
発売日:1998年11月16日
ジャンル:ポップ/R&B/ダンス・ポップ/ソウル
概要
『Resurrection』は、East 17のキャリアにおける大きな転換点となった作品である。厳密には、本作は中心的ソングライターだったTony Mortimerの離脱後、グループ名をE-17と短縮して発表されたアルバムであり、East 17名義の歴史を引き継ぎながらも、新体制での再出発を意図した作品だった。「Resurrection=復活」というタイトル自体が、その状況を直接的に象徴している。
1990年代前半のEast 17は、Take Thatと並ぶ英国ボーイ・バンド・ブームの代表格だった。しかし両者の音楽的キャラクターは大きく異なる。Take Thatが洗練されたポップ、ソウル、バラードを基盤としていたのに対し、East 17はヒップホップ、ハウス、R&B、ストリート・ファッションを積極的に取り込み、より労働者階級的でラフなイメージを打ち出していた。
1992年の「House of Love」や「Deep」、1994年の「Stay Another Day」、1995年の「Thunder」などを通じ、East 17はダンス・ミュージックと英国型ポップ・グループを接続した。その中心にいたのがTony Mortimerであり、彼は作詞作曲だけでなく、グループのコンセプト形成にも大きく関与していた。
そのMortimerが離脱した後、Brian Harvey、John Hendy、Terry Coldwellの3人はE-17として活動を継続する。
この変化によって『Resurrection』の音楽性も大きく変わった。
初期East 17にあったハウス、ヒップホップ、レイヴ文化の影響は後退し、代わって前面に出たのが1990年代後半型のR&B/ソウルである。特にBrian Harveyのヴォーカルを中心に据え、ゆったりしたグルーヴ、滑らかなコーラス、バラード、ミッドテンポのR&Bを重視している。
これは当時のポップ市場を考えれば自然な変化でもあった。
1997〜98年頃にはBoyz II Men、All-4-One、Backstreet Boys、Damage、Another Levelなど、R&Bと男性ヴォーカル・グループの境界が急速に接近していた。英国でも「ボーイ・バンド=単純なダンス・ポップ」という図式から離れ、アメリカ的なR&Bプロダクションを導入するグループが増えていた。
『Resurrection』は、その潮流へEast 17の残存メンバーが適応しようとした作品といえる。
ただし、これは単純なスタイル変更ではない。
Tony Mortimerという主要ソングライターを失った結果、グループのアイデンティティそのものを作り直す必要があった。本作ではBrian Harveyの声を最大の武器として設定し、以前のストリート的な勢いより、恋愛、別離、後悔、再会といった個人的な感情を中心に据えている。
したがって『Resurrection』は、East 17の全盛期を再現する作品ではない。
むしろ、1990年代前半に成功したグループが後半のR&B市場で生き残るために、自分たちのサウンドを大幅に更新した記録として重要な一枚である。
全曲レビュー
1. Each Time
アルバムを代表する「Each Time」は、新生E-17の方向性を最も明確に示した楽曲である。
初期East 17にあった強いダンス・ビートは抑えられ、中心となるのは滑らかなR&BグルーヴとBrian Harveyのヴォーカルだ。
サウンドには1990年代後半の英国/米国R&Bに共通する特徴がある。柔らかなキーボード、控えめなリズム・プログラミング、重ねられたコーラスによって、声そのものを主役にする。
歌詞は、恋愛における別離と再確認を扱う。
相手と距離ができても、そのたびに感情が戻ってくるという循環がテーマとなっており、「Each Time」という反復的なタイトルがそのまま心理状態を表している。
Brian HarveyはEast 17時代から高音域とソウル的な歌唱を担っていたが、この曲ではその能力が全面に出る。
ラップやハウス・ビートではなく、歌唱そのものによって楽曲を成立させるという意味で、本作の再出発を象徴するシングルだった。
2. Sleeping in My Head
「Sleeping in My Head」は、記憶から離れない人物や感情を扱ったミッドテンポのR&Bナンバーである。
タイトルには、ある人物が文字通り頭の中に居続けるようなイメージがある。
恋愛が終わっても、その相手の存在が意識から消えない。眠っているときですら記憶が残るという、執着と喪失の中間にある感情が描かれる。
音楽的には前曲よりも内省的で、ビートの強さより空間が重視される。
こうしたアレンジは、初期East 17のエネルギッシュなダンス・ポップとは対照的である。
『Resurrection』では、身体を動かす音楽より「感情を聞かせる音楽」へ重点が移ったことを示す一曲である。
