
1. 楽曲の概要
「Ziggy Stardust」は、イギリスのポストパンク/ゴシック・ロック・バンド、Bauhausによる楽曲である。オリジナルはDavid Bowieが1972年に発表したアルバム『The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars』収録曲であり、Bauhaus版は1982年にシングルとしてリリースされたカバーである。
Bauhaus版「Ziggy Stardust」は、Beggars Banquetから発表され、全英シングル・チャートで15位を記録した。これはBauhausにとって最大級のチャート成績であり、バンドがアンダーグラウンドなゴシック/ポストパンクの存在から、より広いリスナーに知られるきっかけになったシングルである。
このカバーは、Bauhausのサード・アルバム『The Sky’s Gone Out』の一部再発盤やコンピレーションで聴けるほか、バンドの代表的なカバー曲として語られることが多い。オリジナルのBowie版がグラム・ロックの象徴であるのに対し、Bauhaus版はそれをより速く、荒く、舞台的なポストパンクへ変換している。
BauhausがDavid Bowieを取り上げたことは、単なる選曲以上の意味を持つ。Bauhausの演劇性、黒い美意識、細身で異形のフロントマン像、ロックとアートの境界を越える姿勢は、Bowieのグラム期から大きな影響を受けている。「Ziggy Stardust」は、Bauhausが自分たちのルーツの一つを明確に示した楽曲といえる。
2. 歌詞の概要
「Ziggy Stardust」の歌詞は、架空のロックスター、Ziggy Stardustの姿を描いている。Ziggyは奇抜な外見と強いカリスマを持ち、ギターを弾き、バンドを率い、観客を魅了する。しかし、その存在は成功と同時に破滅を含んでいる。スターであること、演じること、欲望の対象になることが、最終的に自分自身を崩していく。
歌詞の語り手は、Ziggyを外側から見ている。憧れ、皮肉、距離感が混ざっており、完全な賛美ではない。Ziggyは才能ある人物として描かれるが、同時に自分のイメージに飲み込まれていく存在でもある。ロックスターの神話を作りながら、その危うさも示している点が重要である。
Bauhausがこの曲をカバーしたとき、歌詞の意味は少し変化する。David Bowie自身が作ったZiggyというキャラクターを、BauhausのPeter Murphyが歌うことで、Ziggyはさらに外部化される。つまり、Bowieによる自己神話の曲が、Bauhausによる継承と再演の曲になる。
また、歌詞にある「奇妙な髪型」「ギター」「バンド」「ファン」「スターの崩壊」といったイメージは、Bauhausの時代にもよく響いた。1980年代初頭のポストパンクにおいて、ロックスター像はすでに皮肉や再解釈の対象だった。Bauhaus版「Ziggy Stardust」は、グラム・ロックの神話をそのまま懐古するのではなく、ゴシックな演劇性の中で再び燃え上がらせている。
3. 制作背景・時代背景
David Bowieのオリジナル「Ziggy Stardust」は、1972年のアルバム『The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars』に収録された。このアルバムは、地球滅亡の予感、宇宙的なロックスター、グラム・ロックの視覚性、性の曖昧さ、スターの上昇と崩壊を結びつけた作品であり、1970年代ロックの重要作である。
Bauhausがこの曲をカバーした1982年は、バンドにとって大きな拡大期だった。1980年の『In the Flat Field』、1981年の『Mask』を経て、1982年には『The Sky’s Gone Out』を発表している。この時期のBauhausは、初期の荒々しいポストパンクから、より多様な表現へ広がっていた。ダブ、ファンク、アコースティックな質感、実験的な音響、グラム・ロック的な引用が混ざり合っていた。
「Ziggy Stardust」のカバーは、この流れの中で非常に自然な選択だった。Bauhausは、暗い音楽のバンドであると同時に、David Bowie、T. Rex、Roxy Musicなどのグラム的な演劇性を継承するバンドでもあった。特にPeter Murphyの身体性や舞台上の振る舞いは、ロック・ヴォーカリストが単に歌う存在ではなく、イメージを演じる存在であることを強く示していた。
Bauhaus版は、BBCのテレビ番組『Top of the Pops』での出演によっても広く知られるようになった。Bauhausが黒い衣装と鋭い演奏でBowieの代表曲を演じる姿は、ゴシック・ロックとグラム・ロックの接点を視覚的にも示した。チャート上でも成功し、バンドの知名度を大きく高めた。
このカバーは、Bauhausがゴス・バンドとして閉じた存在ではなかったことを示している。彼らは過去のロックの記号を読み替え、それを自分たちの音へ変える力を持っていた。「Ziggy Stardust」は、BauhausがBowieへの敬意を示しながら、同時に自分たちの鋭いポストパンク感覚で再構築した作品である。
