
1. 歌詞の概要
「Thinking ‘Bout Somethin’」は、Hansonが2010年に発表したアルバム『Shout It Out』のリードシングルであり、彼らのキャリアにおいて特筆すべき“復活の狼煙”とも言える楽曲である。タイトルの“考え事”とは、愛や失恋、もしくは過去への郷愁のような曖昧な感情を内包しており、楽曲全体に漂うのは、過去を振り返りながらも軽やかに前を向こうとするポジティブなエネルギーである。
歌詞の核には「失恋から立ち直る瞬間」がある。かつて自分を苦しめた関係や相手のことを「もう考えない」と言いながら、ふとした瞬間に思い出してしまう——そんな揺れる心情が、ダンサブルでソウルフルな音に乗せられているのだ。この矛盾こそが人間的であり、だからこそこの曲は多くの人の共感を誘う。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Thinking ‘Bout Somethin’」は、Hansonの音楽的ルーツへの敬意と愛が全編に宿った楽曲である。彼らが影響を受けたと公言しているMotownやStax、特にThe Jackson 5やSam & Daveといった60〜70年代のソウル/R&Bのエネルギーを、そのまま現代に蘇らせたようなサウンドは、キャリアの新章の幕開けとして極めて象徴的であった。
この楽曲のミュージックビデオも話題を呼んだ。舞台はニューオーリンズの街角。映像は1980年の映画『ブルース・ブラザース』での名シーンを忠実に再現しており、街の人々が音楽に合わせて踊り出す、まさに“音楽が人々を動かす”瞬間を描いている。ハンソン3兄弟は本気でこのビデオに臨み、リズムとユーモア、そして誠実な音楽愛に溢れた作品を作り上げた。
この頃の彼らは既に“かつてのアイドル”ではなく、自主レーベル「3CG Records」を通じて完全に独立したアーティストとしての道を歩んでおり、「Thinking ‘Bout Somethin’」はその成熟を象徴する楽曲でもあった。
3. 歌詞の抜粋と和訳
You don’t know what you got
自分が何を手にしていたか、君はわかってなかったんだ‘Til you’re missing it a lot
それを失って、初めてその大きさに気づくんだよI’ve had enough of tryin’
もう、努力するのは疲れたよOf love, I’ve had enough of cryin’
愛にはうんざりだし、涙ももうこりごりさBut I’m thinking ‘bout somethin’
でもね、ふと考えてしまうんだSomebody said they saw you
誰かが君を見かけたって言ってたよLaughin’ at a party
パーティで楽しそうに笑っていたってさI’m done with you
もう君に未練はない…はずだったのに
引用元: Genius Lyrics – Hanson / Thinking ‘Bout Somethin’
4. 歌詞の考察
この曲の面白さは、歌詞とサウンドのコントラストにある。失恋の痛みや未練といったセンチメンタルな主題が語られているにもかかわらず、それを支えるサウンドは実に明るく、軽快で、リズムとホーンセクションが陽気に跳ね回る。まるで涙の中に笑いを混ぜたような、苦さと甘さが混在するカクテルのような楽曲だ。
主人公は「もう君のことなんて考えない」と言い聞かせる。しかし「考えていること自体を考えている」時点で、それはもう心の奥に深く残っている証である。そうした人間の矛盾や、感情の交差点を描くのが、この歌詞の妙だ。
また、「音楽で過去を乗り越える」というHansonらしい姿勢も感じ取れる。失恋という普遍的なテーマを、自己憐憫や沈鬱さではなく、グルーヴと開放感をもって昇華するこの曲は、リスナーに“悲しいことすら踊って乗り越えてしまえ”というポジティブな力を与えてくれる。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “Valerie” by Mark Ronson feat. Amy Winehouse
レトロなサウンドと現代的な感性が融合した、明るくも切ないノスタルジック・ナンバー。 - “You Make My Dreams” by Hall & Oates
1980年代のソウルポップの代表格であり、恋する喜びを爽やかに歌い上げた一曲。 - “Shut Up and Dance” by Walk The Moon
失恋や悩みを一旦忘れて、とにかく踊れ!という快活なダンスロック・アンセム。 - “Treasure” by Bruno Mars
現代のソウルポップの王者が放つ、1970年代へのオマージュに満ちたファンキー・チューン。 - “Tightrope” by Janelle Monáe
困難の中でも前に進み続ける強さを、グルーヴと共に表現したスタイリッシュな楽曲。
6. ソウルで乗り越える、感情のさざ波
「Thinking ‘Bout Somethin’」は、Hansonが音楽を通して再生し続けてきたことの証明である。単なる“アイドルの再起”ではなく、“ソングライターとしての成熟と変化”がここにある。少年期のハーモニーに頼るのではなく、ヴィンテージ・ソウルを現代的に咀嚼し、自分たちの文脈で再構築する。この姿勢が、バンドの息の長さを支えている。
この曲には、明るさの裏にある“過去と向き合う強さ”がある。そしてその強さは、過去を否定することではなく、受け入れ、笑って、踊って乗り越えることに宿るのだ。まるでニューオーリンズの路地裏で自然とステップを踏み始めたかのように、人生の痛みすら祝祭に変えてしまう力。
Hansonは、ただノスタルジックな音をなぞるのではなく、その音楽が持つ“魂”を現代に再生させる。だからこそ、「Thinking ‘Bout Somethin’」は聴いた瞬間に身体が動き、心が軽くなる。音楽の力とは何か——それを再確認させてくれる一曲である。
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