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シンセ・ポップを知るなら、まず定番アーティストから
シンセ・ポップは、シンセサイザーやドラムマシン、シーケンサーなどの電子楽器を中心に組み立てられたポップ・ミュージックである。1970年代末から1980年代にかけてイギリスを中心に大きく発展し、その後のエレクトロニック・ポップやダンス・ミュージックにも強い影響を与えた。
一口にシンセ・ポップといっても、音楽性は幅広い。The Human Leagueのようにミニマルな電子音からポップへ進んだグループもいれば、Depeche Modeのように次第に重く複雑なサウンドへ発展したバンド、Pet Shop Boysのようにクラブ・ミュージックと洗練されたポップソングを結びつけたデュオもいる。
まずは定番アーティストを聴き比べることで、シンセ・ポップが単なる「80年代風の電子音」ではなく、電子楽器を使ってポップソングそのものを更新してきたジャンルであることが見えてくる。
シンセ・ポップとはどんなジャンルか
シンセ・ポップの成立には、1970年代の電子音楽やクラウトロック、David Bowieらの実験的な作品、そしてKraftwerkの存在が大きく関係している。高価だったシンセサイザーが次第に使いやすくなり、ポストパンク以降の若いミュージシャンが電子楽器をバンドの中心へ置くようになった。
特に1980年代前半には、シンセサイザー、シーケンサー、ドラムマシンを利用した楽曲が英国のポップチャートへ大量に進出した。電子音ならではの反復や人工的な質感を生かしつつ、強いメロディと歌を組み合わせることが基本的な特徴である。
ニュー・ウェイヴとの境界は明確ではなく、両方のカテゴリーで語られるアーティストも多い。シンセ・ポップを80年代のロック/ポップ全体の流れから理解するなら、まずニュー・ウェイヴとの関係を押さえておきたい。
シンセ・ポップの定番アーティスト10選
1. Depeche Mode
1980年にイングランドのバジルドンで結成されたDepeche Modeは、シンセ・ポップを代表するバンドのひとつである。初期にはVince Clarkeの作曲による明快な電子ポップを演奏していたが、彼の脱退後はMartin Goreが主要ソングライターとなり、次第に暗く重厚な音楽へ変化した。
1981年の『Speak & Spell』から『Music for the Masses』『Violator』へと作品を追うと、その発展がよくわかる。「Just Can’t Get Enough」の軽快さと「Enjoy the Silence」の洗練されたサウンドを比較するだけでも、シンセ・ポップが持つ表現の幅を体験できる。
2. The Human League
シェフィールドで1977年に結成されたThe Human Leagueは、英国シンセ・ポップの発展を語るうえで欠かせない存在である。初期は実験的な電子音楽に近かったが、メンバー交代を経て、より明快なポップへ移行した。
その転換点となったのが1981年の『Dare』である。「Don’t You Want Me」をはじめ、シンセサイザー主体のアレンジと覚えやすいメロディを結びつけ、電子音楽が大衆的なポップとして成立することを示した。80年代シンセ・ポップの基本形を知りたいなら最初に聴きたい。
3. Pet Shop Boys
Neil TennantとChris LoweによるPet Shop Boysは、1980年代半ばからシンセ・ポップをさらに洗練された形へ発展させた英国デュオである。
1986年のデビューアルバム『Please』に収録された「West End Girls」では、ヒップホップやクラブ・ミュージックから影響を受けたビートに、Tennantの抑制されたボーカルを組み合わせている。その後もハウスやディスコなどを吸収しながら、メロディと電子的なアレンジを両立してきた。
ダンス・ミュージックとしてのシンセ・ポップに興味がある初心者には特におすすめである。
4. Orchestral Manoeuvres in the Dark
Orchestral Manoeuvres in the Dark、通称OMDは、1978年にイングランド北西部で結成されたグループである。実験的な電子音楽への関心と、親しみやすいポップメロディを両立した。
代表曲「Enola Gay」では、印象的なシンセサイザーのフレーズと電子的なリズムを使いながら、歴史的な題材を扱っている。『Architecture & Morality』ではより重層的な電子音響へ進み、「Souvenir」など優れたポップソングも収録した。
初期電子音楽と80年代ポップの中間地点を知るためにも重要なバンドである。
5. Soft Cell
Marc AlmondとDave BallによるSoft Cellは、リーズのアートスクールを背景に登場した英国のシンセ・ポップ・デュオである。シンプルな電子リズムとシンセサイザーに、Almondの劇的なボーカルを組み合わせた。
1981年に発表した「Tainted Love」は、Gloria Jonesが歌った1960年代の楽曲を大胆な電子ポップとして再構築したもので、世界的なヒットとなった。デビュー作『Non-Stop Erotic Cabaret』では、都会的で猥雑な題材とミニマルな電子サウンドが組み合わされている。
シンセ・ポップの華やかなイメージとは異なる、地下クラブ的な側面を知るために聴きたい存在だ。
6. Yazoo
Depeche Modeを離れたVince ClarkeとAlison Moyetによって1981年に結成されたYazooは、短い活動期間ながらシンセ・ポップ史に重要な作品を残したデュオである。アメリカではYazとして知られている。
