
発売日:2013年6月18日
ジャンル:Pop Rock / Power Pop / Soul Rock
概要
AnthemはHansonが2013年に発表した6作目のスタジオ・アルバムである。自主レーベル3CG Records設立後の作品としては4作目にあたり、前作『Shout It Out』で強く打ち出したソウルやR&Bの要素を残しながら、ギターの音量とロック・バンドとしての勢いを前へ戻している。Taylor Hansonのピアノとボーカル、Isaac Hansonのギター、Zac Hansonのドラムという三兄弟の基本編成を軸に、ホーンやコーラスを加えた厚いアレンジが特徴だ。
制作はHanson自身が担い、前作までに磨いてきたクラシックなポップ/ソウルへの関心と、ライブで鳴らしやすいロックの直接性を一つにまとめている。70年代のソウルやピアノ・ロックを思わせる曲がある一方、歪んだギターを前面に出した曲ではパワー・ポップやハード・ロックに近い感触も現れる。三人のハーモニーは依然として大きな武器だが、本作では美しく声を重ねるだけでなく、サビを集団的な掛け声へ拡大するためにも使われる。
歌詞には恋愛や人間関係に加え、困難な状況でも前進すること、自分の選択を貫くことといった題材が繰り返し現れる。アルバム名の「Anthem」が示すように、個人的な感情を観客と共有できる大きなサビへ変換する曲が多い。90年代に登場したポップ・グループというイメージから長く離れ、自分たちで活動基盤を作ってきたHansonが、演奏力とソングライティングをロック寄りの音像へ集約した作品である。
全曲レビュー
1. 「Fired Up」
歪んだギターと力強いドラムがほぼ同時に飛び込み、アルバムのロック志向を最初から明確にする。Taylorの歌唱も滑らかな高音より荒さを強調し、サビでは三人のコーラスが加わって音の幅を一気に広げる。歌詞も文字通り気持ちに火がついた状態を扱い、細かな心理描写より行動へ向かうエネルギーを優先している。オープニングとしてライブの開始を意識したような一曲だ。
2. 「I’ve Got Soul」
タイトル通りソウルへの愛情を正面から打ち出し、ピアノ、ホーン、弾むリズムが中心となる。前曲の硬いギターから急に色彩が変わるが、ドラムの押し出しが強いためアルバムの勢いは途切れない。Taylorは高音を伸ばすだけでなく、短いフレーズをリズムへ食い込ませるように歌う。Hansonにとってソウルが装飾ではなく、ポップなメロディと並ぶ作曲の基礎になっていることが分かる。
3. 「You Can’t Stop Us」
太いギター・リフと直線的なビートを使い、タイトルの言葉をそのまま大きなコーラスへ変えたロック・ナンバー。個人の内面を掘り下げるより、障害に対して集団で前進する感覚を作ることが目的で、三兄弟の声が重なるほど説得力が増していく。構成も複雑にせず、ヴァースからサビへ勢いよく到達する。アルバム名が示す「アンセム」という考え方を最も直接的に実践した曲の一つである。
4. 「Get the Girl Back」
ピアノの跳ねるリズム、ホーン、手拍子を思わせるアクセントによって、60〜70年代のソウル・ポップを現代的に組み直した先行シングル。失った恋人を取り戻そうとする語り手を描き、切実さを持ちながらも演奏は明るい。サビではメロディを簡潔にしてコーラスを厚くするため、一度聴いただけでも輪郭が残る。前作『Shout It Out』から続くソウル路線と本作の力強い演奏が自然に交わっている。
5. 「Juliet」
Zac Hansonがリードを取り、荒々しいボーカルとギター中心の演奏で前曲の軽快なソウルから方向を変える。恋愛対象への強い執着をロマンティックに整えすぎず、切迫した歌声と大きなドラムで押し切るところが特徴だ。サビでは声のレンジが上がると同時にギターも厚くなり、感情の上昇と音量の変化が分かりやすく連動する。アルバム前半のロック面を担う曲である。
6. 「Already Home」
テンポを落とし、ピアノとボーカルを中心に始めることで前半の勢いをいったん静める。距離や帰る場所をめぐる言葉は、単なる物理的な「家」だけでなく、誰かとの関係の中に居場所を見つける歌としても読める。曲が進むにつれてドラムやコーラスが加わるが、派手な転調やリフで押すことはない。メロディをじっくり聞かせ、本作の別の強みを示すバラードだ。
7. 「For Your Love」
温かいピアノとゆったりしたリズムを軸に、相手へ向けた献身を率直に歌う。演奏は音数を詰め込みすぎず、声の重なりとメロディの動きを聞かせる余白を残している。前半に多かった「前進する」「勝ち取る」という外向きの姿勢から、特定の相手との関係へ視点を絞ることでアルバムに変化を作る。三兄弟のハーモニーが最も伝統的なポップスの形で生かされた一曲でもある。
8. 「Lost Without You」
別れや喪失への不安を扱い、抑えたヴァースから感情の強いサビへ進む。語り手は相手の不在によって自分の足場まで失うような感覚を見せ、アルバム前半の自信に満ちた人物像とは対照的だ。ボーカルの強弱に合わせてバンドも徐々に厚くなり、サビではコーラスが主旋律を支える。演奏上の派手な仕掛けより、メロディと声の高まりを中心に作られている。
9. 「Cut Right Through Me」
鋭いギターとタイトなリズムを使い、中盤のバラードが続いた流れを再び引き締める。タイトルの「自分を切り裂く」という感覚は、相手の言葉や存在が防御を簡単に突破してしまう状態として聞こえる。サウンドにもその緊張があり、ギターは背景を埋めるのではなく、ボーカルの間へ短く強い音を差し込む。恋愛の脆さをロックの硬さで表現した対比が効果的だ。
