
発売日:1975年10月28日
ジャンル:Progressive Rock / Folk Rock / World Music
概要
OmmadawnはMike Oldfieldが1975年に発表した3作目のスタジオ・アルバムである。大成功を収めたデビュー作Tubular Bells、より田園的なHergest Ridgeに続く作品で、基本的にはLP片面ずつを使った二つの長大なパートから成る。前2作と同様にOldfield自身が多数の楽器を重ねているが、本作では反復する旋律を少しずつ変形させる手法に加え、民族楽器や声、人間的な打楽器の響きが大きな役割を担っている。
制作の中心となったのは、Oldfieldが当時暮らしていたヘレフォードシャーの自宅に設けたスタジオである。Oldfieldはギター、ベース、キーボード、各種打楽器などを演奏し、Clodagh Simonds、Bridget St John、Paddy Moloneyらが参加。さらに南アフリカ出身の打楽器奏者Julian Bahulaを中心とするJabulaの演奏が「Part One」後半の大きな推進力となった。ロック・バンドの一発録りとは異なり、多重録音によって一人の演奏を積み重ねながら、生身の声や打楽器を組み合わせている。
Tubular Bellsにあった断片的なアイデアを次々につなぐ面白さに対して、Ommadawnでは同じ旋律やリズムを長く育てる感覚が強い。アコースティックな響きからエレクトリックギターの激しいクライマックスまでが一本の流れとして組み立てられ、ケルト音楽、アフリカ由来の打楽器、プログレッシブ・ロック的なスタジオ制作が自然に同居する。最後には短い歌もの「On Horseback」も現れ、緊張の強い長大な器楽曲を素朴なユーモアでほどいて終わる。
全曲レビュー
1. 「Ommadawn, Part One」
静かな導入では、反復する旋律を軸にギター、鍵盤、声が少しずつ重なっていく。最初から大きな主題を提示して展開させるというより、短い音型を何度も聞かせ、その周囲の音色を変えることで景色を広げる作りだ。Clodagh Simondsらの声も一般的なロックのバックコーラスとは違い、言葉と響きの境界にあるような使われ方をする。Oldfieldのギターは旋律を歌う役割と、細かなリズムを刻む役割を行き来し、一人で重ねた演奏でありながら複数の奏者が応答しているような厚みを生む。
中盤以降では音楽の重心が徐々にリズムへ移り、Jabulaによる打楽器が入ると空気が大きく変わる。一定の拍を単純に強調するのではなく、複数の打楽器が異なる位置へアクセントを置き、それらが重なることで巨大な循環運動を作る。その上に声の反復とOldfieldのエレクトリックギターが加わり、前半で抑えられていたエネルギーが長い時間をかけて解放されていく。
終盤のギターソロでは、整った美しさよりも切迫した音色が前面に出る。高い音域で長く伸ばされる音、強く歪んだフレーズ、反復を続ける打楽器が互いを押し上げ、スタジオで精密に構築された作品でありながらライブ演奏のような熱を持つ。冒頭の静けさからこの地点までを約20分かけて連続的に進むため、個々の旋律以上に「音が蓄積していく過程」そのものが曲の中心になっている。
2. 「Ommadawn, Part Two」
「Part Two」は前半の激しい終結をそのまま引き継がず、再び静かな場所から始まる。アコースティックギターを中心とした柔らかな響きに、リコーダーやPaddy Moloneyのイリアン・パイプスなどが加わり、「Part One」より英国・アイルランドのフォークに近い色が強くなる。旋律は素朴だが、同じ音型を異なる楽器へ受け渡すことで音色が絶えず変化し、長い曲を一つの雰囲気だけで進ませない。
途中では低音や打楽器が加わって緊張が増し、牧歌的だった前半から再び暗い領域へ入る。Oldfieldはエレクトリックギターを単なるロック的な派手さとして使わず、穏やかなアコースティック楽器と対立させることで曲の起伏を作っている。「Part One」のクライマックスが一方向へ熱を蓄積する構成だったのに対し、こちらは静けさと緊張を何度か行き来しながら進むため、同じ長尺形式でも時間の感じ方が異なる。
