
1. 楽曲の概要
「Beautiful People (Stay High)」は、アメリカ・オハイオ州アクロン出身のロック・デュオ、The Black Keysが2024年に発表した楽曲である。12作目のスタジオ・アルバム『Ohio Players』からの先行シングルとして2024年1月12日に公開され、アルバム本編にも収録された。The Black Keysにとって、2022年の『Dropout Boogie』以来の新作アルバムを告知するリード曲であり、2020年代後半へ向かうバンドの方向性を示す重要な一曲である。
『Ohio Players』は、2024年4月5日にEasy Eye SoundおよびNonesuch / Warner Recordsからリリースされた。アルバムにはBeck、Dan the Automator、Noel Gallagher、Greg Kurstin、Juicy J、Lil Noidなど、多様なゲストや共同制作者が参加している。The Black KeysはもともとDan AuerbachとPatrick Carneyの二人による最小限の編成から始まったバンドだが、このアルバムでは外部コラボレーションを大きな軸にしている。
「Beautiful People (Stay High)」は、Dan Auerbach、Patrick Carney、Beck、Dan the Automatorによって書かれた曲である。The Black Keysのブルース・ロック的な基盤に、Beckのコラージュ感覚、Dan the Automatorのヒップホップ/サンプリング的なプロダクション感覚が加わっている。曲の尺は約2分47秒で、短く、明快で、アルバムの導入として機能しやすい構造を持つ。
この曲は、2025年開催の第67回グラミー賞でBest Rock PerformanceとBest Rock Songにノミネートされた。The Black Keysはすでに『Brothers』や『El Camino』期に大きな評価を得たバンドだが、「Beautiful People (Stay High)」はキャリア20年以上を経た彼らが、軽快で開かれたロック・ソングを現在形で鳴らしたことを示している。
2. 歌詞の概要
「Beautiful People (Stay High)」の歌詞は、複雑な物語を語るタイプではない。中心にあるのは、「beautiful people」という呼びかけと、「stay high」という合い言葉のようなフレーズである。ここでの「high」は、文字どおりの薬物的な意味に限定されない。気分を高く保つこと、高揚した状態にいること、日常の重さから少し浮き上がることを含む表現として機能している。
語り手は、特定の恋人や敵に向かって歌っているのではなく、より広い集団へ呼びかけている。これはThe Black Keysの過去曲と比べると特徴的である。「Your Touch」「Next Girl」「Fever」などでは、個人的な欲望や関係の葛藤が中心だった。一方、この曲では、個人の恋愛よりも、場の空気や集団的な高揚が主題になっている。
歌詞の言葉数は多くなく、反復が中心である。「beautiful people」「say hey」「stay high」といった短いフレーズが繰り返されることで、曲はメッセージを説明するより、聴き手を同じリズムへ巻き込む。ライブやフェスで観客が声を合わせやすい構造であり、The Black Keysの近年の楽曲の中でも特に開かれた性格を持つ。
ただし、歌詞が明るいからといって、単純な幸福の歌とは言い切れない。The Black Keysの楽曲では、軽快なサウンドの下に疲労や逃避の感覚が潜むことが多い。「stay high」という言葉にも、ただ楽しくいるだけでなく、落ち込まないように自分を保つというニュアンスがある。曲全体はパーティー・ソングとして機能するが、その背景には、日常の重さを一時的に超えようとする感覚もある。
3. 制作背景・時代背景
『Ohio Players』は、The Black Keysにとってかなりコラボレーション色の強いアルバムである。初期の彼らは、Dan Auerbachのギターとボーカル、Patrick Carneyのドラムだけで、ミシシッピ・ヒル・カントリー・ブルースやガレージ・ロックを荒く鳴らす二人組だった。2000年代前半の『The Big Come Up』『Thickfreakness』『Rubber Factory』では、その最小限の編成が最大の個性だった。
その後、The Black KeysはDanger Mouseとの制作を経て、『Brothers』『El Camino』で大きな成功を収めた。『Turn Blue』ではサイケデリックな方向へ進み、2019年の『Let’s Rock』では比較的ストレートなロックへ戻った。2021年の『Delta Kream』ではブルース・カバーを通じてルーツを再確認し、2022年の『Dropout Boogie』ではその流れをオリジナル曲へ戻した。
「Beautiful People (Stay High)」が含まれる『Ohio Players』では、バンドはさらに外へ開いている。Beckはアルバム内の複数曲で共同作曲に関わり、Dan the Automatorもこの曲の重要な共同制作者である。Beckはジャンル横断的な作風を持つアーティストであり、1990年代以降、ロック、ヒップホップ、フォーク、ファンク、ソウルをコラージュ的に組み合わせてきた。Dan the Automatorはヒップホップやオルタナティブ系のプロダクションで知られ、切り貼りされたビートやサンプル的な質感を得意とする。