10. 「Scream and Be Free」
大きく開くサビと強いドラムを中心にした、タイトル通り解放を目指す曲。ヴァースでは比較的演奏を抑え、サビに入るとギターとコーラスを広げるため、実際のテンポ以上に急激な上昇を感じさせる。叫ぶことと自由になることを結びつけた歌詞は単純だが、その単純さが観客と共有するロック・ソングにはよく合う。本作のライブ志向が特に分かりやすい。
11. 「Tragic Symphony」
題名は悲劇的だが、演奏は沈み込むバラードではなく、ドラマ性のあるポップ・ロックとして組み立てられている。人間関係の破綻を音楽になぞらえる発想を使い、感情が制御できなくなるにつれてボーカルと伴奏も大きくなる。「symphony」という言葉に合わせるように複数の音を重ねつつ、中心には覚えやすい歌の旋律を残している点がHansonらしい。
12. 「Tonight」
ギターとドラムの強い押し出しに、三人のコーラスを組み合わせた終盤のロック・ナンバー。未来を抽象的に語るのではなく「今夜」という限られた時間へ焦点を絞ることで、行動を先延ばしにしない切迫感を生んでいる。サビは観客が参加できるほど簡潔に作られており、『Anthem』というタイトルにふさわしい集団性をもう一度前面へ戻す。
13. 「Save Me from Myself」
標準盤を締めくくるのは、外部の敵ではなく自分自身を問題として捉える曲である。序盤の「Fired Up」や「You Can’t Stop Us」が外へ向かう自信を歌っていたのに対し、ここでは自分の判断や衝動から救われたいという弱さが現れる。力強いバンド演奏を維持しながらも、歌詞の視点を内側へ反転させることで、単純な勝利宣言ではない余韻を残してアルバムを閉じる。
総評
Anthemの中心にあるのは、Hansonが長年蓄積してきたポップ、ソウル、ロックの語彙を、ライブ・バンドとしての力へ集約することだ。『Shout It Out』ではホーンやR&Bのリズムが作品の性格を決めていたが、本作ではそこへ歪んだギターと重いドラムが戻っている。それでもソウル的なピアノやコーラスを捨てないため、単純なギター・ロックへの回帰にはならない。「Fired Up」と「Get the Girl Back」が同じアルバムに無理なく収まるところに、この時期のHansonの幅が表れている。
三兄弟の役割も明快である。Taylorの声とピアノはメロディの中心を作り、Isaacのギターは以前より硬い輪郭を加え、Zacのドラムはソウル系の曲でもロックらしい重量を保つ。そして三人のコーラスが、個々の曲を大きなサビへまとめていく。演奏技術を複雑さとして見せるのではなく、誰が聴いても分かるメロディをより強く届けるために使っているのがポイントだ。
一方で、アルバム名通りアンセム的な高揚を狙う曲が多いため、大きなサビと前向きなメッセージが続く部分には似た感触も生まれる。そこで「Already Home」や「Lost Without You」のような曲が音量を落とし、「Save Me from Myself」が最後に自己疑念を持ち込むことで、全編が一方向の励ましだけになることを避けている。歌詞の複雑さよりも、感情を簡潔なフレーズへ変換するソングライティングを優先した作品と言える。
1997年の「MMMBop」のイメージだけでHansonを見ると、Anthemの骨太な演奏は意外に聞こえるかもしれない。しかし彼らのキャリアを通して見ると、これは突然の変化ではなく、独立後に続けてきたクラシックなアメリカン・ポップとR&Bの研究をロック寄りにまとめた結果である。若いポップ・グループとしての成功から16年を経て、自分たちで曲を書き、演奏し、作品を送り出すバンドとしてのHansonがよく見えるアルバムだ。
おすすめアルバム
Shout It Out by Hanson
前作にあたる2010年作。ホーン、ピアノ、ファンクやR&Bのリズムがさらに前面へ出ており、そこからAnthemがソウルの要素を残したままギターの重量を増した変化を確認できる。
Underneath by Hanson
自主レーベルへ移行して最初に発表した2004年作。メロディと三声のハーモニーを軸にしたポップ・ロックが充実しており、後のAnthemへ続く「バンドとしてのHanson」の出発点を知るのに適している。
Songs in the Key of Life by Stevie Wonder
ソウル、ファンク、ポップを高度な演奏と親しみやすい旋律で結びつけた1976年作。音楽的な規模は異なるが、ピアノを軸にリズムとコーラスを豊かに組み立てるHansonのルーツを考える手掛かりになる。
Songs for a New World by The Black Crowes
ブルースやソウルの語法を大きなギター・サウンドへ結びつけるアメリカン・ロックという点で、Anthemの骨太な側面につながる。Hansonより泥臭い演奏だが、クラシックな音楽語法を現代のバンドとして鳴らす姿勢が近い。
White Album by The Beatles
ロック、ソウル、ポップなど異なる発想を、強いメロディとバンドの個性によって一つの作品へ収めたアルバム。Anthemとは規模も時代も異なるが、ジャンルを横断しても歌そのものの分かりやすさを失わない作曲法という点で関連している。

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