発売日: 2020年12月11日(US)
ジャンル: ホリデー、ポップ、R&B、ソウル
概要
『December Baby』は、JoJoが2020年にリリースした初のホリデー・アルバムであり、クリスマスのきらめきと孤独、祈りと感謝を彼女らしい繊細な歌声で包み込んだ、極めてパーソナルな季節の作品である。
JoJoは1980年代以降のクラシック・ポップスからゴスペル、スウィートR&Bまでを自在に横断しながら、“単なるカバー集”ではなく“心の風景”としてのホリデーを描き出している。
自身の誕生日が12月20日であることから、タイトルには“ホリデーと自己の象徴”が重ねられており、家族・愛・過去の記憶といったJoJoの原点にも回帰した作品となっている。
アルバムには、スタンダード曲のカバーに加え、複数のオリジナル楽曲も収録。
そのすべてがJoJoの深いボーカル表現によって、**祝祭と沈黙のあいだにある“本当の冬”**を響かせている。
全曲レビュー
December Baby
タイトル曲にしてアルバムの核。
JoJo自身の存在=“冬に生まれた子”として、孤独や過去の痛みと愛を静かに語るバラード。
ピアノとストリングスのミニマルな構成が、彼女の声の温度を際立たせる。
The Christmas Song
メル・トーメの不朽の名曲をしっとりとカバー。
JoJoの滑らかで温かいボーカルは、焚き火のように心を和ませる。
フェイクも控えめで、“伝えること”を最優先した解釈。
Wrap Me Up(feat. PJ Morton)
PJ Mortonとのコラボによるオリジナル曲。
“私をあなたのプレゼントにして”という甘く洒落たラブソングで、ソウルとR&Bの色気が詰まっている。
ふたりの掛け合いも大人のクリスマス感を演出。
Coming Home
ホリデーをテーマにしながらも、“帰る場所があること”のありがたさを噛みしめるような一曲。
コーラスの温もりが広がり、JoJoの声が帰郷の心情を包み込む。
Wish You the Merriest(feat. Jacob Collier)
ユーモアとジャズ感覚に満ちたJacob Collierとの異色共演。
複雑なハーモニーの応酬と遊び心が詰まっており、JoJoの器用さが存分に発揮されている。
Have Yourself a Merry Little Christmas
ホリデー・アルバムには欠かせない定番曲を、哀愁漂うテンポで披露。
JoJoの声にはやはり、単なる“祝祭”ではない、過ぎ去った時間へのまなざしが込められている。
North Pole
冬の孤独と幻想を描いたオリジナル楽曲。
「北極」を比喩として、感情の遠さや届かなさをテーマにしている。
寒い音像の中にJoJoの暖かい声が差し込む、美しい対比の作品。
Silent Night
讃美歌的な神聖さをたたえた伝統曲。
JoJoのボーカルはここで、完全に“祈りの声”となる。
呼吸まで音楽にしたような神秘的な一曲。
December Back(Interlude)
短いながらも、JoJoが冬という時間に向き合う詩的なインタールード。
語りかけるような声と控えめなピアノが心を鎮める。
Cold in December
アルバム後半のキーソングで、恋人とのすれ違いを寒さと重ねたオリジナル・バラード。
切なくも力強いJoJoのボーカルが冴える、静かな名曲。
O Come, All Ye Faithful
アルバムラストに収められた聖歌のカバー。
荘厳なコーラスとともに、JoJoの声が高らかに響き、アルバム全体を“祈り”で締めくくる。
総評
『December Baby』は、JoJoがホリデーというテーマに**“個人の記憶、孤独、愛、祈り”というパーソナルな次元を持ち込んだ特異なクリスマス・アルバム**である。
クリスマスの賑やかさではなく、その背後にある静けさや涙に焦点を当て、祝うことより“感じること”を大切にしている。
JoJoのボーカルは、技巧的でありながら常に“真っ直ぐ”で、リスナーに寄り添うような誠実さがある。
とくにオリジナル曲では、ホリデーの陰影を深く描き、「冬=再生と回想の季節」という感覚が繊細に表現されている。
単なる季節商戦用の作品ではない。
『December Baby』は、JoJo自身が“帰る場所”としてつくった音の家であり、聴く者にもまた、小さな温もりと慰めを与えてくれる。
おすすめアルバム(5枚)
- Tori Kelly / A Tori Kelly Christmas
同じくソウルと信仰を感じさせる女性ボーカリストによる誠実なホリデー作品。 - PJ Morton / Christmas with PJ Morton
JoJoとの共演者。ソウルフルでグルーヴィーなホリデー・アルバムとしても必聴。 - Alicia Keys / Santa Baby
大人の色気とR&B感をまとったクリスマス・アルバム。JoJoの表現力と重なる。 - Leona Lewis / Christmas, with Love Always
力強くも繊細なボーカルで描かれる祝祭。クラシックと現代感のバランスが◎。 -
Kelly Clarkson / Wrapped in Red
ポップながらも誠実で感情豊かなホリデー・アルバム。JoJoと同世代の女性像もリンクする。
歌詞の深読みと文化的背景
『December Baby』に込められているのは、**“祝祭の裏にある沈黙と孤独の物語”である。
JoJoは、クリスマスを一様にハッピーに描くのではなく、「過ぎ去った愛」や「戻れない時間」、「家族との距離感」といったホリデーの裏側に潜む“感情の余白”**を見つめている。
「Cold in December」や「North Pole」では、寒さを比喩にして愛の不在や記憶の痛みを描き、「Silent Night」や「O Come, All Ye Faithful」では、祈りを通じてその痛みを昇華している。
JoJoにとって“12月に生まれた”という事実は、祝福と孤独の両義性を持っており、本作はまさにその感情の揺れを音楽に変換した作品なのだ。
『December Baby』は、誰かと過ごす夜ではなく、“自分自身と静かに向き合う冬の時間”を与えてくれる1枚である。
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