Failureは、アメリカ・ロサンゼルスで結成されたオルタナティブ・ロック/スペースロック/ポスト・グランジ系のバンドである。中心人物は、ボーカル/ギター/ベース/プロデュースを担うKen Andrews、ギター/ベース/ボーカルのGreg Edwards、ドラマーのKellii Scott。1990年代にComfort、Magnified、そしてカルト的名盤Fantastic Planetを発表し、当時は巨大な商業成功には届かなかったものの、解散後にDeftones、Tool、A Perfect Circle、Paramore、Cave Inなど多くの後続アーティストから再評価されていった。
Failureの音楽を一言で表すなら、“宇宙空間に放り出されたグランジ”である。重いギター、低くうねるベース、奇妙に美しいメロディ、冷たいスタジオ音響、薬物的な浮遊感、そして孤独な歌詞。NirvanaやSoundgardenのような90年代オルタナの重さを持ちながら、Failureの音はもっと無重力で、もっと機械的で、もっと映画的だ。
代表作Fantastic Planetは1996年に発表された。Pitchforkは、同作を“スリーパー・クラシック”として、1997年の解散後にカルト的な支持を集めたアルバムだと評している。さらに、2015年の復活作The Heart Is a Monsterについては、19年ぶりの新作でありながら、過去のカタログとの連続性を保ちつつ、もしFailureが自然に進化していたらこうなっていたと思わせる作品だと評価している。Pitchfork
そして2026年、Failureは新作Location Lostを発表した。公式サイトでは、同作がFailure RecordsからArduous Records/Virgin Music Group経由でリリースされた新アルバムとして告知されている。FAILURE BAND つまりFailureは、90年代のカルト・バンドとして記憶されるだけではなく、現在もなお進化を続ける現役の音響ロック・バンドなのである。
アーティストの背景と歴史:ロサンゼルスから生まれた、内向きのスペースロック
Failureは、1990年代初頭のロサンゼルスで活動を始めた。当時のアメリカ・ロックは、NirvanaのNevermind以降、グランジとオルタナティブ・ロックが一気にメインストリームへ広がっていた時代である。しかしFailureは、シアトルのバンドとは少し違う場所にいた。
彼らはロサンゼルス出身だが、LA的な派手さやグラム感はほとんどない。むしろ、ロサンゼルスの広い空、夜のフリーウェイ、郊外の空虚さ、スタジオの密室感が音に出ている。音は重いのに、湿っていない。暗いのに、どこか人工的な光を帯びている。
1992年のデビュー作Comfortは、Steve Albiniのプロデュースによる荒々しい作品だった。続く1994年のMagnifiedで、Failureはより自分たちの音響美学を明確にし、1996年のFantastic Planetでそれを完成させる。このアルバムは、制作時の困難やレーベル問題、メンバーの薬物問題なども重なり、当初は大きな商業成功には至らなかった。しかし後年、オルタナティブ・ロック史の隠れた傑作として評価が高まった。
Louderの近年の特集では、Fantastic Planetが当初はレーベルの混乱によりリリースが遅れ、商業的には苦戦した一方で、DIY的な宅録やジャムを活用した制作、映画的なスケール、感情的な深さによって、後にTool、Paramore、Deftonesらにも称賛される作品になったと紹介されている。Louder
1997年にバンドは解散する。しかしFailureの物語はそこで終わらない。長い沈黙の後、2014年に再結成し、2015年にThe Heart Is a Monsterを発表。その後もIn the Future Your Body Will Be the Furthest Thing from Your Mind、Wild Type Droid、そして2026年のLocation Lostへと続いている。
音楽スタイルと影響:ヘヴィなリフ、無重力の空間、薬物的な浮遊感
Failureの音楽には、いくつかの重要な特徴がある。
まず、ベースとギターの重さである。Failureのリフは、メタルほど派手ではないが、非常に重い。低音が分厚く、曲全体が沈み込むように動く。Ken AndrewsとGreg Edwardsは、ギターとベースの役割を固定せず、低域と中域を巧みに入れ替えながら、巨大な音の壁を作る。
次に、空間の使い方である。Failureはただ音を詰め込むバンドではない。むしろ、音と音の間に広い空白がある。その空白が宇宙的な広がりを生む。曲を聴いていると、狭い部屋の中にいるようで、同時に真空の宇宙空間に浮いているような感覚になる。
さらに、メロディの不思議な美しさがある。Failureは重いバンドだが、メロディは意外なほど甘く、儚い。“Stuck on You”や“Another Space Song”のような曲には、ポップソングとしての強さもある。だから彼らは、単なるヘヴィ・ロックではなく、カルト的に愛されるメロディ・メーカーでもある。