この二人の参加によって、「Beautiful People (Stay High)」はThe Black Keysの通常のブルース・ロックから少し離れ、よりカラフルでリズム重視の曲になっている。ギター・リフの重さだけで押すのではなく、ホーン風の切り込み、手拍子、パーカッション、コーラス的なフックが組み合わされている。これは『Ohio Players』全体の「ジュークボックス的」な性格とも関係している。
ミュージック・ビデオも、曲の性格をよく表している。ビデオでは世界各地の人々が踊る映像が使われ、曲の「beautiful people」という呼びかけを視覚的に広げている。バンド自身の演奏を中心に見せるのではなく、さまざまな人が体を動かす姿を並べることで、曲の高揚感と共同体的な空気を強調している。
4. 歌詞の抜粋と和訳
All of those beautiful people
和訳:
あの美しい人たちみんな
このフレーズは、曲の中心的な呼びかけである。ここでの「beautiful」は、外見の美しさだけを指すとは限らない。曲全体の文脈では、踊り、声を上げ、高揚を共有する人々への呼びかけとして機能している。
Stay high
和訳:
高い気分のままでいよう
この短い言葉は、曲の合い言葉である。単なる快楽主義ではなく、気分を落とさず、日常から少し離れ、音楽の中で自分を保つことを示している。反復されることで、聴き手もその場に参加するように促される。
引用した歌詞は、批評と解説に必要な最小限の範囲にとどめている。歌詞の権利は作詞者および権利者に帰属する。
5. サウンドと歌詞の考察
「Beautiful People (Stay High)」は、The Black Keysの近年の楽曲の中でも特に軽快な曲である。冒頭からリズムが前に出て、ギターの重さよりも、ビート、手拍子、ホーン的な短い音の切り込みが印象に残る。初期の『Thickfreakness』や『Rubber Factory』にあった地下室的な荒さとは異なり、音は明るく整理されている。
ただし、The Black Keysらしさが消えているわけではない。Dan Auerbachのボーカルにはざらつきが残り、曲の根底にはブルース・ロック由来の反復がある。Patrick Carneyのリズム感も、シンプルなビートを強く押し出すThe Black Keysらしい方法を保っている。違いは、その反復がよりパーティー・ミュージックに近い方向へ開かれている点である。
Beckの影響は、曲のコラージュ感覚に表れている。The Black Keysの過去曲では、ギター・リフが曲の中心になることが多かった。しかし「Beautiful People (Stay High)」では、複数の音の断片が積み重なり、軽く跳ねるリズムを作る。これはBeckの『Odelay』や『Midnite Vultures』期を思わせる、ジャンルを横断するポップ感覚に近い。
Dan the Automatorの関与も、曲のビート感に大きい。リズムはロック・バンドの自然な演奏だけでなく、切り貼りされたトラックのようにも聴こえる。ホーン風のフレーズやパーカッションの配置は、The Black Keysのブルース・ロックにヒップホップ的な編集感覚を加えている。結果として、曲は二人組のガレージ・ロックというより、サウンド・コラージュ型のロック・ポップになっている。
歌詞とサウンドの関係では、反復の役割が重要である。「beautiful people」「stay high」という短い言葉が、リズムに乗って何度も戻ってくる。これは、複雑な物語を伝えるためではなく、場の高揚を維持するための反復である。歌詞の意味は深く掘り下げられるというより、聴き手が同じフレーズを共有することで強まる。
『Ohio Players』の中で見ると、「Beautiful People (Stay High)」は、アルバムのコラボレーション志向を最もわかりやすく示す曲のひとつである。同作には、ソウル、ガレージ・ロック、ヒップホップ、サイケデリック・ポップ、ブリティッシュ・ロック的な要素が混在している。この曲はその中でも、明るく入口になりやすい楽曲であり、アルバム全体の「開かれた」性格を先に提示している。
「Wild Child」と比較すると、The Black Keysの変化がよくわかる。「Wild Child」は、リフとドラムを中心にした比較的ストレートなロック・ソングだった。一方「Beautiful People (Stay High)」は、ギター・リフだけでなく、ビートの装飾やコーラスの反復によって進む。どちらも短くキャッチーだが、前者はガレージ・ロック寄り、後者はよりファンク、ソウル、ヒップホップの感覚に開かれている。
「Fever」と比べると、さらに対照的である。「Fever」はシンセサイザーの反復と暗い熱のイメージによって、内向きで中毒的なグルーヴを作っていた。「Beautiful People (Stay High)」は、同じ反復を使いながら、外向きで祝祭的である。The Black Keysは反復を不安にも高揚にも変えられるバンドであり、この曲はその明るい側面を示している。
また、「Lonely Boy」との関係も重要である。「Lonely Boy」は、The Black Keysが大きな成功を得た代表曲であり、ギター・リフとダンスしやすいビートを結びつけた曲だった。「Beautiful People (Stay High)」は、そのダンス性をさらにコラージュ的に発展させている。ギター・ロックの枠にとどまらず、クラブやパーティーでも機能しやすいリズム感を持つ。