3. Tell Me What You Want
「Tell Me What You Want」は、恋愛における曖昧さを解消しようとする楽曲である。
タイトル通り、相手に「何を望んでいるのか教えてほしい」と問いかける。
関係が続いているにもかかわらず、双方の意図が明確ではない。その不確かさに耐えられなくなった語り手が、直接的な答えを求める。
サウンドはR&Bを基盤としながら、比較的ポップな構造を持っている。
サビではタイトルのフレーズが繰り返され、メロディを一度で記憶できるように設計されている。
East 17の従来の特徴だった「巨大なポップ・フック」は完全には失われておらず、それを1990年代後半型のR&Bへ置き換えた例といえる。
4. Betcha Can’t Wait
「Betcha Can’t Wait」は「Each Time」と並ぶ本作の主要曲であり、アルバムの中では比較的明るく、前向きなエネルギーを持っている。
タイトルは「きっと待ちきれないだろう」という意味で、恋人との再会や親密な時間への期待が中心となる。
失恋や距離を扱う楽曲が多い本作の中で、この曲にはより積極的な欲望と高揚感がある。
サウンドも軽快で、R&Bとポップの中間に位置する。
重すぎないビート、キャッチーなサビ、Brian Harveyの柔らかなヴォーカルによって、ラジオ向けのポップ・シングルとして成立している。
初期East 17のダンス・ポップに比べればはるかに滑らかだが、「聴いた瞬間にサビが理解できる」というポップ・グループとしての基本能力は維持されている。
5. Anything
「Anything」は、誰かのためなら何でもするという献身をテーマにした楽曲である。
タイトル自体は非常に単純だが、その単純さによって愛情の強さを表現する。
本作では恋愛がしばしば不安定なものとして描かれる。
相手が去る、距離ができる、気持ちが分からない。
「Anything」はその状況に対して、条件を付けずに相手へ近づこうとする側の感情を示している。
音楽はヴォーカル中心であり、複雑なプロダクションよりもハーモニーを重視する。
1990年代男性R&Bグループのバラードに近い発想で、East 17というよりE-17としての新しいキャラクターが強く出ている。
6. Daddy’s Gonna Love You
「Daddy’s Gonna Love You」は、本作の中でもタイトルからして特徴的な楽曲である。
ここでの「Daddy」は必ずしも父親そのものを意味するとは限らず、親密な関係における保護者的、包容的な人物像として使用される。
歌詞では相手を安心させ、自分が愛情を与えることを約束する。
90年代R&Bでは、男性が自分の包容力や献身を強調する表現が頻繁に用いられた。この曲もその文脈にある。
サウンドもソウル色が強く、Brian Harveyのヴォーカルの柔らかさが重要になる。
East 17初期の反抗的なストリート・イメージから考えると、こうした包容力を中心にしたラヴ・ソングは大きな変化である。
7. I’m Here for You
「I’m Here for You」は、「あなたのそばにいる」という言葉を中心とするストレートなラヴ・ソングである。
恋人が困難な状況にいるとき、自分は離れずに支えるという姿勢が描かれる。
この種のメッセージはR&Bバラードの伝統的な主題だが、『Resurrection』ではアルバム・タイトルとも響き合う。
崩壊や別離の後にも、誰かがそこにいる。
関係を再構築する可能性が残されている。
その意味で、「復活」という作品全体のテーマを個人的な恋愛へ置き換えた曲としても聞くことができる。
音楽的には派手な展開を避け、ヴォーカルの感情表現を中心に置く。
本作がダンス・アルバムではなく、ヴォーカル・アルバムとして設計されていることを改めて示している。
8. Ain’t No Stoppin’
「Ain’t No Stoppin’」は、アルバムの中でも比較的ポジティヴで、推進力のある楽曲である。
タイトルは「もう誰にも止められない」という意味を持ち、再出発や自己肯定を直接的に表現する。
この言葉はE-17という新体制そのものに重ねることもできる。
中心人物を失い、メディア上の注目も以前とは異なる状況で、それでも活動を継続する。
その意思が「止められない」という言葉に象徴されている。
音楽的にもビートが強く、アルバムのバラード中心の流れに変化を与える。
初期East 17のダンス・ミュージック的な感覚がわずかに戻ってくる瞬間でもある。
9. Falling in Love Again
「Falling in Love Again」は、再び恋に落ちるという極めて普遍的なテーマを扱う。
ただし「again」という一語が重要である。
初めての恋愛ではなく、失敗や別離を経験した後にもう一度誰かを愛する。
そのため曲には、純粋な高揚感だけでなく慎重さも含まれる。