4. 歌詞の抜粋と和訳
Ziggy played guitar
和訳:
ジギーはギターを弾いていた
この一節は、Ziggyという人物のイメージを最も簡潔に示している。彼はロックスターであり、ギターを手にした象徴的な存在である。Bauhaus版では、このフレーズがより荒く、速く、舞台上の宣言のように響く。
Making love with his ego
和訳:
自分の自我と愛し合っていた
この部分は、Ziggyのナルシシズムを示している。スターは観客に愛される存在であると同時に、自分自身のイメージにも取り込まれる。Bowie版ではロックスター神話への皮肉として響くが、Bauhaus版ではPeter Murphyの演劇的な歌い方によって、さらに退廃的な印象が強まる。
When the kids had killed the man
和訳:
子どもたちがその男を殺したとき
この一節は、Ziggyの崩壊を示す。観客に作られたスターは、観客によって消費され、破壊される。ロックのカリスマが持つ危うさを端的に示すフレーズである。
歌詞の引用は批評・解説に必要な最小限にとどめている。原詞の権利は権利者に帰属する。
5. サウンドと歌詞の考察
Bauhaus版「Ziggy Stardust」は、オリジナルに比べてテンポが速く、演奏も鋭い。Bowie版はグラム・ロックらしい余裕と粘りを持つが、Bauhaus版はそれをポストパンク的な速度へ変えている。曲は最初から前へ走り、余韻よりも衝動が強い。
Daniel Ashのギターは、原曲の印象的なリフを引き継ぎながら、より乾いた音で鳴る。Mick Ronsonのギターがグラム・ロックの厚みと艶を持っていたのに対し、Ashのギターは鋭く、細く、切断的である。これにより、同じリフでも、スターの栄光よりも神経質な興奮が前に出る。
David Jのベースは、曲の低音を引き締める。Bauhausの楽曲ではベースが暗い空間を作ることが多いが、この曲ではロックンロールの推進力を支える役割が大きい。原曲のグラム的な揺れを、より直線的なポストパンクの身体感覚へ変えている。
Kevin Haskinsのドラムは、曲を軽快に押し出す。Bauhausの他の楽曲にあるダブ的な余白や不気味な間よりも、この曲では明快なビートが中心である。カバー曲としての即効性を高め、ライヴでも機能しやすいアレンジになっている。
Peter Murphyのヴォーカルは、このカバーの最大の特徴である。彼はBowieを忠実に模倣するのではなく、ZiggyというキャラクターをBauhausの舞台へ連れてくる。声は鋭く、演劇的で、少し冷たい。Ziggyを懐かしむのではなく、もう一度異形のスターとして立ち上げるように歌っている。
歌詞との関係で見ると、Bauhaus版はZiggyの神話性をより外側から演じている。Bowie版では、ZiggyはBowie自身の作り出したキャラクターであり、自己神話と自己批評が一体になっていた。Bauhaus版では、そのキャラクターを後の世代が再演するため、Ziggyはすでに歴史上の亡霊のように聴こえる。
この点で、Bauhaus版「Ziggy Stardust」は単なるカバーではない。Bowieが1972年に作ったロックスター像を、1982年のゴシック/ポストパンクの文脈で再起動している。グラム・ロックのきらびやかさは、Bauhausの手によってより暗く、鋭く、死後のイメージを帯びる。
Bauhausのオリジナル曲と比べると、「Ziggy Stardust」はかなりストレートなロック曲である。「Bela Lugosi’s Dead」のような空間的なダブ感も、「Hollow Hills」のような民俗的な不気味さも、「Stigmata Martyr」のような宗教的な過激さもない。しかし、それでもBauhausらしく聴こえるのは、演奏の硬さとPeter Murphyの声が、曲を暗い演劇へ変えているからである。
「Lagartija Nick」との関係も興味深い。「Lagartija Nick」は、Bauhaus自身が作ったグラム/ロックンロール的な悪趣味の曲だった。一方「Ziggy Stardust」は、彼らがその源流であるBowieを直接カバーした曲である。両曲を並べると、Bauhausがゴシック・ロックだけでなく、グラム・ロックの芝居がかった美学を強く受け継いでいたことがわかる。
また、このカバーの成功は、Bauhausのイメージ形成にも影響した。暗い地下のバンドという印象に加え、彼らがBowie以後のロックの系譜にいることを、多くのリスナーに示したからである。ゴス文化は、パンクやポストパンクだけでなく、グラムの視覚性や両義的な性表現とも深く関係している。Bauhaus版「Ziggy Stardust」は、その接続を非常にわかりやすく示す曲である。
オリジナルの「Ziggy Stardust」は、ロックスターが自分の神話に飲み込まれる曲である。Bauhaus版では、その神話はすでに過去のものとして存在し、バンドはそれを黒い衣装で再演する。そこには敬意と同時に、死者を呼び戻すような感覚がある。Bauhausらしいゴシック性は、ここでも「死後のスター」を演じる形で表れている。
