
1. 歌詞の概要
「Freedom of Choice」は、Devoが1980年にリリースしたアルバム『Freedom of Choice』の表題曲であり、バンドの代表的なアンセムのひとつである。歌詞は「選択の自由」という一見ポジティヴな言葉を逆手に取り、現代社会における“自由”が実際には錯覚にすぎないことを風刺している。
「もし自由に選べるなら、皆同じものを選ぶ」という逆説的なフレーズが象徴的で、消費社会や大衆文化において個人の選択は実は均質化されているという現実を突きつける。つまり「選択の自由」とは実際には「支配の仕組みの中で与えられた限定的な自由」にすぎないのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
1980年当時、アメリカ社会は高度な消費文化に包まれており、テレビや広告が人々の欲望をコントロールする時代に突入していた。Devoは「退化論(De-evolution)」を掲げ、こうした現代社会を批判的に観察しており、「Freedom of Choice」はその哲学をポップな形で体現した楽曲である。
アルバム『Freedom of Choice』は、シングル「Whip It」の大ヒットによって商業的に成功し、Devoをオハイオのアンダーグラウンド・バンドから全米的な存在へと押し上げた。その中でもタイトル曲は、哲学的メッセージを最も直接的に打ち出したものであり、彼らが単なる「風変わりなニューウェイヴ・バンド」ではなく、社会批評的なアーティストであることを決定づけた。
ライブでは赤い「エナジードーム」をかぶったメンバーが機械的に演奏し、観客が「Freedom of Choice!」とコールする光景は、風刺と参加が同時に成立するDevoらしいパフォーマンスとして知られる。
3. 歌詞の抜粋と和訳
(歌詞引用元:Devo – Freedom of Choice Lyrics | Genius)
Freedom of choice
自由に選べること
Is what you got
それが君に与えられたもの
Freedom from choice
選択からの自由
Is what you want
それが君が本当に望んでいるもの
If you want to be a man or a woman, pick up on a star
もし君が男や女になりたいのなら、星をつかめばいい
You can have it all, you can have it now
すべてを手にできる、今すぐにだって
In ancient Rome, there was a poem
古代ローマにはこんな詩があった
About a dog who found two bones
二つの骨を見つけた犬の話だ
He picked at one, he licked the other
片方をかじり、もう片方を舐めた
He went in circles till he dropped dead
結局ぐるぐる回って、死んでしまった
シニカルなユーモアと寓話的イメージを組み合わせ、自由の虚構性を描いている。
4. 歌詞の考察
「Freedom of Choice」は、Devoの思想をもっともキャッチーに、そして痛烈に表現した楽曲である。表面的には「自由を賛美するアンセム」のように聞こえるが、実際には「人間は与えられた選択肢の中で同じものを選び、自由を放棄している」というアイロニーが込められている。
「Freedom from choice is what you want(選択からの自由こそ君が望んでいる)」というフレーズは特に象徴的で、現代人が「選ぶ自由」を与えられているようで実は「選ばない自由(思考停止)」を望んでいるという逆説を突いている。これは消費社会の「好きなものを選んでいるつもりで、広告やメディアに選ばされている」という構造を鋭く批評しているのだ。
また、古代ローマの犬の寓話は、人間の選択の無意味さを風刺している。二つの骨を前に迷い続けた結果、犬は死んでしまう――これは「選択肢の多さ」がむしろ破滅をもたらすという寓話であり、現代人の姿を映す鏡となっている。
音楽的には、シンセサイザーとギターが交錯する機械的なグルーヴに、マーク・マザーズボーの冷徹なヴォーカルが乗り、歌詞の風刺性をさらに際立たせている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Whip It by Devo
同アルバムの代表曲で、社会風刺とキャッチーさを兼ね備えた名曲。 - Jocko Homo by Devo
退化論を直球で歌い上げた哲学的ナンバー。 - Beautiful World by Devo
世界の美しさを讃えつつ、その裏の不条理を暴く皮肉な楽曲。 - Life During Wartime by Talking Heads
監視社会を風刺するニューウェイヴの代表曲。 - Subhuman by Throbbing Gristle
消費社会と人間存在を批評的に描いたインダストリアルの源流。
6. 「Freedom of Choice」の象徴性
「Freedom of Choice」は、Devoが持つ思想性とポップ性の絶妙なバランスを示した曲であり、彼らのキャリアにおいて最も影響力のある作品のひとつである。選択の自由という普遍的テーマを、寓話と風刺を用いて提示し、「人間は本当に自由なのか?」という問いを突きつけた。
商業的に成功しただけでなく、そのメッセージ性は現代においても鋭く響く。SNSやアルゴリズムによって「選択の自由」がますます錯覚になっている現代において、この曲の意味はむしろ増しているといえる。
結果として「Freedom of Choice」は、Devoの退化論を最もポップに表現したアンセムであり、ニューウェイヴの象徴として今なお聴き継がれる不朽の名曲なのである。
コメント