発売日: 1998年9月29日
ジャンル: バロックポップ、ドリームポップ、サイケデリックロック
Mercury Revの4枚目のアルバム『Deserter’s Songs』は、バンドにとっての再出発ともいえる作品であり、キャリアの中でも最も高く評価されるアルバムのひとつである。混沌と実験精神に満ちた初期作品から一転、ロマンティックで優美なサウンドスケープが展開され、バロックポップとサイケデリックロックの要素が見事に融合している。この作品は、Jonathan DonahueとGrasshopper(Sean Mackowiak)が、バンドの再生と自己発見をテーマに制作したもので、感情的で個人的な内容が際立っている。
David Fridmannの洗練されたプロダクションと、ストリングスやホーンセクションを多用した豪華なアレンジが、このアルバムを特別なものにしている。また、バンドの地元であるアメリカ北部の田園風景が音楽の中に溶け込み、ノスタルジックで牧歌的な雰囲気が全体を包んでいる。この作品はリリース後、批評家とリスナーの双方から絶賛され、1990年代後半の音楽シーンにおける傑作として位置付けられている。
トラック解説
1. Holes
アルバムを静かに幕開けするバラードで、幻想的なストリングスとピアノが印象的。Jonathan Donahueの繊細なボーカルが、愛や喪失、存在の意味を詩的に語りかける。アルバム全体のテーマを象徴する楽曲で、優しさと深い感情が交錯する。
2. Tonite It Shows
ロマンティックでメロディアスな楽曲。ストリングスと木管楽器が楽曲に豊かさを加え、夢のような雰囲気を作り出している。歌詞には甘美さと切なさが込められ、Donahueのボーカルが楽曲に温かみを与える。
3. Endlessly
シンプルながらも感動的なバラード。アコースティックギターと柔らかなオーケストレーションが楽曲を支え、Donahueの静かな歌声が心に響く。愛と希望をテーマにした歌詞が印象的だ。
4. I Collect Coins
短いインストゥルメンタルトラックで、アルバム全体の流れを優しく繋ぐ。ノスタルジックなメロディーが、童話のような雰囲気を醸し出している。
5. Opus 40
アルバムのハイライトのひとつで、壮大なストリングスと軽やかなリズムが融合した楽曲。リコーダーの音色が曲に牧歌的な要素を加え、リスナーを自然の中へ誘うような感覚を与える。歌詞には希望と再生のテーマが込められている。
6. Hudson Line
カントリーとサイケデリックの要素が混じり合った楽曲。アップテンポのリズムと楽器の多彩なアレンジが楽しいエネルギーを放つ一曲。
7. The Happy End (The Drunk Room)
幻想的なインストゥルメンタルトラックで、アルバム全体の流れを緩やかに支える役割を果たしている。音の重なりが空間的な広がりを感じさせる。
8. Goddess on a Hiway
アルバムを代表する名曲で、Donahueの感情豊かなボーカルとキャッチーなメロディーが際立つ。歌詞には自己発見と希望のメッセージが込められ、ストリングスとホーンセクションが楽曲を一層ドラマチックにしている。
9. The Funny Bird
暗くドラマチックな雰囲気を持つ楽曲。ディストーションギターと壮大なストリングスが対比を成し、Donahueの歌声が内面の葛藤を描き出している。
10. Pick Up If You’re There
メランコリックで美しい楽曲。ゆったりとしたテンポで進行し、ストリングスが楽曲の感情を際立たせる。Donahueのボーカルが穏やかに響く。
11. Delta Sun Bottleneck Stomp
アルバムを締めくくるアップテンポな楽曲で、陽気なカントリーとサイケデリックが融合したエネルギッシュな一曲。バンドの新たな方向性と楽観的な未来を感じさせるフィナーレとなっている。
アルバム総評
『Deserter’s Songs』は、Mercury Revの音楽的成熟と再生を象徴するアルバムであり、彼らのキャリアを新たな方向に導いた重要な作品である。バロックポップ、サイケデリックロック、そして牧歌的なアメリカーナの要素が絶妙に融合し、聴く者を感動させる美しいサウンドスケープが広がっている。「Holes」や「Goddess on a Hiway」などの楽曲は、バンドの最高傑作と呼ばれるにふさわしい感動的な仕上がりだ。このアルバムは、1990年代後半の音楽シーンにおける傑作として、今なお多くのリスナーに愛されている。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
The Soft Bulletin by The Flaming Lips
幻想的で壮大なアレンジが特徴。『Deserter’s Songs』のファンにぴったりの一枚。
In the Aeroplane Over the Sea by Neutral Milk Hotel
感情的な歌詞と牧歌的なサウンドが共通するフォークロックの名盤。
OK Computer by Radiohead
壮大なスケールと深い感情表現が、『Deserter’s Songs』の世界観と響き合う。
Illinois by Sufjan Stevens
オーケストラ的なアレンジとアメリカーナの要素が融合したアルバム。Mercury Revのファンにおすすめ。
Forever Changes by Love
バロックポップとサイケデリックロックが融合した名盤。『Deserter’s Songs』の音楽的ルーツを感じさせる。
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