
発売日:2015年1月19日 ジャンル:Indie Pop / Synth-pop / Dance-pop
概要
2010年のBelle and Sebastian Write About Loveから約4年ぶりとなった9作目のスタジオ・アルバム。1990年代から繊細なギター・ポップと文学的な歌詞を得意としてきたBelle and Sebastianだが、本作ではその基本を残しながら、シンセサイザー、打ち込みのビート、ディスコやダンス・ポップの要素を大幅に取り入れている。タイトルが示す通り、「踊ること」が単なる装飾ではなく、アルバムの音楽的な方向を決める要素になった作品である。
制作にはGnarls BarkleyやAnimal Collectiveなどとの仕事で知られるBen H. Allen IIIが参加した。従来のBelle and Sebastianでは、生楽器を中心としたアンサンブルの中で細かなメロディや楽器の掛け合いを聴かせることが多かったが、本作では反復するベースや電子音、一定のテンポを保つビートを積極的に使っている。ただし全面的なエレクトロニック作品ではなく、フォーク、ソウル、室内楽的なアレンジも共存しており、曲によって質感はかなり異なる。
歌詞ではStuart Murdochが以前から描いてきた孤独、信仰、人間関係、自分の居場所を探す感覚が引き続き中心にある。明るく踊れるサウンドと、必ずしも明るくない言葉が並ぶことが本作の特徴であり、ダンス・ミュージックへの接近も単なる流行への対応には聞こえない。静かな人物描写を得意としてきたバンドが、その視点をクラブや電子音の中へ持ち込んだアルバムである。
全曲レビュー
1. 「Nobody’s Empire」
ピアノとギターを軸にした比較的伝統的なBelle and Sebastianの音から始まり、コーラスやストリングスが重なるにつれて視界が広がっていく。Murdochは若い頃に患った慢性疲労症候群を背景にした内容を歌っており、病気による孤立、信仰、他者との出会いが物語としてつながっている。個人的な経験を扱いながらも歌い方は過度に悲痛にならず、軽快なリズムとの組み合わせによって回復へ向かう感覚を作る。新しいサウンドを前面に出す前に、バンドの物語を書く力を確認させるオープニングである。
2. 「Allie」
跳ねるベースと乾いたギター、軽快なドラムが組み合わさり、1960年代のポップやソウルを思わせる曲調になっている。しかし歌詞のAllieは精神的な不安や怒りを抱えた人物として描かれ、明るい演奏とは対照的だ。Murdochは彼女を外側から単純に説明するのではなく、その不安定な視点に近づきながら言葉を進める。親しみやすいメロディの中へ複雑な人物像を入れる、バンドらしい作曲法がよく表れた曲だ。
3. 「The Party Line」
太いシンセベースと機械的な四つ打ちが前面に出て、本作の方向転換を最も分かりやすく知らせる。ギター中心のインディー・ポップという従来のイメージから離れ、ヴァースからサビまで一定のビートを保つことで、実際に踊れる曲として作られているのが特徴だ。クラブへ誘い出すような歌詞もサウンドと直接結びつき、反復されるフレーズが高揚感を強める。電子音を使っていてもMurdochの柔らかな声はそのままで、そのずれがBelle and Sebastian独特のダンス・ポップを成立させている。
4. 「The Power of Three」
前曲の強いビートから一転し、ピアノやストリングスを中心にした穏やかなポップへ戻る。Sarah Martinのボーカルが柔らかく前に出て、男女の声を使い分けてきたバンドの持ち味がここで生きている。音を大きく膨らませるのではなく、旋律とハーモニーを丁寧に重ねるアレンジなので、派手な電子音が続かないこと自体がアルバムの起伏になる。ダンス志向だけでは本作を説明できないことを早い段階で示す曲でもある。
5. 「The Cat with the Cream」
ゆっくりしたピアノとストリングスの上でMurdochが言葉を慎重に置いていく、静かな一曲。歌詞には英国社会や政治を思わせる言葉が現れ、権力を持つ側とそうでない側の距離を皮肉に眺めているように読める。直接的な抗議歌にするのではなく、具体的な人物や風景を断片的に並べるため、意味には意図的な曖昧さが残る。華やかなダンス曲の間にこうした抑制された曲を置くことで、本作の社会を見る視点が浮かび上がる。
6. 「Enter Sylvia Plath」
高速の電子ビート、反復するシンセ、明るいキーボードが重なり、アルバムでも特に大胆にエレクトロ・ポップへ踏み込む。題名に詩人Sylvia Plathを掲げながら、重苦しい音にはせず、むしろ軽快で人工的な質感を徹底しているところが面白い。歌詞ではPlathその人を伝記的に説明するのではなく、彼女の名前やイメージを想像上の世界への入口として扱う。文学的な参照とクラブ向けのリズムという、本来離れて見える要素を同じ曲に収めた本作らしい試みである。
7. 「The Everlasting Muse」
アコースティック楽器を中心に進みながら、途中でリズムと雰囲気が大きく変わる構成が耳を引く。東欧やバルカンの民俗音楽を思わせる旋律と拍の感覚が入り込み、整ったインディー・ポップから突然にぎやかな祝祭へ移るように聞こえる。題名通り創作を刺激する存在をめぐる歌だが、ロマンティックな憧れだけでなく、その対象に振り回される感覚も含んでいる。電子音とは別の方法でアルバムの音楽的な範囲を広げる曲だ。
8. 「Perfect Couples」
硬いドラムマシンと反復するベースに、断片的な電子音やギターが絡む。整ったメロディを滑らかに聞かせるより、同じパターンを繰り返しながら少しずつ音を足していくため、Talking Heads周辺のニューウェイヴにも通じる神経質なグルーヴが生まれている。歌詞では周囲にいる「完璧」に見えるカップルが次々と観察されるが、その視線には羨望と疑いが同居する。幸福を外から測ろうとすることの落ち着かなさを、せわしない演奏がうまく補強している。
