
発売日:2022年5月6日
ジャンル:Indie Pop / Indie Rock / Chamber Pop
概要
A Bit of Previousは、Belle and Sebastianが2022年に発表した10作目のスタジオ・アルバムである。通常のフル・アルバムとしてはGirls in Peacetime Want to Dance以来約7年ぶりで、その間にはHow to Solve Our Human ProblemsのEP群や映画サウンドトラックDays of the Bagnold Summerがあった。制作は当初ロサンゼルスで行う計画だったが、COVID-19のパンデミックによって変更され、バンドの地元グラスゴーで録音された。結果として、長いキャリアを持つメンバーが自分たちで制作を進める、ホームメイドな性格の強い作品になった。
音楽的には初期の繊細なフォーク・ポップへ単純に戻ったわけではない。アコースティック・ギター、ピアノ、ストリングスといった馴染み深い要素に、シンセサイザー、ディスコ的なリズム、力強いエレクトリック・ギターを組み合わせている。スチュアート・マードックだけでなく、サラ・マーティンやスティーヴィー・ジャクソンらの声と作曲が入ることで、曲ごとの視点も自然に変化する。
歌詞で繰り返されるのは、時間の経過と、それを受け入れながらどう生きるかという問題である。若者の孤独や恋愛を細かく観察してきた初期作品に比べ、本作では過去を振り返る人物や、人生の途中で方向を修正しようとする人物が多い。ただし深刻さだけに傾かず、日常的な言葉、皮肉、軽快なポップ・アレンジを通して扱うところはBelle and Sebastianらしい。
全曲レビュー
1. 「Young and Stupid」
軽快なアコースティック・ギターと柔らかなコーラスによって始まり、Belle and Sebastianらしい親しみやすさをすぐに作る。題名は若さを笑うように見えるが、歌詞の視点はむしろ現在から過去を振り返るものだ。若かった頃の失敗や無知を否定するのではなく、それも時間の一部として受け入れていく。明るい曲調と加齢への意識が自然に重なった、本作の入口にふさわしい曲である。
2. 「If They’re Shooting at You」
ピアノとストリングスを使った落ち着いたアレンジから、徐々にスケールを広げていく。題名には危険な状況が直接現れるが、歌は扇動的なプロテスト・ソングにはならず、苦境にいる他者へ手を差し伸べることに重心を置く。穏やかな歌声と切迫した題材の距離によって、怒りを増幅するより共感を維持する音楽になっている。
3. 「Talk to Me, Talk to Me」
会話を求める題名そのままに、人との距離を縮めようとする気持ちをテンポのよいポップへ落とし込む。リズム隊が前へ進み、鍵盤とギターが細かなアクセントを入れるため、前曲の静けさから空気が切り替わる。コミュニケーションを扱いながら、言葉があればすべて解決するとは描かず、相手へ近づこうとする行為そのものを歌っている。
4. 「Reclaim the Night」
サラ・マーティンのボーカルを中心に、シンセサイザーと力強いビートを組み合わせた曲である。夜の空間を安全に歩く権利という題材を扱い、女性が感じる恐怖や制約を個人的な問題だけに閉じ込めない。明るく踊れるアレンジを選ぶことで、被害や不安を描写するだけではなく、自分たちの場所を取り戻すという題名の能動性を音でも表している。
5. 「Do It for Your Country」
ゆっくりしたテンポと温かな鍵盤の上で、マードックが静かに言葉を運ぶ。題名だけなら愛国的な歌にも見えるが、実際には恋愛や責任、個人と大きな理念の関係を少し皮肉な距離から扱う。Belle and Sebastianが得意としてきた、立派な言葉と個人的な欲望を同じ場面に置く書き方が生きており、派手な展開を使わず歌詞へ耳を向けさせる。
6. 「Prophets on Hold」
電子的なリズムとシンセサイザーを強く使い、アルバム前半のアコースティックな印象から離れる。一定のビートを保ちながら複数の声や音を重ねるため、バンド演奏というよりスタジオで組み立てられたダンス・ポップに近い。確かな答えを示してくれる存在を待ちながら、それが簡単には現れない現代の感覚を、軽快さの中へ置いている。
7. 「Unnecessary Drama」
ベースとドラムが強く押し出され、ハーモニカまで加わることで、本作でも特に勢いのあるロック・ソングになった。人生には必要以上のドラマが付きまとうという認識を持ちながら、それでも変化を拒まない姿勢が歌われる。サビでは声と楽器が一気に広がり、内省を静かな音に限定しない。長く活動してきたバンドが「前へ進むこと」を高揚感のある演奏に変えた一曲だ。
8. 「Come on Home」
柔らかなメロディと穏やかな演奏へ戻り、アルバム後半の呼吸を整える。誰かに帰ってくるよう呼びかける言葉には親密さがあるが、「家」を単なる物理的な場所ではなく、安心できる関係として捉えることもできる。派手な装飾を避けたことで歌の温度が直接伝わり、前曲の大きなサウンドとの対照も効いている。
9. 「A World Without You」
失われる関係を想像する題材に対して、演奏は必要以上に暗くならない。Belle and Sebastianらしい明るいメロディと柔らかなハーモニーがあるため、悲しみと日常が同時に続いていくように聞こえる。誰かの不在によって世界そのものの見え方が変わる感覚を扱いつつ、大げさな悲劇へせず、小さなポップ・ソングのサイズに収めている。