『Resurrection』全体が「一度終わったものを再び始める」という構造を持っていることを考えると、この曲はアルバム・コンセプトと非常に近い。
グループ自身も、East 17としての一時代を終え、新しい形で再スタートしている。
恋にもう一度落ちることと、バンドがもう一度活動を始めること。
その二つが自然に重なる。
サウンドは滑らかなミッドテンポR&Bで、Brian Harveyのメロディックな歌唱を生かした作りになっている。
10. Whatever You Need
「Whatever You Need」は、相手が必要とするものを自分が与えるという献身をテーマにする。
「Anything」や「I’m Here for You」と共通する部分があり、本作における愛情表現が「支えること」「与えること」を重視していることが分かる。
この傾向は、初期East 17の若者的な恋愛表現からの成熟とも考えられる。
欲望そのものより、関係を維持するために何をするかが重要になる。
音楽も落ち着いており、R&Bのグルーヴとコーラス・ワークが中心である。
本作後半の感情的な安定を作る役割を担う楽曲である。
11. Coming Home
「Coming Home」は、「家へ帰る」というモチーフを扱う。
ポップ・ミュージックにおける「home」は、単なる物理的な住宅だけでなく、安心できる人間関係、自分の居場所、過去への回帰など複数の意味を持つ。
本作では、変化を経験した人物が自分の帰る場所を探すという感覚が強い。
E-17というグループの状況を考えても象徴的である。
新しいサウンドへ移行しながら、自分たちが何者なのかを探している。
「Coming Home」はその模索を、もっと普遍的な人間関係の歌へ変換した曲として聞くことができる。
アレンジは穏やかで、終盤に向けてアルバムを落ち着いた場所へ運ぶ。
12. I Miss You
アルバム終盤を締めくくる「I Miss You」は、極めて簡潔なタイトルによって喪失感を表現した楽曲である。
「あなたが恋しい」という言葉には複雑な説明が必要ない。
むしろ余計な物語を排除することで、感情を直接伝える。
『Resurrection』では恋愛の再生が繰り返し描かれてきたが、その背景には必ず「失われたもの」が存在する。
誰かを取り戻したい。
もう一度関係を始めたい。
その願いが生まれるのは、すでに距離や別離を経験しているからだ。
「I Miss You」は、そのアルバム全体の感情的な出発点を最後に明らかにするような楽曲である。
派手なダンス・ナンバーではなく、喪失感を残して作品を閉じることによって、『Resurrection』というタイトルの「復活」が無条件の幸福ではなく、失われたものを認識した後の再出発であることを示している。
総評
『Resurrection』を理解する際に最も重要なのは、これを『Walthamstow』や『Steam』の単純な続編として評価しないことである。
East 17はTony Mortimerの離脱によって、グループの中心的なソングライターとコンセプト形成者を同時に失った。
Mortimer時代のEast 17には明確な個性があった。
英国レイヴ文化の影響。
ヒップホップ的な衣装やビート。
ポップ・コーラス。
Brian Harveyのソウルフルなヴォーカル。
そして「Stay Another Day」に代表される感傷的なバラード。
これらが同じグループの中で共存することで、Take Thatとは異なる独特の立ち位置を作っていた。
『Resurrection』では、そのうち特にBrian HarveyのR&B/ソウル歌唱が中心として残された。
これは非常に合理的な選択だった。
HarveyはEast 17時代から、グループのヴォーカル面で最も識別しやすい声を持っていた。わずかにハスキーで、柔らかく、R&B的なフレージングが可能なその声は、1990年代後半の音楽市場と相性が良かった。
その結果、本作はEast 17のストリート・ポップから、男性R&Bグループに近い作品へ変化した。
「Each Time」「Betcha Can’t Wait」に代表されるサウンドは、その転換を象徴する。
ビートは過度に攻撃的ではない。
シンセサイザーもクラブ的な刺激より、ヴォーカルの背景を作るために使われる。
コーラスは厚く、曲の中心には常にメロディがある。
これは当時のBoyz II MenやDamage、Another Levelなどに近い時代感覚である。
しかし、この変化は同時にEast 17の個性を薄める危険も持っていた。
初期のEast 17は、洗練されすぎていないところが魅力だった。
ハウス、ラップ、ポップ・バラードが一枚の中に同居し、ある意味で雑多だった。
その雑多さが、彼らを典型的なボーイ・バンドから区別していた。
『Resurrection』はその荒さを整理した結果、作品としては統一感が増したものの、以前の予測不能さは少なくなっている。
