発売日: 2016年6月17日
ジャンル: インディーロック、エモ、オルタナティブロック
『Puberty 2』は、ミツキの音楽キャリアをさらに加速させ、彼女の名前を広く知らしめたアルバムだ。タイトルが示すように、第二の思春期とも言える苦悩や混乱、アイデンティティの模索をテーマに、個人的な内省を美しくも痛烈に描いている。本作では、感情の激しさと冷静な洞察力が見事にバランスを取り、ミツキ特有の「静と動」の対比が際立つ。
音楽的には、前作『Bury Me at Makeout Creek』のローファイな質感を引き継ぎつつ、より洗練されたプロダクションと多彩なアレンジを採用している。エレクトロニックな要素からノイズギター、静謐なバラードまで、多様な音楽スタイルを駆使しながらも、アルバム全体の統一感は失われていない。感情を剥き出しにしつつ、それを詩的な表現に昇華させた歌詞が、聴く者の心に深く突き刺さる。
トラック解説
- Happy
アルバムの幕開けを飾るこの曲は、軽やかなドラムマシンのリズムで始まるが、歌詞の内容は皮肉と悲しみが漂う。「幸福」という一見明るいテーマを扱いながら、実際には虚無感や不安定な感情が描かれている。終盤のサックスが楽曲にドラマチックな深みを加える。 - Dan the Dancer
パンチの効いたギターリフとアップテンポなビートが特徴の一曲。自由と閉塞感の間で揺れる感情を歌った歌詞が、激しいエネルギーとともに展開される。 - Once More to See You
穏やかなメロディーに乗せて、切ない愛の渇望を描くバラード。親密さと痛みを兼ね備えたミツキのボーカルが、楽曲全体を支配している。 - Fireworks
ミニマルなビートと控えめなアレンジが、歌詞の深い感情を際立たせる一曲。人生の中で感じる不安や苦痛を「花火」にたとえた詩的な表現が印象的だ。 - Your Best American Girl
ミツキの代表曲ともいえるこの楽曲は、アイデンティティの葛藤を鮮烈に描いている。重厚なギターが爆発的な感情を表現し、サビ部分での感情の解放が心を揺さぶる。アメリカ文化と自身のルーツの間での葛藤がテーマとなっている。 - I Bet on Losing Dogs
ギターと控えめなリズムが静かに進行する中で、敗北感と諦念を歌った一曲。「負け犬に賭ける」という比喩が、自己破壊的な恋愛や習慣を象徴している。静かでありながらも心に刺さる楽曲だ。 - My Body’s Made of Crushed Little Stars
わずか2分にも満たない短い楽曲だが、その中にエネルギーと切迫感が凝縮されている。歪んだギターと激しいボーカルが、人生への焦燥感や若さゆえの苦悩を爆発的に表現している。 - Thursday Girl
スローテンポなエレクトロニックサウンドが特徴の楽曲。浮遊感のあるアレンジと、孤独や虚無感をテーマにした歌詞が、夢の中をさまようような印象を与える。 - A Loving Feeling
キャッチーなメロディーが耳に残るが、歌詞は短い愛の一瞬に焦点を当てており、儚さと冷たさを同時に感じさせる。 - Crack Baby
ジャズの要素を取り入れたエクスペリメンタルな一曲。ゆったりとしたリズムの中に、重厚な感情が込められている。タイトルが象徴するように、深い傷やトラウマがテーマとなっている。 - A Burning Hill
アルバムの締めくくりにふさわしい静かなアコースティックバラード。自己受容と救済をテーマに、燃え尽きるような人生の一瞬を詩的に描写している。最後の「I am the fire, and I am the forest」の歌詞が余韻を残す。
アルバム総評
『Puberty 2』は、ミツキの個人的な苦悩を普遍的な物語として描き出した傑作だ。洗練されたプロダクションと多様な音楽スタイルが、彼女の感情的な歌詞を支え、アルバム全体に深い統一感を与えている。この作品では、若さゆえの不安やアイデンティティの葛藤が赤裸々に描かれ、ミツキのアーティストとしての表現力が頂点に達していると感じられる。『Puberty 2』はインディーロックの歴史に残る名盤であり、彼女のキャリアの中で最も重要な一枚の一つである。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Stranger in the Alps by Phoebe Bridgers
内省的な歌詞と繊細なサウンドスケープが特徴のアルバムで、『Puberty 2』の感情の深さを共有する作品。
Turn Out the Lights by Julien Baker
孤独や痛み、救済をテーマにしたアルバムで、ミツキの音楽と共通する感情的なカタルシスを提供してくれる。
Carrie & Lowell by Sufjan Stevens
喪失感と癒やしをテーマにしたアルバムで、ミツキの内面的な表現と響き合うフォーク作品。
Lush by Mitski
クラシカルな要素を取り入れたデビュー作で、彼女のルーツを探るうえで必聴の一枚。
Punisher by Phoebe Bridgers
感情を剥き出しにした歌詞と洗練されたサウンドが、『Puberty 2』のリスナーに響く作品。
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