発売日: 1994年3月7日
ジャンル: アンビエント、エクスペリメンタル、ドローン
Aphex Twin(Richard D. James)の2枚目のアルバム『Selected Ambient Works Volume II』は、前作『Selected Ambient Works 85–92』の進化形ともいえる作品であり、リズムやビートを極力排除した純粋なアンビエント作品として、新たな地平を切り開いたアルバムである。本作は、Brian Enoの影響を受けながらも、独自のサウンドスケープを構築しており、リスナーを深い瞑想的な体験へと誘う。
アルバムには具体的な曲名がなく、代わりに「Track 1」「Track 2」などの番号や、ファンが後に付けた非公式な名前で呼ばれるトラックが収録されている。その抽象的なアプローチは、聴く者に音楽を感じるだけでなく、想像力を働かせる余地を与えている。曲調は、暗く不穏なものから、穏やかで美しいものまで幅広く、Richard D. Jamesの内面的な世界を反映している。
トラック解説
1. Cliffs
アルバムの冒頭を飾るトラックで、穏やかなシンセサウンドと広がりのある空間が特徴的。崖の上に立つようなスリルと静けさが交差する。
2. Radiator
不規則なシンセのパターンが、不穏でミステリアスな雰囲気を醸し出すトラック。アンビエントの中に潜む緊張感が魅力。
3. Rhubarb
アルバムで最も美しいトラックのひとつ。ゆったりとしたメロディーが心を落ち着かせ、瞑想的な体験を提供する。リスナーを静かな安らぎへと導く名曲。
4. Hankie
静かでメランコリックなトラック。ほの暗い音色が漂い、内省的な気分にさせる。
5. Grass
深いドローンサウンドが基盤となり、シンセが有機的に絡み合う。草原を風が渡るような感覚を引き起こす。
6. Mold
低音が支配する重厚なトラック。不穏な雰囲気を持ちつつも、どこか現実離れした美しさがある。
7. Curtains
柔らかい音色が流れるように広がるトラック。カーテン越しに差し込む光を連想させる、穏やかな楽曲。
8. Blur
アンビエントとノイズが混ざり合ったトラック。曖昧な形をしたサウンドスケープが、夢の中を漂うような感覚を作り出す。
9. Weathered Stone
大地を象徴するような力強いサウンド。ドローンの低音とシンセの組み合わせが、時間の流れを感じさせる。
10. Tree
アルバムの中でもひと際穏やかなトラック。自然の静けさと生命の躍動感が表現されている。
11. Domino
シンプルで繰り返されるパターンが特徴。ドミノが倒れるような規則的な動きを感じさせる。
12. White Blur 1
霧の中にいるようなぼんやりとしたトラック。微細な音の変化が印象的で、聴き手の注意を引きつける。
アルバム総評
『Selected Ambient Works Volume II』は、音楽を聴くという行為を、より深く内面的な体験へと昇華させた傑作である。このアルバムは、リズムや構造に頼らず、サウンドの純粋なテクスチャーと雰囲気でリスナーを魅了する。特に「Rhubarb」や「Cliffs」は、アンビエント音楽の新しい可能性を示す代表的なトラックであり、Aphex Twinの音楽的な探求心を象徴している。アルバム全体が一つの大きなサウンドスケープとして機能し、リスナーを深い瞑想的な世界へと誘う。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Ambient 4: On Land by Brian Eno
環境音楽の先駆的作品で、『Volume II』の静寂と空間性に通じる。
Endless Summer by Fennesz
ノイズとメロディーが融合したエクスペリメンタルな作品。『Volume II』の抽象性と共鳴する。
Music for Films by Brian Eno
ミニマルなサウンドスケープが特徴の作品で、Aphex Twinのアンビエント作品と似た世界観を持つ。
Tomorrow’s Harvest by Boards of Canada
不穏で映画的なサウンドスケープが、『Volume II』のダークなトーンと共通点が多い。
Tim Hecker by Ravedeath, 1972
ドローンとアンビエントを組み合わせた作品で、『Volume II』の瞑想的な体験に近い。
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