
発売日:2018年7月13日
ジャンル:ポップ、R&B、エレクトロポップ、UKガラージ、ダンス・ポップ
概要
All Saintsの5作目となるスタジオ・アルバム『Testament』は、2018年に発表された作品であり、1990年代後半から2000年代初頭にかけて英国ポップ/R&Bシーンを代表したガール・グループが、成熟したポップ・アクトとして自らの音楽性を再定義したアルバムである。2016年の前作『Red Flag』で本格的な復帰を果たしたAll Saintsは、本作でその再始動を一過性のノスタルジーに終わらせず、現在のポップ・シーンに通用するサウンドへ発展させた。
All Saintsは、Melanie Blatt、Shaznay Lewis、Natalie Appleton、Nicole Appletonからなるグループであり、1997年のデビュー・アルバム『All Saints』によって大きな成功を収めた。彼女たちは、Spice Girlsと同時期に登場しながら、よりクールでR&B寄りのサウンド、落ち着いたヴォーカル・ハーモニー、ストリート感のあるファッション性によって独自の位置を確立した。代表曲「Never Ever」「Pure Shores」「Black Coffee」は、90年代末から2000年代初頭のUKポップを象徴する楽曲として広く知られている。
『Testament』の重要性は、All Saintsが過去の成功を単に再演するのではなく、彼女たちらしい抑制されたR&B感覚、洗練されたエレクトロニック・ポップ、UKガラージやダンス・ミュージックの質感を、2010年代後半の音像として更新している点にある。特に、本作にはWilliam Orbitが関与しており、彼がかつてAll Saintsの「Pure Shores」や「Black Coffee」で作り上げた浮遊感のあるサウンドが、より成熟した形で再び現れている。これにより『Testament』は、初期All Saintsの延長線上にありながら、単なる回顧作ではない作品になっている。
タイトルの『Testament』は、「証言」「遺言」「信念の表明」といった意味を持つ言葉である。このタイトルは、グループのキャリアを考えるうえで非常に象徴的である。All Saintsは、90年代のガール・グループ・ブームの中で誕生し、解散や再結成、メンバー間の距離、ソロ活動、家族や人生の変化を経てきた。その彼女たちが再び集まり、自分たちの声で現在を歌うこと自体が、一つの証言である。本作は、若さや流行の瞬発力ではなく、時間を経た女性たちが、自分たちの経験、関係性、傷、強さを音楽として提示するアルバムと言える。
音楽的には、派手なEDMや過剰なポップ・プロダクションではなく、全体に抑制された質感が目立つ。ビートはしなやかで、シンセサイザーは空間を広げるように配置され、ヴォーカルは過度に張り上げるのではなく、重なり合うハーモニーによって感情を伝える。これはAll Saintsの大きな特徴である。彼女たちは、力強いソロ・ヴォーカルの競演によって聴かせるグループではなく、四人の声が混ざり合うことで独自の温度を生むグループである。
歌詞のテーマとしては、愛、再出発、失われた関係、自己防衛、感情の整理、人生経験から得た強さが中心にある。初期のAll Saintsにも、恋愛の終わりや不安定な関係を描く楽曲は多かったが、『Testament』ではそれらがより大人の視点で語られる。怒りや悲しみを爆発させるのではなく、距離を取り、受け止め、必要であれば手放す。そこに本作の成熟がある。
日本のリスナーにとって『Testament』は、90年代UKポップをリアルタイムで知る世代には懐かしさと更新感を同時に与える作品であり、現代のR&B/エレクトロポップとして聴く若いリスナーにも入りやすいアルバムである。All Saintsの魅力は、派手さではなく、クールさ、余白、声の重なり、都会的なメランコリーにある。本作はその美点を保ちながら、キャリア後期の落ち着きと自信を加えた、非常に完成度の高い復帰後作品である。
全曲レビュー
1. Who Do You Love