終盤になると音楽は意外なほど親しみやすい「On Horseback」へ移る。馬に乗る楽しさを歌う素朴な小曲で、それまでの神秘的で複雑な器楽部分とは明らかに温度が違う。子どもたちの声も加わり、大作を荘厳な和音で閉じるのではなく、日常的な楽しさへ戻って終わる。この落差にはOldfieldのユーモアが表れており、アルバム全体が必要以上に神秘主義的な作品として固まることを避けている。
総評
Ommadawnは収録曲こそ実質二つだが、その内部には通常のアルバム数曲分に相当する変化がある。ただし、異なるアイデアを次々と提示して驚かせるタイプのプログレッシブ・ロックではない。短い旋律を繰り返し、楽器を一つ加え、音域を広げ、リズムを強くするという小さな変化を積み重ねることで、最初とはまったく異なる地点へ到達する。特に「Part One」の後半は、その方法が最も明快な形で成功している。
Oldfieldの多重録音も重要である。一人で多くの楽器を担当する制作方法は、ともすれば均一な演奏になりやすいが、本作ではギターだけでも細い単音、アコースティックな伴奏、強く歪んだリードと役割が細かく分かれている。そこへJabulaの打楽器、女性ボーカル、イリアン・パイプスなどOldfield自身では置き換えられない音が入ることで、個人制作の精密さと集団演奏の身体性が共存した。
民族音楽的な要素についても、単に珍しい楽器を装飾として並べているわけではない。アフリカ系の打楽器は「Part One」の構造そのものを動かし、ケルト系の音色は「Part Two」の旋律の性格を決めている。1970年代のプログレッシブ・ロックにはクラシックやジャズを取り込む作品が多かったが、Ommadawnはフォークや非西洋圏のリズムまで素材を広げ、それをOldfield特有の反復と多重録音へ組み込んだ点に独自性がある。
Tubular Bellsほど文化的な知名度は高くないものの、アルバム単位でのまとまりではOmmadawnに分がある。二つの長尺曲が静けさ、反復、緊張、解放という流れを共有しながら、それぞれ異なる方法で展開するからだ。そして最後の「On Horseback」が壮大さを意図的に崩すことで、人間的な軽さも残る。スタジオを一つの巨大な楽器として扱うOldfieldの作曲法と、演奏そのものの熱量が特にうまく重なった作品である。
おすすめアルバム
Tubular Bells by Mike Oldfield
1973年のデビュー作で、多重録音された多数の楽器と長尺構成というOldfieldの基本形を確立した作品。Ommadawnと比べると場面転換が多く、同じ制作方法から異なる構成が生まれる点を比較できる。
Hergest Ridge by Mike Oldfield
Ommadawnの前年に発表された第2作。長い反復と田園的な音色をさらに静かな方向へ進めており、ここからOmmadawnの強い打楽器や劇的なギターへどう発展したかが分かりやすい。
Liege & Lief by Fairport Convention
英国の伝承音楽とロック・バンドの演奏を本格的に結びつけた1969年作。制作方法はOldfieldと異なるが、伝統的な旋律や楽器を現代的なロックの音響へ移すという点で重要な関連作である。
The Geese & the Ghost by Anthony Phillips
Genesisの元ギタリストAnthony Phillipsが1977年に発表した作品。アコースティックギターや管楽器を使った長い器楽曲を中心とし、Ommadawnの牧歌的な側面を好む聴き手には特に近い感触がある。
Incantations by Mike Oldfield
1978年の4作目では長尺形式をさらに拡大し、反復する旋律、声、打楽器をより大規模に構築している。Ommadawnの凝縮された二部構成が、その後どのように長大なミニマル志向へ発展したかを確認できる。

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