
- イントロダクション:ロサンゼルスの陽光に潜む、黒いサイケデリア
- バンドの背景と歴史:Arthur Leeが率いたロサンゼルスの異端
- 音楽スタイル:ガレージ、フォーク、バロック、サイケデリアの危うい融合
- 代表曲の解説:Loveの楽曲世界
- アルバムごとの進化
- Love:ガレージロックとフォークロックの初期衝動
- Da Capo:実験精神と混沌の拡張
- Forever Changes:美と崩壊が同居する永遠の名盤
- Four Sail:新編成によるハードな再出発
- Out Here:広がりすぎた実験と後期Loveの混沌
- False Start:Jimi Hendrix参加とブルースロックへの傾斜
- Arthur Leeという存在:美しい悪夢を見たカリスマ
- Bryan MacLeanとJohnny Echols:Loveを支えたもうひとつの才能
- ロサンゼルス・シーンとの関係:The Doors、The Byrds、Buffalo Springfieldとの時代
- 歌詞世界:死、幻滅、孤独、カウンターカルチャーの終わり
- 他アーティストとの比較:Loveのユニークさ
- 影響を与えたアーティストと音楽シーン
- まとめ:Loveは、サマー・オブ・ラヴの影を最も美しく鳴らしたバンドである
- 関連レビュー
イントロダクション:ロサンゼルスの陽光に潜む、黒いサイケデリア
Love(ラヴ)は、1960年代ロサンゼルスのサイケデリックロックを語るうえで欠かせない名門バンドである。中心人物はArthur Lee。彼の鋭い感性、混血的な音楽観、文学的で不穏な歌詞、そして美しいメロディへの執着が、Loveというバンドを単なるフラワー・ムーヴメントの一部ではなく、時代の光と影を同時に映す存在にした。
Loveの音楽には、フォークロック、ガレージロック、サイケデリア、バロックポップ、ブルース、ラテン、ジャズ、クラシック的なストリングス、そしてロサンゼルスの乾いた空気が混ざっている。My Little Red Book、7 and 7 Is、Stephanie Knows Who、Alone Again Or、A House Is Not a Motel、The Red Telephone、Andmoreagain、You Set the Scene などを聴けば、彼らがいかに多面的なバンドだったかが分かる。
特に1967年の Forever Changes は、サイケデリックロック史に残る傑作である。アコースティックギター、ストリングス、ブラス、ラテン風味のリズム、そしてArthur Leeの死や破滅を見つめる歌詞が結びつき、「サマー・オブ・ラヴ」の光の裏側にある不安を描いた。Rhinoの50周年盤紹介によれば、同作のデラックス版にはBruce Botnickによるリマスター、モノ版の初CD化、別ミックス、未発表音源などが収められ、現在も重要作として再評価され続けている。
Loveは、同時代のThe Doors、The Byrds、Buffalo Springfield、Jefferson Airplane、Grateful Deadと並ぶ60年代ロックの重要バンドである。しかし、彼らの魅力は少し異なる。The Doorsが劇場的な闇を、The Byrdsがフォークロックの透明感を、Grateful Deadが即興的な共同体感覚を鳴らしたとすれば、Loveはそのすべてを横目に見ながら、もっと個人的で、もっと破滅的で、もっと奇妙に美しい音楽を作った。
Loveは、サイケデリックロックの名門バンドである。だが、彼らのサイケデリアは単なる幻覚的な色彩ではない。そこには戦争、死、孤独、人種、都市の不安、カウンターカルチャーへの幻滅がある。陽光に包まれたロサンゼルスの丘の上で、Arthur Leeはすでに夢の終わりを見ていた。その予感こそが、Loveの音楽を今も古びないものにしている。
バンドの背景と歴史:Arthur Leeが率いたロサンゼルスの異端
