昧さは、『It』全体の特徴でもある。感情はあるが、それをどのように言えばよいのか分からない。人生や恋愛に対する態度が、まだ一つの形に定まっていない。

音楽的には、穏やかで控えめなアレンジが中心で、曲全体に柔らかなメランコリーがある。ギターと声の距離が近く、ローファイではないが、非常に小さな空間で鳴っているように感じられる。Pulpの後年のドラマティックな展開とは対照的に、この曲は内側へ向かっている。

歌詞では、関係や感情を一つの言葉で整理できない状態が描かれているように響く。人を好きになること、失望すること、自分の人生に迷うこと。それらは単純な善悪や成功失敗では説明できない。「In Many Ways」というタイトルは、そうした複雑さをまだうまく言葉にできないまま示している。

この曲は、アルバムの中でも特に静かな位置にあり、初期Pulpの繊細な側面をよく表している。強いフックよりも、感情の揺れが重要である。

8. Looking for Life

ラスト曲「Looking for Life」は、『It』の終曲として非常に象徴的である。タイトルは「人生を探している」という意味を持ち、若いPulpがこのアルバム全体で抱えていた漠然とした探求心をそのまま言葉にしている。愛、場所、未来、自分自身。何を探しているのかは明確ではないが、とにかく何かを探している。その感覚が、本作の核心である。

音楽的には、穏やかながらも少し開けた印象を持つ曲である。アルバムの終わりに置かれることで、完全な結論ではなく、これから先への問いを残す。『It』は完成された答えのアルバムではない。むしろ、問いのアルバムである。その意味で「Looking for Life」は非常にふさわしい締めくくりである。

歌詞では、人生の意味や方向性を探す若者の視線が感じられる。後年のPulpは、人生を探すというより、人生の中にある滑稽で残酷な場面を具体的に観察するバンドになる。しかしこの時点では、Jarvis Cockerはまだ観察者として完全に外に立っているわけではない。彼自身が、人生を探している側にいる。

「Looking for Life」は、Pulpのデビュー・アルバムを締めくくるにふさわしい曲である。未完成で、不安定で、しかし切実である。ここで提示された「探す」という姿勢は、Pulpがその後長い時間をかけて自分たちの音と言葉を見つけていく過程そのものを予告している。

総評

『It』は、Pulpのディスコグラフィーの中でも非常に特異な作品である。後年のPulpを象徴する鋭い社会観察、性的な気まずさ、階級意識、ディスコ・ビート、グラム的な演劇性はまだほとんど存在していない。その代わりにあるのは、若いJarvis Cockerの繊細でロマンティックな感情、フォークポップ寄りの控えめなサウンド、そして自分たちが何者になるのかを探しているバンドの不安定な姿である。

本作の最大の魅力は、その未完成さにある。『Different Class』のような完成されたソングライティングや、『This Is Hardcore』のような濃厚な美学を期待すると、『It』はあまりに素朴に聞こえるかもしれない。しかし、そこには若いバンドにしか出せない透明な迷いがある。自分たちが何を言いたいのか、どんな音を鳴らしたいのか、まだ完全には分かっていない。その不確かさが、アルバム全体に淡い魅力を与えている。

音楽的には、フォークポップ、インディーポップ、ポストパンク以後のDIY感覚が混ざり合っている。アレンジは控えめで、演奏も派手ではない。だが、曲には後のPulpにつながる要素が少しずつ含まれている。灯台、船、列車、青い少女、人生を探すこと。これらのイメージは、Jarvis Cockerが後に具体的な都市生活や欲望の場面を描く前の、より詩的で曖昧な段階を示している。

歌詞の面でも、後年のような鋭利な観察はまだ少ない。しかし、現実への違和感、どこかへ行きたい気持ち、恋愛への憧れ、冗談と本音の間にある不安は、すでに存在している。Pulpは最初から社会の語り手だったわけではない。むしろ、最初は自分自身の感情をどう扱えばいいのか分からない若いソングライターのバンドだった。その事実は、後年のPulpを理解するうえで非常に重要である。

『It』は、Pulpの最高傑作ではない。むしろ、完成度や影響力という点では、後の作品に大きく譲る。しかし、Pulpの長いキャリアを追うなら、本作は欠かせない。ここには、まだ誰にも見つかっていないPulp、そして自分たち自身も何者になるのか分かっていないPulpがいる。その初々しさは、後年の皮肉や成熟を知っているからこそ、より興味深く響く。

日本のリスナーにとっては、ブリットポップ期のPulpから入ると、本作はかなり意外に聞こえるだろう。派手なフックやダンス感覚を求めるより、初期インディーポップやポストパンク以後の内向的なギター音楽として聴く方が理解しやすい。Orange Juice、Felt、Young Marble Giants、初期The Smiths周辺の繊細な英国インディーに親しんでいるリスナーには、本作の淡い魅力が伝わりやすい。

評価として、『It』はPulpの原石である。まだ磨かれておらず、光も弱い。しかし、その中には後に英国ポップ史に残る語り手となるJarvis Cockerの感受性が、確かに宿っている。『It』は、Pulpが「人生を探していた」時期の記録であり、完成された名盤とは別の意味で重要な、静かで不安定なデビュー作である。

おすすめアルバム

1. Pulp – His ’n’ Hers(1994)

Pulpが本格的にブリットポップ期の存在感を確立した作品。『It』の繊細さから大きく変化し、欲望、郊外生活、性的な気まずさ、シンセポップ的な華やかさが前面に出ている。初期Pulpから成熟したPulpへの飛躍を理解するうえで重要である。

2. Pulp – Different Class(1995)

Pulpの代表作であり、ブリットポップを象徴する名盤。「Common People」「Disco 2000」などを収録し、階級意識、欲望、日常のドラマを鋭く描いた。『It』の内向的な若者が、社会を観察する語り手へ変化した到達点として聴ける。

3. Pulp – Separations(1992)

『It』とブリットポップ期のPulpをつなぐ過渡期の作品。初期の暗さや不安定さを残しながら、後のPulpに重要なダンス/ディスコ的要素が入り始めている。バンドの変化を理解するうえで非常に興味深いアルバムである。

4. Orange Juice – You Can’t Hide Your Love Forever(1982)

英国インディーポップの重要作。ポストパンク以後のDIY感覚、ぎこちないギター、ロマンティックで少し皮肉な歌詞は、『It』の時代背景を理解するうえで参考になる。Pulpとは異なるが、同時代の英国インディーの空気を共有している。

5. Felt – Crumbling the Antiseptic Beauty(1982)

繊細なギター、内向的なヴォーカル、淡い英国インディーポップの美学を持つ作品。『It』の静かで未完成な魅力に惹かれるリスナーに適している。派手さよりも、若い感受性と音の余白を重視する点で関連性が高い。

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