オープニング曲「Who Do You Love」は、アルバムの導入として非常に効果的な楽曲である。タイトルは「あなたは誰を愛しているのか」という問いであり、恋愛関係における疑念、確認、相手の本心を知りたい気持ちを端的に表している。All SaintsらしいクールなR&B感覚と、現代的なポップ・プロダクションが自然に結びついており、本作の方向性を明確に示す。
サウンドはタイトで、過度に派手ではない。ビートはしなやかに動き、シンセサイザーやベースは都会的な空気を作る。四人のヴォーカルは、それぞれの個性を強調するというより、全体として一つの滑らかなハーモニーを形成している。All Saintsの強みは、声の押し出しよりもブレンド感にあり、この曲でもその特徴がよく表れている。
歌詞では、相手の心がどこにあるのかを問う視点が中心になる。恋愛の中で、相手が自分を本当に見ているのか、それとも別の誰かや過去に囚われているのかという不安は普遍的なテーマである。この曲では、その不安が感情的な叫びではなく、冷静で鋭い問いとして提示される。そこに、大人のポップ・ソングとしての洗練がある。
アルバム冒頭に置かれたことで、「Who Do You Love」は『Testament』全体の感情的な入口になっている。本作は、愛をただ肯定するのではなく、愛の中にある曖昧さや不信、距離を見つめる作品である。その姿勢が、この曲に集約されている。
2. Three Four
「Three Four」は、リズム感と軽快さを前面に出した楽曲であり、アルバム序盤に流れを作る役割を果たしている。タイトルは拍子やカウントを連想させ、音楽的な運動感を示す言葉として機能している。All Saintsの音楽は、クラブ・ミュージックからの影響を受けながらも、過度に攻撃的なダンス・トラックにはならず、常にヴォーカルとグルーヴのバランスを重視する。この曲にもその美学が現れている。
サウンドはリズミカルで、ビートの跳ねが心地よい。UKポップらしい洗練と、R&B的な柔らかさが混ざっており、All Saintsが持つ都会的な軽さがよく出ている。楽曲の構成は比較的コンパクトだが、音の配置は緻密で、ヴォーカルの入り方やコーラスの重ね方に細かな工夫がある。
歌詞のテーマとしては、関係の中でリズムを合わせること、相手との距離を測ることが読み取れる。ダンスやカウントのイメージは、恋愛における呼吸やタイミングの比喩として機能する。愛は感情だけで成り立つものではなく、互いのテンポや歩幅をどう合わせるかが重要になる。この曲では、その感覚が軽やかなポップ・ソングとして表現されている。
「Three Four」は、本作の中で大きなドラマを担う曲ではないが、アルバムの流れを滑らかにする重要な役割を持つ。All Saintsの音楽にある、無理に盛り上げすぎないクールなグルーヴが味わえる一曲である。
3. Love Lasts Forever
「Love Lasts Forever」は、本作のリード曲として発表された楽曲であり、All Saintsのキャリア後期を象徴するような力強さと親しみやすさを持っている。タイトルは「愛は永遠に続く」という、非常に普遍的で大きなテーマを掲げている。しかしこの曲における愛は、若い恋愛の無邪気な永遠ではなく、困難や時間を越えて残るものとして描かれている。
サウンドは明るく開放的で、ダンス・ポップとしての推進力がある。ビートは軽快で、コーラスは広がりを持ち、全体として非常にポジティブな印象を与える。一方で、All Saintsらしい落ち着いたヴォーカルが曲を過度に派手なものにしない。彼女たちは、幸福を歌う場合でも過剰に高揚しすぎず、どこか大人の距離感を保つ。
歌詞では、愛が一時的な感情ではなく、時間の中で形を変えながらも残り続けるものとして描かれる。これは恋愛だけでなく、友情、家族、仲間との絆にも拡張できるテーマである。All Saintsというグループ自体が、長い時間を経て再び音楽を作っていることを考えると、この曲のメッセージはグループの歴史とも重なる。愛とは、常に同じ形で続くものではない。離れたり、変化したり、傷ついたりしながらも、完全には消えないものとして存在する。
音楽的には、現代的なポップの明快さと、90年代UK R&Bの滑らかさがうまく融合している。シングルとしての即効性がありながら、懐古に寄りすぎていない点が重要である。「Love Lasts Forever」は、『Testament』の中で最も開かれた楽曲のひとつであり、All Saintsが現在のポップ・シーンに自然に戻ってきたことを示す曲である。