Loveは1960年代半ば、ロサンゼルスで結成された。中心にいたArthur Leeは、メンフィス生まれ、ロサンゼルス育ちのミュージシャンであり、黒人アーティストとして白人中心のロックシーンに独自の立場で切り込んだ人物である。バンドは人種的にも音楽的にも混合的で、Arthur Leeのカリスマ性と、ギタリスト/ソングライターのBryan MacLean、ギタリストJohnny Echolsらの個性が絡み合っていた。
初期Loveは、ガレージロックとフォークロックの鋭さを持っていた。1966年のデビュー・アルバム Love には、Burt BacharachとHal Davidによる My Little Red Book の荒々しいカバーが収録され、バンドの名を広めた。原曲の洗練を引き裂くような演奏は、Loveが単なるポップバンドではなく、都市の苛立ちを抱えたガレージロック・バンドでもあったことを示している。
同年の2作目 Da Capo では、Loveはさらに音楽性を広げる。サックスやフルートを加え、ジャズやラテンの要素も取り込み、よりサイケデリックで複雑な音へ向かった。シングル 7 and 7 Is は、バンド最大のヒット曲となり、全米シングルチャートでも高い位置に入ったと整理されている。
しかしLoveは、同時代の多くのバンドのように積極的な全国ツアーを行うタイプではなかった。Arthur Leeはロサンゼルスを離れることに慎重で、これがバンドの商業的拡大を制限したとも言われる。結果として、Loveは熱狂的な評価を得ながらも、The Doorsのような大規模な成功には至らなかった。
それでも、その閉じたロサンゼルス性が、Loveの音楽に特別な濃度を与えた。彼らはアメリカ全土を巡るバンドというより、ハリウッドの丘、サンセット・ストリップ、共同生活の不穏さ、ドラッグと夢と疑心暗鬼が混ざる小宇宙のバンドだった。
音楽スタイル:ガレージ、フォーク、バロック、サイケデリアの危うい融合
Loveの音楽は、サイケデリックロックと呼ばれることが多い。しかし、彼らのサウンドは単純なサイケデリアではない。初期にはガレージロックの荒さがあり、同時にThe Byrds的なフォークロックの響きもある。さらに Forever Changes では、アコースティックギター、オーケストラルなストリングス、ブラス、ラテン的なリズムが加わり、バロックポップのような精密さを持つ。
Arthur Leeの作曲は、しばしば美しいメロディを持つ。しかし、その美しさは明るく開かれたものではない。どこか歪んでいて、曲の中に不穏な影が差している。Andmoreagain のような曲では柔らかな旋律が響くが、アルバム全体の文脈では、それすらも壊れやすい夢のように聞こえる。
Bryan MacLeanの役割も重要である。彼が書いた Alone Again Or は、Loveの代表曲であり、フラメンコ風のギター、トランペット、哀愁あるメロディが見事に結びついた名曲である。Arthur Leeの暗い幻視と、MacLeanのロマンティックな旋律感覚が並び立つことで、Loveの音楽はより多面的になった。
Loveのサイケデリアは、拡張された意識の祝祭ではなく、意識が鋭くなりすぎて世界の破綻まで見えてしまう感覚に近い。花と平和を掲げる時代の中で、彼らはすでに「その夢は長く続かない」と歌っていた。
代表曲の解説:Loveの楽曲世界
My Little Red Book
My Little Red Book は、Loveの初期を代表する楽曲である。Burt BacharachとHal Davidによる曲だが、Love版では原曲のスマートなポップ感が消え、荒々しいガレージロックへと変貌している。
ドラムは前のめりで、ギターはざらつき、Arthur Leeの声には焦燥感がある。恋愛の曲でありながら、そこには甘さよりも苛立ちがある。電話帳やアドレス帳のような「小さな赤い本」は、失われた恋人の記憶を探す道具であり、同時に都会的な孤独の象徴にも聞こえる。
この曲によって、Loveはロサンゼルスの若いロックリスナーに強い印象を与えた。彼らは美しいだけのバンドではなく、危ういエネルギーを持っていた。
Signed D.C.