これは本作を評価するうえで重要なポイントである。
音楽的には成熟している。
しかし、East 17らしさは弱まっている。
だからこそ名義がE-17へ変更されたことには象徴的な意味がある。
これは過去を完全に否定するわけではないが、同じグループの単純な継続でもない。
「East」を削った短縮名には、新しいグループとして再定義しようとする意思が表れている。
アルバム・タイトルの『Resurrection』も同様である。
復活とは、元の状態へ戻ることだけを意味しない。
一度失われた後、別の形で再び現れることでもある。
本作のE-17は、1994年のEast 17には戻らない。
むしろ1998年のR&B/ポップ市場に適応した新しい姿を作ろうとしている。
歌詞にも、その再生というテーマが何度も現れる。
「Each Time」では何度離れても戻る感情。
「Falling in Love Again」では再び恋に落ちること。
「I’m Here for You」では関係を維持する意思。
「Coming Home」では帰るべき場所。
そして「I Miss You」では、再生の前提として存在する喪失。
これらを並べると、『Resurrection』は意外なほど一貫した感情構造を持っている。
失う。
思い出す。
戻ろうとする。
もう一度始める。
この流れがアルバム全体を通して反復される。
そしてそれは、E-17自身のキャリアとも一致する。
1990年代後半という時代背景も重要だ。
1992〜94年頃の英国ポップでは、レイヴ、ハウス、ユーロダンスの影響が非常に強かった。East 17はその文化をボーイ・バンドへ持ち込んだ代表格だった。
しかし1998年になると状況は変わる。
R&B、ヒップホップ、洗練されたミッドテンポ・ポップが世界市場で強くなり、英国の男性グループもそれに適応していた。
『Resurrection』はまさにその変化を記録している。
その意味では、1990年代英国ボーイ・バンドの歴史を考える資料としても興味深い。
East 17の全盛期だけを見ると、彼らはTake Thatの「少し不良っぽい対抗馬」と説明されがちである。
しかし本作まで追うと、彼らが当時のダンス・ミュージックやR&Bの変化へ非常に敏感だったことが分かる。
『Resurrection』は最大のヒット作ではなく、一般的なEast 17像を代表する作品でもない。
だが、だからこそ重要である。
巨大な成功を経験したグループが、その中心人物を失った後、どの部分を残し、どの部分を変えるのか。
本作では、その回答としてBrian Harveyの声とR&Bが選ばれた。
結果として生まれたのは、初期East 17より穏やかで、成熟し、統一感があり、同時に過渡期特有の不安定さを持ったポップ・アルバムである。
タイトル通り完全な「復活」を成し遂げた作品というより、復活を試みる過程そのものが記録された作品と位置づけるのが適切だろう。
おすすめアルバム
1. East 17 – Walthamstow(1993)
East 17のデビュー作にして、初期の個性を最も明確に示した作品。「House of Love」「Deep」「It’s Alright」などを収録し、ハウス、ヒップホップ、ポップを大胆に混合している。『Resurrection』と比較すると、グループが5年間でどれほどR&B寄りへ変化したかが分かる。
2. East 17 – Steam(1994)
「Stay Another Day」「Steam」「Around the World」などを収録した全盛期の代表作。ダンス・ポップだけでなく、Brian Harveyのヴォーカルを生かしたバラードが大きな比重を持つようになり、『Resurrection』のR&B路線へつながる要素も確認できる。
3. East 17 – Up All Night(1995)
Tony Mortimer在籍期の後半を記録したアルバム。「Thunder」などを収録し、より成熟したポップ/R&Bへ向かう過程が表れている。『Resurrection』の直前にEast 17がどのような地点にいたかを理解するうえで重要である。
4. Damage – Forever(1997)
1990年代後半の英国男性R&Bグループを代表する作品のひとつ。滑らかなコーラス、ソウルフルなリード・ヴォーカル、ミッドテンポ中心のプロダクションなど、『Resurrection』が接近した当時の英国R&Bのスタイルを理解しやすい。
5. Another Level – Another Level(1998)
『Resurrection』と同時期に登場した英国R&B/ポップの代表的作品。アメリカ的なR&Bプロダクションと英国ボーイ・バンド文化を接続した点で、E-17が1998年に目指していた音楽的環境と強く重なる一枚である。

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