聴きどころは、曲の軽さをどう受け取るかにある。初期The Black Keysの荒いブルースを好む聴き手には、この曲はかなりポップに感じられるかもしれない。しかし、彼らの音楽の核である反復、グルーヴ、短いフックは残っている。違うのは、それが泥臭いリフではなく、明るいコーラスと跳ねるビートへ置き換えられていることだ。
「Beautiful People (Stay High)」は、The Black Keysがキャリアを重ねたあとも、自分たちの音を固定化しなかったことを示している。ブルース・ロックの二人組として始まったバンドが、BeckやDan the Automatorとの協働によって、より多色的なロック・ポップへ進んだ。その変化を、難解な実験ではなく、すぐに口ずさめる曲として提示している点がこの曲の強みである。
6. この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
- Wild Child by The Black Keys
2022年の『Dropout Boogie』収録曲で、短くキャッチーなリフと軽快なビートを持つ。「Beautiful People (Stay High)」よりもガレージ・ロック寄りだが、近年のThe Black Keysが持つ明快なフックを楽しめる。
- Lonely Boy by The Black Keys
2011年の『El Camino』収録曲で、The Black Keys最大級の代表曲である。ギター・リフとダンスしやすいビートを結びつける作りは、「Beautiful People (Stay High)」の外向きなグルーヴとつながっている。
- Gold on the Ceiling by The Black Keys
『El Camino』収録曲で、グラム・ロック的なリズムとサイケデリックなコーラスが特徴である。反復するフックと明るい毒気を持つ点で、「Beautiful People (Stay High)」に近い聴き心地がある。
- Where It’s At by Beck
Beckの代表曲のひとつで、ヒップホップ、ファンク、ロックをコラージュ的に組み合わせている。「Beautiful People (Stay High)」にあるBeck的なリズム感や断片的なサウンド配置を理解するうえで参考になる。
- Feel Good Inc.
Dan the Automatorが初期Gorillazに関わっていた文脈を踏まえると、ロック、ヒップホップ、ポップを横断する感覚で近い曲である。「Beautiful People (Stay High)」の軽快さと少し奇妙なポップ感が好きな人に合う。
7. まとめ
「Beautiful People (Stay High)」は、The Black Keysの2024年作『Ohio Players』を象徴する先行シングルである。BeckとDan the Automatorとの共同制作によって、従来のブルース・ロックの枠を越え、ファンク、ヒップホップ、ソウル、ポップの要素を取り込んだ軽快な楽曲になっている。
歌詞では、「beautiful people」への呼びかけと「stay high」という反復が中心になる。物語性は少ないが、その分、ライブや映像、パーティー的な場で機能しやすい。聴き手を説明で説得するのではなく、同じフレーズとリズムへ参加させる曲である。
サウンド面では、手拍子、ホーン的な短い音、跳ねるビート、Auerbachのざらついたボーカルが組み合わされている。初期The Black Keysの荒いブルース・ロックとは距離があるが、反復とグルーヴを重視する核は残っている。「Beautiful People (Stay High)」は、The Black Keysが長いキャリアの中で、自分たちの強みを保ちながら外部の感覚を取り込み、開かれたロック・ポップへ更新した楽曲といえる。
参照元
- Nonesuch Records – The Black Keys Debut New Video for “Beautiful People (Stay High)”
- Pitchfork – The Black Keys Announce Album, Share New Song “Beautiful People (Stay High)”
- Pitchfork – The Black Keys: Ohio Players
- Spotify – Beautiful People (Stay High) by The Black Keys
- Apple Music – Ohio Players by The Black Keys
- Discogs – The Black Keys, Ohio Players
- Dork – The Black Keys, Beautiful People (Stay High)
- NME – The Black Keys share new single “Beautiful People (Stay High)” and announce album Ohio Players
- The Recording Academy – 67th Annual GRAMMY Awards Nominees
- Warner Music Japan – The Black Keys

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