Signed D.C. は、Love初期の中でも特に暗い楽曲である。ドラッグ依存をテーマにしたブルース的な曲で、タイトルのD.C.は初期メンバーDon Conkaを指すとされることが多い。
曲は非常に簡素だが、その簡素さが痛い。Arthur Leeは、友人の崩壊を見つめるように歌う。ガレージロックの勢いではなく、静かな絶望がある。後年の公演では、Johnny Echolsの依存体験に合わせて曲名を変えて演奏されたことも報じられており、この曲がLoveのメンバーにとって単なる過去の曲ではなく、人生の影を映すものだったことが分かる。
7 and 7 Is
7 and 7 Is は、Love最大級のガレージロック・クラシックである。短く、速く、爆発的で、曲の最後には効果音のような轟音が入る。サイケデリック時代のパンク的衝動と言ってよい。
この曲では、Arthur Leeの声が切迫している。リズムは暴走し、ギターは鋭く、全体に若い神経の過剰な緊張がある。後のパンクやガレージリバイバルの視点から聴いても、驚くほど先鋭的だ。
7 and 7 Is は、Loveが繊細なバロックポップだけのバンドではなく、ロックの肉体的な爆発力を持っていたことを示す重要曲である。
Stephanie Knows Who
Stephanie Knows Who は、Da Capo の冒頭を飾る曲で、Loveが初期のガレージロックから、より複雑なサイケデリック・アンサンブルへ移行していたことを示す楽曲である。
サックスやフルートの響き、変化するリズム、奇妙なメロディの展開が、曲に不思議な浮遊感を与える。タイトルのStephanieが誰なのかは明確にされないが、その曖昧さも含めて、曲全体が謎めいた人物像のように響く。
この曲には、Loveの実験精神がある。ロックバンドの編成を拡張し、ジャズやラテンの要素を取り込み、ただの3コード・ロックから抜け出そうとする意志が見える。
Alone Again Or
Alone Again Or は、Loveの最も有名な楽曲のひとつであり、Forever Changes の冒頭を飾る名曲である。作者はBryan MacLean。フラメンコ風のギター、優雅なストリングス、トランペットの旋律、そして孤独を抱えた歌詞が見事に融合している。
タイトルの「またひとり、それとも」という曖昧な言葉には、Loveというバンドの核心がある。誰かといるようで、結局はひとり。希望があるようで、選択肢はぼんやりしている。曲調は華やかだが、歌の中心には寂しさがある。
この曲は、サイケデリックロックの名曲であると同時に、孤独なロサンゼルスのラブソングでもある。明るい太陽の下で、なぜか心だけが影になっている。その感覚をこれほど美しく鳴らした曲は少ない。
A House Is Not a Motel
A House Is Not a Motel は、Arthur Leeの不穏な幻視が強く出た曲である。タイトルは「家はモーテルではない」という意味だが、ここでの家は安心の場所ではない。むしろ戦争、暴力、死、アメリカ社会の崩壊が入り込んでくる場所である。
曲はアコースティックな質感を持ちながらも、後半ではギターが激しく絡み、緊張が高まる。Loveの音楽はしばしば美しいが、その美しさの裏には暴力の予感がある。A House Is Not a Motel は、その典型である。
Andmoreagain
Andmoreagain は、Forever Changes の中でも特に美しいメロディを持つ曲である。柔らかな歌声、繊細なアレンジ、どこか夢のような旋律。だが、その美しさには壊れやすさがある。
この曲を聴くと、Loveが単なる暗いバンドではなかったことが分かる。Arthur Leeには、非常に優れたポップメロディの感覚があった。ただし、そのメロディはいつも少し曇っている。晴れた日の中に、次の嵐の気配がある。
The Daily Planet
The Daily Planet は、都市の情報、日常、報道、混乱を思わせる曲である。タイトルはスーパーマンの新聞社名でもあり、メディア的な響きを持つ。
曲は軽やかに進むが、歌詞には社会を見つめる距離感がある。Loveは個人的な幻想だけを歌っていたわけではない。彼らは、1960年代後半のアメリカの空気を敏感に感じ取っていた。新聞の見出し、戦争、政治、街のざわめき。それらがサイケデリックなポップの中に混ざっている。
The Red Telephone
The Red Telephone は、Forever Changes の中でも最も不気味な楽曲のひとつである。美しいメロディの奥に、死、破滅、国家権力、冷戦的な恐怖が潜んでいる。
