アルバムレビュー：Mad Love by JoJo

発売日: 2016年10月14日（US）
ジャンル: ポップ、R&B、ソウル、アーバン・コンテンポラリー

概要
全曲レビュー
総評
おすすめアルバム（5枚）
歌詞の深読みと文化的背景

概要

『Mad Love』は、JoJoが10年ぶりにリリースした3作目のスタジオ・アルバムであり、長いキャリア停滞とレーベルとの法的トラブルを乗り越えた“復活の象徴”ともいえる渾身の一作である。
2006年の『The High Road』以来、ファンが待ち続けたこのアルバムは、JoJoのソングライター／アーティストとしての覚醒と、“自分の人生を取り戻す”という強い意思が刻まれた内容となっている。

タイトルの『Mad Love』は、“狂おしいほどの愛”を意味すると同時に、“狂気と情熱が共存する自己肯定”の表明でもある。
アルバムにはWiz Khalifa、Alessia Cara、Remy Maらがゲスト参加し、JoJoの持つポップ／R&Bの両側面を引き出しながら、時代と自分を貫く強い言葉と声で全編が構成されている。

全曲レビュー

Music.

アルバムのイントロであり、JoJoが音楽との関係性を告白するパーソナルなピアノ・バラード。
「音楽こそが私の人生であり、すべてを捧げた存在」と歌うこの曲は、彼女の過去10年を凝縮した“心の叫び”である。

I Can Only.（feat. Alessia Cara）

自己の限界と可能性を探る力強いアンセム。
Alessiaとの共演は世代のバトンのようでもあり、女性アーティスト同士の絆と自己肯定が響き合う。

F*** Apologies.（feat. Wiz Khalifa）

アルバムのリードシングルであり、「謝るのはもうやめた」と宣言する決別の歌。
エッジの効いたビートとJoJoのソウルフルなボーカル、Wizのラップが絶妙に交差するポップ・R&Bの傑作。

FAB.（feat. Remy Ma）

“Fake Ass Bitches”を略した挑発的なタイトルの通り、裏切りや偽善に対する怒りを鋭くぶつけるナンバー。
JoJoのストリート感とRemy Maのラップが互いを高め合う痛快な1曲。

Mad Love.

アルバムのタイトル曲にして、テーマの核を成すエモーショナルなバラード。
「これは狂気じゃなくて、真実の愛」と歌うJoJoのヴォーカルが、極限まで感情を追い詰めるように響く。

Vibe.

軽やかでグルーヴィーなR&Bナンバー。
全体的に感情の波が激しいアルバムの中で、少し肩の力を抜いたような“今この瞬間”の心地よさを描く。

Honest.

愛することの怖さと信頼への葛藤を描いたミッドテンポの一曲。
JoJoの声が非常にナイーブに響き、感情の深さを伝える。

Like This

エレクトロとR&Bの中間をいくトラックに乗せた誘惑的なナンバー。
JoJoのセクシュアリティと洗練されたボーカルが冴える。

Edibles

隠喩に富んだラブソング。
“エディブル”というワードが比喩的に機能し、身体性と恋愛の中毒性を重ね合わせた遊び心ある一曲。

High Heels

「私はヒールで歩く、自分の足で」と歌う、フェミニズム的メッセージを含んだ自己主張ソング。
アップビートでありながら強い誇りと独立心がにじむ。

I Am

「私はここにいる。誰のものでもない」という再出発の賛歌。
JoJoの全キャリアを総括するような壮大なバラードで、アルバムを感動的に締めくくる。

総評

『Mad Love』は、JoJoというアーティストの**“再生と覚醒の物語”を音楽で語った感情のドキュメントである。
かつてのティーン・ポップアイコンが、大人の女性アーティストとして戻ってきたこの作品は、ポップでもR&Bでもなく、“JoJoの音”そのもの**としか言いようのない世界観を持つ。

特筆すべきはそのボーカルの深みであり、10代の頃と比べて声の太さ、レンジ、コントロールが格段に進化している。
ただうまいのではなく、「どう生きてきたか」が声に乗っている。
歌詞の端々には、過去の不条理、愛と別れ、自立と怒り、そして赦しが込められており、それらがJoJoのリアリティを裏打ちしている。

『Mad Love』は、かつてJoJoを聴いて育った世代にとっての“同窓会”であり、初めて出会うリスナーにとっての“新たな才能との出会い”でもある。
キャリアの再始動ではなく、“人生をかけて戻ってきた声”――それがこのアルバムの真価である。

歌詞の深読みと文化的背景

『Mad Love』に貫かれているのは、**“声を奪われた者が、声を取り戻すまでの闘い”である。
かつてJoJoは、レーベルとの法的闘争により、楽曲を出せず、名義も封じられた“サイレントなキャリア”を強いられた。
その空白の10年は、“才能”という抽象では語れない、“存在の危機”との戦いだったのだ。

「F*** Apologies」や「FAB.」では、その怒りを直接的に表現しつつ、「I Am」や「Music.」では、赦しと再出発のための祈りを歌っている。
「Mad Love」は恋愛のテーマでありながら、それ以上に**“自分への深い愛”を狂おしいほどに肯定する行為**として響いてくる。

このアルバムは、単にJoJoの“復帰”ではない。
音楽という手段で、自分を取り戻すことを選んだ人間の、静かで激しい闘争の記録なのである。