発売日: 2012年11月7日
ジャンル: エレクトロニカ、シンセポップ、ウィッチハウス
『Crystal Castles (III)』(通称「Crystal Castles III」)は、カナダのエレクトロデュオCrystal Castlesの3枚目のアルバムで、デビュー作やセカンドアルバムと比較して、さらにダークでエモーショナルな方向性へと進化した作品だ。本作では、政治的、社会的なテーマが色濃く反映され、現代社会の不安や暴力、抑圧に対する反応が音楽の中で表現されている。アリス・グラスのボーカルはこれまで以上に人間的な感情を露わにし、イーサン・カスのプロダクションは、ノイズの粗さを維持しつつも、より洗練されたサウンドスケープを作り上げている。
このアルバムは、シンセサウンドとアンビエントな要素が融合したトラックが多く、メランコリックで悲壮感漂う雰囲気が特徴的だ。初期のパンク的な衝動から距離を置き、静かで内省的なトーンへと移行した本作は、Crystal Castlesの音楽的成熟を象徴する作品となっている。
トラック解説
- Plague
アルバムのオープニングを飾る一曲で、激しいビートと不気味なシンセサウンドが支配する。タイトル通り、圧倒的なカオスと絶望感が漂うトラックだ。 - Kerosene
ゆったりとしたテンポとメランコリックなメロディーが特徴の楽曲。暴力や抑圧への怒りが込められた歌詞が印象的で、悲痛な感情が伝わる。 - Wrath of God
荘厳でミステリアスな雰囲気を持つ楽曲。アンビエントなサウンドと硬質なビートが交錯し、終末的なムードを醸し出している。 - Affection
シンセサウンドが輝くポップな楽曲。メランコリックで内省的な歌詞が、静かに心に響く。 - Pale Flesh
不穏なリズムと鋭いサウンドが絡み合うトラック。暗闇の中にかすかな光が見えるような、独特の雰囲気が特徴だ。 - Sad Eyes
ダンサブルなビートが際立つ一曲。キャッチーなメロディーの裏に、悲しげな感情が滲むコントラストが面白い。 - Insulin
わずか1分50秒の短い楽曲ながら、ノイズとディストーションが支配する攻撃的なトラック。圧倒的な緊張感が詰め込まれている。 - Transgender
アンビエントなトーンが特徴的な一曲で、透明感のあるシンセサウンドが浮遊感を生み出している。現代のアイデンティティの複雑さを反映した楽曲だ。 - Violent Youth
軽快なリズムとダークなテーマが対照的な楽曲。若者の暴力や混乱を歌った歌詞が、ビートと共鳴している。 - Telepath
インストゥルメンタル的な要素が強い楽曲。リズムとサウンドがミニマルに構成され、アルバム全体のムードを支える。 - Mercenary
不気味で暗い雰囲気を持つ楽曲。緊張感のあるリズムと囁くようなボーカルが、終末的な印象を与える。 - Child I Will Hurt You
アルバムのラストを飾る静かなトラック。シンセの余韻が美しく広がり、哀愁漂うボーカルがアルバム全体の締めくくりにふさわしい。
アルバム総評
『Crystal Castles (III)』は、社会的な不安と個人的な感情が交差する、深遠でエモーショナルなアルバムだ。過去2作の攻撃性を内包しつつも、より繊細で静かなアプローチを採用しており、アリス・グラスとイーサン・カスの音楽性がさらなる進化を遂げた作品となっている。絶望的でありながらも美しいサウンドスケープは、聴き手を魅了すると同時に、現代社会に対する鋭い視点を提示している。特に「Plague」や「Child I Will Hurt You」などの楽曲は、アルバム全体のテーマを象徴する名曲だ。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Visions by Grimes
ダークで実験的なエレクトロポップが特徴で、『Crystal Castles (III)』のファンに響く一枚。
Silent Shout by The Knife
ダークなトーンとアンビエントなエレクトロサウンドが共通しており、Crystal Castlesの世界観に共鳴する。
Untrue by Burial
深いメランコリックな雰囲気とアンビエントなサウンドスケープが、『III』の静かな美しさと重なる。
Loom by Fear of Men
儚げで内省的なサウンドが特徴のアルバムで、繊細なメロディーとダークなテーマが共通している。
LP1 by FKA Twigs
エレクトロニックと感情的なボーカルが融合したアルバムで、Crystal Castlesの美的センスと共鳴する。
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