4. Nowhere to Hide
「Nowhere to Hide」は、タイトルが示す通り、逃げ場のなさや感情の追い詰められた状態を描いた楽曲である。本作の中でも比較的ダークな雰囲気を持ち、All SaintsのクールなR&B色が強く出ている。明るいポップ・ソングが続いた後にこの曲が置かれることで、アルバムに心理的な陰影が加わる。
サウンドは抑制されており、ビートと低音が緊張感を作る。シンセや電子音は過度に装飾的ではなく、空間を冷たく広げるように使われている。ヴォーカルは感情を大きく爆発させるのではなく、追い詰められた状況を静かに伝える。この抑制された歌い方が、曲のテーマとよく合っている。
歌詞では、自分の本心や過去、あるいは関係の問題から逃げられなくなる状態が描かれる。人は時に、自分の感情を隠したり、相手との問題を避けたりする。しかし、避け続けたものはどこかで必ず向き合わなければならない。「隠れる場所がない」というタイトルは、その瞬間を示している。
All Saintsの成熟は、このようなテーマの扱い方に表れている。若い頃のポップ・ソングであれば、逃げ場のなさは劇的な苦しみとして描かれたかもしれない。しかし本作では、それは人生の中で避けられない現実として、冷静に受け止められている。「Nowhere to Hide」は、アルバムの内省的な側面を担う重要な楽曲である。
5. No Issues
「No Issues」は、タイトルだけを見ると「問題はない」という意味だが、その言葉はかなり皮肉に響く。人間関係において「問題ない」と言うとき、実際には問題が存在する場合が多い。この曲は、その表面上の平静と内側の違和感を扱っている。
サウンドはクールで、R&Bとエレクトロポップの中間に位置する。ビートは重すぎず、全体に滑らかな質感がある。ヴォーカルは落ち着いており、感情をあえて抑えることで、歌詞に含まれる皮肉が際立つ。All Saintsの音楽は、感情を過剰に露出させるのではなく、言葉の裏側にある温度差で聴かせることが多い。この曲はその典型である。
歌詞のテーマは、関係の中で問題を認めないこと、あるいは認めたくないことにある。誰かとの間に明らかなズレがあるにもかかわらず、「大丈夫」「問題ない」と言い続ける。その言葉は、関係を守るためのものかもしれないが、同時に現実を見ないための言い訳にもなる。この曲は、その曖昧な心理をポップな形で描いている。
「No Issues」は、派手なフックで押し切る曲ではなく、All Saintsらしいクールな観察眼が光る楽曲である。成熟したポップ・グループとしての彼女たちは、恋愛や関係性を単純な幸福や悲劇としてではなく、言葉にならない違和感の積み重ねとして表現できる。この曲はその点で、本作の重要な一面を示している。
6. After All
「After All」は、アルバムの中でも特に感情的な深みを持つ楽曲である。タイトルは「結局」「それでもなお」という意味を持ち、過去の出来事や関係を振り返った後に残る感情を示している。All Saintsのキャリアやグループとしての歴史を考えると、この言葉は非常に重い意味を帯びる。
サウンドは比較的穏やかで、メロディには切なさがある。ヴォーカルは柔らかく重なり、四人の声のブレンドが曲の感情を支えている。All Saintsのバラード的な楽曲は、力強い歌い上げではなく、抑制された声の重なりによって余韻を生む。この曲でも、その美点がよく表れている。
歌詞では、過去の痛みやすれ違いを経た後でも残るものが描かれる。人間関係は、単純に成功か失敗かで割り切れるものではない。終わった関係の中にも意味は残り、傷ついた後にも感謝や愛情が残ることがある。「After All」という言葉には、そうした複雑な感情が込められている。
この曲は、All Saintsが単なる復活グループではなく、自分たちの時間の重みを音楽にできる存在であることを示している。若い頃には歌えなかった種類の諦め、理解、優しさがここにはある。『Testament』というタイトルの意味を考えるうえでも、「After All」は非常に重要な楽曲である。
7. I Would
「I Would」は、可能性、後悔、約束をめぐる楽曲である。タイトルの「I would」は、「そうするだろう」「そうしたかった」という仮定の響きを持つ。つまりこの曲には、現実に起こったことと、起こり得たことの間にある感情が含まれている。