タイトルの赤い電話は、核戦争や政治的緊急回線を連想させる。曲の終盤には、子どもっぽい声の反復が入り、無邪気さと恐怖が奇妙に同居する。Loveのサイケデリアは、色鮮やかな幻覚ではなく、悪夢の縁に立つ感覚であることを、この曲はよく示している。
Maybe the People Would Be the Times or Between Clark and Hilldale
長いタイトルを持つこの曲は、Forever Changes の中でもロサンゼルスの街並みを強く感じさせる楽曲である。Clark and Hilldaleは、サンセット・ストリップ周辺の具体的な地名を思わせる。
Loveの音楽には、抽象的な幻想だけでなく、特定の場所の空気がある。通り、丘、クラブ、家、車、夜。Arthur Leeは、サイケデリックな詩人でありながら、非常にローカルな観察者でもあった。
この曲には、60年代ロサンゼルスの社交、孤独、街のスピードがある。人々は時代そのものなのか、それともただ通り過ぎるだけなのか。タイトルの長さも含めて、Loveらしい皮肉と不思議さがある。
You Set the Scene
You Set the Scene は、Forever Changes の最後を飾る壮大な楽曲である。複数のパートが展開し、アルバム全体の不安と美しさを総括するように響く。
曲の中でArthur Leeは、時間、選択、生き方、世界の見方について歌う。絶望的なイメージが多いアルバムの中で、この曲にはかすかな肯定もある。ただし、それは単純な希望ではない。すべてが変わり、崩れていく世界の中で、それでも何かを見る、選ぶ、場面を作るという意志である。
You Set the Scene は、Loveの最高到達点のひとつである。サイケデリア、フォーク、オーケストレーション、哲学的な歌詞が結びつき、聴き終えたあとに長い余韻を残す。
Your Mind and We Belong Together
Your Mind and We Belong Together は、Forever Changes 後の重要曲であり、オリジナル・ラインナップ末期の記録としても貴重である。Rhinoの再発情報でも、同曲と Laughing Stock が Forever Changes ラインナップによる最後期の録音として扱われている。
この曲には、Loveが次に進もうとしていた可能性がある。サイケデリックな複雑さと、ロックバンドとしての鋭さが同居している。しかし、バンド内部はすでに崩れつつあり、この可能性は十分には展開されなかった。
August
August は、1969年の Four Sail に収録された曲で、Forever Changes 後のLoveのハードロック寄りの側面を示す。メンバーは大きく変わっており、Arthur Leeを中心にした新しいLoveとしての作品である。
この曲では、ギターがより重く、ブルースロック的な感触も強い。初期の繊細なサイケデリアとは違うが、Arthur Leeの声と作曲には独自の不穏さが残っている。Loveという名前は続いているが、音楽は別の段階へ入っていた。
The Everlasting First
The Everlasting First は、1970年の False Start に収録された楽曲で、Jimi Hendrixが参加したことで知られる。PitchforkのBlue Thumb期レビューでも、False Start にはJimi Hendrixとの共演を含む多様なスタイルが見られると紹介されている。
この曲は、Loveの後期がよりブルースロック、ファンクロック、ハードロックへ接近していたことを示す。Forever Changes の繊細なオーケストレーションとは異なるが、Arthur Leeの探求心は続いていた。
アルバムごとの進化
Love:ガレージロックとフォークロックの初期衝動
1966年のデビュー・アルバム Love は、バンドの荒々しい出発点である。My Little Red Book、Signed D.C. などを収録し、ガレージロック、フォークロック、ブルースの要素が混ざっている。
この時期のLoveは、まだ後の Forever Changes のような精密な構築美には到達していない。しかし、その代わりに若いエネルギーと危うさがある。Arthur Leeの声は鋭く、バンドの演奏は荒削りで、ロサンゼルスのクラブシーンの熱気を感じさせる。
このアルバムは、Loveがサイケデリックロックの洗練へ進む前の、生々しい姿を記録した作品である。
Da Capo:実験精神と混沌の拡張