そして、歌詞の内向性。Failureの歌詞には、薬物、依存、孤独、自己崩壊、宇宙、身体、記憶、遠さがよく出てくる。Fantastic Planetというタイトルが示すように、彼らの音楽はSF的でありながら、実際には非常に内面的だ。宇宙を歌っているようで、心の奥の孤独を歌っている。
“Stuck on You”は、Failureの中で最も有名な曲の一つであり、Fantastic Planetの代表曲である。タイトルは「君に夢中」「頭から離れない」という意味にも取れるが、曲全体には恋愛というより依存の感覚が漂う。
この曲のすごさは、非常にキャッチーなのに、不穏であることだ。メロディは明確で、サビは覚えやすい。しかし、音の質感は冷たく、歌詞はどこか病的だ。何かが頭にこびりついて離れない。人か、薬か、記憶か、後悔か。その曖昧さが曲の魅力である。
“Stuck on You”は、Failureがただのカルト・ノイズ・バンドではなく、ポップな名曲を書けるバンドであることを証明した。
“Another Space Song”は、Failureの美しさを最も分かりやすく伝える名曲である。タイトルは「また別の宇宙の歌」。少し自虐的でもあり、同時にロマンチックでもある。
この曲には、宇宙空間のような広がりと、個人的な孤独がある。ギターはゆっくり広がり、ボーカルは遠くから届くように響く。まるで、誰かが宇宙船の中で一人、地球へ向けて通信しているような曲だ。
Failureにおける宇宙は、SFの冒険ではない。むしろ、誰にも届かない心の距離を表す比喩である。“Another Space Song”は、その感覚を最も美しく結晶させた曲だ。
“The Nurse Who Loved Me”は、Failureの中でも特に有名な曲の一つである。A Perfect Circleがカバーしたことでも広く知られている。
タイトルは一見、優しいラブソングのように見える。しかし、歌詞には病院、ケア、依存、薬物的なイメージが含まれ、非常に不穏だ。看護師に愛されるという構図は、癒しであると同時に、患者として管理されることでもある。
この曲の魅力は、メロディの美しさと歌詞の暗さの対比である。Failureは、甘いメロディを危険な内容に乗せるのがうまい。だから聴いていて、心地よいのに怖い。
“Daylight”:Fantastic Planetの終着点
“Daylight”は、Fantastic Planetの最後を飾る壮大な曲である。アルバム全体が宇宙的で暗い旅だとすれば、この曲はその終着点にある薄い光である。
ただし、ここでの光は完全な救済ではない。夜明けは来るが、すべてが解決するわけではない。むしろ、長い薬物的な夢から醒めた後の、冷たい朝のような光だ。
2025年には、Failureの“Daylight”のアコースティック演奏をきっかけに、Hayley Williamsとの接点が生まれたことも紹介されている。新曲“The Rising Skyline”に関するライブ告知文では、Ken AndrewsがWilliamsとロサンゼルス山火事被災者支援のために“Daylight”をリハーサルしていたことに触れている。Belly Up それほどこの曲は、Failureのカタログの中でも特別な位置にある。
“Hot Traveler”:19年後に戻ってきたFailure
“Hot Traveler”は、2015年の復活作The Heart Is a Monsterを代表する曲である。19年ぶりの新作において、Failureが過去をただなぞるのではなく、新しい現在形として鳴っていることを示した。
PitchforkはThe Heart Is a Monsterについて、Failureが過去の遺産を尊重しながらも、もし解散せず進化していたらこうなっていたと思わせる連続性を持つ作品だと評している。Pitchfork “Hot Traveler”には、その連続性がよく出ている。重いリフ、宇宙的な空間、冷たいメロディ。すべてがFailureでありながら、単なる90年代の再現ではない。
1996年のFantastic Planetは、Failureの最高傑作であり、90年代オルタナティブ・ロックの重要なカルト名盤である。SpotifyやApple Musicでも、1996年の17曲入りアルバムとして確認できる。
このアルバムは、単なる楽曲集ではなく、ひとつの宇宙である。“Saturday Savior”、“Stuck on You”、“Another Space Song”、“Heliotropic”、“The Nurse Who Loved Me”、“Daylight”など、曲が連なりながら、薬物的な夢、宇宙的孤独、身体の崩壊、冷たい光を描いていく。
Louderの特集では、同作がセルフプロデュースの17曲入り作品であり、宅録的な制作やジャムから生まれた実験性、映画的な広がりを持っていた一方、薬物問題やレーベルの混乱がバンドの崩壊にもつながったと紹介されている。Louder
Fantastic Planetは、発売当時よりも後年になって評価が高まったアルバムである。聴く者にとって、それは1996年の作品というより、未来から届いた遅い信号のように響く。