サウンドは滑らかで、R&B的な柔らかさとポップな明快さがある。ビートは控えめながら確かなグルーヴを持ち、ヴォーカルは感情を丁寧に重ねていく。All Saintsの楽曲は、派手な展開よりも、声の表情と空間の余白で聴かせるものが多く、この曲もその系譜にある。
歌詞では、誰かのために何かをしたい、あるいは過去にそうできなかったことへの思いが描かれる。愛情は行動として示されるべきものだが、現実にはタイミングや状況によって実行できないこともある。「I would」という言葉には、意志と不可能性が同時に含まれている。そこにこの曲の切なさがある。
この曲は、アルバムの中で静かに感情を深める役割を担っている。All Saintsはここで、大きなドラマではなく、言葉にしきれない後悔や未完の思いを扱っている。成熟したR&Bポップとしての完成度が高い楽曲である。
8. Don’t Look Over Your Shoulder
「Don’t Look Over Your Shoulder」は、過去に囚われず前に進むことをテーマにした楽曲である。タイトルは「肩越しに振り返るな」という意味であり、背後にある不安や記憶に気を取られず、前方へ向かう姿勢を示している。All Saintsのキャリアを考えると、この曲もまた自己言及的に響く。
サウンドは落ち着きながらも前進感があり、アルバムの中盤から後半へ向かう流れを作っている。ビートはしなやかで、シンセやコーラスは広がりを与える。派手なアンセムではないが、内側から力を与えるような楽曲である。
歌詞では、過去の失敗や傷、あるいは誰かの視線に縛られずに進むことが語られる。人は過去を確認するために何度も振り返るが、それが習慣になると前へ進めなくなる。この曲は、過去を否定するのではなく、過去を背負いながらも、それに支配されないことを促している。
All Saintsは再結成後、自分たちの過去と向き合わざるを得ない立場にあった。90年代の成功、解散、復帰への期待、年齢を重ねたガール・グループへの視線。それらを振り返りすぎれば、現在の音楽を作ることは難しくなる。「Don’t Look Over Your Shoulder」は、そうした状況に対する彼女たちなりの答えとしても聴ける。
9. Fumes
「Fumes」は、タイトルが示すように、煙、残り香、かすかな毒気を感じさせる楽曲である。何かが燃えた後に残る煙のように、この曲には終わった関係や消えかけた感情の余韻が漂っている。All Saintsの得意とする、都会的で少し陰のあるポップ感覚がよく表れた一曲である。
サウンドは低く抑えられ、ミニマルなビートと空間的なシンセが印象的である。ヴォーカルは近く、しかし完全には感情を露出しない。煙のように輪郭が曖昧で、曲全体が少しずつ漂うように進む。派手なサビで盛り上げるよりも、ムードを保つことが重視されている。
歌詞では、関係が終わった後にも残る匂いや記憶、相手の存在感が描かれていると解釈できる。何かはすでに終わっているが、その痕跡は消えない。愛や怒りが薄れても、場所や言葉、身体の記憶として残るものがある。「Fumes」というタイトルは、その残留する感情を的確に表している。
この曲は、『Testament』の中で最も雰囲気重視の楽曲のひとつである。All Saintsが持つR&B的な余白、エレクトロニックな音響、抑制されたヴォーカル表現が融合している。アルバム後半に深い陰影を与える重要な楽曲である。
10. Testament in Motion
「Testament in Motion」は、アルバム・タイトルを含む楽曲であり、本作のコンセプトを直接的に示す重要曲である。「動いている証言」と訳せるこのタイトルは、All Saintsというグループが過去の記念碑としてではなく、現在も変化し続ける存在であることを示している。
サウンドは、アルバム全体のエレクトロポップ/R&B的な質感を集約している。ビートは滑らかで、シンセサイザーは浮遊感を作り、ヴォーカルは重層的に配置される。William Orbit的な空間感覚を思わせる部分もあり、All Saintsの過去と現在が接続されているように響く。