1966年の2作目 Da Capo は、Loveが一気に音楽的野心を広げた作品である。Stephanie Knows Who、Orange Skies、7 and 7 Is などが収録され、ジャズ、ラテン、サイケデリック、ガレージロックが混ざる。
前半は非常に充実している。特に 7 and 7 Is の爆発力は圧倒的で、同曲はLoveのキャリアにおける最大のシングルヒットとなった。ウィキペディア 一方で、アルバム後半の長尺曲 Revelation は賛否が分かれる。即興的で野心的だが、構成としては散漫に感じられる部分もある。
それでも Da Capo は、Loveが普通のロックバンドではなく、未知の音楽形式へ進もうとしていたことを示す重要作である。
Forever Changes:美と崩壊が同居する永遠の名盤
1967年の Forever Changes は、Loveの最高傑作であり、サイケデリックロック史の名盤である。アルバムは1967年11月にElektraからリリースされ、アコースティックギターとオーケストラルなアレンジを基盤に、Arthur Leeが死、幻滅、カウンターカルチャーの暗部を歌った作品として整理されている。
このアルバムは、商業的には当初大成功ではなかった。アメリカではチャート上位に届かず、むしろイギリスで強く支持された。しかし、後年になるにつれて評価は高まり、現在では1960年代ロックを代表する作品のひとつとされる。AllMusic系の評価でも、同作は「サマー・オブ・ラヴ」から生まれた最も美しく不気味なアルバムのひとつとして語られている。
Alone Again Or、A House Is Not a Motel、Andmoreagain、The Red Telephone、You Set the Scene。どの曲も美しい。しかし、その美しさは壊れかけている。花の時代の中で、Arthur Leeはすでに枯れていく花を見ていた。だから Forever Changes は、時代の祝祭であると同時に、時代への葬送曲でもある。
Four Sail:新編成によるハードな再出発
1969年の Four Sail は、Forever Changes 後にメンバーを大きく入れ替えて制作された作品である。Arthur Leeを中心に、よりロック色の強いサウンドへ向かった。
このアルバムには、August など、ギターを前面に出した力強い楽曲がある。初期Loveの繊細なバロック感は薄れたが、Arthur Leeの独特のメロディ感覚と、不安定な情感は残っている。
Four Sail は、よく Forever Changes の影に隠れがちである。しかし、Loveというバンドが一度完成した型に留まらず、別のロックの形へ進もうとしていたことを示す作品である。
Out Here:広がりすぎた実験と後期Loveの混沌
1969年の Out Here は、Blue Thumbからリリースされた後期Loveの作品である。楽曲数も多く、さまざまなスタイルが混在している。
この時期のLoveは、統一感という点では初期3作に及ばない。しかし、その散漫さの中に、Arthur Leeの止まらない創作衝動がある。ブルース、ハードロック、サイケデリア、フォーク的な要素が入り混じり、まとまりよりも衝動が前に出る。
PitchforkのBlue Thumb期レビューでも、後期Loveは一貫性には欠けるが、ポップな曲やファンクロック的な試みを含む多様な姿を見せていたと整理されている。
False Start:Jimi Hendrix参加とブルースロックへの傾斜
1970年の False Start は、Love後期の代表作のひとつである。特に The Everlasting First にはJimi Hendrixが参加しており、ロック史的にも注目される。
この作品では、Loveはよりブルースロック、ファンクロック、ハードロックへ接近している。Forever Changes の繊細なアコースティック世界とはまったく違うが、Arthur Leeが時代の変化に反応しようとしていたことは感じられる。
ただし、この方向性はバンドの新たな黄金期にはつながらなかった。Loveの神話は、やはり初期3作、特に Forever Changes を中心に形成されていく。
Arthur Leeという存在:美しい悪夢を見たカリスマ
Arthur Leeは、Loveの魂である。彼は作曲家、ボーカリスト、バンドリーダーであり、同時に非常に複雑な人物でもあった。カリスマ的で、神経質で、鋭く、美しいメロディを生み、同時にバンドを不安定にする存在でもあった。