10. 「Deathbed of My Dreams」
スティーヴィー・ジャクソンが中心となる短い曲で、フォークや古いポップスを思わせる素朴な響きを持つ。死を題名に含みながら、作品全体を沈ませるような重い曲ではなく、どこか奇妙な軽さがある。マードック以外の書き手が前面に出ることで声の質感も変わり、終盤に小さな脇道を作っている。
11. 「Sea of Sorrow」
タイトル通り悲しみを扱いながら、アレンジは次第に厚くなり、感情を内側だけに閉じ込めない。柔らかな歌声と広がりのある伴奏を組み合わせることで、悲しみの中へ沈むというより、その状態を少し離れて観察しているように聞こえる。終盤に置かれたことで、アルバムを通じて繰り返されてきた時間、喪失、変化という問題がよりはっきり表面へ出てくる。
12. 「Working Boy in New York City」
最後はニューヨークで働く若者を描く、軽やかなポップ・ソングで締めくくられる。具体的な人物と都市を置く書き方は、日常の中にいる名もない人物を物語の主人公にしてきたBelle and Sebastianの初期から続く方法だ。人生について大きな結論を述べるのではなく、一人の人物の生活へ視点を戻すことで、加齢や過去を扱ってきたアルバムを現在進行形の日常へ着地させている。
総評
A Bit of Previousで目立つのは、Belle and Sebastianが自分たちの過去を否定せず、それを再現することにも固執していない点である。アコースティック・ギターや柔らかな男女の歌声には初期作品から続く特徴がある一方、「Reclaim the Night」や「Prophets on Hold」では電子的なビートを自然に使い、「Unnecessary Drama」ではかなり力強いロック・バンドとして演奏する。長い活動の中で試してきた複数の方法を、特定の時代のスタイルへ統一せず同居させている。
それでもアルバムがばらばらに聞こえにくいのは、歌詞に共通する時間感覚があるからだ。「Young and Stupid」は現在から若い頃を振り返り、「Unnecessary Drama」では変化を受け入れようとし、後半では不在や死まで視野に入る。ここでの加齢は若さを失ったという嘆きだけではない。過去の失敗も現在の不安も抱えたうえで、まだ他人と話し、生活し、次の場所へ進むことができるという視点が通っている。
初期のIf You’re Feeling Sinisterのような作品では、孤独な若者を細かく観察する物語性と、控えめな室内楽的アレンジが強い個性を作っていた。本作ではメンバー自身が年齢を重ねたこともあり、語り手と登場人物の距離は変化している。若者の世界を外から描くだけでなく、自分たちも時間の中にいるという感覚が強くなり、それがタイトルの「previous=以前」という言葉にも重なる。
全曲が同じ水準の強いフックを持つわけではなく、中盤以降には穏やかな曲が続いて起伏が小さく感じられる部分もある。しかし、若い頃の繊細さを模倣するのでも、成熟を理由に落ち着いた音楽だけを選ぶのでもなく、ダンス・ポップからフォークまで現在の自分たちが扱える音を並べたことが本作の長所だ。Belle and Sebastianの過去を振り返るアルバムでありながら、その過去を居場所にせず、現在から次へ進もうとする作品になっている。
おすすめアルバム
If You’re Feeling Sinister by Belle and Sebastian
1996年の代表作。控えめなギターやピアノと、孤独な若者を描く細かな物語が結びついている。A Bit of Previousと比較すると、同じバンドの人物観察が若年期と中年期でどう変化したかがよく分かる。
Dear Catastrophe Waitress by Belle and Sebastian
Trevor Hornをプロデューサーに迎えた2003年作。初期の静かなインディー・ポップから、華やかなポップ・アレンジへ踏み出しており、本作にある色彩豊かなサウンドの重要な前段階として聴ける。
Girls in Peacetime Want to Dance by Belle and Sebastian
2015年作で、シンセサイザーやディスコのリズムを大胆に導入した。A Bit of Previousの「Reclaim the Night」などに聞かれるダンス・ポップ的な側面が、どこから発展したのかを確認しやすい。
Tigermilk by Belle and Sebastian
1996年のデビュー作。フォーク、60年代ポップ、インディー・ロックを小さな編成で結びつけ、バンドの基本的なメロディ感覚を確立した。後年の本作に残る柔らかな歌と日常的な人物描写の原点がある。
69 Love Songs by The Magnetic Fields
1999年の大作で、フォーク、シンセポップ、室内楽的なアレンジを行き来しながら、人間関係をユーモアと距離を持って描く。音楽性を一つに限定せず、簡潔なポップ・ソングで人物や感情を観察する点がBelle and Sebastianとよく響き合う。

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