歌詞のテーマとしては、自分たちの存在を証明すること、変化しながらも核を失わないことが読み取れる。タイトルの「testament」は、単なる過去の証言ではなく、今も動いている信念の表明である。All Saintsが長いキャリアを経てなお音楽を作る意味が、この曲には込められている。
この曲は、アルバムの中心的なメッセージを担っている。若さや流行に依存しないポップ・グループが、自分たちの経験と声を使って現在を語る。その姿勢が「Testament in Motion」という言葉に集約されている。派手な自己主張ではなく、静かな確信として響く点がAll Saintsらしい。
11. Breathe and Let Go
「Breathe and Let Go」は、アルバム終盤に置かれた、解放と受容をテーマにした楽曲である。タイトルは「息をして、手放す」という意味を持ち、非常にシンプルながら深いメッセージを持つ。関係、過去、痛み、不安を抱え続けるのではなく、一度呼吸し、それを手放すこと。この曲は、本作の成熟した感情の到達点のひとつである。
サウンドは穏やかで、空間が広い。ビートは控えめで、ヴォーカルの響きが前面に出る。All Saintsの声はここで非常に柔らかく、聴き手に寄り添うように重なる。大きな爆発ではなく、静かな解放が曲の中心にある。
歌詞では、無理に答えを出すのではなく、まず呼吸すること、そして必要なものだけを残して手放すことが語られる。これは恋愛だけでなく、人生全般に通じるテーマである。年齢を重ねると、すべてを解決することよりも、解決できないものをどう受け入れるかが重要になる。この曲は、その感覚を美しく表現している。
『Testament』の終盤にこの曲が置かれることで、アルバムは怒りや不安から少しずつ解放へ向かう。All Saintsの音楽は、ドラマチックな勝利宣言ではなく、静かな自己回復を描くことに向いている。「Breathe and Let Go」は、その魅力が最もよく出た楽曲である。
12. Glorious
ラスト曲「Glorious」は、アルバムを前向きな光で締めくくる楽曲である。タイトルは「輝かしい」「栄光ある」という意味を持ち、本作全体の締めくくりとして、再生と肯定の感覚を与える。『Testament』が扱ってきた疑念、過去、関係の痛み、自己防衛、手放すことの先にある、静かな祝福のような曲である。
サウンドは広がりがあり、コーラスには開放感がある。All Saintsのヴォーカルは、力強く叫ぶのではなく、穏やかに重なり合いながら高揚を作る。派手なクライマックスというより、光がゆっくり差し込むような終わり方である。
歌詞では、自分自身や関係の中にある美しさを再発見する感覚が描かれる。ここでの「glorious」は、完璧な成功や勝利を意味するものではない。傷や時間の経過を含めたうえで、それでもなお輝きがあるという認識である。これは、若さや流行だけを価値とするポップ・シーンに対するAll Saintsの成熟した回答とも言える。
アルバムの終曲として、「Glorious」は非常に効果的である。『Testament』は、自分たちの過去を証言しながら、現在の声を鳴らす作品である。その最後に、静かで肯定的な光を置くことで、アルバムは閉じた回顧ではなく、未来へ向かう余韻を残す。All Saintsのキャリア後期における自信と美しさを象徴する楽曲である。
総評
『Testament』は、All Saintsが1990年代のガール・グループという枠を超え、成熟したポップ/R&Bグループとして現在の自分たちを示したアルバムである。過去のヒット曲の再現ではなく、彼女たちの本質であるクールなヴォーカル・ハーモニー、都会的なR&B感覚、エレクトロニックな浮遊感、抑制された感情表現が、2010年代後半のサウンドとして更新されている。
本作の最大の魅力は、派手さに頼らない強さである。All Saintsは、声を張り上げて感情を訴えるグループではない。むしろ、低い温度、少ない言葉、空間の余白、声の重なりによって、複雑な感情を伝える。そのため『Testament』は、即効性のある派手なポップ・アルバムではなく、聴き込むほどに陰影が見えてくる作品である。