この曲の聴きどころは、Bowieへの忠実なカバーでありながら、バンドの個性がはっきり残っている点である。原曲の骨格は変えすぎない。しかし、音の乾き、テンポ、声の質、演奏の鋭さによって、曲の意味合いは変わる。Bauhausは「Ziggy Stardust」を自分たちのものにするために、大きな改変ではなく、演奏の質感を変えることを選んだといえる。
6. この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
- Ziggy Stardust by David Bowie
原曲であり、1972年のアルバム『The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars』の中心的な楽曲である。Bauhaus版と比較すると、BowieとMick Ronsonによるグラム・ロックの艶、余裕、スター性がよくわかる。カバーの意味を理解するために必ず聴きたい曲である。
- Lagartija Nick by Bauhaus
Bauhaus自身によるグラム/ロックンロール色の強いシングルである。「Ziggy Stardust」のカバーで示されたBowie的な演劇性が、Bauhausのオリジナル曲として変形された例といえる。悪魔的で滑稽なロックンロール感が共通している。
- Telegram Sam by Bauhaus
T. Rexの楽曲をBauhausがカバーした曲である。「Ziggy Stardust」と同じく、グラム・ロックの源流をBauhausが自分たちの音で再解釈している。Bowieだけでなく、Marc Bolanからの影響を知るうえでも重要である。
- Dark Entries by Bauhaus
Bauhausの初期代表曲で、ポストパンク的な速度と暗い都市感覚が強い。「Ziggy Stardust」よりオリジナル曲としてのBauhausらしさが濃く、Peter Murphyの鋭いヴォーカルとDaniel Ashのギターの関係を確認できる。
- Moonage Daydream by David Bowie
『The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars』収録曲で、Ziggyというキャラクターの宇宙的で性的に曖昧な魅力が強く出ている。「Ziggy Stardust」と並んで、Bauhausが受け継いだグラム・ロックの演劇性を理解するうえで重要である。
7. まとめ
「Ziggy Stardust」は、Bauhausが1982年に発表したDavid Bowieのカバーであり、バンド最大級のチャート成功を収めたシングルである。全英シングル・チャートで15位を記録し、Bauhausの名前をより広い層へ届けるきっかけになった。
歌詞では、架空のロックスターZiggy Stardustの上昇と崩壊が描かれる。Bowie版では自己神話と自己批評が一体になっていたが、Bauhaus版ではその神話がポストパンク/ゴシックの文脈で再演される。Ziggyは過去のスターであると同時に、Bauhausの舞台上で再び蘇る亡霊のようにも響く。
サウンド面では、原曲の構成を大きく崩さず、テンポ、音の乾き、ギターの鋭さ、Peter Murphyの演劇的なヴォーカルによって、Bauhausらしい解釈に変えている。Bowieのグラム・ロックの艶は、Bauhausの手でより暗く、硬く、神経質なロックへ変化している。
このカバーは、Bauhausがゴシック・ロックのバンドであると同時に、グラム・ロックの後継者でもあったことを示す重要曲である。暗さ、演劇性、異形のスター像、ロックの自己神話という要素が交差した、Bauhausのキャリアにおける象徴的なカバーといえる。
参照元
- Official Charts – Ziggy Stardust by Bauhaus
- Official Charts – Bauhaus
- Discogs – Bauhaus – Ziggy Stardust
- Bauhaus – The Sky’s Gone Out | Apple Music
- Bauhaus – Ziggy Stardust | Spotify
- AllMusic – Bauhaus Biography
- YouTube – Bauhaus – Ziggy Stardust
- David Bowie Official – The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars
- Discogs – David Bowie – The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars
- Wikipedia – Ziggy Stardust

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