9. 「Ever Had a Little Faith?」
ここでは電子的な仕掛けを抑え、ギター、ピアノ、コーラスを使った温かなポップに戻る。旋律は素直で、声の重なりも大きなドラマを作るより自然に曲を持ち上げている。題名にある「faith」は宗教だけに限定されず、人や未来を信じることまで含んだ問いとして聞くことができ、Murdochが長く扱ってきた信仰と日常生活の距離が穏やかに表れる。後半の密度をいったん下げることで、続く長尺のダンス曲を受け止める余白も作っている。
10. 「Play for Today」
Sarah MartinとMurdochのボーカルを軸にした長尺曲で、一定のダンス・ビートを保ちながらシンセやコーラスを徐々に積み上げていく。短いポップソングのようにサビへ急ぐのではなく、反復そのものを楽しませる構成なので、本作がダンス・ミュージックから学んだ部分がよく分かる。二人の声が交差することで、歌詞も一人の内面というより複数の視点が行き来するように聞こえる。「The Party Line」以上に時間をかけてグルーヴへ浸らせる、アルバム後半の大きな山場である。
11. 「The Book of You」
Stevie Jacksonがリードボーカルを担当し、Murdoch中心の曲とは違う少しざらついた表情を加える。ギターを軸にした親しみやすいポップだが、管楽器やコーラスを重ねることで単純なロック曲にはせず、短い時間の中で色彩を変えていく。誰かを一冊の本のように読み解こうとする発想が題名にも表れ、人間を完全には理解できないという距離感が残る。終盤でバンドらしい生演奏の感触を戻す役割も果たしている。
12. 「Today (This Army’s for Peace)」
最後は派手なフィナーレではなく、ゆっくりとしたテンポと広い空間を持つサウンドで閉じる。ギターや鍵盤の音は控えめで、ボーカルも強く押し出さないため、それまでのダンス・ビートから急に時間の流れが遅くなったように感じられる。タイトルには軍隊と平和という相反する言葉が並び、歌詞にも共同体や信念をめぐる含みが残されている。アルバムが提示してきた高揚をそのまま頂点にせず、静かな余韻へ着地させるエンディングである。
総評
Girls in Peacetime Want to Danceの面白さは、Belle and Sebastianが従来のギター・ポップを捨ててダンス・ミュージックへ転向したことではなく、両者を一枚の中で並存させた点にある。「The Party Line」や「Enter Sylvia Plath」ではビートとシンセの反復を曲の中心に置く一方、「Nobody’s Empire」や「The Cat with the Cream」ではメロディと物語を聞かせる従来の方法が残っている。統一された音色を追求するより、曲ごとに方法を切り替えることで幅を作ったアルバムだ。
そのため作品全体には意図的な落差が多い。クラブ向けのビートから室内楽的なポップへ移り、さらに民俗音楽風の展開やニューウェイヴ的な反復へ進むので、一つのジャンルとしてのまとまりは過去作ほど強くない。反面、その散らばり方こそが本作の性格でもある。長いキャリアを持つバンドが自分たちの得意な形式だけを反復せず、声やメロディの個性を保ったまま別のリズムへ入っていく過程がそのまま収録されている。
歌詞とサウンドの関係も興味深い。病気の記憶、社会への違和感、信仰、不安定な人間関係といった題材は必ずしも軽くないが、それを暗い演奏だけで表現しない。とりわけダンス曲では、身体を動かすための明るいビートと、居場所を探している人物たちの言葉が同時に存在する。その組み合わせによって「踊ること」は単純な幸福の表現ではなく、不安や孤独を抱えたまま他者と同じ場所にいるための行為にも聞こえてくる。
1990年代のBelle and Sebastianを特徴づけた控えめなインディー・ポップだけを求めれば、電子音の強さや曲調の振れ幅には戸惑いもあるだろう。しかし本作は、バンドの核が特定の楽器編成ではなく、人物を細かく観察する歌詞、覚えやすい旋律、複数の声を生かしたアレンジにあることを示している。キャリア中盤以降の作品として、新しい制作方法を取り込みながら自分たちの書き方をどこまで維持できるかを試した一枚であり、その試行錯誤まで含めて個性になっている。
おすすめアルバム
If You’re Feeling Sinister by Belle and Sebastian
1996年の代表作で、本作の電子的なビートとは対照的に、アコースティックな演奏と控えめなアレンジが中心である。人物描写とメロディというバンドの基本がどこから始まったのかを比較しやすい。
Dear Catastrophe Waitress by Belle and Sebastian
Trevor Hornをプロデューサーに迎え、初期より明るく整理されたポップ・サウンドへ進んだ2003年作。本作以前からBelle and Sebastianが制作手法を変えながらポップ性を広げていたことが分かる。
Sound of Silver by LCD Soundsystem
ロック・バンド的な演奏感と反復するダンス・ビートを無理なく共存させた2007年作。音楽性そのものは異なるが、インディー・ロックとクラブ・ミュージックの距離を縮める発想で本作と比較できる。
Speaking in Tongues by Talking Heads
ギターやベースの短いフレーズを繰り返し、そこへ音を重ねながら身体的なグルーヴを作る1983年作。「Perfect Couples」のような反復中心のアレンジをより深く聴きたい場合に格好の関連作となる。
In Our Heads by Hot Chip
柔らかな歌声と人間関係を扱う歌詞を、シンセサイザーとダンス・ビートの中へ自然に置いた2012年作。電子音を冷たさではなく親密さへ結びつける点で、Girls in Peacetime Want to Danceと共通する感覚を持っている。

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