歌詞の面では、愛の持続、過去との距離、関係の中の不信、自己回復、手放すことが重要なテーマになっている。「Who Do You Love」では愛の対象を問う疑念が提示され、「Love Lasts Forever」では時間を越えて残る愛が歌われる。「No Issues」や「Nowhere to Hide」では関係の中の隠された問題が浮かび上がり、「After All」では過去を経た後に残る感情が描かれる。そして「Breathe and Let Go」や「Glorious」では、最終的に手放し、肯定する姿勢へ向かう。
音楽的には、All Saintsの過去と現在が自然に接続されている。William Orbitが関わることで、「Pure Shores」や「Black Coffee」に通じる浮遊感が再び現れる一方、サウンドは過去の焼き直しにはなっていない。ビートやシンセの質感は現代的で、R&Bやダンス・ポップの要素も洗練されている。90年代の記憶を持ちながら、2018年の音楽として成立している点が本作の強みである。
また、本作は「大人のガール・グループ」のあり方を示した作品としても重要である。ポップ・ミュージックでは、女性グループは若さや流行性と結びつけられがちである。しかしAll Saintsは『Testament』で、年齢を重ねたからこそ歌えるテーマ、経験を経たからこそ出せる声の温度を提示している。そこには、若さのエネルギーとは異なる説得力がある。
日本のリスナーにとって本作は、90年代UKポップへの懐かしさを持つ層にも、現代的なR&B/エレクトロポップを好む層にも響くアルバムである。派手なダンス・アンセムを求めるより、Sade、Sugababes、Massive Attack以降のクールなUKポップ、あるいはThe xxやJessie Wareのような抑制されたポップ感覚に親しんでいるリスナーに相性がよい。
総じて『Testament』は、All Saintsが自分たちの歴史を背負いながら、現在進行形のグループとして成立していることを証明した作品である。タイトル通り、これは過去への証言であり、現在の信念表明であり、未来へ向けた静かな宣言でもある。華やかな復活劇ではなく、落ち着いた確信に満ちたアルバムであり、All Saintsのキャリア後期を代表する重要作である。
おすすめアルバム
1. All Saints『All Saints』
All Saintsのデビュー・アルバムであり、彼女たちの原点を知るために欠かせない作品。「Never Ever」をはじめ、90年代後半のUK R&B/ポップを代表する楽曲が収められている。『Testament』の成熟したサウンドと比較することで、彼女たちがどのように変化し、何を保ち続けているのかが分かる。
2. All Saints『Saints & Sinners』
「Pure Shores」「Black Coffee」を含む代表作であり、William Orbitとのコラボレーションによる浮遊感のあるサウンドが大きな魅力である。『Testament』にあるエレクトロニックな空間処理や、クールなR&Bポップの系譜を理解するうえで非常に重要な作品である。
3. All Saints『Red Flag』
2016年に発表された復帰作であり、『Testament』の直接的な前作にあたる。再結成後のAll Saintsが、ノスタルジーではなく現在のポップ・グループとして機能することを示した作品である。『Testament』よりも復帰の勢いが強く、両作を並べることで再始動後の流れが見える。
4. Sugababes『Angels with Dirty Faces』
UKガール・グループがR&B、エレクトロポップ、ダンス・ミュージックを融合した代表的作品。All Saintsよりもややポップで鋭いが、クールなヴォーカル、都会的なサウンド、ガール・グループ像の更新という点で関連性が高い。2000年代UKポップの進化を知るうえでも重要である。
5. Jessie Ware『Devotion』
抑制されたヴォーカル、エレクトロニックなR&B、都会的なメランコリーを持つ作品。All Saintsの『Testament』にある大人のポップ感覚や、派手さよりも空間と声の質感で聴かせる姿勢と共通する。現代的なUKソウル/エレクトロポップの文脈で本作を聴く際の関連作として適している。

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