Vince Clarkeによる簡潔で精密な電子アレンジと、ブルースやソウルの影響を感じさせるMoyetの力強い歌声の組み合わせが最大の特徴だ。「Only You」では電子楽器の冷たい音色と人間的なボーカルが鮮やかな対比を生み、「Don’t Go」ではよりダンサブルな方向性を聴かせる。
歌の魅力を重視してシンセ・ポップへ入りたい人におすすめである。
7. Eurythmics
Annie LennoxとDave StewartによるEurythmicsは、1980年代英国ポップを代表するデュオである。シンセ・ポップを基盤としながら、ソウル、ロック、R&Bなどへ音楽性を広げていった。
1983年の「Sweet Dreams (Are Made of This)」は、反復するシンセベースとドラムマシン、Lennoxの強力なボーカルによって成立する代表曲である。同曲を収録した『Sweet Dreams (Are Made of This)』は、初期Eurythmicsの電子的なサウンドを理解するのに適している。
シンセサイザーの反復がどのように強力なポップソングの骨格になるのかがわかりやすい。
8. New Order
Joy Divisionのメンバーを中心に1980年に結成されたNew Orderは、ポストパンクと電子ダンス・ミュージックを結びつけた重要バンドである。純粋なシンセ・ポップだけに分類される存在ではないが、ジャンルの発展に与えた影響は非常に大きい。
1983年の「Blue Monday」ではドラムマシン、シーケンサー、シンセサイザーとバンド演奏を組み合わせ、ロックとクラブ・ミュージックの境界を大きく縮めた。その一方、「Bizarre Love Triangle」のようにメロディアスな電子ポップも残している。
シンセ・ポップからダンス・ロックやクラブ・カルチャーへ進みたい人には欠かせない存在である。
9. Erasure
Vince ClarkeとAndy Bellによって1985年に結成されたErasureは、80年代後半以降のシンセ・ポップを代表するデュオである。Depeche Mode、Yazooを経てきたClarkeの電子アレンジと、Bellの表現力豊かな歌声を組み合わせている。
「Sometimes」「A Little Respect」などでは、明快なシンセサイザーのフレーズと強力なコーラスを前面に押し出している。実験性よりもポップソングとしての完成度を重視した楽曲が多く、初めてシンセ・ポップを聴く人にも非常に入りやすい。
10. a-ha
ノルウェー出身のa-haは、1980年代に国際的な成功を収めたシンセ・ポップ・バンドである。1985年のデビューアルバム『Hunting High and Low』と、その収録曲「Take on Me」によって広く知られている。
「Take on Me」では疾走するシンセサイザーのリフ、電子ドラム、Morten Harketの広い声域を生かしたボーカルが組み合わされている。一方、同作のタイトル曲などを聴けば、単なる明るいポップバンドではなく、陰影のあるメロディを得意としていたこともわかる。
80年代ポップからシンセ・ポップへ入るなら、最も親しみやすい入口のひとつである。
まず聴くならこの3組
初心者が最初に聴くなら、The Human League、Depeche Mode、Pet Shop Boysの3組がおすすめである。
The Human Leagueは、シンセ・ポップが1980年代初頭に大衆的なポップへ進出した瞬間を理解しやすい。『Dare』には「Don’t You Want Me」をはじめ、電子音とキャッチーなメロディを結びつけた楽曲が揃っている。
Depeche Modeはジャンルの発展を追うのに適している。初期の軽快な電子ポップから『Violator』の重厚で洗練されたサウンドまで聴き進めると、シンセサイザーを使ったポップが80年代から90年代へどう変化したのかが見えてくる。
Pet Shop Boysは、シンセ・ポップとクラブ・ミュージックの接点を知るうえでわかりやすい。「West End Girls」から入り、『Please』『Actually』へ進めば、電子的なビートと優れたポップソングが両立する面白さをつかめる。
関連ジャンルへの広がり
シンセ・ポップの源流をさらに掘り下げるなら、クラウトロックや1970年代の電子音楽が重要である。特にKraftwerkが示したシンセサイザー、電子リズム、反復を中心とする方法論は、英国のニュー・ウェイヴ世代へ大きな刺激を与えた。
一方、New OrderやPet Shop Boysから先へ進めば、ディスコ、ハウス、テクノなどダンス・ミュージックとの関係が見えてくる。シンセ・ポップはロックから電子音楽へ向かう流れと、クラブ・ミュージックがポップへ接近する流れの両方が交差したジャンルなのである。
まとめ
シンセ・ポップを知るなら、まず1980年代前半のThe Human League、Depeche Mode、OMD、Soft Cellなどを聴くと、ジャンル成立期の特徴を理解しやすい。シンセサイザーやドラムマシンを単なる装飾ではなく、楽曲そのものを組み立てる中心的な楽器として使っている点に注目したい。
そこからPet Shop BoysやErasureへ進めば、電子ポップがより洗練されたダンス・ミュージックへ発展した流れが見えてくる。New Orderを経由すればクラブ・カルチャーとの接点も理解できる。
初心者ならThe Human Leagueの『Dare』、Depeche Modeの『Violator』、Pet Shop Boysの『Please』という順番で聴くのもわかりやすい。さらにSoft Cell、Yazoo、Eurythmics、a-haなどへ広げれば、シンセ・ポップが80年代を象徴するだけでなく、その後のエレクトロニックなポップ・ミュージックの基盤になったことが見えてくる。

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