彼の歌詞には、死への意識が強い。Forever Changes の時点で、まだ若かったArthur Leeは、自分や周囲の終わりを強く感じていたように聞こえる。戦争、都市の暴力、カウンターカルチャーの欺瞞、ドラッグ、孤独。彼はそれらを抽象的な詩のように歌った。
Arthur Leeの声は、ソウルフルでありながら、どこか醒めている。叫ぶときにも、完全には感情に溺れない。まるで、自分自身の破滅すら少し離れたところから見ているようだ。
後年、彼は法的問題や投獄を経験しながらも、2000年代には Forever Changes の再演ツアーで再評価された。2003年にはBaby Lemonadeやストリングス/ホーン隊を伴い、Forever Changes 全曲を演奏するライブ作品も発表された。ウィキペディア これは、彼の音楽が時代を越えて生き続けたことを示す象徴的な出来事だった。
Bryan MacLeanとJohnny Echols:Loveを支えたもうひとつの才能
LoveはArthur Leeのバンドとして語られがちだが、他メンバーの存在も重要である。特にBryan MacLeanは、Alone Again Or を書いたことで、Loveの歴史に不滅の足跡を残した。
MacLeanの曲には、Arthur Leeとは異なるロマンティックな感覚がある。Alone Again Or のメロディは、孤独でありながら華やかで、Loveの音楽に明るい哀愁を加えた。もしArthur LeeがLoveの黒い太陽なら、Bryan MacLeanはその光を斜めに反射する月のような存在だった。
Johnny Echolsも、Loveのギターサウンドに大きく貢献した人物である。近年もBaby LemonadeとともにLoveの楽曲を演奏し、2026年時点でも英国でのトリビュート公演が高く評価されている。The Timesのレビューは、EcholsがLoveの初期3作、とりわけ Forever Changes の楽曲を中心に演奏し、バンドの遺産を力強く伝えていたと報じている。
Loveは、Arthur Leeひとりの幻影ではない。複数の才能が一瞬だけ奇跡的に重なったバンドだった。その重なりが最も美しく結晶したのが Forever Changes である。
ロサンゼルス・シーンとの関係:The Doors、The Byrds、Buffalo Springfieldとの時代
Loveは、1960年代ロサンゼルスの重要バンドだった。同じ時期にはThe Doors、The Byrds、Buffalo Springfield、The Mothers of Inventionなどが活動していた。特にElektra Recordsとの関係では、LoveはThe Doorsより早く注目されており、Jim MorrisonたちがElektraと契約するきっかけにもLoveの存在が関係したと言われる。
The Byrdsがフォークロックの空を広げたバンドなら、Loveはその空の下にある影を見ていた。The Doorsが劇場的な暗さを持っていたのに対し、Loveはより奇妙に日常的で、ロサンゼルスの住宅街や丘の上の不安を鳴らした。
Loveはサンフランシスコのサイケデリアとも違う。Grateful DeadやJefferson Airplaneのような共同体的なジャム感覚より、Loveはもっと閉じていて、神経質で、作曲中心である。彼らのサイケデリアは共同体の祝祭ではなく、個人の不安の迷宮だ。
歌詞世界:死、幻滅、孤独、カウンターカルチャーの終わり
Loveの歌詞世界、とりわけArthur Leeの歌詞には、死と幻滅が強く表れる。Forever Changes は1967年という「愛と平和」の象徴的な年に発表されたが、その内容は決して無邪気ではない。
A House Is Not a Motel には戦争と暴力の影がある。The Red Telephone には冷戦的な恐怖と死の予感がある。You Set the Scene には人生の選択と終末感がある。Arthur Leeは、カウンターカルチャーが掲げる理想の中に、すでに腐敗の兆しを見ていたように聞こえる。
Loveの歌詞は、必ずしも分かりやすくない。だが、その断片性が魅力である。新聞の見出し、幻覚、会話の切れ端、夢、死の予感。そうしたものがコラージュのように並び、1960年代後半の精神状態を映している。
他アーティストとの比較:Loveのユニークさ
Loveは、The Doors、The Byrds、Jefferson Airplane、Buffalo Springfield、The Velvet Underground、The Zombies、Moby Grape、13th Floor Elevatorsなどと比較できる。