The Heart Is a Monster:19年ぶりの復活作
2015年のThe Heart Is a Monsterは、Failureにとって19年ぶりのスタジオアルバムである。再結成バンドの新作は難しい。過去の名作をなぞれば懐古と言われ、変わりすぎればファンが離れる。しかしFailureは、この作品で非常にうまくバランスを取った。
Pitchforkは、同作がFantastic Planetの遺産と自然につながりながら、バンドが解散せず進化していたらこうなっていたと思わせる作品だと評している。Pitchfork
このアルバムでは、宇宙的なモチーフは内面へ向かう。外宇宙から内宇宙へ。夢、意識、記憶、身体。Failureの音楽が、単なる90年代の音ではなく、時間を超えて生きていることを証明した作品である。
In the Future Your Body Will Be the Furthest Thing from Your Mind:身体と未来をめぐる長いタイトルの実験作
2018年のIn the Future Your Body Will Be the Furthest Thing from Your Mindは、Failureらしい長いタイトルを持つ作品である。Apple Musicでも、Fantastic Planetの関連作品として掲載されている。Apple Music – Web Player
このアルバムでは、FailureのSF的なテーマがさらに抽象化される。未来、身体、心、距離。タイトルだけで、すでにFailureの世界である。身体が遠くなる。自分の存在が自分から離れていく。これはテクノロジー時代の不安にも聞こえるし、薬物的な離脱感にも聞こえる。
音楽的には、重いリフと空間的なアレンジが保たれながら、より現代的なプロダクションになっている。Failureは過去の音に閉じこもらず、自分たちのテーマを現在の身体感覚へ広げた。
Wild Type Droid:パンデミック期以後のコンパクトな強度
2021年のWild Type Droidは、Failureの6作目である。Bandcampでは2021年12月3日リリースの作品として掲載され、“Water with Hands”、“Headstand”、“A Lifetime of Joy”、“Submarines”、“Bring Back the Sound”などを収録している。Failure
このアルバムは、過去作よりもややコンパクトで、曲の輪郭がはっきりしている印象がある。Failureらしい冷たい音響はあるが、長大なコンセプトよりも、曲ごとの集中力が強い。
“Submarines”の歌詞には「音を取り戻せるか」という感覚があり、これはFailureというバンド自身にも重なる。長い沈黙と復活を経て、彼らは何度も“音を取り戻す”作業をしているのだ。
Failureを語るうえで、Ken Andrewsの存在は欠かせない。彼はボーカリストであり、ギタリストであり、ベーシストであり、何よりプロデューサー的な耳を持つ人物である。
Failureの音は、単に演奏が重いだけではない。録音、ミックス、空間処理、音の距離感が非常に重要である。Ken Andrewsはその音響面を支える中心人物だ。彼の声もまた、Failureの音に合っている。叫びすぎず、冷たく、遠く、しかしメロディをしっかり持つ。
彼はFailure以外にも、Year of the Rabbit、ON、プロデュース/ミックス仕事などを通じて、音作りの職人としても活動してきた。Failureの音が今も古びにくいのは、Andrewsの音響感覚が非常に鋭かったからだ。
Failureは、90年代ロサンゼルスから登場したオルタナティブ・ロック/スペースロックの重要バンドである。彼らは巨大な商業成功を収めたわけではない。しかし、Fantastic Planetを中心に、後続のミュージシャンたちへ深い影響を与え続けている。
Comfortは、Steve Albiniが記録した荒削りな出発点である。
Magnifiedは、Failureの音響美学が見え始めた重要作である。
Fantastic Planetは、宇宙、依存、孤独、身体の崩壊を描いた90年代オルタナのカルト的金字塔である。
The Heart Is a Monsterは、19年ぶりに復活したバンドが過去と現在をつないだ作品である。
In the Future Your Body Will Be the Furthest Thing from Your Mindは、未来と身体の距離をめぐる実験的なアルバムである。
Wild Type Droidは、コンパクトながらFailureらしい音響と重さを保った2021年作である。
Location Lostは、2026年に発表された新章であり、Hayley Williamsとの接続も含め、Failureの現在形を示す作品である。
Failureの音楽は、地上のロックでありながら、いつも少し宇宙にいる。
ギターは重い。
だが、身体は浮いている。
声は近い。
だが、心は遠い。
Failureとは、90年代オルタナティブ・ロックの中で、宇宙的な孤独とヘヴィなリフを最も美しく結びつけた、時間差で評価された名バンドである。
コメント