The Doorsと比べると、どちらもElektra所属で、ロサンゼルスの暗いサイケデリアを代表するバンドである。しかしThe DoorsがJim Morrisonの劇的なカリスマとブルース的な重さを持つのに対し、Loveはよりフォーク的で、バロック的で、神経質な美しさを持つ。
The Byrdsと比べると、Loveはフォークロックの影響を受けながらも、もっと不穏で都市的である。The Zombiesと比べると、どちらもバロックポップ的な繊細さを持つが、Loveの方がより政治的で、破滅的な空気が濃い。
The Velvet Undergroundと比べると、都市の暗部を見る視線には共通点がある。ただし、Velvet Undergroundがニューヨークの冷たい地下を描いたのに対し、Loveはロサンゼルスの陽光の下にある黒い影を描いた。
Loveのユニークさは、美しいのに危険であることだ。彼らの音楽は、花のように開く。しかし、その花には毒がある。
影響を与えたアーティストと音楽シーン
Loveの影響は、後世のインディーロック、ネオサイケ、ギターポップ、バロックポップに深く及んでいる。R.E.M.、The Stone Roses、Primal Scream、The Jesus and Mary Chain、The Damned、Echo & the Bunnymen、Teenage Fanclub、Belle and Sebastian、The Brian Jonestown Massacre、Mazzy Star、The Coral、Fleet Foxes、The Lemon Twigsなど、多くのアーティストにLove的な感覚を見つけることができる。
特に Forever Changes は、サイケデリックロックの枠を越え、インディー・ミュージシャンにとっての聖典のような存在になった。アコースティックでありながら不穏、ポップでありながら難解、時代的でありながら永遠。その矛盾が後世のアーティストを惹きつけている。
Loveは大衆的なヒットの規模ではThe BeatlesやThe Doorsには及ばない。しかし、深く聴き込むリスナーやミュージシャンに与えた影響は非常に大きい。彼らは「知る人ぞ知る」存在から、時代を代表する名門バンドへと評価を高めていった。
まとめ:Loveは、サマー・オブ・ラヴの影を最も美しく鳴らしたバンドである
Loveは、サイケデリックロックの名門バンドである。Arthur Leeを中心に、Bryan MacLean、Johnny Echolsらが加わり、ロサンゼルスのフォークロック、ガレージロック、バロックポップ、サイケデリアを独自に融合した。
1966年の Love では、My Little Red Book や Signed D.C. によって荒々しい初期衝動を示し、Da Capo では 7 and 7 Is や Stephanie Knows Who によって実験性を広げた。そして1967年の Forever Changes で、彼らは永遠の名盤を作り上げた。
Alone Again Or は孤独の華やかさを、A House Is Not a Motel は戦争と暴力の影を、Andmoreagain は壊れやすい美しさを、The Red Telephone は冷戦的な悪夢を、You Set the Scene は人生と世界への深い問いを鳴らしている。Forever Changes は、サマー・オブ・ラヴの祝祭の中で、その終わりを最も早く、美しく、そして恐ろしく予感したアルバムである。
後期の Four Sail、Out Here、False Start では、Loveはよりハードロックやブルースロックへ向かった。統一感という点では初期3作に及ばないが、Arthur Leeの創作衝動は続いていた。Jimi Hendrix参加の The Everlasting First などには、別の可能性も見える。
Loveの音楽は、時代の幻影であると同時に、今も生きている。1960年代ロサンゼルスの陽光、共同体の夢、ドラッグと戦争、愛と疑心暗鬼、若さと死の予感。それらが、彼らの曲の中で美しく反響している。
Loveは、明るいサイケデリアのバンドではない。むしろ、明るすぎる光の中で影を見つめたバンドである。その影があったからこそ、彼らの音楽は今も深い。サイケデリックロックの名門として、Loveは永遠に変わり続ける時代の不安を、永遠に変わらない美しさで鳴らしている。

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